どうやら俺は異世界転生したはずが死んでる模様
前回の登場人物
向日島レイジ:本編の主人公。どうやら死んで転生する模様。過去に不幸が垣間見える。
セレステリア:創造神の片翼である女神。ちょっと腐が入ってる。慈愛に満ちているが怒らせると怖い。
オグリオル:創造神の片翼である男神。レイジをかなり気に入った模様。この二柱でどうやって世界作ったんでしょうね?
げふぅ………………………………………………。
いきなり何ですかッ!? これはッ!?
視界が開けたと思ったら、突然の激痛に苛まれたよッ!?
何か今まで感じたことの無い痛み……例えるなら、全身くまなく――デリケートな部位とか身体の内部も含めて――大量の洗濯ばさみ付けて一気に引っ張られたような……。
いや、痛みがあると言うことは、俺は生きているのか?
でも記憶が…………ということは転生じゃない?
もしかして…………俺は死ななかったのか?
実は生きてて、麻酔が切れたから痛みで目が覚めたとか?
「ふ……ふはははははははははッ! 流石はかつて死霊王と呼ばれた魔王の魂ッ! 聖女の破邪魔法にも容易に耐えるかッ!」
………………は?
なんか色々不審なこと言われた。
誰が死霊王かッ! 誰が魔王かッ! あと別に容易に耐えてねぇよッ! と心の中でツッコミながら周囲を見渡す。
思ったより光源が乏しいが……ここはどこだろうか?
事故死したと思ったが、あれは夢だったのだろうか? とすると、随分と痛々しい夢を見たものである。
「さあ死霊王の魂よ……我に従えッ!」
……もしかして、俺に言ってる?
声がした方を振り向くと、そこには黒い肌をした痩せぎすの男がこちらを睨んでいた。髪から突き出した耳が普通の人間じゃないことを物語る…………異世界的に言うならダークエルフ?
だが俺を睨み付けていた男の顔に、何故か急速に疑問の色が浮かぶ。
「誰だ? 貴様は?」
「お前こそ誰だよ?」
■
何か一人で盛り上がって話しかけた相手が全く知らない人物でしたっていう、居たたまれない空気が場を支配する。
いやー。これは恥ずかしいわ。やられた方もどうして良いか分からないが、やってしまった方は気まずくて仕方なかろう。
こんな時、相手になんて声をかけて良いか分からないが、相手も俺を見上げたまま硬直しており次の言葉が出てこない。
そう言えば、何故この男は俺を見上げているのか?
いや……そもそも何で俺は《宙に浮いてる》んだ?
それに………………。
「……身体が…………透けてる?」
なんと俺の身体は、全身が幽霊の様に透けていた。それこそ幽霊の様に……? もしかして…………いや、もしかしなくても今の俺、幽霊なのでは?
いや、なんで?
生き返ったんじゃ無かったの?
痛みあったよ?
でなけりゃ転生って話はドコに行った? どこかに落としたか? って財布か何かじゃあるまいし。
でも宙にふわふわ浮いて、身体が服ごと透けてるなんて、完全に幽霊じゃんよ?
ペタペタと自分の身体に触ってみるが、人間の時とは明らかに違う感触に俺は戸惑う。
一応、触れられるんだけど、何か頼りないというか、実体感に欠ける……どころか、透過しようと思ったら普通に通り抜けた…………。
あらゆる疑問が次々と浮かぶが、答えが出ない。
唯一、何らかの情報を持っていそうな男に恐る恐る声をかけようとすると、男は硬直を解いて独りごちた。
「チッ……失敗か? 無関係の魂を召喚したのか……いや、大鎌を触媒に使ったのに失敗など……となるとヤツの魂は完全に消失したと見るべきか?」
はい?
まさか異世界転生から異世界召喚に変わった?
死んだまま?
状況が分からず周囲を見回すと、少し離れた位置に数人の武装した人影が見えた。
その人影の前には熊の様な生物がいて、互いに戦っている。
……戦ってる?
益々、ここ何処よ?
というか、なんで室内に熊?
いや、室内だよな?
目を凝らそうとするが、どうにも上手いこと行かない。次第に闇に慣れるという感じが無いのだ。
焦点を合わすのも何気に苦労する。
ただ、この世界が異世界であることは、何となく理解する。
今見える範囲で分かるのは、冷たい石造りの部屋。光源は松明と、空中を漂う謎の発光体。
石の作りは粗雑で、住居というより遺跡のようにも見える。
ここがセレステリア様が言った《フォーディアナ》なのだろうか?
