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どうやら俺は魔法を使うと普通より大規模になる模様

本日三話目の投稿となります。ご注意下さい。


 その冒険者の動きに誰も気が付かなかった。


 …………………………俺以外。


 俺は憑依が解除された後、やや上空から状況を俯瞰して見ていたので、総司教を狙う冒険者の動きに気付く事ができた。

 俺はそれを阻止すべく咄嗟に呪文を唱える。



「【マナよ、矢となりて我が敵を打ち倒せ】」



 これも初歩の第一階位魔法ながら使い勝手の良い攻撃魔法である……と憑依した魔術師が記憶していた。

 魔力で矢を生成して撃つ呪文だが、対象自動追尾という特徴があり、周囲を巻き込まないという利便性が高い。

 矢の威力はそれほど高くないが、術者の魔力量と技量によってその本数を増やすことが出来る。先ほど俺が憑依していた魔術師は五本の矢を同時に出現させられるらしい。

 初めてなのでそれほどの本数が作れるとも思えないが、冒険者の攻撃を阻止さえ出来れば良いので、大量の矢は必要ない…………って、あれ?


 何故か空中に百本・・を超える《魔法の矢》が生成されていた。


 ………………ってちょっとッ!?


 これマズいって!

 確実に冒険者ミンチになるヤツだって!

 ヤバいッ!

 完全に俺の魔力が巨大過ぎたッ!

 かといって、魔法を放たないという選択肢は無い。もたつけば総司教が撃たれることになる。

 俺は慌てて照準をずらしてから魔法を完成させた。



「【魔術師バルマーのソーサラー・バルマーズ・魔法の矢(マジックアロー)】」



 そして……死の矢が姑息な行いをしていた冒険者に向かって放たれた。



      ■



 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!


