どうやら俺はドラゴンが成長するまで転生できない模様
前回の登場人物
向日島レイジ:本編の主人公。前回、うっかりドラゴンの卵を孵化させる。
アルリアード・セレト・レフォンテリア:通称アリィ。突発的な主人公の行動にだんだん振り回されてきている。
ミディリス・ナスナ・フィルディリア:通称ミディ。アリィに仕える騎士の一人で聖騎士。
レリオード・ナスガ・クルツェンバルク:通称レリオ。アリィに仕える騎士の一人。
ラグノート・ナスガ・ブランディオル:アリィに仕える騎士の一人で隊長格。
リーフェン・スレイウス:死霊術師ヴィルナガンの手によってアンデッド化したドラゴン。レイジに転生させられた上、僅か数時間で孵化までさせられる。
「さて、レイジ? 説明してもらっても良いですかね?」
「………………はい」
怖い。
会ってから一度も怒った事がないアリィに俺は説教されている。
ちなみに俺は地面の上に正座である。
肉体が無いので正座してても疲れる事はないのだが、正座させられてるという気分がより怒られている気持ちになって俺の心を責め立てた。
あと、暑い……。
幽霊だからなのか、やたらに太陽の光が辛い。しかし、俺は広場で正座させられているため、日光を遮るものが一つも無いのだ。
正座していることより、こっちの方が辛い。
この世界でまともに日光を浴びるのは初めてだが、まさかここまで辛いとは思わなかった。
幽霊が薄暗いところに出る理由が少し分かった気がした。
なお、産まれたばかりのドラゴンは、まだ俺の傍にいて俺の魔力を吸収し続けている。
幸いまだ俺の魔力には余裕があったが、このまま行ったらどこかで魔力が枯渇するんじゃなかろうか?
と言うか、遠慮なさ過ぎだろ?
「聞いてるんですか!? レイジ!」
「ひゃ、ひゃいッ!」
「聞いて無いじゃないですか! 私は『説明してもらっても良いですか?』と聞いてるんですよ?」
「いや、その……なんか手をかざしたら物凄い勢いで魔力を吸収されるので……元々俺の魔力はこのドラゴンのものだし、少しでも返そうかなーーーーって……」
「………………はぁ……」
俺の言葉を聞いたアリィが眉間を押さえて大きな溜息をついた。
何か怒るに怒れないといった感情が伝わってくる。
他の三人は、アリィの剣幕に直立不動のまま黙り込んでいる。
やはり、アリィが怒るのは相当に珍しい事のようだ。
「レイジ……確かに説明しなかった私達も悪いので一方的に責めるのも心苦しいですが……でも一言報告してくれても良かったじゃないですか?」
「はい。その通りです……」
いや、そればっかりは申し訳ないと思っている。
報告・連絡・相談は大事。
「しかし、これはどうしたものでしょう……」
「……………………一つ聞いて良いかな?」
「何でしょう?」
うッ!
