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どうやら俺は異世界転生したはずが死んでる模様  作者: 仁 智
第三章:大公爵との出会い
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どうやら俺は大公爵が治めるレーゼンバウム領とやらに到着する模様



「まったく……本当に何をやっているんですか?」



 村の片隅にある納屋の裏手で、アリィは疼痛を押さえるように額に手をやると、そう言って大きく溜息を吐き出した。

 その隣ではミディやレリオが苦笑いを浮かべている。

 ラグノートはゴブリン討伐の指揮に当たっているためこの場にはいない。

 本当は指揮を執る予定はなかったのだが、元近衛騎士団長の指揮下で戦えると一部の騎士が勘違いしたらしい。あまりの士気の高ぶりに水を差す訳にも行かず、アリィの許可もあって前線指揮をラグノートが執ることになったのだ。



「誤魔化すの大変だったんやで? お嬢とラグノートの旦那が、レイジという隠密魔道士が先行して危険度の高い魔物を相手にしとるって話を説明しまくってなぁ……」


「すまん……」



 俺はレリオの説明に頭を下げることしか出来なかった。

 一部の警備兵たちは俺の顔を見たいと言ったそうだが、隠密ゆえ、安易に姿を顕す訳には行かないと無理矢理納得させたらしい。

 実際に、ホーンドベアの死体を見た警備兵達は、大層驚いてアリィ達の話を信じてくれたそうだが、それでも皆に苦労をかけてしまった事には変わりない。


「魔力の話もそうですが、その子に名前を付けるのも軽率です」


「うッ……」



 そう。

 俺はついうっかり、ゴブリンから猫獣人となった少女に『モモ』と名前を付けてしまった。

 ところが、この世界では魔力に依存度の高い種族――炎の息(ブレス)等の魔力によって行使する能力を先天的に持つ生物、魔物など――に名前を付けると、対象を《個》として認めたことになり、《魔力による縁》を結ぶことになるのだ。

 更に名付けをした者の魔力が高いと、名付けられた方がその庇護下に入るらしい。

 このため、モモは現在俺の庇護下にいる。

 この庇護の関係は他者によって無理に引き剥がそうとすると、精神面に大きな悪影響を及ぼすとの事なので、モモは当面俺の傍から離れる事が出来なくなっている。

 つまり、今後の旅にモモを同行させなければならなくなったのだ。


 俺はアリィ達の正式なメンバーでは無い――正しくは周囲にそう周知されていない――ので、同行者を増やすなら事前にアリィ達に相談しなければならないが、それをしないまま意図せず同行者を増やしてしまった形になっている。

 リーフの時を考えたら、これで二回目なので、アリィも少しばかりご立腹のようだ。



「まあ、これに関してはこちらの世界の常識を教えておかなかった私達にも責任はあるので、これ以上責めるつもりはありません。ですが今後は注意してください」


「すまない。これからは気を付ける」


「本当ですよ? あと、レイジはもっと魔力を丁寧に扱うよう訓練してください」


「やっぱり、俺の魔力の扱いって雑なのかな?」


「そうですね。才能なのか、かなり複雑な魔力操作も行えているのですが、それでも精密さにはかなり欠けていると思います。魔法使用時に膨大な魔力が外に漏れるのも、それが要因かと」



 確かに俺は誰かに魔力操作を細かくレクチャーされたことはない。

 ほぼほぼ我流である。

 他の者に言わせれば、我流でここまで高レベルの魔法が扱えるなど聞いたこともないらしいが……。

 ただ、魔力操作が雑なことにより、一般人でも危機を憶える程の魔力がダダ漏れになっているのは問題がある。



「そうだな……そこはやっぱり練習しておくべきなんだろうな」


「そうですね。レイジほどの魔力量が暴走でもしたらどんなことになるか、想像するだけで恐ろしくなります」



 口調は極力重くならないよう注しているが、アリィの表情はかなり硬い。

 俺に気を遣っているのだろうが、逆に空恐ろしくなる。



「我ら始まりの竜プリミティブ・ドラゴンを凌駕するほどの魔力じゃからな、確かにそれが暴走したら王都くらいは吹き飛ぶかもしれん」


「マジで!?」



 リーフの一言で俺も流石に驚愕を隠せない。

 それどころか、危険度合いが具体化された為か、ミディとレリオも息を呑む。

 俺だって思わず元の世界の口調が出てしまった。まあ、魔法による翻訳を補助に入れてるので、意味は通じてるみたいだけど……。



「ああ、本当じゃ」



 神妙な面持ちのリーフがそう断ずる。

 それはヤバいな。

 だって、王都って直径一〇キロ以上はありそうな都市なんだけど……あれが吹き飛ぶの?

