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どうやら俺は話すべき事を忘れていた模様

本日四話目。こちらで本日は最後になります。


「で、どういうことでしょうか?」



 アリィがズイっと俺に詰め寄る。その動きに合わせ俺もちょっとだけ後ずさりする。

 いっそこのまま壁を透過して外へ行こうかと思ったが、そんな事をしたら間違い無く魔法を打ち込まれる。



「いや……その……現場にいた魔術師に憑依した際、魔法の記憶をコピーした」



 それを聞いたアリィが大きく溜息をついて肩を落とす。

 周囲の人間も、俺の発言に驚愕し言葉を失う。



「まったく……大事おおごとになったら討伐されるのはレイジなんですよ?」


「いやでも……」


「でもじゃありませんよ!?」



 魔法が使える死霊が王都にいるなんて広まったら大変なのは分かってるんだけど、あの時何もしない訳にも行かなかったんだが……。

 それを知っている総司教も、まあまあとアリィを宥める。



「レイジ殿がいなければ儂らも無事には済まなかっただろうし、そう責めないでやってくれぬか?」


「それは分かっています……分かっているからこそレイジには注意して欲しいんですよ」



 そう言ってアリィは縋るような視線を俺に向けた。

 その態度に俺は「うッ!」と口籠もる。



「レイジ……貴方がやったことは確かに正しい行いです。ただ……もっと自分の事も省みてください。レイジが討伐対象となったら悲しい思いをする人だっているんですよ?」



 アリィの言葉に俺は何も返せない。

 でも同時に少し嬉しくなってしまった。

 少なくとも俺を一個人として見て、認めて、そして親しみを持ってくれている証拠でもあったから……。



「ごめん……アリィ」



 俺はなんとかその一言だけを絞り出した。



「だったらレイジ殿を死霊ではなく、《聖女》に仕える《天使》として登録してしまえば何も問題はないな?」



 そんな重苦しい遣り取りを吹き飛ばすほどの発言をしたのはグロウブル総司教だった。



「「はい?」」



 思わず俺もアリィも、素っ頓狂な声を上げてしまう。



「いや、創造神二柱から祝福を受けた魂など、間違い無く天使に匹敵しよう? いや、並の天使であっても、創造神二柱の加護を得るなど早々無いことではないか?」


「いや、総司教様……確かに匹敵はしますが、それでも天使と人の魂は別物ですし……なによりレイジが天使を騙ることを創造神様がお許しになるはずが……」



 いや、オグリオル様は許しそう。というかセレステリア様と二柱で「それだッ!」とか言いそうなんですが?



