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どうやら俺は異世界転生したはずが死んでる模様  作者: 仁 智
第三章:大公爵との出会い
33/111

どうやら俺はゴブリンを見つける(見つかる?)模様


「………………また鹿かよ…………」



 ゴブリンの捜査など簡単にできるだろうなんて、誰が言った!


 いや、実際これが思った以上に難航していた。

 熱源があるのは何もゴブリンに限った話では無い。

 それどころか、ゴブリン以外の生物の方が多いのである。

 更に、ここ暫く猟師すらこの森に入っていないのか、野生動物が繁殖しまくっていて、その数の多いことったらない。


 特に、鹿、猿、熊などがかなりの数、生息していた。

 厳密には俺のいた世界での鹿などとは別の生き物なんだろうけど、そこはこの際置いておく。

 蛇などの小さい熱源は流石に無視して探索しているのだが、これらを除いても昼行性の動物が結構繁殖していて、ゴブリンを見つけられずにいた。


 念のため言っておくが、別に姿を見せたり魔力を解放したりなどはしていない。

 そんな事でゴブリン達に見つかったら、元も子もない。

 というか、そもそも昼間は暑くて、透過度を上げていないと俺が持たない。

 大きさは流石に人間サイズに戻っているが、それでも今の俺を見つけるのは難しいだろう。

 ……時々、一部の動物が俺の方をチラリと見るけど、多分見つかってはいないと思う。動物的な勘ってやつで、こっちを様子見ただけのようだ。


 しかし……ここまで見つからないとなると、この手段でゴブリンを探すのは諦めた方が良いのか?


 そもそも俺はゴブリンの生態など大して知らない。

 夜に活動が活発になるらしいことは憑依した人間の知識から知っているが、どの程度の夜行性なのかは流石に知らない。

 精々がこの世界で一般的に知られているゴブリンと特徴くらいの知識しか持っていない。

 ただ、昼間にも活動していることがあるらしいので、完全な夜行性じゃないんだろうと考えての行動だったのだが、流石に甘かったようだ。


 まあ、さっきから熊への遭遇率もそれなりにあるしね。

 ゴブリン単体ではそれほど戦闘能力は高くないらしい――一般人よりは強いが、兵士よりは弱い――ので、熊とかに遭遇したら確実に熊が勝つだろう。

 となれば熊が活動しているような時間帯は巣穴から出てこないかもしれない。

 上空から探知出来れば良いのだけど、それが出来るのは夜になってからだろうし……。



「となると、他にやれることは……あれか……」



 俺は視界を閉じ、耳に魔力を集中する。

 そう……王都でも行った広範囲の音を拾うことに注力することにする。

 勿論ゴブリンの声でも聞こえれば御の字だが、その前に探索範囲を絞るための情報を集めることにする。

 ゴブリンといえども生物。分類上は妖魔の扱いらしいが、それでも生きていくのに水と食料は必要となる。

 ゴブリンの行動範囲がどの程度かは分からないが、それでもこの鬱蒼とした森の中で暮らすのに、水場に近いところを選ぶだろうと俺は予測した。闇雲に探るよりは多少効率が良くなるだろう。

 もしそれで見つからなければ、夜になって再度探索すれば良いことだ。

 幸い、俺は昼行性でも無ければ夜行性でもない。どこかで眠る必要が無いのだから。


 やがて俺は水の流れる音を聞きつけた。

 オルズ村との距離もそう遠くない。

 この辺りにゴブリンが巣を作ってる可能性は、そこそこに高いだろう。高いと良いな。


 音を頼りに進むと、程なくして河原に出ることが出来た。

 ただ、ここでは【熱源感知】の出力を少しばかり下げなければならない。

 太陽に照らされた川辺の砂利が、結構な温度になっているので、逆に視界の邪魔になってしまうからだ。

 ただ完全に切ると、今度は森の方角を見た際に熱源が拾えないので、そこは細かく注意しながら調整する。


 しかし、綺麗な川だな。

 水も澄んでいるし、ちょっと見ただけでも結構な数の魚が泳いでいる。

 生身だったらここで魚を釣って河原で火をおこし、ビールでも一杯といきたい所だ。


 …………ビール飲みたい……。


 こっちの世界にもビールってあるのかな?

 そう言えばバタバタしていたからか、アリィ達がお酒を飲んでるのを見たことがない。

 王都や、昨日泊まったヒューズでは店で酒を飲んでいる人達をチラリと横目で見たが、金属のジョッキで飲んでたアレはやはりビールなんだろうか?

 こっちだとラガービールよりエールビールが主体かな。

 ちゃんと冷えてるのかな?

 あ、でもブラウンエールならそれほど冷えて無くても良いか。

 肉体手に入れたら、食事もそうだけど、ビール飲みたいな。


 …………………………。

 はッ!?

 いかんいかん!


 俺はいつの間にかゴブリンを探すことを止め、頭の中はビールで一杯になっていた事に気付く。

 いや、確かに肉体を手に入れる理由というか、今の俺のモチベーションは食欲を満たすことなんだけど……それにしてもまさか己を見失うほどとは思わなかった……。

 これではいかん。何のために斥候に出ているのか分からなくなる。

 俺は取り敢えず両頬を叩いて気合いを入れ直す。

 意味あるのかって?

