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どうやら俺は襲撃の様子を知ることは無い模様 ~その1:レリオとミディが意外にも強かった~



「レリオ、ミディッ! リーフェン様もよろしいですか!?」


 ラグノートが声を張り上げると、たちまち三人ともラグノートが居る前庭に集まる。


「レイジ様から何か連絡でもあったのですか?」


 集合した直後にそう聞いてきたのはミディだった。


「うむ。レイジ殿が暗殺者を見つけたらしい。何でもここを襲う算段をしていたそうだ。ただ、襲撃の規模は分からんとのことだった」

「レイジはどないするって言ってた?」

「レイジ殿はそれとは別に、黒幕に繋がりそうな男の跡を追っている」


 レイジの無謀ともいえる行動に、一同驚きを隠せない。

 通常であれば単独行動を取ることは危険極まりない。

 だが、その中で感心したように頷いたのはリーフだった。


「流石はレイジじゃの。己の特性を最大限に生かして、攻勢に出よるか」

「いや、流石に危険ではないでしょうか?」


 不安を隠せないのはミディだ。

 幾ら創造神二柱の祝福を受けており、物理攻撃の利かないとはいえ、霊体を攻撃する手段がある以上、単独行動を心配するのは仕方ない。


「そう心配するでないわ。彼奴なら大丈夫じゃろう」

「しかし、霊体を攻撃できるのは神聖魔法とは限りません……暗黒魔法でも使われたら……」

「それこそいらぬ心配じゃ。レイジには暗黒魔法など効果無い。オグリオル様の祝福を受けた彼奴を傷つけられるのはそれこそ《聖女》か《聖人》くらいじゃ」


 その言葉に、ミディ達は理解が追いつかないのか、数秒硬直する。


「とにかく、レイジを心配しても無駄ということじゃ……」

「リーフェン様がそう仰るなら……それよりこちらに向かってくる者がおるようじゃぞ?」


 レイジの事を納得しきれなかった一同は、その言葉に気を引き締める。

 レイジが危険を冒してまで、ここが襲撃されることを教えてくれたのだ。それを無駄にすまいと、頭を切り替える。

 《聖女》を守る騎士達は伊達では無い。


「リーフェン様、分かるのですか?」

「妾も竜族ぞ? レイジほどではないが、百メートル先の音くらいなら聞き取れるわ。成る程、かなり音を潜ませてはいるが、複数の足音が近付いておる。数は……十人ちょいかの?」


