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どうやら俺はこのままでは転生できない模様

前回の登場人物


向日島レイジ:本編の主人公。どうやら転生していない模様。コミュニケーションが下手というより空気を読まずに余計なツッコミ入れて失敗するタイプ。


ヴィルナガン:死霊術師。死霊王と間違えてレイジの魂を召喚した模様。


アルカンブラ:ヴィルナガンの下僕。当初のプロットではこの時点で死ぬ筈だったが、主人公が予想以上にしょっぱくて平然と生き残る。


聖女:取り敢えず主人公に破邪魔法を二発打ち込んだ。その二発で主人公が消滅していないが、別に彼女の実力が低い訳ではない。


騎士三人:聖女のお付き。


「えぐぅ………………………………」


 ビクンッ! ビクンッ! ビクビクビクンッ!


 俺は全身の痛みにまともに喘ぐ事も出来ず、水揚げ直後のエビのように痙攣を繰り返す。

 そもそも痛みとは危険信号であって、肉体の防御機構の一つの筈である。

 であるのに、肉体の無い俺の全身を苛むこの激痛は何なのか?

 つうか幽霊ってどういう状態なんでしょうね。

 多分だけど、今の俺は転生前と同じ魂だけの存在なのかな?

 つまり、魂が痛みを上げるということは、魂の消失の危険が……。


 …………それヤバいヤツじゃん!


 一刻も早くここから逃げないと……ってまともに移動も出来ないんだった。

 今の俺は、まな板の上の鯉と変わらん。

 まあ、実際にはちょっと浮いてるから、まな板の上って感じではないんだけど。


 ジャリ…………ッ。


 周囲の人影が武器を構えたまま、ジワジワとその包囲を縮める。

 武器を持っていない哀れな幽霊に対し、多勢に無勢じゃないですかね?

 そう抗議しようと思ったが、思うように言葉もでない。


『どう致しましょうか、アリィ様』

『こんな邪悪は早々に滅するべきだと進言します』

『邪悪っつーのはどうかと思うけど……ただ、この魔力は普通ではないわな?』

『………………』


 三人の騎士らしい人物がそれぞれ何事かを口にしたが、何を言ってるのかさっぱり分からん。ただ物騒な事を口にしてるのだけは、何となく伝わった。

 少し離れてたつ少女は黙りこくったまま、何も言わない。

 もう、殺すなら殺してくれ。既に死んでるけど。


『妙ですね……』


 背後の少女が顎を押さえ、何か困惑するような表情を浮かべている。


『何か気になる事でも?』

『ええ……破邪魔法を二回もその身に受けたにも関わらず、魔力の減少すら認められない…………?』

『確かにただの死霊には不釣り合いですわな。お嬢が手を抜いたんならともかく』

『レリオ……貴様、《聖女》アルリアード様が死霊を前に手を抜くと思っているのかッ!』

『別に思ってないがな……つうかいちいち突っかからなくてもええやん……』

『いえ……私達はもっと根本的な勘違いをしているんじゃないかと……確かにこちらの死霊からは強大な魔力を感じますが、必ずしも邪悪な魂の持ち主ではないのかもしれません』

『根拠を伺っても?』

『破邪魔法は邪悪……《神の敵》である悪魔や悪霊、死霊術者が操るアンデッドには高い効果を発揮しますが、逆に《神の敵》ではない普通の霊魂には効果が薄いのです』

『お言葉ですがアリィ様……これほど強大な魔力を漂わせている死霊が普通というのは……それにあのヴィルナガンが召喚した魂です。邪悪でない保証は何処にも……』

『そうなんですよね……確かにラグノートの言うとおり、普通の死霊はそこまでの魔力を持てない筈なんですよね……』


 皆して俺を囲って何を話しているのだろう?

 まあ、どう考えても穏便に済まそうって感じでは無い。

 特に一人だけいる女騎士の敵意が酷い。

 他の連中も多かれ少なかれ警戒を抱いているし、少なくとも俺の味方をしようって人物は一人もいなさそうだ。


 ……被告人の意見は聞かれず弁護士もいない魔女裁判に放り込まれた気分だな。

 さらに言葉が通じず、何を言っても無駄なのが厳しい。

 直ぐにでもこの場から逃げ出したいが、まともに動くことすら困難な状態。

 割と絶体絶命。

 絶命してるけど。


 取り敢えず、自在に動けるようにならないと……。

 さっき、ちょっとだけ動きが速くなったよな?

