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どうやら俺は今後の身の振り方を考える必要がある模様

 この白い空間に見覚えがあった。周囲には何も無く真っ白な空間。あの時と違うのは、隣にアリィがいること。


「ようこそ聖域へ」


 澄み渡るような声が響いた直後、目の前にセレステリア様が顕現する。

 その姿は実体というより立体映像の様だった。以前会った時より大きく、身長は三メートル以上はある。


 セレステリア様を見たアリィが跪いたので、俺も身体のサイズを元に戻してから、それに習う。


「アリィ。今回もご苦労様です」

「いえ、そんな。勿体ないお言葉です」


 セレステリア様に声をかけられ、アリィは今まで見たことが無いほど畏まっていた。


「そして……レイジ……お久しぶりですね」

「ご無沙汰しております……四日ほどでしょうか?」

「貴方にとってはそうなのでしょうね」

「え?」

「実は、以前貴方を神域に招いてから、二〇年ほど経過しています」


 はい?

 二〇年?


「それに関しては彼に説明してもらいましょう」

「久しぶりだな。レイジ」


 そう言うと、もう一柱の創造神、オグリオル様が現れる。

 それを見たアリィがひどく緊張した面持ちで息を呑むのを感じた。


「それはね……この男神ひとが神託とは言え人前に出たのも、ここ千年の間無かったからなのよ」


 どうやら、オグリオル様はあまり人間に干渉しないらしい。理由は分からないけど。俺の魂に会おうと思ったのも、単なる気まぐれと説明された。

 ……死に方が面白かったからとかじゃないよな?


「レイジ……二十年前にレイジの魂を転生させたとき、どうやら二つの異常事態が発生したらしい……」

「異常事態ですか?」

「ああ……一つはレイジの魂に別の魂が持つ魔力が譲渡されたこと……これは通常出来ることではないのだが、それを可能とした者がいたのだ。それによりレイジは魂だけの存在でありながら膨大な魔力を持つ故、輪廻の輪からはじき出されてしまった」

「その、俺に魔力を譲渡した相手とは?」

「《死霊王》レイヒム・コージアナ」


 やっぱり……。

 そう言えば以前、アリィに名前が似てるって言われたけど……『レイヒム・コージアナ』と『レイジ・ムコウジマ』……似てるっちゃぁ似てるか……。


「《死霊王》はレイジに魔力の殆どを譲渡した後、レイジの代わりに転生した。輪廻の輪からはじき出されたレイジの魂は、もう一つの異常事態……つまりヴィルナガンが死霊王の魂を呼び寄せようとした召喚術に巻き込まれた。その為、レイジは二〇年後の未来に死霊として出現してしまったのだ」

「むぅ……」


 内容については受け入れがたい部分も多いが、ただこれでヴィルナガンが俺を死霊王と思った理由がはっきりした。

 ある意味ではヴィルナガンは召喚術に成功していたのだ。結果としてはヴィルナガンの望む形にならなかっただけで……。

 それに俺が膨大な魔力を持っている理由も分かってしまった。

 俺は《死霊王》の魔力だけでなく、《死霊王》の魂を召喚する際に触媒として使ったリーフの――始まりの竜プリミティブ・ドラゴンの《竜玉》と《竜眼》の魔力すら取り込んでいるのだ。膨大になるのも当然と言えた。


「で、ここが肝心なのですが……俺が再度転生するにはどうしたら良いですか?」


 俺は肝心要の質問を二柱の創造神にしたのだが、途端に二柱とも何かを言い淀む。

 ……嫌な予感しかしない……。


「すまない、レイジ。そのままでは転生できない」


 ぐらぁ……。

 オグリオル様から言われた言葉に、俺は気が遠くなる思いをした。


「そ、それはどういう……」

「レイジの魂は私達二柱(ふたり)の祝福を受けています。この祝福は《フォーディアナ》において強力な加護にもなるのですが、強力過ぎる故に魂にしか祝福を与えられません。肉体に直接祝福を与えると、死すら遠ざける結果となります。ここまではよろしいですか?」


 俺はセレステリア様の説明に頷く。

 要は最初に説明を受けたように、魂に祝福した場合は肉体への影響がそれほど表面化しないけど、肉体を祝福した場合、病気とかそういう負の状態から無縁になるということだろう。

 ただ、それは《死》という最も強い負の状態すら退けてしまうという事だった。


「さて、祝福を受けた魂はある条件によって解除されます。その条件が《肉体の死》です。つまり死ぬことによって魂にかけられた祝福は解除され、死という負の状態を受け入れられる状態……つまり輪廻の輪へと還ることができます」

