どうやら俺は異世界の定番たるゴブリン退治を行う模様
第二章での主な登場人物
向日島レイジ:本編の主人公。異世界転生する筈が幽霊となったサラリーマン。仕方ないので、転生するまでこの世界で幽霊生活を満喫することにした。享年二四歳。身長七ミリメートル~五十メートル。体重無し。
アルリアード・セレト・レフォンテリア:通称アリィ。異世界の聖女。レイジを救う為、レイジの転生を手伝おうとする。年齢は一六歳。身長一五三センチメートル、バスト八八センチメートルの金髪ロリ巨乳。
ミディリス・ナスナ・フィルディリア:通称ミディ。アリィに仕える騎士の一人で聖騎士。単なるチョロ騎士の様に見えて、暗がりでの含み針を見切るなど、北斗神拳伝承者みたいなことをやってのけた。身長百六十六センチメートル。バストは八一センチメートル。年齢一八歳。青みがかった黒髪のポニーテールが特徴。
レリオード・ナスガ・クルツェンバルク:通称レリオ。アリィに仕える騎士の一人で通称《魔導騎士》。謎の関西弁騎士。魔法を併用した剣技を得意としており、その実力は他国に知れ渡るほど高い。実はアリィやミディと同郷。年齢二〇歳。身長一七二センチメートル。赤みがかった茶髪
ラグノート・ナスガ・ブランディオル:アリィに仕える騎士の一人で騎士達の隊長格。元王都近衛騎士団の団長で《城壁騎士》との異名を持つ。また《仙技》を会得しており、攻撃面でも隙が無い。身長一八九センチメートルの偉丈夫。年齢四一歳。主武器はウォーハンマー。僅かに白髪混じりの黒髪を短く切っている。額に傷がある。
リーフェン・スレイウス:レイジよって《竜転生》した始まりの竜。レイジの趣味に合わせたという理由で《のじゃロリ》化した。現在の身長は一三八センチメートル。燃えるような赤毛の少女の外見をとる。今は完全に人間の少女に擬態している。
個体の戦闘能力としては、ラグノート達を軽く上回る。
セレステリア:創造神の片翼である女神。死んだレイジの魂を神域へ導き、自らが造った世界へと転生させる。《フォーディアナ》では最も信者が多い神様。ちなみにフォーディアナ教は多神教であり、信者が信仰する神が人によって異なる。
オグリオル:創造神の片翼である男神。過去には度々《フォーディアナ》に降臨したことがあるが、ある一件以降《フォーディアナ》に干渉することは無くなっていた。レイジをかなり気に入っており、久しぶりに下界に興味を持ち、レイジに《神の器》を託送とする
グロウブル総司教:フォーディアナ教の総司教を勤める最高司祭。かなりの高齢だが未だ壮健さを失わない老司祭。死霊であるレイジの事を知りつつもレイジを受け入れるとか大物かもしれない。
バンドア大司教:フォーディアナ教の大司教で実質ナンバー2である。己の魔法に対する才能の無さを嘆いており、高い地位に固執する傾向がある。今回も総司教の座を得るため、ある者達に協力する筈だったが、事を起こす前に計画が頓挫した。
ゲイブル・フルガ・ファナムス侯爵:オルレニア王国の貴族であり侯爵。己の地位向上の為、短絡的な行動を取り、遂にはその罪を暴かれた。尚、王都にある屋敷は王政に関わるための別宅であり、本来の直轄地は別に持つ。それと知らなかったが、《魔国プレナウス》の魔人と関わって王国に混乱をもたらしたため処刑が確定している。
「「「「ゴブリン退治!?」」」」
突然のファンタジーっぽい言葉に思わず聞き返す。
リーフやミディ、レリオも同じように反応を返した。
「ええ、ゴブリン退治です」
そう申し訳なさそうに言うのはアリィだった。
王都を出発して早くも五日目。
俺たちは、目的のレーゼンバウム領まであと二日程といった所にある城塞都市ヒューゴに到着していた。
ここまでは順調な旅だったのだが、この街に到着した直後、俺たちはこの街の警備兵と騎士団員に取り囲まれた。
別段、怪しい人物と疑われたのではない。
このメンバーで怪しいのは俺一人であるほっとけ。
実はこの領地でとある問題が発生しているらしく、《聖女》であるアリィに是非とも領主が会いたいと話を持ちかけてきたのだ。
アリィは元々、この街に領主が住んでいることを知っていたし、訪れたからには訪問させて貰う旨を伝え、その場は収まった。
アリィ達が領主の館へ向かっている間、ミディとレリオは旅に必要な消耗品の買い出しに向かい、残ったリーフと俺は宿屋で留守番をしていた。
本当はこの城塞都市を見て回りたかったのだが、アリィ達が不在の上、土地に不慣れな事もあって大人しく二人で留守番していたのだ。
生前、ネットの地図でみたフランスの城塞都市カルカソンヌみたいな感じだったので、あちこち見てみたかったんだけどな……カルカソンヌは結局生きている時に行けなかったし……。
で、アリィ達が領主の所から戻ってきたと思えば、皆を集めて突然言い出したのが冒頭の言葉だった。
要は領主から、近くの村でゴブリンの被害が続いているので何とかして欲しい、と泣き付かれたそうだ。
つうか、ゴブリン退治なんて異世界転移したら最初にやることなんじゃないの?