 大規模噴火とか核兵器のレベルなんだけど……?



「そ、それは早速訓練しておいた方がいいんだけど……」


「それについては妾が面倒見よう」


 俺の希望に手を上げたのはやはりリーフだった。

 まあ、メンバーの中で護衛とかの任務が無く、普段手が空くのはリーフだけなんだけど。

 勿論、それだけが理由では無く、この膨大な魔力制御を傍で見られるのはリーフだけという事実もある。

 リーフなら万が一、暴走した俺の魔力を《喰う》ことができるのだ。

 それは庇護関係にあることも理由の一つだが、何よりこう見えて彼女はまだ成長途中の始まりの竜プリミティブ・ドラゴンでもある。

 俺の魔力で育っている彼女は、いざという時に暴走した俺の魔力を《喰う》のに最適と言えた。



「まあ、レイジなら直ぐに繊細な魔力制御を憶えると思うがな?」


「お世辞なら……」


「世辞ではないぞ? 其方はモモの呪いを解く時に、実に繊細に魔力を扱っておった。あのレベルの操作が、例え一度とは言えできたなら、直ぐにでも習得できよう? あの時、其方の魔力は外に漏れ出たのは充分許容の範囲であったぞ?」



 ああ、あの時の感覚か。

 確かにあの時は初めての《第八階位》魔法の行使ということもあって、それこそ魔力を絞り込む様に操作していたけど……あの感覚で常に制御する必要があるのか……。

 って、それ凄い疲れそうなんだけど?

 いや、他の魔術師はそういう苦労をしながら腕を磨いているんだろうな。

 大体、疲れたから雑で良いなんて言ってしまったら、きっと何時か取り返しの付かないことになる。その時、後悔するのは自分なのだ。



「じゃあ頼めるか? リーフ」


「頼まれた!」


 そう言ってリーフはニカっと笑った。



「そう言えば、何で『モモ』って付けたんですか?」



 落ち着いたところで不意にミディがそんな事を聞いてきた。



「答えなきゃ駄目かな? 結構反射的に名付けちゃったんだけど……」


「随分と可愛らしい名前ですが……例えばその、昔の思い人の名前とか……?」


「いや、昔飼ってた猫の名前」


「「「「おい」」」」



 正直に答えたのに何故か一斉に突っ込まれた。



「私はご主人様のペットなのですね!?」



 直後にモモが放った嬉しそうな言葉に、その場にいた全員が硬直し、さらにアリィに説教されたのは言うまでも無いだろう。

 その後、数時間かけて『ご主人様』呼ばわりされるのを訂正しようと試みたが失敗に終わった。あと、何故かミディがご主人様と呼びたいと言い出したが、そっちは従属関係に無いからとか色々言い訳を並べて何とか今まで通りの呼び方にしてもらった。



      ■



「聖女様、この度は本当にありがとうございました」


 翌日、俺達――と言うかアリィ達――は村長に何度も礼を言われながら、オルズ村を後にした。

 結局、モモはゴブリンに捕まった猫獣人という事にし、アリィ達が引き取ることになった。

 本来なら何処かモモを受け入れてくれる猫獣人ウェア・キャットの一族を探すべきだそうだが、俺の庇護下に入っているため、まず無理だろうとのことだった。

 ならばと、このままアリィ達と同行することにしたのだ。


 幸い、村の被害も最小限に留められたし、凶悪なホーンドベアまで退治されていたのだ。

 村長だけでなく村人の表情も明るい。

 御布施として結構な金額を渡されそうになったそうだが、全額を貰うのは断ったらしい。

 元々、モードレス子爵からそれなりの資金を頂いていたので、ここで大金を貰う訳には行かないと何度も断ったが、相手も中々折れてくれず、仕方ないので、三割ほど御布施として貰うことにしたそうだ。

 まあ、その代わりといって幾つかの食料を貰う羽目になり……今馬車の中にはかなりの量のトウモロコシが積まれていた。

 どうするんだ? これ?