「つまり俺は、魂の状態でありながら、祝福が解除されていない……その為、実際は死を受け付けない状態にある……そういうことですか?」

「そうなります」


 だから、アリィの祈りも効果がなかったのか……。

 端的に言えば、俺は祝福を解除しない限り、輪廻の輪には還れないのだ。


「この祝福を解除する方法は?」

「神に直接会って解除して貰う必要がある」

「神様に会う方法は?」

「聖域による交信ではなく、神域に赴く必要がある」

「神域に赴く方法は?」

「輪廻の輪に乗る必要がある」

「輪廻の輪に乗るには?」

「祝福を解除する必要がある」

「「「………………………………………………」」」


 無理じゃんッ!? 無限ループじゃんッ!? 完全に詰んでるじゃんッ!?

 手段がなさ過ぎで全員で暫く沈黙しちゃったよ!?

 説明してたオグリオル様もどうしたものかと本気で悩んでいた。


「あの……一つよろしいでしょうか?」


 そんな中、怖ず怖ずと手を上げたのはアリィだった。


「《聖女》や《聖人》の最高位の神聖魔法……《神の奇跡》ではレイジの祝福を解除できませんか?」

「「それだッ!」」


 いや、それだッ! て……なんで神様である貴方達が気が付かないのよ?


「いや、《神の奇跡》は過去に使えた者が一人もいないから……」

「流石に忘れていたというか……」


 セレステリア様とオグリオル様が口々にそう言う。

 って過去に使えた人がいない?


「《神の奇跡》は、それこそ生涯神に仕えたような《聖女》や《聖人》でないと使えない魔法なので……使えるようになる前に次代に引き継いでしまうことが普通ですから……特に《聖人》に至ってはここ千年存在していませんし……」

「《聖人》なんて人もいるんですね……でも何故、千年も存在していなかったのですか?」


 セレステリア様の口籠もる様な説明に、何気に質問したところ、何故かオグリオル様がそっと視線を外した。


「《聖人》は通常、オグリオルが祝福を与えないと産まれないので……つまり、ここ千年ではレイジが唯一の《聖人》ということになります」

「はぁ?」


 とんでもない事実発覚。

 俺は千年ぶりの《聖人》だった。

 道理で当初は俺が祝福を受けたことを誰も信じなかった筈だ。

 俺だって事前にそのことを知っていたら自分の記憶を疑ったかもしれない。

 そもそも日本人の中でも信仰心なんて持ってなかった俺が《聖人》なんて、そんな馬鹿なと鼻で笑いたくなる。


「実際にはレイジは《聖人の可能性を秘めた人生》を送る予定だったのですけどね……」


 うーん、自分で《神の奇跡》を起こすのは難しいのかな?

 そう考えていたとき、今までに無い勢いでまくし立てたのはアリィだった。


「つまり、私かレイジが《神の奇跡》を使えればレイジは転生できるのですね?」

「そうですね」

「分かりました。レイジ!」

「はいッ!」

「安心して下さいッ! 私が必ずレイジを転生させてあげます!」

「は……はい! よろしくお願い致します」


 何故か全力で宣言するアリィのその気迫に、俺は気圧されるようにそう言って頭を下げた。

 その言葉の意味も知らないままに……。



      ■



「さて、アリィ、貴女はこれからどうするつもりですか?」

「セレステリア様、禁術などが使われる気配はありますか?」

「いえ、しばらくは《魔素溜り》が発生することもないでしょう」

「禁術? もしかして、俺が召喚されたのもそれ?」


 アリィとセレステリア様のやり取りに、俺は思わず口を挟んでしまった。

 いや、失礼かなとも一瞬思ったんだけど、どうしても気になってしまったのだ。


「そうですね。レイジを召喚したのは間違い無く禁術です。もっとも、あの場にレイジが召喚されるとは思っていませんでしたが」

「セレステリア様は、時折私に《魔素溜り》を浄化するよう命ぜられるのです」


 それが聖女としての使命の一つであると、アリィが補足する。

 聞けばその《魔素溜り》というのは世界のどこにでも発生する可能性があるんだそう。

 そういった《魔素溜り》は早い内に浄化しないと、危険な召喚術が行われたり、魔物が産まれたりするらしい。

 それを浄化するのが《聖女》や《司祭》の仕事の一つと言うことだった。

 ただ、その場にヴィルナガンが先にいたことは想定外だったと、悔しさを滲ませていた。


「ではセレステリア様。私は当面の間、王都で《ファンガス・パウダー》の被害に遭っている人たちを助けたいと思います」


 アリィは淀みなくセレステリア様に答える。

 何故そうも当然のように人助けを出来るのか、この時の俺にはまだ分からなかった。

 ただ後でアリィが、《魔素溜り》の浄化や、救いを必要とする人々の救済等、そういった行為の積み重ねが《神の奇跡》を使える様になるための唯一の手段なのだと、教えてくれた。

