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どうやら俺は異世界転生したはずが死んでる模様  作者: 仁 智
第三章:大公爵との出会い
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どうやら俺はゴブリン達の巣に潜入する模様


 俺は姿を消し、真っ直ぐゴブリンの巣へ向かい飛翔する。

 日は既に傾きかけており、あまり時間を掛けていられる状況ではない。

 警備兵達からしたら、夜になる前に全てを終わらせたいだろう。とは言え、人の手が入っていない森の中を行軍するのは難しく、時間通りに事が進まない可能性も高い。

 その場合――報告の必要はあるが――先行している俺が自己判断で行動して良い事になっている。


 勿論、俺が急ぐのはそれだけが理由ではない。

 本隊より先行しないと、あの雌ゴブリンを救出することが出来なくなる。本隊の誰かに見つかってしまったら、例えアリィであってもかばう事は出来ない。

 その為にも、先に雌ゴブリンの救出、及び《チェンジリング・ソウル》の解呪を行わ無ければならないのだ。


 俺は再度【熱源感知】の魔法を使ってゴブリンの熱源を捜索する。

 どうやら、先ほどの場所から動いてはいないようだ。

 巣の場所が見つかったことを警戒し、場所を変えたりしていないか不安だったが、どうやら杞憂のようだ。

 最も、俺がゴブリンと接触してから実のところ一時間も経過していない。

 群れごと移動となると、直ぐに行動を起こす訳には行かなかったのかも知れない。

 または見つかりにくい夜まで待つつもりだった可能性もある。

 夜行性であることを考慮すれば、後者が正しいか。


 俺は村を出て僅か二分後には、ゴブリンの巣に到着していた。

 巣と言うより、茂みの中に隠れた風穴だった。

 周囲は葉の尖った背の高い植物に覆われており、通常の手段であれば入り口を探すのも難しいだろう。ゴブリンが住み着くには格好の場所と言えた。


 一応、見張りのゴブリンが何匹か見える。

 人間のように入り口の脇に立っているのではない。適当な茂みに隠れて周囲を警戒しているゴブリンを四匹ほど見つけたのだ。

 まあ、下手に入り口を固めて、『ここにゴブリンの巣がございますよ』と周囲に喧伝する必要がないのだから当然とも言える。

 人間の街で門兵がいるのは、そこに街があると遠目にも分かるからに他ならない。


 まあ、如何に周囲を警戒しようが、透明になっている俺を見つけられないのであれば、見張りなど無いに等しい。

 …………つくづく、存在がズルいな、俺は。

 これ、偉い貴族とかに知られないよう注意しないと、バレたら絶対に危険視されるな。


 俺は周囲を警戒するゴブリンの情報を【遠隔発声】で伝えると、直後には風穴の中に入っていった。

 かなり内部は暗い。

 明かりとなるものが一つも無いのでこれは仕方ない。まあ、今の俺には暗がりなど何の妨げになってもいないので、問題ないんだけど……。

 周囲から感知できる音や熱源をたどり、俺は風穴の最深部へ向かう。

 あまり入り組んでいたらどうしようかと思っていたが、幸い風穴はそれほど複雑な形状をしていなかった。まあ、あまり複雑に過ぎると住んでいるゴブリンに負傷者が出る可能性もあるから、この位の規模が丁度良いとも言える。


 ふと、俺の耳に声らしきものが聞こえる。

 どうやら何匹かのゴブリンが声を荒げているようだ。

 ゴブリンの言葉は【言語会話】魔法によって分かるはずだが、複数の声が重なっている上に、洞窟内で音が反響してしまって、何を言っているのかまでは聞き取れない。


 …………怒声が混じっている?