「ならば明日にでも聖域で確認してみてはいかがかな?」



 そう言われるとアリィもこの場での議論は無意味と悟る。

 しばし黙考した後、本日何度目かの溜息をついてから、アリィは俺を見た。



「レイジだから仕方ないと思うしかないのですね……ところでレイジ? 今覚えている魔法はどんなものか説明いただいても?」


「納得の仕方に疑問はあるけど今はそれは良いか……えと、今覚えている魔法は……」



====================================


第一階位

【言語会話】

【言語読み書き】

【魔法語読み書き】

【遠隔発声】

【明かり/暗闇】

【暗闇】

【魔法の矢】

【灯火】

【魔法の盾】

【落下緩和】

【眠り】


第二階位

【拘束】

【解錠/施錠】

【浮遊】

【透明化】

【分析】

【炎の矢】

【氷の矢】

【装甲】

【障壁】

【深き眠り】

【動かぬ幻影】


====================================



「こんなところかな?」


「「「「「「………………………………」」」」」」



 何故か一同全員黙り込む。



「これを一瞬で覚えたのですか?」


「覚えたというか、記憶を共有したというか」


「それにしたって……これだけの魔法を完全に覚えるなんて……普通は二~三年はかかるでしょうに……」



 アリィが呆れた様に俺を見る。

 まあ、呆れたんだろう。

 後で聞いたのだが、魔術師が使う系統の魔法――この世界では主に現代魔法と呼ばれるカテゴリーらしい――は、術者の魔力量に比例して習得出来る魔法の数が多くなる。

 その為、駆け出しの魔術師では精々二つの魔法を覚える事が出来れば優秀とされる。

 俺は今日、オグリオル様の元で魔術の習得を行い、【言語会話】と【言語読み書き】を習得したばかりだ。

 そんな俺が、夜には二〇近い魔法を習得していたのだから、驚きを通り越して呆れてしまうのも仕方ないかもしれない。



「それに、先ほどの【魔法の矢】……あれだけの数を一度に出現させた魔術師など過去に例が無いかと……」



 ミディがそう言うと、レリオ同意しも興味深げに俺を見る。



「いや、レイジ殿はアルリアードが来る前にあれより遙かに巨大な規模で【魔法の矢】を発動させておったぞ?」


「「「「「はあ!?」」」」」



 おっと総司教様、爆弾発言ありがとうございます!



「えっとレイジ……その時は何本くらい【魔法の矢】を出現させていたのですか?」


「……………………百本強?」


「「「「「はああああああああああああああああああ!?」」」」」



 ああ、やっぱり非常識な数だったのか。

 アリィなんか「常識は違うから、アレが特殊なだけだから……」と呪詛に近い言葉を口にしている。

 その隣でミディがブツブツと「凄い、素敵、凄い、素敵」を連呼していのは怖いと言うかヤバいので止めて欲しい。



「やっぱり死霊王の魔力を引き継いでいるのが大きいのかなぁ」


「そうやねぇ……恐らくやけど魔力の規模が常人と違いすぎるのが原因なんやないかな」



 お嬢の懸念も分からんでもないとレリオが言った。



「これは、早々に《天使》認定しないとならんな」



 グロウブル総司教までそんな事を言い出す始末。

 なんかすでに大事おおごとになってるんだけど?

 つか、死霊から天使にクラスチェンジってどういうことよ?



      ■



「はあ……今日はいろんな事があったと言え、最後にこんな疲れる事が残ってるとは思いませんでしたよ」



 少し遅れた夕食を済ませた後、本当に疲れ切った表情でアリィは俺に抗議する。

 とは言え、俺もこんな事態になるとは思っていなかったので大目に見て欲しい。

 あと、挨拶も無しに転生しようとした罰として皆が食事してる所を見守ってたし……。

 駄目かな?



