どうやら俺はやっとこの村を出発する模様
前回の登場人物
向日島レイジ:本編の主人公。今回、やっとこの村を出発する模様。
アルリアード・セレト・レフォンテリア:通称アリィ。段々レイジの扱いが分かってきたというか、寧ろ考えるのを止めてる節もある。
リーフェン・スレイウス:レイジよって《竜転生》した始まりの竜。何故か《のじゃロリ》化した。
「と言う訳で妾も同行するのじゃ!」
「「「はい?」」」
まあ、そういう反応ですよね。
リーフの突然の発言に、ミディ、レリオ、ラグノートの三人は呆然としている。
一応、アリィが説明しているのだが、その内容に理解が全く追いついていない事は、三人の表情から在り在りと分かる。
まあ、そうだよね。
今朝まで卵だったドラゴンが、昼を過ぎたら人間の姿になってんだもんね。
俺だって『ここは異世界だから仕方ない』って無理矢理自分に言い聞かせてるからね。
「皆さんの混乱も分かります……ですがここは『レイジが原因なので仕方ない』と思ってもらえませんか?」
「おいッ! その言い方はあまりに酷くないか!? あと、そこの三人ッ! そこで大いに頷かないッ!」
何故三人とも、俺を見てうんうんと頷くのだ。
実に心外である。
「しかしなぁ、レイジ……昨日からレイジの非常識な所を散々見せつけられた立場としては、『レイジなら仕方ない』って思ってしまうんやで?」
「うぐっ!」
レリオの容赦ない言葉が俺の心を抉る。
いや、ほら……俺、異世界人だからさ……こっちの常識とか分からなくて……。
「レイジ様が常識の範疇に収まらないのは異世界人ってだけじゃありませんからね」
「全くです。レイジ殿は常人には理解しが……計り知れない方です」
「おい、それ褒めてないだろ!?」
今、『理解し難い』って言ったよな? 絶対ディスってるよな?
「まあ、私達の心の平穏を保つためにも、『レイジが原因なので仕方ない』と考えるのが一番良いでしょうね」
「代わりに俺の心の平穏がどこかに行ったよ!?」
おかしい、昨日から俺に対する態度がどんどん変化……というか変質して混沌と化している。
早く転生して、心の平穏を取り戻したい……。
■
「ところでリーフェン様について、我々以外の者にどう説明するつもりなのですか?」
ミディの質問に俺も同意する。
確かに、住民票で管理されている以上、この村の出身とは言えない。かといって、他の村の人間がここに一人でいるのもおかしな話になるだろう。
だからといって、本当の事を教えることも出来ない。
「ふむ……ではヴィルナガンに生贄にされそうになっていたと説明したらどうじゃ? 実際、彼奴には生贄というか、魔術の触媒にされておったから、あながち間違いではないしの」
「なるほど。確かにそれならこの村出身じゃなくても違和感はないですね。《魔国プレナウス》から連れて来られたとすれば、それ以上追求されることもないでしょう」
リーフの提案にアリィが同意する。
「それに《聖女》であるアリィ様がそう説明したなら、一般の騎士に疑われることはないでしょう」
アリィの言葉を補佐するようラグノートが付け加える。
「騙しているみたいで気が引けますが……」
ラグノートの補佐に、多少後ろ髪を引かれる者を感じたのか、アリィは少し困ったような顔をした。
「まあ、事態が事態だけに、多少の嘘は仕方ないんじゃないか?」
「レイジのせいで嘘を吐かなければならなくなったのですが、そこは自覚していますか?」
やぶ蛇だった……。
アリィの言葉を聞いて、俺以外の全員が頷いて笑った。
いや、確かに俺のせいだけどさ……………………だが待て、リーフが一緒になって笑うのは納得が行かん。
■
「ところでレイジよ……お主は自身の姿を薄くすることはせんのか?」
「自身の身体を薄く?」
他の者が出発の準備を進めている最中、物見台から周囲の警戒をしていた俺にリーフがそんな事を聞いてきた。
流石に自分の身体を薄くするなんて、考えた事もなかった。
「いや、霊体であるお主には日差しは辛いのではないかと思って聞いてみただけなのじゃが」
「いや、試そうとも思ってなかったな……薄くしたら日差しが辛いのも、多少和らぐのか?」
「当然じゃな。透過度が上がればその分、霊体であるお主の身体を日光が素通りすることになる……そうなれば当然、霊体への負担も減る筈じゃ」
なるほど。
俺は自分の身体の透明度が上がるようにイメージすると、急に身体に纏わり付いていた暑さが和らぐ。
「おお……かなり楽になるもんだな」
「あっさり成功させおって、つくづく驚かされるわ」
「出来ないと思われてたのか?」
「普通はそんな簡単に出来んわ……お主は魔力操作に長けておるようじゃな。まあ、《聖女》の補助があったといえ、第六階位魔法を成功させるくらいじゃ……相当な才能があるのじゃろう」
「そうか? もし俺が魔力操作に長けていたら操られて暴れていたリーフをもっと効率良く止められたんじゃないかな?」
実際、ドラゴンゾンビだったリーフを止める際、腕一本無力化するのにかなりの魔力を消費している。
あのままでは確実に魔力が枯渇していただろう。
「魔法も使わず魔力を直接ぶつけて干渉するなど、普通の人間にはできんわい。あれこそお主が魔力操作に長けてる証拠みたいなもんじゃ」
「それでも、もうちょっとやり方あったんじゃないかなぁ?」
「やり方はあったじゃろうな……ただ、それはお主が手段を知らなかっただけで、魔力操作に劣っていた訳では無いぞ?」
そうなのかなぁ?