しかしこの状況は聞いていた話と全く異なる。
「一体何でこんなことになってんだよ? 誰か説明してくれよ……」
などと愚痴ってみたものの一番状況を知ってそうな目の前のダークエルフは思案中なのか、顎に手をやりブツブツと何かを呟いている。
だが纏う雰囲気がかなり不気味で、正直声をかけたくない。
俺が躊躇っているとダークエルフは何か決意したのか表情を引き締めて顔を上げた。
『アルカンブラッ! この場から撤退するッ!』
そのまま熊(?)に向かってそう叫ぶと、懐から掌サイズの砂時計のような物を取り出した。
あれ?
急に何を言ったのか分からなくなったぞ?
さっきまで普通に会話出来ていたのに、今は男が何語を喋ったのか全く理解出来なくなっていた。
いや、ここが異世界なら今まで普通に話せてた方が不思議なのか?
『此奴らは放って置いて良いのか? 主殿』
『構わん。後詰めは他の傀儡に行わせる。ここで貴様に何かあれば、《獣魔王権》の奴に何を言われるか分かったことではないからな』
『了解した』
熊が喋った? いや、何を喋ったのかは分からないが、明らかに鳴き声とは違う。
こりゃクマったな……。
違う。そうじゃない。
あれ熊じゃないのか?
そう考える間も無く、熊(仮)は先ほどから戦っていた鎧装備の連中に対し、両腕の爪と、背中のかぎ爪を叩きつける。
砲丸を一度に複数、鉄板にぶつけたかの様な激しく重い音が響き渡る。
余程良い鎧なのか、それでバラバラにならないことは賞賛に値するが、それでも鎧に付いた凹みと大きな亀裂が、衝撃の強さを物語っている。
三人の騎士風の男女は死んではいないようだが、それでも衝撃を逃がしきれないのか、蹈鞴を踏んで後退する。
いや、その程度で済んでいることが正直凄い。
あれだけの衝撃を受けて転倒しないとか、どれだけ足腰を鍛え上げているのやら。
熊(仮)の方はその攻撃による反動を利用し、外見に見合わない軽やかな――まるで軽業師の如き動作で華麗にバク転しながら男の傍まで後退した。
ああ、完全に熊じゃないわ。
地球上の生態系とは完全に別系統の何かだ、コレ。
『しかし主殿が失敗するとは……他の八将に面目が立たんのではないか?』
『元々、失敗の可能性が高い儀式だった……他の八将も上手く事が進めば御の字程度にしか……いや、寧ろ失敗してくれた方が自らの地位が揺らぐことがないので助かるなどと思っているだろう……まあ、中には嫌味の一つも言ってくるヤツもいるだろうがな……』
『良いのか? 死霊王の遺品と始まりの竜族の瞳すら触媒に使ったのだろう?』
『それで失敗すると言うことは、死霊王の魂は二十年前に完全に消失したと予想できる。私にとってはその可能性が高いことが分かっただけでも収穫だよ。一矢報いることが出来そうにないのが悔やまれるがね……いずれにせよ、私も魔力が枯渇しかかっている……これ以上の長居は不要だよ』
何事かを口にした男は熊(仮)の傍に寄ると、手の中の砂時計――実際には砂時計ではなく、ガラスかと思った本体は宝石か何かのようだった――をグリッと捻る。
ここに来て俺は、男が何をしようとしたのか直感した。
「おいッ! 状況このままにして逃げんのかよッ!」
逃がしてなるものかと俺も男の方に向かう。
個人的にはあまりお友達になりたくないタイプだが、俺がこの状況に陥った原因となれば話は別だった。
なんとしても元の状態に戻る手段を聞き出さなければならない。
そもそも、元の状態って何だよって話もあるが……。
ただ、ここで逃がせば手がかりすら失う。
そう思った俺は男を掴もうとしたのだが……。
「なんだコレ? 思うように動けないぞッ!」
そうなのだ。
走ろうとした筈なのだが、身体が浮いているせいか、歩く程度の速度も出せない。まるで芋虫の歩行である。
というか、どうやって進むんだ? 浮いてるのに。
それでも何とかして――原理は分からないが――前に進み、男の腕を掴もうと手を伸ばす。
その間にも男と熊(仮)は男の手の中から溢れ出す光に包まれていく。
コレはあれか?