 俺の放った矢で大量の土煙が上がる。

 土煙の中にいるはずの冒険者は見えず、代わりに悲鳴と苦痛の声が上がった。


 流石に気が付いたのか、その場にいた全員の視線が釘付けになる。

 それでもリーダーを逃がさないよう押さえつけた二人の騎士は、優秀と言えた。


 そんな中で血の気が引いた思いをしたのは間違いなく俺だった。


 やっべぇ……。

 大量の土煙の中に無数の光る矢と、石畳だったものの瓦礫と破片がうっすらと見え始める。

 瓦礫の一部には僅かながら血の跡が残っていた。

 魔法の標的となった冒険者は未だ見えてこない。

 直前で多少照準をずらしたけど、それって役に立ったの? って疑問が浮かぶ光景を前に、焦りしか生まれてこない。

 これで俺も晴れて人殺しの仲間入り、めでたく討伐対象になるのかと考えたら、急激に視界が暗くなる。


 大半の土煙が晴れるとそこには…………倒れ伏したまま、目の前で起きた事にただガクガクと震えた冒険者がそこにいた。

 手にしていたクロスボウは、周囲の石畳もろとも原型をとどめない残骸に姿を変えていた。

 何本かの矢が冒険者の四肢を貫いていたが、それでも十本は刺さっていない。残りの矢は全て冒険者の周囲を囲むように突き刺さっていた。

 やがて魔力で出来た矢が霧散するように消えると共に、その冒険者も泡を吹いて気絶していた。



「い……一体何が………………」


「魔法? 我々を助けてくれたのか? いや、しかし何者が……」



 騎士達が当然とも言える疑問を口にする。

 いや、姿が見えないからと言って、これは派手にやり過ぎましたわ。

 伏兵がいると勘違いされていないだけマシだが、騎士達は周囲を見回し、怪しい人物――つまり俺――がいないか探している

 今更姿をあらわす訳にも行かないなぁ……。


 そう思っていた時、通りから蹄の音が急速に近付いてくる。



「総司教様!」


「おお、アルリアード!」



 見れば馬に乗ったアリィが駆けてくるのが見えた。

 予想より早い到着に、俺はホッと胸をなで下ろす。

 他にはミディとラグノート、それにレリオも駆けつけてくる。リーフはやはりお留守番らしい。



「所でアルリアードよ。先ほど魔法で援護してくれたのは、其方の仲間かの?」


「え? え……ええ、その通りです。先日、知り合った方を仲間に加えまして……」



 アリィが慌てて、そう取り繕う。

 これに関してはゴメンと頭を下げるしか無い。

 アリィは俺が上空にいるのが分かったのか、一度だけ俺をキッと睨み付けた。



「なるほど、そうであったか。して、その御仁は何処いずこに?」


「え……えーっと……そのことについて、総司教様にお話があるのですが、後ほど私の屋敷に来て頂いてもよろしいですか?」


「ふむ、訳あり……というところか。良かろう。だが、まずはここを片付けてから……ということで良いかの?」


「はい。勿論です」



 その言葉を聞いて、総司教は大きく頷くと、護衛の騎士の内一人に声をかけた。

 一言二言何かを命ずると、騎士は胸に拳を当て、『仰せのままにッ!』と言ってどこかへ走っていってしまった。


 その後、アリィ達は冒険者達の拘束を始めた。とは言え全員を拘束できるほどのロープが準備できていなかったので、起きている冒険者を先に拘束する。

 同時に怪我をした魔術師と、冒険者の一人――これは俺が怪我をさせたのだが――をアリィが魔法で治療する。

 寝ている冒険者については、狸寝入りを考慮し俺が上空から警戒することにした。



「【マナよ、矢となりて我が敵を打ち倒せ】」



 【魔法の矢】は矢の作成と射出の二段階で構成されていて、矢の作成だけをして待機させることが出来る。

 今度は魔力を抑えたので、三〇本ほどの数の矢を出現させて警戒にあたった。

 それを見たアリィ達の顔色が変わる。というか、何故か明らかに引いていた。

 捕まった魔術師は俺を探しているのか上空を見上げながら「是非、私を弟子にッ!」とか言い出している。勿論、俺は弟子を取るつもりはない。



「レ……レイジがやってるんですよね?」


「そうやと思うんやけど……それでもこの数は非常識やわ」


「過去、一度に三〇以上の【魔法の矢】を一度に出現させた魔術師はいないかと……」



 警戒に当たっているアリィとレリオ、ミディが口々にそう言う。

 ……さっき百本出したとか言えない。言ったら卒倒されそうだ。

 ラグノートだけはさほど妙な反応をせず、周囲の警戒をしながら他の騎士と共に冒険者の拘束を黙々と続けている。

 流石は元騎士団長。

 こういうタイミングで気を緩める事がないのが、この人の凄だと思う。


 幸い、冒険者達は起きて逃げ出す事も無く、起きていた者の拘束が完了する。

 そのタイミングで先ほど伝令を頼まれた騎士が、何人もの騎士や兵士を連れてこの広場にやってきた。

 その後は魔法で眠った者も含め全員を拘束し、どこかに連れて行った。

 後ほど尋問でも行うのだろう。

 何せ総司教の暗殺を企てた連中だ。依頼主の正体を探るためにも彼らから情報を引き出す必要がある。

 俺が憑依したら、一通りの情報は得られそうな気がするが、一応俺の事は秘密の扱いなので、

余計な事はしないよう努めた。

 やるにしてもアリィの許可を得てからになるだろう。

 もっとも、先ほど魔術師の記憶から依頼主らしい男の姿を確認しているので、それについては後でアリィ達に報告しておかないとな。



      ■



「では総司教様、こちらへ……」



 アリィが広めの応接間へと総司教様を通す。

 かなりの高齢と思しき総司教は促されるままゆっくりソファに座る。

 優しい感じのする目元に真っ白い髪の毛と髭。サンタクロースを豪華な司祭服に着替えさせた感じと言えばイメージしやすいか。

 腰は曲がってはいないようだが、それでもバンドア大司教より年上だろう。

 総司教の向かいにアリィ達が着席すると、すぐさま給仕が人数分のお茶を用意する。

 ……勿論俺の分は無い。

 今、応接間にいるのはアリィと総司教様、ラグノート、レリオ、ミディ、それにリーフの六人。それに姿は見えてないけど、俺もその場にいる。

 給仕と執事には、退室して貰っている。



「まずは総司教様にご紹介したい人が二人いらっしゃいます」


「一人はその少女のようだが、もう一人は先ほどから姿の見えない魔術師殿という事でよいのかな?」



 ミディの言葉に、総司教様がそう問いかける。



「はい。まずはこちらのお方が……」


「リーフェン・スレイウスじゃ。久しいのグロウブル総司教よ」


「なんと!? あのリーフェン様ですか!? しかし……そのお姿は一体!?」


「それについては私の方から説明させて頂きます」



 そう言うとアリィはこれまでの経緯を簡単に説明した。

 ヴィルナガンによって村一つ分の住人が犠牲になったこと。

 触媒として利用するためリーフも一度は殺害されたこと。

 ヴィルナガンが一つの霊魂を召喚して、消えたこと。

 リーフがその霊魂によって竜転生を成功させたこと。

 卵となったリーフがその霊魂の魔力を吸って孵化しあっという間に幼生期を終えたこと。

 転生を望んでいた霊魂がセレステリア様とオグリオル様の祝福を受けていること。

 そして、その祝福が原因で転生出来ないこと。


 途中まで黙って聞いていたグロウブル総司教も祝福の話を聞いた所で、初めて息を呑んだ。



「なんと……まさか千年ぶりの《聖人》が産まれる筈だったとは……して、その者が先ほど儂を魔法で助けた者なのか?」


「それに関しては私も本人に聞きたい事があるのですが……レイジ、出てきて貰っても?」



 すこし凄味がかったアリィの声に威圧されながらも、俺は冷静を装いつつ姿をあらわす。

 俺を見た総司教様が口をほぉと形作り感嘆を漏らす。



「何となく気配は感じてはおったのだが、それほどの魔力を持つ者が傍にいたとは気が付かなかったぞ?」


「お初にお目にかかります、総司教様。自分はレイジ……レイジ・向日島と申します」



 俺が話せるとは思わなかったのか、総司教は一度大きく目を開いて驚きを顕わにする。

 僅かな間の後、少し落ち着いたのか面白そうな者を見つけた子供の様な目で俺を見た。



「おお、自己紹介が遅れましたな。儂の名はグロウブル……グロウブル・セフィアガ・コレニオールと申す者です。一応、フォーディアナ教の総司教を勤めておりますが……そして先ほどは助かりました。心よりお礼申し上げます」