「大体、魔力操作に長けていなかったら、第六階位魔法を一発で成功させるなど不可能じゃ」
「…………うーん」
「納得行かんか?」
「納得行かないというか……基準が分からないから実感が足りないというか……」
何せ俺は魔力初心者である。その自覚だけはあるが、自分が他の初心者と比べた事がないので、上手いかどうかの判断が付かない。
「では、レイジよ。手の平に魔力渦……回転する魔力の塊――《魔力渦》を造ることはできるか?」
「俺の下腹部にあるような魔力の渦を手にも造れるかってことでいい?」
「うむ」
「それなら……」
俺は下腹部の魔力を一部集めてそれを右手の上で高速回転させるようイメージする。
最初反応が弱かったが、しばらくイメージするとイメージの通りに手の平に魔力が集まり、やがて駒の様に回転する。
「なんとか出来たな」
「ではそれを左手でもやってみるが良い」
そう言われ、俺は先ほどと同じように今度は左手に魔力を集める。
今度は少し慣れたのか先ほどよい大分短い時間で、左手の平に魔力渦を構築できた。
「こんな感じか?」
俺はちゃんと出来ているかどうかリーフに確認すると、リーフは満足したように数度頷いた。
「ちなみにの……両手に別々の魔力渦を構築するなど、十年以上修行したベテランの魔術師にしか出来んぞ?」
「え?」
「駆け出しの魔術師見習いなどは、手の平に魔力を移動させることはおろか、己の腹にある魔力渦すらまともに制御出来んわ」
「…………できないの?」
「出来んな……魔術師見習いの最初の修行は己の魔力を把握することから始まる。それだって早くても一ヶ月はかかるだろうな」
そんなにかかるものなのか……てっきり魔力になれた世界の人間だったら、そのくらい簡単に出来るものと思っていた……。
「お主が魔力操作に長けてると納得出来たかの?」
「まあ……流石にね」
「では今度は己の魔力を極力小さくしてみろ。そうさな……己の腹の魔力を押さえ込むように渦を止めるイメージでな」
「この手の魔力はどうする?」
「腹にもどせ」
そう言われ、俺は両手の魔力を腹に戻し、そのまま腹の魔力を周囲から押さえ込むようにイメージする。
次第に魔力が小さく、回転速度も遅くなり、やがてゴルフボールより小さい塊にして、回転をほぼ止めた。
「ふむ。流石じゃの。普段はそのくらいに魔力を押さえておけ」
「え? なんで?」
「これから人間の街に行くのじゃろう? あまり目立つ魔力はいらぬ者を引き寄せるぞ? だが魔力を極力小さくし、己の姿を極限まで薄くすることで、街中で誰かに見られてトラブルになることもなくなるじゃろうな」
ここに来て俺はリーフの真意に気が付いた。
つまり、俺が誰かに見つかったりしたら、アリィ達にも迷惑が及ぶ可能性がある。
何よりアリィは《聖女》なのだ。
《聖女》が《死霊》と一緒にいるところを見られたら、《聖女》の威厳は下がるし、それを見て良からぬ考えを巡らす者も出るかも知れない。
だが、俺が街中で誰かに見つからなければ、そういうトラブルは回避できるし、騒ぎも起きない。
幽霊っぽい格好はしていたが、そもそも見つからないようにする発想はなかった。
と言うか、今まで街に行くことに何の気遣いもしていなかったな……。
「それとな、レイジ……折角だから声を出せるようにしておかんか?」
「声?」
「ああ、何時までも《聖女》の魔法に頼った《交信》では《聖女》の負担になろう?」
確かに。
今まで不便をあまり感じていなかったが、俺はアリィの魔法なくしては誰かと会話することもできない。
「あれ? そう言えば俺はなんでリーフと会話できてんの?」
「お主の中にある魔力と私の魔力を共振させ会話をしておる。まあ、お主の中にある魔力は元々私の魔力でもあるから可能な芸当なのじゃが」
そういうことか。
話を戻すと魔法によ交信はちょっとでも距離が離れていると思うように意思疎通が出来ない。
五メートルも離れたら会話が難しい。
「あれ? でもアンデッドドラゴンを押さえ込んでいるときに叫んだら届いたような?」
「あの時、お主は《声》を出しておったぞ?」
「へ? 本当に?」
「うむ。妾は己の意思を肉体の奥底に封じられていたが、それでも周囲の状況くらいは把握しておったわ。その時、確かにお主は魔力で空気を振動させ、《声》を発していたぞ?」
と言うことは無意識にそうしてたってことか。
確かに自在に空気振動させたら声が出せる理屈だが……。
「やり方がわからん……」
「一度やったのにか?」
「あの時は必死だったから……」
「なら必死になるが良い」