転移とかそういうヤツか? 悪役が撤退するのにお馴染みの?
なら、なおのこと逃がす訳には行かない。動け俺の身体よッ!
そう必死に念じたのが通じたのか、俺はの身体は次第に速度を上げる。とは言え、歩いた方が早いくらいの速度でしかない。見た目上は脚があるのに歩けないとは……。
…………よく見たら、透けてて殆ど脚無かったわ……。
そりゃ歩けないわな……ってそんなこと納得してる場合じゃないッ!
が……結局俺は追いつくこと叶わず、ダークエルフの男は熊(仮)と共に姿を消した。
その直後、先ほどまで熊(仮)と戦っていた集団に囲まれた。
『っ…………このまま全員逃がす訳にはッ! せめてあの死霊だけでもッ!』
『あの死霊、魔力の量が尋常じゃないッ!』
『でもヴィルナガンのヤツ、失敗したとか言っとったけど?』
『死霊王とも言っておったな……どうやら死霊王の魂を召喚しようとして失敗した様だが、あれだけの魔力を持つ死霊を放置もできんか……』
何を言ってるのか日本語じゃないので分からないが、俺に対する敵意だけはヒシヒシと感じる。
…………ずっとこんな感情ばかり向けられてる気がする。どうやら異世界も俺には優しくない模様。
意味もなく迫害されることはないんじゃなかったっけ?
『【我が主セレステリアよ、汝が下僕の声を聞きたまえ】【聖ルドルの泉に注がれた神の滴をもって、破邪の刃を聖別し給え】【大地に降り注ぐ雨の恵みのごとく、刃に聖なる力を注ぎ給え】【夜道を照らす蒼き月光を鎧とし、我は邪悪と対峙せん】【主の言葉が我が身に注ぎ、我が身を包み、我が身を祝福する】【我が主セレステリアよ、我に邪悪を滅する力を貸し与え給え】』
三人より少し離れて立つ少女が、何やら呪文の様なものを口ずさむ。
…………呪文の『ようなもの』?
いや、コレ完全に呪文だッ!
そう言えば魔法があるって聞いてたわッ!
少女の周りに光る文字と記号――魔法円とか言うヤツか?――がいくつも浮かび上がり、同時に少女の身体も仄かな光を発する。
俺の直感が最大警戒を発するが、どうしたら次に訪れるであろう災厄を回避できるか想像もできず、狼狽えることしかできない。
『【邪悪なる者よ滅べ】!!』
少女の手から光の槍が現れると、彼女は流れるような動作でソレを俺に投げつけた。
躱そうと反応する暇も無く、その槍は俺の胸部に深々と突き刺さった。
「言葉は分からないけど何か邪悪って言われた気がするぅえべろぼぼろぶるあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
痛ぇッ!
やっぱり滅茶苦茶痛ぇッ!
ああっ! そこ引っ張らないでッ!
身体のあちこちから光が漏れる度に激痛が走る。やがて俺の全身から光が溢れ出した。
って、ヤバいレベルで痛ぇええええええええええええええええええええええええええッ!!
「ぐげふぅ…………………………………………」
光が消えた後、に残ったのは、俺を囲んで睨み付ける四人の男女と、苦痛に痙攣する哀れな幽霊の俺だった。
ああ、もう、自分が幽霊だと認めちゃったよ……。
レイジ:「ちょっと二回連続これって酷くない? と言うか、主人公ならここでちょっとチートな能力に目覚めたりとかしないの? 完全にやられっぱなしなんだけど?」
――へんじはない。ただのしかばねのようだ。
レイジ:「ちょ、今回他に誰もいないのかよ? と言うか、別に屍もないよね? ここ?」
――へんじはない。ただのしかばねのようだ。
レイジ:「いや、だから何に反応して聞こえてくるの? この声! つか、他のメッセージとかに切り替えられないの!?」
――レイジはだだのしかばねのようだ。
レイジ:「分かってるよッ! 余計なお世話だよッ!」
――次回『どうやら異世界転生したはずが死んでる模様』第三話。『どうやら俺はこのままでは転生できない模様』
レイジ:「お前が次回予告言うのかよッ! つか転生不可能って、不吉な未来しか見えないッ!」