 まあ、ふにふにとした感触があるだけで痛くはないから、正直イマイチ。


 それでも気持ちの切り替えには役だったので、今は良しとして周囲の探索に集中する。

 川沿いというか、ほぼ川の上を進んでいくと、やがて幅広の滝が現れた。

 高さは三階建ての建物くらい。二〇メートルは無いと思う。ただ、幅は五メートルほどあり、かなりの水量が滝壺に注がれている。

 滝の裏側には洞窟の様なものが見える。

 …………何というか、お約束ですね。

 こういう所に何か潜んでいるのは確定でしょう!


 俺は滝をすり抜けて洞窟の中に入る。

 奥には何かの熱源があるのが分かる。

 やはりこの洞窟に何かが住んでいるのは間違い無さそうだ。

 俺は熱源のある方へゆっくりと進む。

 人間ならソロリソロリといった感じに……って、おれ幽霊だから音を立てないようになんて気の使い方する必要ねぇじゃねぇか。

 そう思い直し、俺は一気に洞窟の奥まで移動する。

 そうして目の前に出てきたのは……熊………………。


 またかよッ!

 またゴブリンじゃねぇよッ!

 しかも何この熊! 角生えてんじゃん!?

 そこでふと、この世界に召喚されたときに見た熊モドキを思い出す。

 その記憶と、クーエルから奪った記憶とを組み合わせ、目の前の熊モドキの正体にたどり着いた。

 確か《ホーンドベア》と呼ばれる魔物だったはずだ。


 …………魔物じゃんッ!


 これ、人里近くに住み着いてて平気なの?

 俺が得た知識からすると、その強さは流石に動物の熊とは比べものにならない。

 ラグノートやレリオなら、一人でも何とかなるかも知れないが、並の兵士が一対一で相手となると、この魔物には絶対に勝てない。それどころか、十人ほどの小隊であっても蹂躙してみせる。

 身体を覆う毛皮も分厚く、所々外殻のような硬質な部位を持つ故に、多少の剣戟など弾くほどの防御力を持つ。

 その巨体はヒグマを優に超え、立ち上がれば楽に三メートルに達する。

 それだけの巨体を維持するパワーは強大で、その両手の爪は金属鎧を引き裂くほどに硬い。

 これを倒すとなると、通常は魔法の補助が必須となるのだ。


 そのホーンドベアがのっそりと起き出し、俺を見た。

 しまった……そして俺と一瞬視線が合う。

 魔物を見つけてしまったことで、俺は少しだけ動揺し、魔力の制御が乱れたのだ。

 消していた姿もうっすら顕れている。



「ガアアアアアッ!」



 そしてホーンドベアは猛烈な勢いで突進してくる。



「おわっとととととぉッ!」



 俺はホーンドベアから逃れるように急いで出口に向かう。

 だが、俺の存在を感知し、尚且つ危険も察知したホーンドベアは、その巨体に似合わぬ速度に加速した。

 彼我との距離が一気に縮まると、ホーントベアそのまま俺に激突する。が、当然の様にすり抜け、勢い余って滝の外にまで転がり出ていった。


 狙いどおーーーーーーーーーーーーりッ!


 激しい水音と共に、ホーンドベアが滝壺に落ちる。

 俺も慌てて追うと、ホーンドベアは丁度水面に顔を出した所だった。

 そのまま泳いで岸に向かう。

 だが、俺はその隙を逃すつもりが無かった。

 何せホーンドベアはこのまま放置できる魔物ではない。人里近くで見つけたら即討伐の対象になるほど危険なモンスターなのだ。

 ゴブリンより優先して倒す必要がある。


 俺は既に移動しながら魔法を構築していた。そして丁度岸に上がったホーンドベアに対しその魔法を放った。



「【魔術師ソーサラーショットの(・ショッズ・)氷の槍(アイシクル・スピア)】」



 俺の放った巨大な氷の槍――いや、氷の柱は易々とホーンドベアの肉体を貫き絶命させる。それだけでは足りないとばかりに、ホーンドベアの濡れた身体を完全に凍結させていた。

 魔法の冷気の余波で、滝壺は一瞬で完全に凍り付く。更には滝の水を一部凍結させ、直後にバラバラと砕けて凍った滝壺に降り注ぐ。一瞬の後、何事も無かったかの様に滝の水が落ちてくるが、未だ魔法の余波が残る滝壺に降り注ぐ傍から凍っていく。

 凍り付かずに滝壺を少しずつ溶かすようになったのは、氷の槍の効果が完全に消えた後だった。


 むう…………まさか、一撃とは……。

 我ながら恐ろしい。

 胸に大穴を空け、歪に凍り付いたホーンドベアの死体に近付くと、自分のしたこととは言え少しだけ恐ろしくなる。

 いや、だってこれ、本当に三メートル以上あるぜ?

 ちょっとした怪獣だよ?

 それが、一撃って…………誰かに見られなくて良かった……。


 と、思ったその時。不意に視線を感じて振り向くと、そこには怯えた表情でこちらをみるゴブリンの集団があった。



「見~た~なあああああああああああああああああああ……」



 混乱のあまり、俺は思わずそんな声を出していた。


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