「そう言われてもね……」
必死になれと言われて簡単に必死になれるのなら、もっと違う人生歩んでたよなぁ……。
「まあ、お主がそのままでも良いと言うならそれでも良いがの……いずれにせよ、あの時何語を話しておったのかは分からなかったので、無理に声を出せるようになる必要はないかも知れんし……」
「…………声を出せても意味が無いんじゃ……」
日本語通じないんだし。
「それでもあの時、意味は通じていたみたいじゃが?」
「確実性に欠けるのは……つッ!」
「どうした?」
「遠くから馬の嘶きが聞こえてきた……もしかして」
例の交代予定の騎士が向かってるのかと思い、嘶きが聞こえた方向を見た。
「騎馬の数が一、二、三……四騎か…………あの調子だとあと二時間以内にはここへ到着するかな?」
「ほう、お主あれが見えるのか」
「あれ? 見えない?」
「何とか見えるがの……肉眼で十キロ以上離れてる騎馬の数は難しいわ」
「俺、肉眼じゃないし」
「…………そうじゃったな。魔法も使わずこの距離を視認できるとは便利なものじゃな」
俺もそう思う。
「取り敢えずアリィ達に報告するか」
「それが良かろう」
そう言って俺たちはアリィの元へと向かった。
その後、ほぼ俺が予測した通り、二時間ほどで騎士達はこの村へと到着した。
■
騎士達が村に到着した後、アリィは簡単にこの村で起きていたことを報告する。
『ヴィルナガン』の名前を聞いてかなり驚いており、一度はざわつきが止まらなかったが、アリィが何とか収めた。
リーフについては予定通りヴィルナガンに生贄にされそうになった少女という扱いにした。
事前にリーフには一時的に喋れないフリをして貰うよう同意を得ていた。
リーフを見た騎士は変な勘ぐりをすること無く、むしろ逆に騎士達はリーフがよほど怖い思いをしたのだろうと勘違いすらしていた。
なお、この村については近隣の農村から人手を回し、収穫を行う事になりそうだった。
勿論、移住したがる農民は少ないかもしれない――何せ、一晩で村人が全員いなくなった村なのだ。そんな不気味な村に住みたがる物好きもいないだろう――が、いざとなったら農奴に市民権を与えることも考慮するとの事だった。
…………農奴とかいたんだな。
騎士とアリィの会話中、俺は直ぐ傍で黙って佇んでいたが、極限まで透過率を上げていた為、騎士達は一切、俺の存在に気が付いていなかった。
というか、アリィとリーフ以外は俺がその場にいたことに気が付かなかったらしい。
騎士達に見つからなくて、正直ほっとした。
いや、隠れられたとかそういうことではなく、見つかったら説明が面倒なのでアリィにターニングアンデッドされて消えるフリをする予定になっていた。
あれは痛いので、あまり何度も食らいたくはなかったのだ。
騎士達への引き継ぎを完了し、アリィ達の馬が体力を戻した翌日の朝、俺たちはいよいよ王都を目指して出発した。
ちなみに、道中の旅は思っていたより快適だった。
途中で野宿するのかと思っていたのだが、街道沿いに進む限り、日が暮れる前には何れかの集落なり宿場なりに到着していたからだ。
聞けば街道沿いはそんなものらしい。
農地を管理できる規模からしたら、遠くても一〇キロくらいの間隔で集落があるのが普通とのこと。
それを聞いて、そりゃそうだと納得する 農地の端まで移動に何時間もかかるようじゃ、作業にならんものな。
こうしてつつがなく三日目の夕方を迎えた頃、俺たちは無事王都にたどり着いた。
レイジ:「という訳で、今回で『異世界転生編』が終了しました!」
レイジ以外:「おーーーーーーーッ!」
レイジ:「作者曰く『もっと早い展開にしたかった』との反省があるようですが、それでも一段落ついたのは何よりです」
アリィ:「ところがここで残念なお知らせです」
レイジ:「え? なに……?」
アリィ:「作者が遅筆なくせに、このゴールデンウィークに大洗に行って遊びまくるとかしたせいで、書き溜めが殆どできていません」
レイジ:「はい?」
アリィ:「挙げ句、当初予定の無かった『王都騒乱編』を入れる事になったため、新たにプロットから作り直しているとのことで、暫く週一回、またはそれ以下のペースになるとのことです」
レイジ:「作者ああああああああああああああああああああああああああッ!」
アリィ:「という訳で、次回『どうやら異世界転生したはずが死んでる模様』第十六話『どうやら俺はもう一度セレステリア様とオグリオル様に会う模様』」
レイジ:「なるべく早く仕上げるようせっつきますので、暫くお待ちください」