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どうやら俺は今更創造神様の加護がチートなことに気付く模様


 マジかよ……。


 嘘だと思いたい気持ちを振り払うように、俺は透明になったまま、ゆっくりと横に移動する。

 すると、目の前の暗殺者もゆっくり視線を移す。

 間違い無い。

 コイツは俺の事が見えている。


 暗殺者は頭巾に覆面をしていて顔などは殆ど分からない。

 小柄で背はそれほど高くない。

 だぶついた服を着ているため、男女の判別も難しい。

 ただ、隙間から見える目だけが、確実に俺の居るところを捕らえている。

 僅かに見える瞳は、ひどくくすんでいた。


 さて、どうするか。あまり時間に余裕はない。

 警備兵が集まってきたのか、前庭から怒号が聞こえてくる。

 裏庭まで彼らが来るようなことがあれば、この暗殺者も逃亡する。

 その前に捕らえるか、雇い主の情報だけでも入手したい。


 となればやれることをやろう。。

 透明化に意識を裂いている余裕はなくなりそうだと判断した俺は、黙って透明化を解く。

 俺に肉体があれば相手を【拘束魔法】にて捕らえて運び出すのだが、その手は使えない。

 拘束して警備兵に突き出すことも考えたが、警備兵に黒幕の手駒が配備されている可能性も考えると、それは悪手だ。


 ならッ!


 俺は暗殺者に憑依するため、一気に接近する。

 だが直後には、暗殺者は一瞬にして俺から距離を取る。

 うえっ!?

 なんつう速さだ!

 一瞬見失いかけたぞ!

 どう考えても常人の数倍速いだろ!?


 とは言え、こっちも負けてない。

 確かにあの暗殺者は速いが、今の俺は確実にその速度を上回っている。しかも慣性の法則に左右されない分、俺の方が小回りが利くようだ。

 対して相手は巧みだった。逃げ慣れているというか、こちらの心理を読んで、あと一歩の所を確実に回避している。

 それでも俺は、どうにか相手の逃げ道を先回りするように動き回り、次第に塀際まで追い込む。


(さあ、追い込んだぞ!?)


 そう思いながらも敢えて声には出さず、ニヤリと嗤う。

 俺は先ほどから全く声をだしていないが、誤って相手に情報を与えない為、そうしていた。

 不意に、暗殺者がニヤリと嗤った気がした。

 暗殺者はジリジリと後ろに下がるフリをして、突然真上に跳躍した。

 その跳躍力は二メートル以上ある塀を楽々と越えるほどで、あっという間に塀の外に飛び出した。


 その瞬間を待っていた。

 空中ならそう簡単に方向変換できない。俺は一気に暗殺者の懐に飛び込むと、そのまま憑依を実行する。

 暗殺者は苦痛の呻きを上げながらも、バランスを崩しながらも路地裏に着地する。

 よし、このまま完全に乗っ取って、雇い主なりの情報を得つつ、館に戻るとしよう。


 そう思った俺は、自身の甘さに気付かされた。


「かかったな?」


 ボソリと暗殺者の呟きが聞こえた。

 その言葉に一瞬気を取られ憑依に移るのに僅かに遅れが発生する。

 左半身の憑依が完了した頃、全身をパリッと何かがしびれる感覚があった。


「完全憑依できない!?」


 コントロール下に置くことの出来なかった暗殺者の右手が自身の胸に何かを貼り付けているのを見たのは、左目の視覚を奪った時だった。


 ――呪符?


「ぐあッ!」


 全身に電気を浴びせられたかの様な衝撃が駆け抜ける。

 俺は慌てて、憑依を解こうとするが、全身を暗殺者から抜き出す事が出来ない。呪符の力によってこの身体に縫い付けられているようだ。


「良くやったッ! 貴様の行動は賞賛に値するッ!」


 誰もいないと思っていた路地裏に三人の男が姿を顕す。

 やはり全員、マントに覆面、それに頭巾を被っており表情が判然としない。



「やはり……魔術師が……関わって…………」


 俺が取り憑きかけた男がそんな事を口にする。魔術師ってのは俺の事だろうか?

 いや、そんな事よりこのピンチを脱しないと。


「貴様の命、無駄にはせんぞ……貴様の働きによって、我々に楯突いた愚かな魔術師を殺すことが出来るのだから」


 背後にいた男が、暗殺者もろとも俺を殺しますって宣言してるぅッ!