 今、俺たちはそのトウモロコシに囲まれた馬車に揺られながら、レーゼンバウム領の直轄都市シティヴァリィへと向かっている。

 順当に行けば、四日くらいで到着するらしいが、馬車が重くなったのでもう少しかかるかもしれない。

 アリィは「当面、トウモロコシ料理ですかね」と笑っていた。

 因みに俺は、道中リーフに魔力操作を教わっていた。

 訓練の方法は地味で、リーフが指定したサイズの魔力の玉を時間内に作成し、直後、その魔力を自身の中に戻すという作業の繰り返し。

 ただ、毎回何かの進展があるので、地味な作業ながらも中々に楽しい。

 失敗して漏れ出た魔力は、もれなくリーフとモモが頂いている。

 魔力制御になれてきた頃、やたらに難易度の高い魔力形成を行うよう言われたことがあったが、それを完璧にこなした時にリーフが何とも言えぬ顔をしたのが、少し可笑しかった。


 その後も、旅はかなり快適に進んでいた。

 モードレス領とレーゼンバウム領の境にある森を越える際に、少数のゴブリンの群れと遭遇したが、ラグノート達の敵ではなく、一瞬で討伐された。

 いや、改めて見ると全員強いわ。

 つか、ラグノートのあの瞬間移動は何ですか?

 今度教えてくれないかなぁ?


「結局俺の出番どころかリーフの出番すら無かったな」


「…………………………………………」


「リーフ?」


「レイジ……其方は妙な気配を感じなかったか?」


「妙な気配?」


「うむ、何やら妾達を監視しているような、そんな気配じゃ……」



 そう言われて、俺は慌てて【熱源探知】魔法を使って周囲を探る。

 ただ、【熱源探知】と俺の視力を駆使しても、何か怪しい存在は見当たらなかった。

 精々が野鳥か小動物の気配くらいである。



「いや、今のところおかしな人影とかは見当たらないな?」


「隠蔽系の魔法を駆使しておるやもしれん……警戒を怠るでないぞ?」



 そう言われては俺もいい加減な態度ではいられない。

 元々、俺は誰かの気配に敏感では無い。

 というか、幽霊となった今、俺自身が気配というものとは無縁に近いのだ。

 肉体が無いからこその弊害とも言える。

 代わりに俺は聴覚を強化し、周囲の警戒を強める。

 すると、確かに何かが遠ざかる物音を捕らえた。

 ごく僅かな物音ではあるが、明らかに何かが物音を立てているのに、その発生源に何も見つからない。【熱源探知】を使って尚、物音を出す存在が感じられないのだ。



「確かに、何かいるみたいだな。今は遠ざかりつつあるみたいだけど」


「恐らくは人間じゃろうが……ゆめゆめ気を抜くでないぞ?」


「ああ」


 そう言ってモモを見ると、モモも神妙な顔をして頷いた。

 最初は俺にべったり――触れられないので俺の傍から離れないだけだが――だったモモは、ここ数日で肉体と精神が安定してきたらしく、急に子供っぽさが抜けつつあった。

 まあ、数日前に比べれば、ではあるが。

 結局この日はこれ以上何も無かったので、監視者の存在をアリィに告げるに留まった。

 だが、この監視者は俺たちと一定の距離を保ったまま、直轄都市シティヴァリィまで着いて来ることになった。


 そして、オルズ村を出て五日目の昼前、シティヴァリィに到着したところで、俺たちはその正体に気が付くことになる。


 シティヴァリィの城壁まであと少しといったところで、俺たちはシティヴァリィから向かってきた騎士団に取り囲まれたのだ。

 そして、騎士団の中から一人の文官っぽい壮年の男が歩み出てきた。



「聖女アルリアード様御一行でございますな?」


「そうですが、貴方は?」


「失礼。わたくし、大公閣下よりこのシティヴァリィの警備管理を任されております『マオカ』と申します」


 その慇懃無礼な態度に俺はかなりイラっとしていた。

 このマオカとか言う人物は、俺の最も嫌いなタイプの人間だった。


「では、そのマオカ様が何用でしょうか?」


「アルリアード様、貴方には国家転覆の嫌疑がかけられております。おぞましくも危険な魔物を支配し、大公閣下に害をなそうと訪れた……とね?」



 マオカが口角を上げ、勝ち誇った様な腹立たしい笑みを浮かべた。

 直後、マオカはリーフに蹴飛ばされ、高々と宙を舞った。



「「「「「ちょっとぉっ!!」」」」」


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