 それは勿論、常人には聞き取れる音では無い。

 それでもレイジには劣るわ、とリーフはカラカラと笑った。


「対してこちらは満足に戦えるのは我々四人と門兵で五人……アリィ様を含めても六人ですが……戦力差は二倍ですか」

「いや、後から最低でも二人合流するらしいから、二倍は越えると思え。油断するな」


 戦力差があるのを、むしろ楽しそうに言うミディをラグノートは一応たしなめる。

 敵は暗殺者である。こちらの裏を掻くことに長けているだろう。

 決して油断をして良い相手ではない。

 もっとも、それはミディも分かっている。


「ふ……我々にその程度の人数で挑もうなど……」

「ミディちゃん、それ悪役の台詞やで?」

「うるさいッ!」


 分かっていて、緊張をほぐす様に軽口を叩く。

 その軽口にレリオが少しだけ付き合う。


「その位にせんか、例の暗殺者共が建物正面の路地裏に集まったようじゃぞ?」

「こちらから攻めますか?」


 リーフの報告にミディが物騒な提案をする。

 確かに相手を殲滅するだけなら、狭い路地に固まっている今が好機といえる。

 ただ、それをするのにも相手が暗殺者であるという根拠が必要となる。

 ただ集まっているだけの《市民》を――たとえそうでなかったとしても――いきなり殺害してしまっては、周囲の反感を買うだろう。


「まだ暗殺者と決まった訳ではないからな。迂闊に攻めると足下をすくわれるぞ?」

「まずは相手の出方をみようや」


 ラグノートとレリオは暴走気味のミディを抑えるように、そう言った。


「待て、動きがあるようじゃぞ? どうやら二人は正面から来るようじゃ。残りの十人は裏手に回るようじゃの」

「成る程、そう来るんやな?」


 リーフの言葉に、レリオは相手の思惑をあっさり看破する。

 それはラグノートとミディも同様だった。


「正面はレリオとミディに任せる。私とリーフェン様は裏手に回りましょう」

「うむ、承知した」


 言うやいなや、ラグノートとリーフは裏手に向かって駆け出す。

 それを見送ったレリオは《患者》として来るであろう暗殺者を迎えに行く。

 ミディは、侍従に屋敷内に籠もるよう一言二言指示すると、レリオと同じく門へと向かった。



      ■


 ドンドンドンドンドンッ!