やっぱりちょっと怖い。
俺を見る目が据わってる。
「俺、自分がやったことがドコまでマズいのか分からないんだけど、この世界の常識としてやっちゃいけないことやった……の、かな? いや、この世界の常識を知らないことを言い訳にはしたくないんだけど……でも、自分が何をしたのか知っておかないと、今後も同じ間違いをしてしまいそうで……」
「………………いや、この世界の常識という話をしたら、普通はドラゴンの卵に自らの魔力を与えることなんて出来ないんですけどね……」
「あう……」
俺の存在から常識外だったという指摘に思わず凹む。
そんな俺をみたアリィが再び大きな溜息をついた。
次の瞬間、少しだけアリィの雰囲気が和らぐ。
「ああ、別にドラゴンの卵に魔力を与えることが問題じゃないんですよ……ただ……」
「ただ?」
「このドラゴンの幼体を連れて王都に戻ると大騒ぎになるでしょうね……」
「………………」
この世界でドラゴンがどういった扱いなのかは聞いていないが、それでも人間の街にひょいひょい来る様な存在ではないだろう。
それに幼体を連れていたら、他のドラゴンを呼び寄せるんじゃ無いかと危惧する者も出るかも知れない。
それに……。
「ただでさえ、ドラゴンの幼体はいろんな意味で欲しがる人も多いですから……ましてそれが始まりの竜ともなれば持ち主を殺してでも奪おうなんて物騒な輩が出てきてもおかしくはないでしょうし……」
と言うことも理由としてあるようだ。
阿呆な貴族や他人の迷惑を考えない魔術師からしたら、垂涎ものの存在らしいとは、レリオの弁だった。
「産まれたんならこのまま自然に帰すって事は出来ないのかな?」
「……そこなんですよね……」
「え?」
「ドラゴンの卵は周囲の魔力を吸って産まれるんですけど、産まれてからしばらくは同じ魔力しか吸収できないんですよ……」
「はい?」
「幼生期を越えれば魔力以外の食事を取るようになるんですけど……」
「そ……それってつまり……?」
「はい、このドラゴンは幼生期を越えるまで、レイジの魔力しか吸収できません……」
「それって、もしかして…………」
「はい。レイジが転生してしまうと、このドラゴンは食事が出来ずに息絶えてしまうんです」
なんと言うことでしょう!
俺、暫く転生できないじゃん!?
あと、このドラゴンが成長しきるまで俺の魔力って保つの?
「ちなみに……ドラゴンが幼生期を終えるのって……」
「普通なら六十年くらいかかりますね……」
暫くどころじゃなかった……。
人間の半生以上を使うレベルだったよ……。
「ただ始まりの竜ともなると、記録が無いので……正直なところ何年かかるか……」
転生の道すら閉じる可能性が出てきた……。
しかもこのドラゴンは俺から離れる事が出来ないので、俺が王都に行くなら一緒に来るしか無い。
となると、さっき言ったような騒ぎが回避できない。
「俺は王都にも入れない?」
「下手をすると、近隣の村や町に近寄るのも危険かもしれませんね……」
「街とかでこのドラゴンを鞄にしまったりとか出来ないかな?」
「最初、その方法も考えたんですけど……」
そう言ってアリィはドラゴンを見る。
「「「「………………」」」」
釣られて全員がドラゴンの方をみて言葉を失う。
はい、そうですね。きっと不可能ですよね。
実はこのドラゴン、結構な速度で育っており、僅かな時間――体感にして三〇分ほど――で既に倍以上大きくなっていた。
最初は掌に乗るくらいのサイズだったが、既にカラスくらいの大きさになっているのだ。
多分、昼には人間くらいのサイズになっているだろう。
幼生期の終了までにどの位大きくなるのか想像できないが、このまま明日の朝を迎えたら、どこまで成長しているのか想像するのが難しい。
「早く成長している分だけ、幼生期が早く終了するとは思うのですが……」
「それでも何年かかるか分からない……と?」
「その通りですね……」
となると、俺は転生を諦めて、このままアリィ達と別行動するしかないのか……。
「かといって、このままレイジを放って置くことも出来ませんし」
「え?」
「私はレイジを転生させると宣言したじゃないですか」
「え……良いの?」
「良いも何も、それだって私の使命です。迷える魂であるレイジをこのまま放置できません」
その言葉に思わず胸が熱くなった。
