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どうやら俺は異世界転生したはずが死んでる模様  作者: 仁 智
第三章:大公爵との出会い
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どうやら俺はこの世界に魔王が何人もいるのだと知る模様


 かつてゴブリンだったものが全く異なる生物へ変化を果たすという事実に、思考能力が全くと言って良いほど追いつかない。

 いや、だって猫耳だよ?

 と言うか、ゴブリンとの共通点ゼロですよ?

 完全にというか、完璧な猫耳少女。

 年の頃は十代前半。

 アリィより一回り小さい体つきは無駄な肉が付いておらず、ネコ科動物の様なしなやかさすら感じられる。

 ゴブリンだったときの粗末な布しか巻いてないので、あちこちが隠しきれておらず、色々と際どい。うん、色々際どい。

 そんな少女が自信の身体をしげしげと見つめ、やがて俺を見て嬉しそうにニコっと微笑む。

 うわ、何この娘。めっちゃ可愛いいんですけど?

 本当にさっきまでゴブリンだったんですか?

 まあ、最初に見た時もゴブリンっぽくないとは思ってたけど……。


「警備兵さーーーーーん。ここに半裸の少女眺めてニヤニヤしてる変態幽霊がーーーー」

「って、ちょおっ!……てリーフかよ……驚かせんな」


 突如、酷く棒読みで侮蔑に満ちた言葉を背中に投げつけられ、慌てて振り向くと、そこには白い目で俺を見るリーフの姿があった。

 リーフを見た猫耳少女は警戒するように俺の後ろに隠れる。

 もっとも、俺は透けてるので隠れようがないんだけど。

 リーフは普段街にいるときの人間の姿では無く、幼生期が終わった時に見た半人半龍の姿を取っている。頭部から角が生え、その龍のまなこは炎の如き威容を放っている。始まりの竜プリミティブ・ドラゴンとしての気配オーラがヒリつく程に感じられる。これなら元・ゴブリンだった猫耳少女が隠れようとするのも無理はない。

 ただ、背中から生えた竜の翼が短衣の裾を押し上げており、かなり際どい格好になっているため、折角の気配オーラが台無しだった。

 それでもリーフが貧乳で良かった。巨乳だったら間違い無く下半分がはみ出てた。


「今、何か失礼な事を思い浮かべなんだか?」

「いえ、そんな事は決して……というか、どうやってここに?」

「レイジがあまりに膨大な魔力を放ったもんじゃから、洞窟内を濁流のように魔力が流れておったわ。その流れをたどったらここに辿り着いただけじゃ」

「え? そんなに沢山魔力出てた?」

「魔力出てた? では無いわ。あまりに膨大過ぎて、警備兵達が混乱しておるぞ?」


 そんなにか……。

 実は洞窟の中にいると、外の音が殆ど入ってこない。

 得意の遠隔聴力も、分厚い遮蔽物が邪魔をして効果が著しく落ちていた。

 その為、外の様子が今なお窺えないが、アリィが警備兵の間を奔走する必要があるくらいには混乱しているらしい。

 これは……後で説教されるな。絶対……。


「まったく……で、それが例の『元・ゴブリン』の少女じゃな? まさか猫獣人ウェア・キャットとはの……レイジはつくづく変わった《引き》を持つ男じゃの?」

「珍しいのか?」

「それもあるがの……そもそも猫獣人ウェア・キャットは一族内での繋がりが強い種族じゃ。それ故にあまり他の種族と関わりを持たん。良く言えば『仲間思い』。悪く言えば『閉鎖的』じゃな?」

「それってもしかして……」

「その娘を受け入れてくれる猫獣人ウェア・キャットの集落は、恐らく存在せんじゃろうな……」

「そんな……」


 ゴブリンの元では居場所のなかった彼女は、例え呪いが解けて猫獣人ウェア・キャットになったとしても居場所は無いのか……。


「なのでアリィに後で相談せねばな?」

「え?」

「なんじゃ、このままここに置いていくとでも思ったか? そんなことは無いから安心せい。寧ろ、このオルレニア王国は猫獣人ウェア・キャットを大切に扱っておる。何せかつて魔王を倒し、世界を救った勇者達の末裔でもあるのじゃから」