 俺は声のする方へ真っ直ぐ進む。文字通り壁も地面も関係なく真っ直ぐに。

 そして不意に視界が開け、松明の明かりに照らし出されたかなり大きな広間のような空間に出た。



「コノ、裏切リ者メッ!」



 広間の片隅に何匹かのゴブリンが集まっている。

 口々に何かを罵り、嘲り、嘲笑を浴びせ、そして拳を振り上げる。

 ゴブリンにしては一際着飾ったゴブリン――言うなればあれがゴブリンキングというヤツなのだろう――が中心となり、まるで誰かを糾弾するような言葉を発している。

 集団の中心に近いゴブリン達は手に棍棒の様な武器を手にして、真ん中にある何かを何度も打ち据えていた。



「オ前ノセイデ、コノ場所ガ人間共ニバレテシマッタデハナイカ!」


「ソウダソウダ!」


「コノ責任ハ重イ!」


「裏切リ者ニハ制裁ヲッ!」


「裏切リ者ニハ死ヲッ!」



 大勢のゴブリンが拳を振り上げ、足踏みをし、興奮する中、中央にいる何かが小さな声を上げる。



「チ……違イマス……私ハソンナ事シテ……ナイ…………」


「黙レッ! デハナンデ貴様ノ怪我ガ治ッテイタノダ! 大方巣ノ場所ヲ教エタ見返リデナオシテ貰ッタノダロウ!」



 その声を無視して、ゴブリンキングは手にした棍棒でその相手を何度も殴りつけた。

 周囲のゴブリンもその熱狂に当てられたかのように、打ち据え、殴りつけ、足蹴にしている。

 中央の小さな存在が、どれ程否定しても、許しを請うても、周囲のゴブリン達の怒りは収まるどころか、益々過熱していった。



「違ウ……違ウ……違……許シテ……誰カ…………」



 その中心にいるのが誰か分かった俺は慌てて集団の中心に向かう。

 案の定、そこには先ほどの雌ゴブリンが血塗れで横たわっていた。

 集団リンチによって全身が打ちのめされ、出血し、所によっては骨折でもしているのか大きく腫れ上がっていた。

 それを見た途端、俺の全身を怒りが駆け巡った。

 血液があれば沸騰するほどの熱でもって全身を駆け巡っただろう。

 そのあまりの怒りに俺は魔力を制御出来ず、その場で姿を顕し、その憤怒に身を任せるように、全身から膨大な魔力を発した。

 その魔力は風穴を揺るがし、亀裂すら生じさせるほどの強大さでもって周囲に拡散していく。



「ヒイイィィッ!」


「ナ、何ナンダ!」


「ド、ドコカラ入ッタ!?」



 何匹ものゴブリンが慌てふためき、恐怖に震え、その場にへたり込む。中には俺を見てその場で気絶するゴブリンもいた。



「ヒィ……バ、化ケ物…………」



 尻餅をついたまま、まともに動くことも出来なくなったゴブリンキングが、俺を見て何とかその言葉だけを絞り出した。

 俺が化け物?

 そうかもな。

 お前らを殲滅できるなら、化け物にでもなってやろうじゃないか。

 だが……。



「お前らこそ、化け物だろうが」



 俺は、怯えた表情で俺を見上げてくる小さな雌ゴブリンを見る。

 先ほど助けた雌ゴブリンは、今は俺の事を恐怖の目でもって見ていた。

 が……その目に突然安堵の色が浮かんだ。

 いや、安堵と言うには陰が濃い。

 まるで、このまま死ねる事を喜んでいるような、そんな暗い色が見えた。

 それを見た俺の腹の底に、カッと熱いものがこみ上げる。

 俺はその熱い激情をそのまま魔力に変換して呪文詠唱を開始した。



「【炎よ! 始まりの炎よ! その猛威でもって我に仇なす全ての敵を退けよ】」



 突然張り上げた俺の声にゴブリン達が慌てふためく。

 懸命にも逃げようと試みるゴブリンもいたが、大方が恐怖のあまり立ち上がることすら出来ずにいた。



「【我らを守るはサラマンダーの吐息、イフリートのかいな】」



 俺は魔力を全力で魔力を結集し、魔法の言葉と絡めて魔法円を作成する。

 そのまま術式に会わせて自身の周囲に配置する。



「【高く噴き上がり、猛き壁となって天を焦がせ】」



 次々作成される魔法円に、炎の様な揺らめきが立つ。

 魔法回路とも呼べるそれに、俺は容赦なく魔力を注ぐ。



「【万の軍勢を前にそびえ立つ城壁となり、攻め入る軍勢を地平の彼方へ押し返せ】」



 命の危険を感じたゴブリン達は、必死に俺から逃げようとするが、殆どの者が立ち上がるどころか、震えを御する事も出来ずにへたり込んでいる。

 それでも俺から遠ざかろうと、這ってでも逃げ続けようとするゴブリンは優秀と言えた。

 まあ、多少優秀でも俺には関係ない。

 そして、脅威の呪文が完成する。



「【魔術師ボルドアのソーサラー・ボルドアズ・炎の壁(フレイム・ウォール)】」



 起動鍵となる最後の呪文によって発生した炎が、俺たちを一瞬で包み込んで周囲に爆散した。

 そして逃げようとしたゴブリンもろとも広間を瞬く間に舐め尽くしていた。



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