 そもそも歩く訳ではないから、脚による移動とは違う感覚になるのか?

 己の手や脚は自在に動く。ただ、地面に対して何も出来ない。触れることすら……というか触れている感触がない。

 地面を蹴ることが出来ないのなら、当然移動することは不可能。

 それどころか起き上がる方法すら判然としない。

 地縛霊ってあれか……その土地に縛られてるというより、単に移動する方法が分からないだけなんじゃないか?

 いかん、いかん。こういう時に限って余計な疑問が浮かんでくる。それより速く脱出を……。


『で、どうされます?』

『これだけの魔力を持つ幽霊をこのまま放置という訳にも行きませんね……御神託のこともありますし……』

『やはりこのまま滅するべきでは……』

『少し物騒ですよ、ミディ……取り敢えず……』


 俺がもたついている内に、俺の処分が決まった様子。

 雰囲気でも何となくそれだけは分かる。

 逃げる手段を講じる暇もなかった。


『【我が主セレステリアよ、汝が下僕の声を聞きたまえ】』


 少女が高らかに声を発する。

 ああ、これは呪文だ。明らかに会話と異なるトーン。まるで天に捧げる祈りのような……。

 結局この人達は俺をころ……いや、消滅させることに決めたのか……。

 セレステリア様にオグリオル様よう……転生させてくれるんじゃなかったのかよぅ……。


『【我が主セレステリアよ、死者の声を我らに届けよ】【死者と会話(スピークウィズ)する力を授けよ(アンデッド)】』


 次の瞬間。彼女から放たれる光に包まれたのは俺では無く、彼女達全員だった。

 あれ? てっきり俺に止めを刺すんだと思ったんだけど……。


「私の言葉が分かりますか?」


 少し離れた位置にいた少女が俺の前まで来て、そう声を掛ける。

 何故か急に言葉が分かるようになった?


「あ……ああ、分かるな……さっきまで分からなかったのに……」

「良かった……どうやら意思疎通は可能なようですね。起き上がれますか?」

「………………起き上がり方が分からない……」

「そうですね……では起き上がろうとする未来の自分を思い浮かべてください。少し未来の自分の姿を……」


 自分の少し未来の姿……。

 まずは四つん這いになった自分を思い浮かべる。両手を突いて上体を起こした姿を……。


「……おお…………」


 先ほどまで動けなかったのが嘘のように、俺は上体を起こし四つん這いになった。続けて地面に座り込む姿を想像する。

 すると、あっさり地面に座り込んだポーズが取れた。

 なるほど……こうやって動くのか。

 思い浮かべた少し未来の自分の姿に、今の自分を重ねるイメージか。

 慣れればもっと効率良く動けそうである。

 俺は未来のイメージを繰り返し、何とか立ち上がる所までこぎ着けた。


「何とか動けるようになったよ。ありがとう」

「いいえ。どう致しまして……」

「?……どうかした?」


 何かが気になったのか、目の前の少女は俺を見て考え込んだように見えた。

 だが、一瞬でその表情が緩む。

 その顔は慈愛に満ちていた。

 その顔をみた瞬間、俺の中で何かがチクリと疼く。

 そう言えば、こんな表情を向けられたのも随分久しぶりだな……。


「いえ……どうやら《死霊王》でなないのは間違いなさそうですね」

「そういや、さっきの男もそんな事を言ってたな……身に覚えがないけど」

「でしょうね……《死霊王》であれば、起き上がるのに窮することは無いと思いますし」

「アルリアード様ッ! ソイツが演技をしている可能性もッ!」


 突然、女騎士が会話に割り込んできた。

 この四人の中では俺に対する敵意が一番強い。ぶっちゃけ、ちょっと怖い。言わないけど


「ミディ……今は黙ってて貰えますか? あとアリィと呼ぶように言った筈ですよ?」

「し……しかし……」

「もし彼が本当の《死霊王》なら今頃は逃げおおせるくらい余裕でしょう。私の破邪魔法を受けてほぼ無傷だったのですから」

「そんな聞くからに物騒な攻撃を食らってたのか……」


 しかもひと違いで。

 ヤクザの抗争に巻き込まれた一般人の気分である。


「それに関しては謝罪させて下さい。邪悪なる死霊術師が呼び出した魂が、まさか普通の霊魂だとは思わなかったもので……」

「……それであんな痛い目を見る羽目になったのか……」


 完全にとばっちりだよなぁ。

 というか、俺はやっぱり召喚されたのか。

 いつの間に異世界転生から異世界召喚に変わったのか?


