表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうやら俺は異世界転生したはずが死んでる模様  作者: 仁 智
第三章:大公爵との出会い
32/111

どうやら俺は森の探索を始める模様


 翌日の昼過ぎ、俺たちはモードレス子爵に仕える騎士の案内の元、オルズ村に到着した。

 

 以前見たモルソン村――俺がこの世界で初めて訪れた無人の村である――と同じように、円陣を組むように石造りの建物が建てられている。

 ただ、モルソン村と異なるのは、建物を囲うように大規模な木製の柵が作られていた。その柵も何かの攻撃を受けたのか、所々痛んでいる。



「これは《聖女》さま。ようこそこのような場所へいらっしゃいました。わたくしがこの村の長を務めますロバウヌと申します」



 ロバウヌと名乗った壮年の男性がそう言って出迎えた。

 その両隣には屈強そうな騎士が、緊張した面持ちで立っている。

 その視線がアリィとラグノートに向けられていた。まあ、《聖女》に元とは言え《近衛騎士団団長》が目の前にいるんだものな。緊張するのも致し方ないか……。


 あ、俺は勿論、姿を消していますよ?

 念のためサイズも小さくなった《ハエモード》ですわ。

 余計なトラブルは避けねばならんしね。


 その後、俺たちは全員村長の家まで同行し、真っ直ぐ応接室に通された。王都にあったアリィの館の応接室のような豪華な部屋では無く、最低限の調度品が並べられた簡素な作りをしていた。

 いや、お前は許可されていない以上、潜入しただけだろって?

 ははは、何のことやら。今は良いだろう、そんな事。



「早速ですが話を聞かせて貰っても宜しいですか?」



 応接室に通された直後、アリィは早速そう切り出した。

 村長も侍従に飲み物を容易するよう伝えると、「分かりました」と頷いた。



「ゴブリンの襲撃はいつぐらいから続いているのですか?」


「大体、二週間ほど前になりますか。村から最も森に近い畑で作業をしていた農民がおそわれまして……それ以降、夜間に作物を盗まれる被害が相次いでおりまして……」


「今もですか?」


「はい、警備の兵や直轄地より派遣いただいた騎士様たちのお陰で、被害は減ってはいるのですが、それでも未だに……」



 森に面した畑の作物は優先的に収穫しているらしいが、育ちきっていない作物もまだ多く、ゴブリンに狙われやすいと村長が溜息をつく。



「ゴブリンが多勢で襲ってきたことは?」


「今の所、それは一度も……一度に来るのは数匹のグループが二つ三つといったところでしょうか……ただ、一向に数が減る気配がなくて……」


「……結構大きな群れがあるかも知れませんね……」


「はい、騎士様もそう仰ってました」


「警備の人手は足りていますか?」


「先日、ヒューゴより新たに警備兵を一〇名ほど派遣していただいたお陰で、今の所は何とかなっております。とは言え、オルズ村も小さいとは言え、畑の大きさはそれなりになりますので……被害をゼロに出来る程ではありません」



 まあ、そうだろうな。

 見たところ、ここを中心にして半径三キロ位の広さはありそうだ。

 そのうち半分が森に面している。警備を派遣して貰ったとは言え、この広さを夜間に守りきるとなると、容易な事ではない。ゴブリンは夜目が利くとの事なので、明かりを持って警備にあたる人間側の方が、条件が悪い。

 寧ろ警備兵は良くやっているとラグノートも感心していた。


 森と畑の間にも柵を建てているが、それも畑全てを覆える程ではないとのことだった。

 家畜への被害は今の所ないが、それは牧草地が森に面していないことが理由のようだ。



「人的被害はありますか?」


「村人では軽傷者が六名、重傷者が二名。死者が三名おります……」


「分かりました。では怪我人のところに案内してください。ラグノート達は森の様子を見に行って貰って良いですか?」


「仰せのままに」



 アリィがそう言ってラグノートに命じると直ぐに立ち上がり、村長に着いて行った。

 ミディは護衛として、リーフは表向き《聖女のお付き》としてアリィに同行する。

 ラグノートはアリィに頭を下げた後、傍にいた警備の騎士に現場への案内を頼むと、レリオ率いて森と接している畑に向かった。

 勿論、俺もラグノート達に着いて行ってますよ?

 いや、俺も神聖魔法での治療が出来るっちゃあ出来るんだけど、俺がそれをやる訳には行かないしねぇ……分かるだろ?