 背後の男は霊体ですら殺せるってのか?


「【万物を破壊せし神リグールよ、我が声を聞け】」


 背後から静かに紡がれる呪文詠唱に、俺は戦慄を覚える。

 破壊せし神って…………まさか、これが《暗黒魔法》!?


「【壊せ、壊せ、壊せ、我が宿敵の精神を】」


 どんな効果がある魔法かは分からないが、呪文の内容からして穏便に済まそうって気配はない。

 むしろ絶対殺すマンの可能性大……。


「【砕け、砕け、砕け、我が怨敵の魂を】」


 ヤバい、ヤバい、ヤバいッ! 呪文が物騒過ぎるッ! これは絶対にヤバいヤツだ。

 俺は必死に暗殺者の肉体から離れようと試みるが、呪符の効果なのか手足の一部が縛られたかのように動く事ができない。

 驚愕に満ちた俺の目をみて、正面に立つ暗殺者の目元に嗜虐的な笑みが浮かんでいる。


「幽体離脱できるなら暗殺者われわれなど恐るるに足らないと思ったか?」


 正面の暗殺者にそんな事を言われるが、こちらとしてはそもそも暗殺者が出てくるとか予想外だったんだがと言いたいが、全身に流れる痺れに似た感覚が話をすることすら阻害している。

 憑依した肉体の感覚が、俺にもダイレクトに伝わっているのだ。

 

「【肉の身に傷を与えず、その魂を砕いて御身の元へ捧げん】」


 背後では冷静に命を刈り取るための詠唱が続く。

 俺はこんな所で消滅するのか……破壊の神とやらに捧げられて……。


「【破壊の象徴よ、砕けし魂の生贄を貪り食らえ】


「これが終わったら別働隊と合流するぞ」

「いよいよ聖女殿をヤれるってわけかッ! く~~~~~~~ッ!」


 消滅を覚悟しかかったその時、暗殺者が下卑た笑いを浮かべた。

 ……なん……だと?

 冗談じゃないッ!

 誰がそんな事させるかッ!


 俺の中にどす黒い感情が溢れ出す。

 長らく忘れていた感情……他人を傷つける為だけのおぞましき憎悪が、その鎌首をもたげた。


 チクショウ。巫山戯るなッ!

 お前ら、全員殺してやるぞッ!