今更感ハンパないんだけど。
というか、今までこの世界を見て思ったのが、思ったより治安維持がしっかりしているので、ゴブリンとかその手のモンスターに出会うことがなかった。
各領地は領民を守るための組織がしっかり存在していたし、実際旅の途中で警備の騎士や兵士は何度も見た。
各領地を区切るように存在する森の中には、モンスターや山賊といった物騒な連中はいるらしいが、今の所出会った事は無い。まあ、森を抜けたのは今までに二回くらいなので、たまたま出会わなかっただけという可能性が高いが……。
それでも、村がモンスターの被害に遭っているというのは、ここに来て初めて聞いた。
「なんでこんな所でゴブリンの被害が出てるんでしょう? 《魔国プレナウス》との国境が近い訳でもないのに?」
ミディが頻りに不思議そうな表情でそんな質問をすると、アリィが困った様に頷いた。
「実はこの辺りの森林管理はリルドリア公爵が権利を主張していたのですが……」
「ああ、そう言うことですか……」
ミディがアリィの言葉を聞いて呆れたように肩を竦めた。
レリオも呆れた様に天を仰ぐ。
いや、俺にも分かるように説明してくれ。
「つまりアレやろ? リルドリア公爵が例のレーゼンバウム大公爵を陥れんのに必死で、領内の治安維持に綻びが出てるってことやろ? フレイム・ファンガスを秘密裏に対処してるのも影響しとんとちゃう?」
「まあ……多分、そうでしょうね」
ありがとう、レリオ君。良く分かったよ。
つまり、森の領有権を主張するリルドリア公爵が、治安維持を低下させてまで余計なことをしていたとばっちりを、この領地は受けてるって訳か。
「こっちの領主は森に入って退治とかできないの?」
「出来なくはないんですが、後でトラブルの元になるので中々積極的に対応出来ないのが実情ですね」
「王都から騎士が派遣されれば可能なのだが……」
俺の疑問に、アリィとミディがそれぞれ答える。
実は王都に対しては救援の要請を疾うの昔に出しているらしい。しかも危急を告げる狼煙だけでなく、早馬を遣っての伝令まで派遣したのに、未だに何の音沙汰もないとのことだった。
その為、迂闊に森へ攻め入ることも出来ず、この領地の騎士達は森から出てくるゴブリンを相手にするだけに留めているそうだ。
しかし、まさかと思うが、要請に対し返答が無いのって……。
「あれか、リルドリア公爵とやらが妨害しているのか?」
「可能性は高いと思います。証拠はないですが……」
自身の出世欲のためにそこまでするのか……。いや、元の世界でも結構いたか……自分の出世や利益の為に他人を犠牲にしたり迷惑掛けたりする連中は……。
別に貴族様だからといって、その辺り立派な人間とは限らない。勿論、逆に貴族が皆、己の利益しか興味をもってない訳でもないのだろうが……。
リルドリア公爵とやらが、《欲に塗れた貴族》側であることは間違いなさそうだけどな。
「困り果てたモードレス子爵が偶然この街を訪れた我々の到着を知って、是非手伝って欲しいと縋ってきたのだ」
「ああ、派兵が無いとヤキモキしていた所に、我々が到着したのですね」
ラグノートの言葉にミディも「仕方ない」といって嘆息する。
ラグノートは元とは言え近衛騎士団団長だった人物だし、ミディは聖女付きの聖騎士だし、レリオだって王都所属の騎士だ。
領主からしたら待っていた派兵が届いたと勘違いしても仕方ない。
しかも《聖女》が共にあるとならば、領民を守るためという理由で境界線にある森に入った所で、咎められる理由は無くなる。