「……申し訳ありません……」

「あ、いや、もうそれは良いんだ。痛かったけど大事には至ってないみたいだし」


 しゅんとして頭を下げる少女に俺は慌ててそう告げる。

 自分より年下に見える少女が落ち込んでるのを見ると、逆にこっちが申し訳なく思ってしまう。


「そうなんですよね……そこまで効果が無かったが不思議で……」


 ちょおいっ!

 落ち込んでる理由ってまさか『大事に至らなかった』からじゃないよな!?

 自分の魔法が効果が無かったからなんて理由じゃないよな!?


「あ、申し遅れました。私はアルリアード・セレト・レフォンテリアと申します。当代の《聖女》を勤めさせていただいております。アリィとお呼び下さい。」


 アリィと名乗った少女は、この中では唯一、全身を鎧で包んでいなかった。

 長い金髪を三つ編みにし、金のアクセサリーでまとめている。

 《聖女》というだけあって、彼女だけが法衣とおぼしき服を着ている。

 その服装は所々に刺繍があり、かなり立派なものと思われた。

 俺を見るエメラルドグリーンの瞳は、まるで澄んだ湖のようだった、

 身長は一五〇センチより少し大きいだろうか……ただ、それより法衣をしたから押し上げる胸に目が行ってしまう。

 かなり立派なものをお持ちで……。


「そして、この者達は私の護衛を勤める騎士である……」

「ラグノート・ナスガ・ブランディオルと申す者です」


 壮年の騎士がそう唱える。

 今は兜を被っておらず、濃い茶色の短髪と、髪の毛と会わせるように短くそろえられた髭が本人の生真面目さを象徴しているように見えた。

 額に小さな傷があり、それがある種の威圧感を演出している。

 体格もかなりがっしりしており、背が低かったらドワーフかと思ったかもしれない。

 だが、身長はかなり大きく一九〇に届きそうだ。


「レリオード・ナスガ・クルツェンバルクちゅうんや。レリオでええで」


 この青年騎士は……何故関西弁なのか?

 いや、何か魔法で話してるみたいだし、何かこっちの世界の方言がそう聞こえるだけなんだろうけど…………。

 身長は一七〇ちょっとと言ったところか。

 細身ではあるが、全身鎧を身につけていることから、見た目通りではない事が窺える。

 短髪とは言えない長さの明るい灰褐色の髪の毛と、閉じているかのように錯覚する糸目が強い印象を残している。


「………………」

「ミディ!」

「……ミディリス・ナスナ・フィルディリア……憶えておかなくて良いぞ、どうせ短い付き合いだ」


 最後に自己紹介したのが女騎士だ。

 つか、この人の言う、『短い付き合い』っての、恐らくは酷い意味を含んでるだろ?

 一貫してこの人だけは俺に敵意しかないな。

 美人なのだが、目つきが鋭く、ちょっと怖い。

 身長は一六五センチほど。青みがかった長い黒髪をポニーテールにまとめているのは、俺的にはポイント高いんだが、それ以外がキツいので最終ポイントは低い。

 全身鎧のせいでスタイルの程は不明だが……良い言い方をすればスレンダー……悪い言い方をすれば……


「何だ?」

「いいえ、何でもありません」


 あと、勘がかなり鋭いようだ。

 今後気を付けよう。


「あ、俺は……レイジ……向日島レイジ……ってこの世界……いやこの辺りでは名前の後に名字が来るのかな?」

「確かにこのあたりでは名字は後になりますね。大陸の東方にある国では名字が先になる地域もありますが……」


 名字が先になるのは何処でも東方の国なのかと少しだけ可笑しくなる。創造神様の設定が安易だとか考えたら不敬ですかね?


「なら、レイジ向日島って名乗った方が良いのか」

「なるほど、レイジ……が名前なのですね。レイジ・ムコウジマ……ちょっと《死霊王》の名前に似ていますね……レイジとお呼びしても?」


 ……ひと違いの理由って名前が似てたからとかじゃないよな?