「勇者? そんなのいたんだ?」


 まあ、《魔国プレナウス》は確か《魔王》が統治してるんだものな。

 勇者とかいても不思議では無いか。


「うむ。二〇〇年程前に世界に対して宣戦布告した魔王が一柱ひとりおっての。その魔王を倒した六人の勇者の中に猫獣人ウェア・キャットの少女がいたんじゃ」

「それって、《魔国プレナウス》の《魔王》?」

「いや、彼の魔王ではない。まあ、彼の魔王の父親なのじゃが……」

「魔王って世襲制? いや、それより魔王って何人もいるのか……」


 国家のパワーバランス、どうなってんでしょうね?

 それとも、魔王って言っても、必ず好戦的ではないのかな?


「今更何を言っておる? 《死霊王》も魔王の一柱ひとりじゃぞ?」

「へ? まさか二〇〇年前に倒されたのって?」

「いや、それとも別人じゃ。この世界では過去幾度となく《魔王》と成る者が産まれることがあっての……。一時代に複数の魔王が存在することもあるんじゃよ」

「それって魔王の時代が到来するのでは?」

「いや、《死霊王》などは人間と敵対する事は無かった魔王じゃな。極少数の配下とともに《墓所》と呼ばれた小さな土地を守るように過ごしておった」


 …………それってもしかして、ただの引きこもりなのでは?


「現時点で存在する魔王は三柱さんにん

「三人もいるのかよ……」

「うむ……《海の女王》ナリエラ、《娯楽王》ブリゲート……そして、《魔国プレナウス》の宗主である《紅蓮王》レッセンブル……この三柱が現存する魔王じゃな。いや、これに《二代目死霊王》レイジが加われば四柱になるか?」

「人を勝手に魔王に加えんな!」


 冗談じゃ無い。

 こちとらそんな面倒な地位は必要としてないのだ。

 それより……。


「プレナウスの魔王ってそんな名前だったんだ?」

「うん? 知らなんだか? 《魔国プレナウス》の魔人の知識を覗いたから知っておるとおもっておったが?」

「いや、魔法とかを優先してたので、そこまで見れなかったんだ」

「なら憶えておくと良い。《魔国プレナウス》の《紅蓮王》こそが、今最も人類に敵対的な魔王なのじゃから。いや、配下の者達が人類に敵対的と言うべきかもしれんの」

「今言ったの、結構違う気がするんだけど?」


 ヤクザの親分が好戦的なのと、部下が好戦的なのとでは、かなり違う。

 前者は親分が命じなければ戦争など起きないだろうが、後者はあちこちでトラブルを起こすだろう。

 まあ、どっちも好戦的なのが一番たちが悪いが。


「《紅蓮王》は二〇〇年前に世界を恐怖に陥れた魔王の息子なんじゃが……本人は『君臨すれども統治せず』と言ったスタンスのようじゃ。だが、配下の者には父親の代から仕えている者も多く、そう言った者の大半が人類を敵としておるのじゃよ……」