むしろ、管理下の森林から余所の領地へのモンスター被害をだしているリルドリア公爵側の方に非が認められることになるだろう。
そして、その現状を知ったアリィが、何もせずに通り過ぎるなんて出来るはずがない。
アリィが聖女だからではない。困っている人がいたら手を貸すのは彼女の性分みたいなものだ。
「その為、私達は明日、その被害にあっているオルズ村に向かうことにしました。レーゼンバウム領に向かうのは若干遅れることになりますが……」
アリィが様子を窺うように俺を見て、そう言った。
確かに俺たちにそれほど時間の余裕は無い。
レーゼンバウム大公爵に早く謁見する必要もあるし、それ以上に例の《聖遺物》とやらが《魔国プレナウス》の人間に持ち出されるのを阻止しなければならない。
とは言えアリィは《聖女》である。
《聖女》は困っている人に手を差し伸べるべく存在するのであって、国家間や貴族間などの諍いを鎮める為に存在するのでは無い。
そんな《聖女》が困っている領民を見捨ててしまっては、今後《聖女》を名乗ることをアリィ自身が許せなくなるだろう。
「良いんじゃないか? ちゃっちゃと片付けてそれからレーゼンバウム領に向かおうぜ?」
俺はアリィに笑ってそう答える。
確かに肉体を手に入れることは俺にとっては重要だ。
ただそれは俺の個人的な利益に過ぎない。
そして今回の事件が貴族の個人的な利益に端を発している事を鑑みれば、その貴族達と同じ『自身の利益を優先した行動』をしようとは思わない。
人の上に立つ者が、私情を優先して他人を虐げるのを俺は最も嫌っている。
そんな己が最も忌み嫌う行動を自分がして、そいつらと同じになるなど真っ平御免だ。
「良いのか、レイジ?」
そんな俺の様子が気に掛かったのか、リーフが声を掛けてきた。
「うん? なんで?」
「其方はあれほど食事することに拘っていたじゃろう?」
「うん、まあ、そうなんだけど……それ以上に権力者の我が儘に振り回されるのを見るのが嫌なんだよ」
「……何かあったのか?」
「前の世界で、ちょっとな……って何となくは気付いてるんじゃないのか?」
リーフは俺の魔力を吸収し、ごく短期間で幼生期を終わらせている。
その際、俺の記憶の一部を取り込んでいた筈だ。
「何となくは……の…………ただ…………いや、何でも無い」
「……そうか」
リーフが俺に気を遣っているのを感じ、俺もそれだけ答えた。
確かに、前の世界での出来事でも、あの件についてはあまり思い出したくはない。
リーフもそれに気付いたから言葉を濁したのだろう。
「では明日、少し道を逸れますがオルズ村に向かいます。皆さんもそれで宜しいですね?」
「「「はいッ!」」」
「うむ」
ラグノート達が敬礼し、リーフも頷いた。俺もアリィを見て首肯した。
そう言う経緯もあり、少し早いが今日はもう休むことにして、各自が部屋に戻って行った。
部屋には俺とリーフだけが残される。
「しかし、そろそろ閑話休題が欲しいな……」
「何を言っておるのじゃ?」
「ゆっくり街を見て回りたいってことだよ」
「なるほどの……しかしそれは肉体を手に入れた後の方が良いのでは無いか?」
「…………ふむ……確かに」
今、街を回ったりしても、肉体が無い状態では食べ歩きなども出来はしない。それどころか他のメンバーが街の至る所で買い食いなど始めたら、俺には苦痛しかない。
リーフの言葉に、俺は苦笑せざるを得なかった。
何気に彼女は俺の事を良く分かってるんだよな。