「アリィ様……今日の所はその位にして、今は休んだ方が良くないですか?」


「その意見採用したいんやけど?」


「右に同じ」



 ミディの発言に、皆も賛成する。



「そうですね。まず我々はゆっくりと休息を取るべきですね。私達も今日王都に到着したばかりですし、今日はまず疲労を回復することを考えましょうか?」



 アリィの言葉に全員が息を吐き出し肩の力を抜いた。



「確かにそうですね……まずは体力を回復するのを優先しましょう。アリィ様の言われた様に、疲れたままでどうこう出来る相手ではなさそうですし……」


「だな……」



 ミディやラグノートはそう言って立ち上がると、先に休むとアリィに伝えた。

 アリィも俺に姿を隠すよう伝えると、給仕を呼んでグロウブル総司教を部屋に案内するように伝える。


 暫く何か考えていたレリオも、結局すぐ休むといって部屋を出て行く。

 最後に俺とリーフ、そしてアリィが応接室を出てそれぞれの部屋に向かった。

 俺はいないことになっているが、一応リーフと同室となっている。

 部屋に到着すると、扉の前にレリオが待っていた。



「レイジ、そこにおるんやろ? ちょいとええか?」



 俺は姿を顕すとリーフと僅かに目配せする。

 その後、俺は黙って頷いてレリオを部屋へ招き入れた。



      ■



「で、レイジとリーフ様はなんで総司教様が狙われたんと思う?」


「いなくなって欲しかったから」


「いや、そらそうなんやけど……」



 レリオの質問に率直に答えたつもりだったが、レリオは何か肩すかしを食らったようだ。



「いや、レイジの答えは正しいじゃろう? 理由を予測するのは可能かもしれんが、それによって答えが見えなくなることもあるじゃろう?」



 リーフも俺と同意見だったようだ。

 確かに幾つか予想出来ることはある。あるが情報量が少ないので予想の範囲を出ない。

 そもそも、今回の暗殺騒ぎは例のファンガス・パウダーの事件と関係があるかどうかも分からないのだ。

 十中八九、関係があるとは思うんだけど。



「そもそも、ファンガス・パウダーって、何のためにばらまかれてると思う?」


「そりゃアレや。中毒患者が増えればファンガス・パウダーを買わずにいられん連中もふえるやろうし……あれ?」


「変だよな?」


「変じゃな?」


「……変やな?」



 そうなのである。

 そもそも今回、ファンガス・パウダーが広まっているのは売人などの手によって販売されているからではない。

 体臭を抑える為のお香などの中に混じっていて、いつの間にか広まっているのだ。

 広めている連中に利益が発生していない。

 これはかなり不可解だ。



「ファンガス・パウダーの中毒症状って、神聖魔法で消せないもの?」


「いや、消せるわ……だからお嬢が帰宅早々に治療院に籠もってたんやし……」



 そうなると中毒患者も出にくい。

 ファンガス・パウダーは治療出来る司祭が多い王都では広まる事がない。



「広めてる連中は、何か違う目的があるっちゅうことかいな?」


「じゃろうな……」



 レリオとリーフが言うとおり、ファンガス・パウダーを広めている黒幕には、他に目的があると考えた方が良さそうだ。

 その他の目的となると……。



「そう言えば、今回の被害者って貧民街の住人ってどの位の割合か聞いた?」


「そういや、貧民街には殆ど被害が広まっとらんちゅう話やったわ」



 レリオの答えを聞き、俺はフムと考える。

 普通なら麻薬は、売買をしやすい貧民街から広まるものなのに、それが無い。

 となると、本当にファンガス・パウダーは売人による売買の可能性が無いことになる。。



「なあ、今俺、とんでもない考えが浮かんだんだけど……」


「何じゃ、言ってみよ」


「もしかして今回の件で、一番利益を上げたのって……教会なんじゃね?」


「「あッ!?」」



 俺の言葉にレリオとリーフが、まさかといった顔つきになる。

 だが、否定できる材料も無かった。

 ファンガス・パウダーの治療の際、教会に対し御布施と称して治療費が渡される。

 勿論それほど高額にはしていないそうだが、それでも魔法による治療である。

 少なくとも貧民街に住むような人々が払える金額では無いそうだ。アリィはそのことについては不満があるらしいが……。

 ところが、今回ファンガス・パウダーが広まっているのは《消臭のお香》や《香水》を生活品として使えるような裕福な市民や貴族に集中している。

 本来麻薬が広まる筈の貧民街には殆ど広まっていなかった。

 つまり《治療費を払える層》にしか広まっていないのだ。

 それに……。



「もしファンガス・パウダーの事件と、総司教様の暗殺が何か関連があるとしたら、それこそ総司教様が亡くなって得をする人が黒幕なんじゃないかなぁ?」



 この場にアリィやミディがいたら猛烈に反論されただろう。

 勿論、これは俺の予想であり事実では無い。

 だが、俺はこの考えは結構正解に近いんじゃないかと思っている。

 レリオは一瞬、そんな馬鹿なと言いたげな顔をしたが、可能性を否定できず黙りこくってしまう。



「してレイジ、お主は誰が黒幕と思っておる?」


「今の所は……」



 リーフの質問に、まだ分からないとジェスチャー混じりに答える。



「予測でしかないけどこの件は、教会内部の誰かが貴族と組んで騒ぎを起こしているんだろうけど……」


「なれば、ある程度地位の高い人間に絞られるの?」



 だよなぁ……。

 となると司教クラスか……。

 レリオもそれに気が付いたのか、一層複雑な顔をしていた。



「そうなるとやっぱり黒幕は、バンドア大司教様、フォンデルス司教様、ソーディアス司教様のうち誰かって事になるんやろうか?」


「まだ確定じゃないって。まずは情報収集を先にしようぜ?」


「そうじゃ、冒険者共から依頼主を聞き出せれば何か進展があるやもしれん」



 あ。

 リーフの言葉に俺は大事な事を思い出した。



「そう言えば俺、魔術師に憑依したとき、依頼主に関する記憶も見たわ」


「「それを早く言えッ!」」



 結局この後、もう一度情報共有の為、全員でダイニングルームに集まることになった。


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