「ああ、それで良いよ」

「では私の事もアリィとお呼びください……それでレイジ。貴方は東方の司祭か何かだったのでしょうか?」

「司祭? いや、普通のサラリ…………といっても分からないか……少なくとも司祭とか神主とかではないよ」

「……そうなのですか。その割には強い加護を持っている様に思えるのですが?」

「加護?」

「ええ、神の祝福によって得られる加護です」


 その言葉に一つだけ思い当たるものと言えば、セレステリア様とオグリオル様の祝福。

 ……あまり効果が出てないような気がするが……迫害されないって話なのに二回も攻撃されたし……。


「この世界に転生する際に、確かに神様の祝福ってのを受けましたね」

「…………は?」

「……貴様は何をふざけたことをぬかしているのだ?」


 あ、やべ。

 周囲の視線が完全に怪しい人を見る眼になってる。

 特にミディリスと名乗った女騎士は、再び俺に対して敵意を示している。

 残りの二人の騎士も、俺の言葉を飲み込めずにいるのは明白だった。

 アリィだけは、辛うじて俺の言葉を疑わず何か思案しているようだが、それでも混乱の気配は感じられた。


「すみませんが、レイジ。貴方が出会った神様とその祝福について、簡単に説明していただけますか?」


 アリィは俺にそう提案してくるが、その瞳には明らかに困惑の色が浮かんでいた。



      ■



 俺はアリィ達に死んでから先ほどここに現れるまでの経緯を説明した。

 別の世界で死んだこと。

 死んで、セレステリア様とオグリオル様に会い、転生の約束をしたこと。

 そして気が付いたらここにいたこと。

 説明を続ける度に、アリィの顔が驚きに染まる。

 ラグノートと呼ばれた騎士もそれは同じだった。

 ミディは……話が進む度に表情が険しくなるんだが……?

 青年騎士のレリオだけは表情が変わらない。と言うかこの人、裏が読めない。意外と一番警戒しておかないといけない人物かもしれない。


「馬鹿なッ! お二柱ふたりの創造神から祝福を受けるなどッ! しかも異世界で死んだだと!? そんな世迷い言を誰が信じるかッ!」


 案の定というか、ミディが俺の言葉に激昂する。

 この人にとって、俺は完全に敵の扱いなんだな。

 あと、これまでの反応からして、どうやらここがセレステリア様とオグリオル様が言っていた《フォーディアナ》であることは間違いないようだ。


「ミディ? 端から疑うものではありませんよ?」

「しかしアルリアード様……」

「アリィ、でしょ?」

「……アリィ様……しかし此奴の言葉は信じるに足る内容も無いと思われますが……」


 まあ、それを言われるとこちらも立つ瀬が無い。世迷い言と言われればそれまでだし、証明する手段もないこんな話、妄想の産物と思われても仕方ない。

 というか今俺、中二病とまでは言わないが、軽く残念な人扱いされてねーか?


「そうでしょうか? 私は彼が嘘を言っているとは思えません」


 お。まさかの擁護がかなり嬉しい。

 嬉しすぎて好意を寄せられてるんじゃないかと、勘違いしてしまいそうですよ。

 勿論、絶対違うのは余裕で分かるので、そんな勘違いしないけどな。


「何故です?」

「それは、もし嘘を吐くならもっと他人が信じられる嘘を吐く筈です」


 辛辣ゥゥゥッ!!

 本当に擁護されてる訳ではないと分かりちょっと涙が出てきた。

 …………勘違いなんかしてないんだからな…………。


「俺の話した『異世界』って部分に関しては取り敢えず今は除外して話を進めて貰っていいかな? 事の始まりを話しただけで、本当に重要なのはそこじゃないから」

「そうですね。大切なのはレイジが祝福を受けたことがあるかって話でしたし……そして、どうやら祝福を受けた記憶があるのですね?」

「うん、そうなるね」

「なっ!? アリィ様!? この者の言うことを信じるのですか!?」


 またもや文句を言ってきたのはミディという女騎士だったが……そろそろ俺も怒って良いかな? この人のせいで話進まないんだけど?