「いえ、お怪我も無いようで何よりです」


「ふむ、レイジ殿は普通の霊魂とは違うようですな」


「……そうなのでしょうか?」


「普通、そこまで流暢には話せません。神聖魔法を介在して、初めて幾許かの意思疎通が出来る程度で、会話が成立するなど希な事なのです」



 そういうものかと思って周囲を見ると、皆大きくウンウンと頷いている。

 寧ろ「色々と非常識なんですよ」なんて言葉がアリィの口から漏れている。耳が良いので聞こえてますよ?

 あとミディだけちょっと自慢気なのは何故だ?



「して、創造神様達の祝福を受けたのも……」


「転生前に受けたのですが、そのまま魂だけ召喚されてしまったようです」


「なるほど……今後はどうするつもりで?」



 俺は暫くアリィ達と行動を共にしたいことを伝える。

 勿論、活動の為の肉体を手に入れたいと思っていることや、その肉体の候補がオグリオル様から提示されていることも包み隠さず伝えた。

 アリィも俺を転生させるために《神の奇跡》を使えるように修行することを伝えた。



「それに妾はレイジについて行くぞ。幼生期が終わったといえ、まだ此奴の魔力が必要なこともあるからの」


「その為にも、総司教様にお願いしたいことがございます」


「……リーフェン様が其方に同行することを周囲が認めるよう取り計らえばよいのだろう?」



 グロウブル総司教はアリィの考えなどお見通しとばかりに、そう言ってニヤッと笑った。



「はい」


「そうだの……表向きには従者としてアルリアードに仕えるよう取り計らうが……リーフェン様もそれでよろしいですかな?」


「うむ……妾はレイジと共にいられれば良いからの。レイジがアリィと行動を共にしたいと思い続ける限りはそれで構わん」



 グロウブル総司教があごひげをさすって、リーフに目配せするとリーフもそれを了承する。



「で、直ぐにでもレイジ殿の肉体を探しに出るのかの?」


「いえ、その前に王都に広まっているファンガス・パウダーについて調査、対処を行うことを優先致します」


「ふむ……確かにあれの広まり具合は問題ではあるが……一筋縄では行かんかもしれんぞ?」

「もしかして総司教様、先ほど将司教様が襲われた件と……」


「無関係では無かろうな……一日早く王都に帰るようにしたのもそれがあってのことだったのだが……それでも襲撃された所を見れば、相手はかなり方々に手駒を潜ませておるようだ」



 なんと。

 この一見優しそうな老人は、ファンガス・パウダーが王都に広まっていることを、連絡係の兵士から聞いていたらしい。

 その為、予定を繰り上げて戻ってきたのだが、その際、護衛を少数にして先に帰ることを連絡員に伝えたそうだ。

 結果、先ほどの暗殺騒ぎとなったのだが、逆に黒幕が貴族の可能性が高くなったとも言えた。

 しかし、自らを囮にしてでもファンガス・パウダーを広めた黒幕を特定しようとしていたのか……その外見に似合わず中々の豪胆っぷりだった。

 ただ、唯一の誤算が大量の冒険者を雇っていたことらしい。

 冒険者は王都には殆どいない――冒険者の殆どは迷宮都市を活動拠点とする――ので、冒険者を使った力業は無いと思っていたそうだ。



「今、王都に拠点を持つ貴族で、このような事が出来るほどの力と野心の持ち主と言えば限られておるが……」


「ディギュラ伯爵、ブラムルス伯爵、カザーン子爵……それに……ファナムス侯爵ですかね」



 頭を悩ますように考え込む総司教にラグノートが数人の候補を挙げる。



「とは言え証拠は無いですからね……他にこの事件に関わっている貴族がいる可能性もありますし……」


「ともあれ、あの冒険者達が口を割ればなにか分かるやろ?」


「そうだな……まずはそこからか……」


「いえ話はまだです」



 ラグノートとレリオのやや重苦しい会話を遮ったのは意外にもアリィだった。



「何かまだ重要なことってあったっけ?」



 俺がそう聞くと呆れた様な目でアリィは俺の事を見た。



「レイジ? 貴方はどうやって魔法を使ったのですか?」


「あ……」


 アリィの静かな怒りに、俺は硬直するしか無かった。



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