「すみませんッ! 誰かッ! お願いしますッ! 誰か居ませんかッ!?」


 館の分厚い門の前で、必死な形相の男が門を叩きながら、そう訴える。

 一見、町人風に見えるその男は、もう一人の男に肩を貸し今にも泣きそうな顔で門を叩き続ける。


「どうされましたか?」


 門に設置された小窓が開いて門兵が声をかける。


「友人がッ! 友人が《ファンガス・パウダー》を吸ってしまって、倒れたんですッ! あのッ! ここに聖女様がお住まいと聞いてッ!」


「申し訳ないのですが、聖女様は既にお休みです。明日の朝、治療院の方へ伺ってもらえませんか?」

「待って下さいッ! コイツさっきから意識が無くてッ! 脈も……」


「どうしたのですか?」


 門兵の背後から女性の声が掛かる。


「いえ、この者達が突然……」

「せ、聖女様ですかッ!?」

「いいえ、私はここの警護をしている者ですが……こんな夜更けにどのようなご用件でしょうか?」

「俺の友人が《ファンガス・パウダー》を誤って吸ってしまって……」

「そうですか、それはお困りでしょう。今すぐ聖女様にお次しますので、どうぞ中へお入り下さい」

「し……しかし、それでは」

「助けられる人を助けなければ、聖女様に私が怒られてしまいます」

「あ、ありがとうございます」


 ミディは門を開けるよう門兵に命じると、男達を招き入れた。

 男達は恐る恐るといった風に、門をくぐる。

 門兵は男達が門をくぐると、再び門を閉めた。

 男達はミディとレリオに促され、屋敷へと向かう。


「すみません……こんな夜更けに……」

「こんな時間に大変でしたね?」

「はい……まさか買ったばかりの煙草に仕込まれているとは思わなくて……」


 申し訳なさそうにする男に、ミディがねぎらいの言葉をかける。

 その男は、困惑した様子でそう言葉を続けた。


「今の話に【嘘偽りはありませんね】?」

「も、勿論です! 何なら何処で買った煙草かもお教えし……」


 次の瞬間、ミディは抜刀して男に斬りかかった。

 直後、レリオも抜刀し《ファンガス・パウダー》を吸引したという男に斬りかかる。

 完全に不意を突いたにも関わらず、二人の男はすんでの所で二人の剣を回避する。

 その動きは町人の動きではなく、完全に暗殺者のそれとなっていた。


「な、何をするのですか!?」

聖騎士パラディンに嘘は通じませんよ? 特に悪意ある嘘はね」


 ミディが冷静に剣先を突きつけると、狼狽えていた男の表情が冷たいものに変わる。


「ちっ……《聖女》の世話焼き騎士と高をくくっていたが……まさか本物の聖騎士パラディンとはな……だが、剣技はまだまだのようだ」


 男はいつの間にか短刀を抜いていた。

 右手に持った短刀をスッと顔の前に構え、空いた左手を背後に隠す。


「私の剣技はまだまだか?」

「初撃でやれないようではな……」

「聖騎士なのでな……例え悪人相手であろうと、初撃で命を奪うような真似はせん」

「それが命取りとなろう……」


 男がグッと短刀を握り直す。

 直後、男の手首に紅い粒が数珠の様に手首に浮かぶと、まるで切断を思い出したかのように、手首が男の足下にボトリと落ちた。


「は…………?」

「何か落ちたぞ?」


 ミディは財布を落とした事を説明するかの様に、手首が落ちたことを指摘する。


「ば……ばば、馬鹿なッ! 何時私は斬られた!?」」

「確かに私の剣技はレリオやラグノート殿と比べて拙いものです。それでも私は《聖剣》を担う聖騎士パラディンです。暗殺者に正面から挑んで負ける筈もありません。例え貴方が含み針などという手段を用いたとしてもね」

「んなッ! アレが見切られたのか!? この暗がりの中で!?」

「ええ、見えましたよ。貴方の不自然な呼吸も、黒い針も。私には必要のないものでしたので、返却させていただきましたが」


 男は胸元に違和感を感じ視線を下げると、そこには革鎧の隙間を縫うように突き刺さった黒い針が見えた。


「まさか、本当に見えていたとは……この毒で死んだらどうする気だった。初撃で命を奪わないんじゃなかったのか」

「暗殺者である貴方が、自分で使う毒に耐性を持っていることは分かっていましたから。それに……」

「それに?」


 ブシュワッ!


「ガハッ!」


 男は左手首と両膝裏から出血しその場に崩れ落ちた。


「初撃どころか既に三撃、斬りつけてますから」


 ミディは見ている者が薄ら寒くなるような微笑をたたえてそう言った。



      ■



「なんや、《ファンガス・パウダー》を吸い込んだとは思えない位に動けるやんか」


 レリオは斬りつけた男にそう告げる。

 直前までぐったりしていた男は、レリオの剣撃が届く前に後ろにステップして躱していた。

 演技であったとはいえ、半分引き摺られていた状態からそこまで反応してみせたのだから、只者では無いことが窺える。

 そんな男が、恐怖に引きつった目でレリオを捉えていた。


「恐ろしい男だな、貴様は……名前を聞いても良いか?」


「……レリオード・ナスガ・クルツェンバルク」


 レリオは逡巡した後、そう答える。


「成る程……貴様があの《魔導騎士》……《無限刃のレリオード》だったか」


「その二つ名止めてーな。ちょっと恥ずかしいんや」


 冗談めかしてヒラヒラと手を振るレリオに、男は特に仕掛けるでもなく、構えをとったまま動かない。


「何を言う……その二つ名の意味、まさに今、身をもって知ったというのに……こういうことか……」


「俺の剣は見た目よりずっと長いで?」


「そう……らしい……」


 そう言うと男の首がズルリと滑り、地面に落ちた。同時に糸が切れた様に男の身体が崩れ落ちる。

 確かに男はレリオの剣を躱した。それは間違い無い。

 だがまるで、見えない刃が伸長したかのように、男の首は斬り落とされていた。


「すまんな。俺の剣は加減ができないもんやから、堪忍してな?」


 そう言って手を合わせて祈る仕草をするレリオからは、生来の軽薄さが邪魔をしてか、申し訳なさそうな気配は欠片も感じられなかった。


 ズドッォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!


 直後、裏庭から爆発音が轟く。


「始まったみたいやな……援護に向かわなくてええんかいな?」

「ラグノート殿がおられるのだ、問題なかろう」

「そら俺かてあの旦那が暗殺者程度に負けるとは思ってへんよ? でも今の爆発は……リーフェン様の仕業やろ?」

「かといって我々が向かっても警備が手薄になるだけだろう?」

「……確かにその通りなんやけど……」

「後詰めが来る可能性もあるのだから、我々は警備に戻るべきと思うが?」

「本音は?」

「まとめて吹き飛ばされたくない」

「せやな、戦闘の音が聞こえなくなったら様子を見に行けばええやろ」

「珍しく意見が一致したな」


 そう締めくくると、レリオは門兵の様子を確認に向かい、ミディは怪我人と遺体の処理を行うため屋敷へ向かった。



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