「父親の意思を受け付いで、ってことはなかったのか」

「その当たりは分からん。内に秘めたまま、虎視眈々と機会を待っているかも知れんしの」

「ふむ……」

「……っと無駄話が過ぎたようじゃ。今はこの娘を連れ、こっそり洞窟から脱出することが先決じゃ」


 おっと、そうだった。

 ゴブリンの洞窟内で他の警備兵に見つかるより、先にアリィに知らせた方が、余計なトラブルもないだろうことは俺にだって分かる。

 その為には警備兵がここに来る前に、一度外に出ないと……。


「外に出る道は分かるか? 出来れば警備兵に見つからないルートが良いんだけど?」

「うむ、妾が入ってきたルートならば村とは反対側の斜面に出られるぞ?」

「よし分かった。じゃあそっちから出るとしよう……君もそれで良いかな……えーっと……君、名前とかないのかな?」

「ナマエ……?」


 しばし考えた後、彼女は首をブンブンと左右に振った。


「ゴブリンは個体に名前を付けたりせんからの。ゴブリンとして生きてきたのであれば名前が無いのも当然じゃろうて」

「そうなのか……じゃあ…………『モモ』とかじゃ駄目かな?」

「名前付けるんかいッ! というか妾に聞くな、そっちの娘に聞け。まあ、その様子では問題なさそうじゃな」

「モモ……モモ…………モモッ! 私、モモッ!」


 大はしゃぎである。

 種族が変わった為か、先ほどより流暢な言葉遣いで、はしゃぎにはしゃぎまくっている。


「名前を付けたからには其方が親代わりじゃ。きちんと面倒を見よ。良いな?」

「えっと、この世界では名前を付けることに深い意味があったりする?」

「其方の世界ではどうだったかは知らぬが、普通名前を付けると言うことは、その個体を《個》として認めるということであり、その者との繋がりを持つという事にはならんか?」

「あ……」


 確かにその通りだ。

 名前を付けると言うことは、その相手を特別に扱うということに他ならない。

 猫に名前を付ける事は、その猫と縁を結ぶことであるし、その猫を他の野良猫とは別に扱うという意思表示でもある。

 けど………………。


「確かに何か《繋がり》が発生しているのを感じるんだけど、その理由が『その繋がりから魔力が漏れてる』からなんだけど、これは何?」

「それはモモが其方に恭順の意を示し、お主の庇護下に入ったということじゃ。力の強い者が誰かと縁を結んだ際に、その庇護下に入ろうとするのは良くある。魔力への依存度が高い種族なら良くある事じゃ。妾も其方の庇護下におるしな」

「初耳なんですけど?」

「妾は其方の庇護下でなければ、幼生期を終わらすことが出来なかったのだから当然じゃろう?」


 そうでした。

 卵から孵化させた直後は俺の魔力しか受け付けなかったんだっけ……。

 じゃあ、あの時には既に庇護下にいたってことか。


「じゃから妾も、その娘も、絶対にお主を裏切らん。そしてお主の傍を絶対に離れん。お主の窮地には必ず駆けつける。この繋がりはそういうものじゃ」

「それって人間にもあるのかな?」

「いや、魔力への依存度が極端に低い人族の場合、この傾向はほぼ無い。極稀に《魔王》などの庇護下にはいる人間がおるが、それは極端な例と思ってよい」

「その言い方だと、もしかして《魔国プレナウス》って……」

「うむ、多数の者が《魔王》の庇護下に入っておる。うっかり敵対すと厄介じゃぞ?」


 成る程、つまり《魔国プレナウス》は庇護下に有りながら前魔王を守れなかった悔しさや行き場を無くした忠誠心が全て現魔王に向けられているのだろう。

 確かに敵に回したくはない。

 俺個人でどうにか出来る問題ではなくなるし……。


「と。また余計な話をしてしまったな。とにかくまずはここを出るとするか」

「ああ。どうやら表の洞窟からは何人か入ってきてるみたいだしな」


 耳を澄ませばガヤガヤと騒がしい男達の声が聞こえた。

 声が聞こえると言うことは警備兵たちが入り口に入ったかしたのだろう。

 これ以上、モタついている場合じゃない。



「リーフ、道案内を頼む」

「心得た!」


 そう言うと俺たちはホールの様な洞窟の広間から抜け出した。

 程なくして俺たちは途中ゴブリンと遭遇することもなく、無事にゴブリンの巣を出ることができた。


 その後、直ぐにアリィに連絡を入れると、案の定、俺は全力でアリィに怒られたのは言うまでも無い。



話の前後関係に間違いがあり、内容とサブタイトルを若干変更しました。

(今まで指摘されなかったので気付かなかった……)

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