俺は直前まで転生を諦めるつもりだったのだ。
だが、アリィは全く諦めていなかった。
それこそ、俺が転生出来るようになるまで、何十年かかるかも分からない。百年超えるかも知れないのだ。
なのにアリィはまるで年月など問題ないかのように俺を転生させると言ってくれた。
最初の約束を果たそうとしてくれたこと……それが俺はムチャクチャ嬉しくて、この世界に転生出来ることを神に――セレステリア様とオグリオル様に――感謝した。
ちなみに幽霊の胸が熱くなる原理は分からないので聞かないで欲しい。
■
結局、警備の為に派遣される騎士が到着する前に、俺はこの村から離れた所に一旦身を隠すことになった。
今、レリオとラグノートが俺とドラゴンが隠れられそうな森を探している。
その後は、王都まではレリオだけ俺たちと行動を共にし、ミディ達とは別々に移動することになった。
勿論、その間も誰かに見つからないよう、昼間は点在する森の中に隠れて過ごし、夜の間に移動することになった。
最初、ミディが俺たちと行きたがったが、例え死霊とはいえ、男と二人で長時間過ごすのは不都合が多いだろうとアリィが判断したため、レリオに白羽の矢が立った。
レリオとラグノートが森を探索している間、村に残ったアリィとミディは村人達の遺品を整理していた。
当然、もうどれが誰のものかは分からない。
だが、遺骨も無い状況――アンデッド化した住人は全てアリィが魔法で浄化、解放したため遺体が残らなかった――なので、せめて遺品だけでも埋葬したかったそうだ。
埋葬の穴はすでに全員で掘ったのだが、墓石に名前を残すため住民票を探しているようだ。
俺はそれを手伝うことも出来ない――引き出しとか開けられない――ので、皆の代わりに周囲の警戒に当たっていた。
何せかなりの広範囲の物音を拾うことができる上、相当な遠距離でも目視で詳細が確認できるのだから、見張りには最適と言える。
それに今は強化した聴力を使って何が出来るかの実験も兼ねているので、俺としても退屈はしていない。
俺は村にある一番高い物見台に居座って、周囲の物音を拾っていた。
空を飛べるくせに何故物見台にいるのかというと、空中に浮かぶとドラゴンも着いてくるので逆に目立った為だ。
その点、物見台なら遠くから見てもドラゴンがいるようには見えない。さらに物見台には屋根が付いており、日陰の方が楽だったのも大きい。
しかし……既に三歳児くらいの大きさなんだが、昼にはアリィとほぼ同じ大きさ――一五〇センチくらいになるんじゃねぇか?
■
そろそろ昼になりそうな時刻になって、物見台の階段をアリィが上がってきた。
「レイジ、ラグノート達が戻ってきました。丁度良い森が見つかったそ……うで……」
何故かアリィの声が途中で途切れる。
俺は交代の騎士達が来ると言われた方角を凝視したまま、アリィに問いかけた。
「どうした?」
「どうしたって……私が聞きたいのですが?」
「何を?」
「いや……レイジ? 何故ここに裸の少女が寝てるんですか?」
はい?
そんなものいなかったぞと思いながら振り向くと、そこには赤髪の少女が全裸で寝息を立てて眠っていた。
「…………レイジ?」
「いや、待って……ホントに知らないから」
「むにゃ……れいじ……しゅきー……なのじゃ……」
「……………………………………レイジ?」
「いや、ホントだから……っていうかそれ《聖女》がしちゃいけない顔だからッ!」
アリィの般若の如き表情に俺はひたすら怯え言い訳にもなっていない言い訳を繰り返した。
…………生身だったら絶対小便ちびってた。
レイジ:「そう言えばこっちの世界って結婚年齢とかどうなってんの?」
ミディ:「まあ、一般には成人と認められる十五歳以上にならないと結婚できませんが……」
レリオ:「でも貴族の場合、結婚っちゅーのは家同士でするもんやから、意外と年齢とか適当になりがちやな」
レイジ:「政略結婚は幼女婚に優先するのか……」
アリィ:「ところでレイジ……今貴方が幼女趣味である疑いをかけられていることから、目を背けていませんか?」
レイジ:「……じ、次回『どうやら異世界転生したはずが死んでる模様』第十三話『どうやら俺は全裸の《人外のじゃロリ》娘にからかわれる模様』ってタイトル!?」
アリィ:「……………………レイジ?」