 神への信仰心はそのような行いの繰り返しで、より深く強い物に変わるのだと。


「そうですね、それが良いでしょう? レイジはどうしますか?」

「そうですね……出来ればアリィの傍にいて手伝いたいのですが……」


 アリィが俺の為に《神の奇跡》を使えるようになろうと努力するなら、俺はそれを手伝いたいと思った。だけど、色々問題もあるんだよな。

 声は出せないし――実際は音を出すことは可能になったのだが、こっちの言葉が分からず意思疎通には至っていない。寧ろ言葉が分からない分、怨嗟の声に聞こえてきて怖いとはアリィ達全員の意見だった。

 更にはエナジードレインの問題も残ってるから不用意に人に触れたり出来ないのでトラブルの原因になりそうだし、何より肉体が無いこの状態は色々問題があった。

 アリィに《死霊を引き連れた聖女》なんて噂が立っても困る。


 あとそれとは別に、身体が無いことが実はちょっとストレスになっていた。

 ぶっちゃけてしまえば、食事がしたいのだ。

 ここ数日、毎日アリィ達の食事風景を見ていて、本当に羨ましかった。

 生前、食べることをストレス解消の手段としていただけに、食事の出来ない自分の目の前で繰り広げられる飯テロの数々に我慢の限界を迎えつつあった。

 ストレスが溜まったところで体調を崩す訳ではないんだけど、でも気分は良くない。


「レイジ……まず、レイジはエナジードレインは出来ないぞ?」


 そう答えたのはオグリオル様だった。つうか、また人の心読んでるなぁ……。


「え? 死霊なのに?」

「ああ、レイジは別に生への執着がある訳では無いからな。あれは生への執着が具現化した能力なので、転生を望むレイジには発現しようが無い」


 納得。確かに俺には生への執着はない。

 寧ろ早く成仏して転生したい。


「会話については簡単だ。魔法で補えば良い」

「いや、俺、魔法使えないんですけど?」

「それはこれから基礎をたたき込む」

「うえッ!」

「幸い、ここは聖域の中でも特殊な空間だ。多少の時間を割いても外界の時間はそれほどかわらないことだしな」


 あー、あれか。修行にはもってこい空間か。外の一日が内部の一年に匹敵する的な。

 まあ、確かにこの世界で活動するなら魔法は覚えていた方が良さそうだ。

 実際今のままでは膨大な魔力が宝の持ち腐れになってるし。


「肉体についても、思い当たるものがあるが……それは王都の問題を解決してからにして欲しいのだが良いだろうか?」

「それは構いませんが……なにか理由が?」

「いや、その思い当たる物というのが、少し離れているのだ。二日三日で帰ってこれる場所でなないのでね……王都の問題を優先して欲しいんだよ」

「分かりました」


 ちなみに魔法の修行については割とあっさりと終わった。

 ただ、覚えた魔法は、会話と読み書きに関する魔法だけ。

 攻撃に関する魔法は肉体を得るまでお預けとなった。

 理由は強大な魔法を使える死霊の存在は討伐の対象になりかねないと、アリィが危惧したからだ。

 肉体があれば、世間の俺に対する印象は魔力の多い魔術師となり、少なくとも討伐対象にはならないといわれれば、俺もそれに従うしか無かった。

 神聖魔法についてもなるべく使わないよう改めて厳命された。


 こうして俺は取り敢えず、この世界で死霊として過ごすことにしたのだ。

 魔法の基礎も覚えたしね。

 ちなみに神聖魔法の勉強というか修行についてはアリィに教わることになった。

 しかし、神聖魔法と通常の魔法の両方を使えるなるなんて、ちょっと格好良くね? などと浮かれてしまったのも仕方ないだろう


 この時はまだ、裏社会の連中に正体不明の魔術師として恐れられ、そして目の敵にされるとは予想だにしていなかった。


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