 で、逆に俺は俺にしか出来ない事をやることになった。

 それはつまり、森へ先行し調査を進めること。

 流石に昼間にゴブリンが襲ってくることは無いだろうけど、俺の能力なら先に森を調べることも出来るので、アリィに調査をお願いされたのだ。男なら断る理由がない。

 本当はリーフもこっちに着いてきて欲しかったが、見た目幼女にしか見えない彼女をゴブリンが出るかも知れない場所に連れ出す事は、流石に出来なかった。

 まあ、森の調査だけなら俺単独の方が楽なんだけどね。

 下生えとか倒木とかに脚を取られることが無いし。


 ますます俺、斥候だなぁ……。



      ■



 鬱蒼とした森の中を俺はスイスイと鼻歌交じりに進む。

 死霊である俺は、こういう場所ではその本領を遺憾なく発揮できる。

 人目には付かないし、普通の人間なら障害となるはずの倒木や崖、毒草や毒虫など俺にとっては何の足止めにもならない。

 森の広さは奥行きは一キロメートルほどで、真っ直ぐ抜ければ割と直ぐにリルドリア領に抜ける。ただ、横幅はかなり広く、人の脚で踏み込むにはかなりの苦労をするだろう。

 実際、警備兵達も森への侵入を考慮している為か、革鎧を身につけた軽装で警戒に当たっているが、それでもこの森に入ってゴブリンを退治するとなると、かなり苦労するだろう。


 ――というか、これ、暫く人が入り込んで無いんじゃ……?

 以前レリオに聞いた話では、今の季節は秋であり、これから寒くなるとのことだった。

 つまり、草木が育つ季節を結構過ぎているはずなのに、リルドリア領側から誰かが森に踏み込んだ後が見当たらず、かつて人が通ったであろう細い道も、殆ど草木に覆われていた。


 猟師なんかはそう言う痕跡を残さないようにして森に入るのかも知れないが、森の警備を行う兵士なんかはそんな事はしないように思える。

 となると、少なくともここひと月以上は森の警備を行っていないかもしれない。


 試しに俺はリルドリア領側に抜けてみる。

 森を抜けると、そこはオルズ村と同じように畑が広がっている。

 ただ違うのは、こっちは森の南側のためか、作物がほぼ収穫されていたことだ。

 僅かに警備の兵士が見えるが、オルズ村に比べると遙かに少ない。

 まあ、守る対象が既に無いのだから当然と言えば当然と言える。

 でも、この森の領有権を主張しているのはリルドリア公爵だろうに……自分の所に被害が無ければそれで良いのか?


 俺はもう一度森に入って探索を進める。

 ゴブリンは基本、夜行性らしいが、それでも痕跡くらいは見つけたい。

 もっとも、俺はゴブリンに詳しい訳では無いし、それこそ猟師みたいに足跡を見つけたり、糞などの痕跡を発見したりなどは出来ない。

 だからといって何も出来ないのではない。

 先日、こんな時に使い勝手の良さそうな魔法を手に入れて――正しくはクーエルの記憶から頂戴して――いる。



「【我が目は命の煌めきを拾う】【生ある者の魂の輝きと、命の熱を見つめる】」



 俺は呪文を紡ぎ、魔力を少しだけ増幅する。



「【我が目は炎の眷属を見据える】【太陽神の加護を受けた全ての者を、新たな輝きでもって映し出す】」



 使うは第四階位の現代魔法。



「【魔術師ソーサラーウルスラの(・ウルスラズ)熱源感知ディテクト・サーマル】」



 呪文が完成すると、俺の目にあらゆる熱源が映し出される。イメージとしてはサーモグラフィーの画像が近いが、通常の視界と合成されているため、熱源だけが見えているのとは少し異なる。

 ただ、まだ日が高いので太陽の影響が強いので余計な熱源を拾ってしまう。太陽そのものもそうだが、日に当たった葉っぱ等も熱源として拾ってしまうのが難点だ。

 それでも鬱蒼とした森の中にいるため、上空や太陽の方角を見なければ、それなりの熱源は感知できる。この魔法に遠くまで見通せる俺の特殊な視力を組み合わせれば、ゴブリンの捜査など簡単にできるだろう。


「んじゃ、早速ゴブリンの巣でも見つけますか」


 俺はそう言って意気揚々と森の探索を始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