 だが、そんな俺の怒りも、今の状況を打破するに至らなかった。


「【魂砕き(ソウルクラッシュ)】」


 直後、俺と俺が憑依しようとしていた暗殺者が禍々しい暗黒に包まれた。


 全身から力が抜ける。

 ガクンと膝をつき、そのまま崩れ落ちるように倒れ伏す。

 その時にはもう、頬に当たる地面の感触すら感じる事はなかった。



      ■



 暗黒が晴れるとそこには、虚ろな目をしてピクリとも動かなくなった暗殺者が転がっていた。


「もろとも魔術師も死んだか……」


 暗殺者の一人がそう口にする。


「私を誰だと思っている?」


 暗黒魔法を駆使した男がそう問う。

 その気迫に、二人の暗殺者は気圧されるよう、半歩だけ後じさる。


「いや、勿論、貴方様のお力は存じております、クーエル様」

「そ、その通りです。貴方様がいなければ我々は魔術師に気付く事も出来なかったのですから」

「フンッ!」


 二人の暗殺者に宥められ、クーエルと呼ばれた暗黒魔法の使い手は面白くも無さそうに鼻を鳴らす。人間関係に疎い俺でさえクーエルと暗殺者の立場の違いは容易に想像できた。

 暗殺者の口振りからして、そこで倒れている暗殺者が透明化した俺を見つけられたのは、このクーエルとやらのおかげか。

 もっとも、透明化して蠅サイズまで小さくなった今の俺を見つけることは出来ていない。

 流石にこのサイズだと、人間の幽体とは思われないようだ。


「しかし、名前くらい名乗らせておくべきだったな。幽体離脱が出来るのだから相当な魔術師であったろうに……クックックックック……」


 クーエルが喉を鳴らすように笑う。

 今すぐ前に出て行って、『自分の魔法が効果無かったことがそんなに可笑しいのか?』などと言ってやりたいが、それを俺はグッと我慢する。


 そう。

 実はあの魔法、俺には全く効果が無かったのだ。

 確かにあの暗黒魔法は俺と、俺が憑依するはずだった暗殺者を包んだ。

 暗殺者の魂は、暗黒に包まれた瞬間に粉々に砕け散った。

 それは肌で感じており、間違いは無い。

 だが、その魔法は、俺には一切効果が発揮されなかった。

 しかも、暗殺者が先に死んだ事で、俺は暗殺者の肉体から解放された。

 そのタイミングで俺は限界まで自身の身体を小さくして、上空に逃れたのだ。

 しかし、あの【魂砕き(ソウルクラッシュ)】とやらが全く効果がないとは……これも創造神様達の祝福のおかげだろうか?

 かなりとんでもないな……創造神様達の加護って……。

 転生出来ないので、呪いみたいにも感じるが、今の俺は相当にチートキャラになっている。

 今の所、俺に効果的なダメージを与えたのは、《聖女》アリィの神聖魔法と、俺自身が放った《神聖魔法》以外、存在しない。

 しかも、それですら《痛い》だけで済んでいる。

 これをチートと言わずになんと言おう。


 って、そんな事より先にやらなければならないことがある。

 俺は彼らの様子を窺いながら、再度聴覚を館に向ける。


「ラグノート、まだ聞こえてるかな?」


 俺はまだ効果が残っている【遠隔発声】を使って、ラグノートに呼びかける。

 この魔法は、遠くに魔法で作成した発声器官を使って声を出すため、自身が直接声を出す必要がないのだ。このため、暗殺者達に気付かれずにラグノートに連絡することが出来る。

 また、ラグノートの声は、俺がその異常な聴力を使って遠距離から聞いているだけなので、これも暗殺者達に気付かれる心配が無い。


『良かった……ご無事だったのですね?』

「すまん。ヘルザムを殺したらしい暗殺者と遭遇してね。ちょっと返答できなかった」

『なんとッ! で、暗殺者は?』

「一人は俺を道連れに死のうとして失敗し、一人で果てた。残り三人の内、二人は……今、そっちに向かった」


 見れば暗殺者の二人組は路地裏から移動するところだった。

 クーエルは死亡した暗殺者の死体の元から、まだ動いていない。


『こちらへ?』

「別働隊がいるとか言ってたから、襲撃があるのは確実だと思う。残念ながら規模までは分からないけど」

『いえ。それだけ分かれば我々としては迎え撃つ事が出来ます。レイジ殿もこちらに戻られますか?』

「そうしたいんだけど、クーエルとかって暗黒魔法の使い手が残ってる」

『なんと、暗黒魔法ですか!?』

「呪文詠唱で破壊の神とやらに祈っていたから、間違い無いと思う」

『確かに間違いなさそうですね』

「こっちは黒幕に繋がってそうなんだよな……だから、もう少し探ってみる」

『気付かれたのでは?』

「いや、俺の事は消滅したと思ってるみたいだから多分平気だと思う」


 今、クーエルは何か呪文詠唱をしている。

 俺が消滅していない事に気が付いていたら、その魔法を俺に向かって放つ筈が、そうはしなかった。

 クーエルは完成した魔法――手の平に現れた黒い球体――を、死体となった暗殺者に向かって放ったのだ。

 こぶし大の黒い球が死体に触れると、ゴキゴキと嫌な音を立てて、遺体が黒い珠に吸い込まれていく。

 いや、違うなこれは。

 一見吸い込まれている様に見えて、その実、圧縮されているのだ。

 飛び出た血液が、引き戻されるように弧を描いて黒い珠に集約していくのを見て、俺はそう判断する。

 超重力の珠によって豆粒サイズまで圧縮された死体は、魔法の終了を合図にポロリと地面に落ちる。

 途端、ビシィッ! と音を立てて元人間の豆粒は石畳にひびを入れた。


 クーエルはそれを見届けると暗殺者達とは逆方向に歩き出した。


「やはり暗黒魔法の使い手は、そちらには向かわないらしい。こっちは俺が跡を付けるから、屋敷の方は……」

『分かりました。こちらは我々が守ります。レイジ殿には少しでも多くの情報を集めていただけますと助かります。ですが、くれぐれも無理をなさらぬよう……』

「了解した」


 俺はラグノートとの会話を終了すると、こっそりとクーエルの跡を追った。



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