 そう思っていると、アリィは俺が何か発言するより先にミディに向き直った。


「ミディ……しばらくの間黙って貰ってよろしいですか?」

「な……」


 アリィの言葉にミディが絶句する。

 心なしかミディが怒っているように見えた。


「私は《聖女》の勤めとして、迷える魂は輪廻の輪に戻さなければなりません。その為の判断をするため、彼の話を聞いているのです。なのに、貴方が彼を消滅させることを前提として話を進めようとするのは私の使命に反するとは思わないのですか?」

「………………」


 静かだが迫力のあるアリィの言葉に、ミディは息を呑むしか無い。

 いや、ミディだけでは無く、ラグノートとレリオも背筋を伸ばして硬直する。

 この人、見た目の年齢の割にずっと大人だな……。

 それに、俺より先に怒ってくれて助かった。俺が言ったら絶対騒ぎになってただろうし。


「さて、ところでレイジ? 貴方はこれからどうするおつもりですか?」

「そうだな……出来れば転生し直したいと思ってる」


 アリィの質問に、俺は素直にそう答えた。

 幽霊のままではなく新しい人生を送りたい、ただそれだけなのだとアリィ達に説明する。

 それを聞いたレリオやラグノートが少し驚愕した。ミディはまだ憮然としているが、何も言わない。

 アリィだけは感心したような表情を浮かべ、大きく頷いた。


「分かりました。私が葬送の祈りを捧げて貴方を輪廻の輪へと還します」

「うん……頼むよ」


 聖女とまで言われる彼女の祈りなら、必ず次の転生が出来ると皆が太鼓判を押した。

 アリィは少し恥ずかしそうにはにかみながら、神への祈りを唱え始める。彼女の主神である創造神セレステリア様への祈りを……。


 この世界の《聖女》と言われる存在がどれ程の者なのか、俺には分からない……が、今はそれで良いと思う。

 そういったことは転生してから新たに知れば良いのだ。

 向日島レイジとしての俺の人生はここで終わりで良い。

 むしろ、短い時間ではあるがアリィに出会えたことで、この世界はそれほど悪くないと思えた。

 元の世界の人々より余程暖かいと、そう感じた。

 だったら俺は安心して次の生を謳歌しよう。


 アリィの祈りが終盤にさしかかったのか、暖かい光が俺を包んでいるのを感じる。

 ああ、この光に包まれて、俺は転生するんだと直感し、俺はそっと目を閉じた。

 勿論肉体的に目を閉じたのでは無いが、感覚的に視界が失われ、耳から入るアリィの祈りがより強く俺の身体に、心に染み込んで行く。


「主セレステリアよ、この者の魂が、迷うこと無く神の導きによって輪廻の輪に還りますように。全ては主の御心のままに」


 終わったのかな?

 その割に何も変化が無いようだが……。

 そんな事を考えていると、妙なざわめきが聞こえた。

 何か困惑しているような?

 俺はゆっくりと両目を開け、周囲を確認すると……。

 そこには困った顔で俺を見るアリィがいた。

 いや、アリィだけではなく、全員が困惑の表情を浮かべている。


「あの……何か不都合でもあった?」

「いえ、不都合というか……その……輪廻の道が開いたのですが、一向にレイジが導かれなくて?」

「はい?」


 アリィの予想外の言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。


「え? もしかして俺って?」

「転生……出来ないかもしれません」


 その言葉に、肉体が無いにも関わらず俺は目眩を覚えた。



アリィ:「ここに来てやっと私達の名前が出ましたね」


レイジ:「主要キャラなのに名前の登場が三話からとか…………ぶふっ」


アリィ:「今、笑いましたか?」


レイジ:「ソ……ソンナコトナイヨー!?」


アリィ:「いえ……笑いましたよね?」


レイジ:「ソ……ソンナコト……」


アリィ:「……ターニング……」


レイジ:「まって!? そっちは本編でも食らってないよ!? 邪悪じゃない自信はあるけど、アンデッドじゃない自信がないッ!」


アリィ:「次回『どうやら異世界転生したはずが死んでる模様』第四話。『どうやら俺は転生のために王都に向かう模様』……やっぱり笑ってましたよね?」


レイジ:「……………………はい」


アリィ:「お仕置きターニングアンデッド!」


レイジ:「ゴメンナサイィィィィィッ!」



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