どうやら俺はドラゴンの卵に余計な事をした模様
前回の登場人物
向日島レイジ:本編の主人公。地味にチート化進行中。
アルリアード・セレト・レフォンテリア:通称アリィ。数十年、神に仕えた司祭でも使える様になるか分からないレベルの魔法をあっさり使うこの娘も大概チート。
ミディリス・ナスナ・フィルディリア:通称ミディ。アリィに仕える騎士の一人でチョロ騎士。もうこの娘の職業はチョロ騎士で良いよね?
レリオード・ナスガ・クルツェンバルク:通称レリオ。アリィに仕える騎士の一人。段々解説役のポジションになってないか?
ラグノート・ナスガ・ブランディオル:アリィに仕える騎士の一人で隊長格。解説役にすらなれていないのは作者の実力不足
リーフェン・スレイウス:死霊術師ヴィルナガンの手によってアンデッド化したドラゴン。レイジに転生させられる。
「これは……上手くいったのかな?」
俺は卵を前に少しだけ不安な気持ちになった。
ドラゴンに転生したのなら、卵になるのは成功の様な気がするが、本当にこれがドラゴンの卵なのか自身が無い。
だが、アリィはその卵をそっと手に取ると、俺に向かって微笑んだ。
「レイジ……ありがとうございます。この卵は、間違い無く始まりの竜の卵です」
「じゃあ、俺は……」
「はい、無事に……しかも最も理想的な形で成功しました」
それを聞いて、全身の力が抜けたような感覚を覚えた。
いや、肉体は無いので本当に感覚だけなんだけど、それほどまで緊張していたんだと思う。
違う種族に転生しても良いようなことを本人は言っていたけど、やっぱり同じ種族に転生した方が後々の都合は良いと思えた。
虫とかに転生したら大変だっただろうし……。
「…………す……凄い……」
「ホンマや……まさか第六階位の神聖魔法を易々と使うなんて……」
「つくづく、死霊であることが惜しい……」
ミディ、レリオ、ラグノートが口々にそう評価した。
その目には驚愕と尊敬と畏怖がごちゃ混ぜになったような感情が浮かんでいる。
何か、俺、やらかしちまった?
「第六階位?」
「ええ、レイジが今唱えた神聖魔法は第六階位魔法である転生魔法になります。三十年以上、神に仕えた司祭ですら使える者は僅かという高位魔法なんですよ?」
アリィがやや呆れ気味にそう言った。
「いや、でも俺はアリィに合わせて魔力を放出しただけで……」
「それだって、あんなに簡単に私の魔力に同調させるなんて容易なことではないんですよ?
正直、何回かは失敗すると思っていましたし」
「だって失敗したらマズいだろう?」
転生魔法失敗したら転生できないじゃん。
「失敗しそうなら途中で中断してましたよ? なのにレイジは最初から完璧に同調してみせたので中断の必要がなかったんですよ」
あ、そうか。
確かに初心者の俺が失敗する可能性もあったのか。
アリィはそのこともちゃんと考慮してたんだな……。
「凄いなアリィは……俺はただ祈るので精一杯だったよ……」
「祈ることに精一杯だったからこそ、失敗しなかったんだと思いますよ……」
とにかく、無事に終わって良かったと、俺を含め皆安堵の溜息をついた。
この後、追撃が無ければ取り敢えずの危機は去ったと言えるだろう。
けれど………………………………。
「レイジ? どうかしましたか?」
「いや……なにか忘れてる気がするんだよな……なんだっけ?」
「?」
「あっ! ああああっ! 馬ッ! 馬が村にいなかったっけ!?」
「「「「………………ああっ!」」」」
そうだ。確かこの村まで馬で来たってレリオは言っていた。
しかも厩は村の中だった筈だ。
そう思った直後には全員村へ向かって駆け出していた。
重装備のまま、馬無しでは近隣の集落まで移動するのも骨だろう。
毒ガスはかなり前に浄化されているが、馬の治療はしていなかった筈だし、あれから結構な時間が経過している。
…………無事なら良いんだけど。
後から追いかける俺の耳に治療魔法の詠唱が聞こえてきたのは、直後の事だった。
■
結局、この夜は予定通りレリオとミディが先に夜営に立ち、後半はアリィとラグノートに後退することとなった。
俺は一晩中起きる事になりそうだった。多分だけど、睡眠は必要なさそうだし。
卵はアリィが教会の部屋に持ち込むようだ。
外に放置する訳にもいかないしね。
ちなみに馬は何とか無事だったらしい。
重馬だったのが幸いしたとアリィは言っていた。
重馬は脚は遅いが軍用馬などに用いられる事が多い大型の馬であり、その分、力と体力がある。
実際、初めて見た時はモンスターかと思ったくらいである。
俺の知っている競馬の馬とは大違いだった。話に聞くばんえい競馬の馬がきっとこの馬に近いのだろう。
で、今回はその高い体力に救われた格好となった。
ただ、明日は無理はさせられないともレリオが言っていた。
で、結局はこの後の夜襲は無かった。
まあ、あのドラゴンゾンビを倒せるとはヴィルナガンとやらも思ってはいなかったのかもしれない。
事実、アリィの魔法が無効化された以上、彼らだけで対処するのは難しかったようだ。
流石に大きさが違いすぎて、アレを人間の手で倒そうとするなら、戦う前からかなりの準備をしないと無理とレリオが言っていた。
ラグノートも戦う場所から選ばないと、人間の手に負える大きさではなかったと言っていたので間違い無いだろう。
ミディも俺を褒めまくっていた。
レイジ様がいなかったら我々は全滅していたとか、国にも被害が拡大しただろうとか、あの魔法は聖女様の魔法に匹敵するとか、壊れたんじゃないかと疑いたくなる程に、次々と褒めてきたのだ。
褒められるのは悪い気はしないのだが、とにかく止まらなかったのだ。
数時間前と比べて完全に掌が裏返っている。
と言うか、褒めちぎり過ぎて逆に怖い。
レリオに助けを求めたが、ちょっと手に負えないと拒否されてしまう程だった。
俺に出来たのは、アリィ達が起きないよう、もっと小さな声で話して欲しいと注意するのが精一杯だった。
それすら、「何という気遣いが出来る方なのだ」とか言うんだぜ?
流石に変わりすぎて引いたよ。
アリィはそんな中でも、比較的冷静に俺に接していたと思う。
俺のしたことについては最初に礼を言っただけで、以降触れては来なかった。
それより、神域での俺の話を聞きたがった。
確かに聖職者からしたら、神の話ほど聞きたいと思うものはないだろう。
だから俺はできうる限り詳細に神域での事を話した。
ラグノートも周囲を警戒しながらも時折、俺の話に耳を傾けていた。
もう二人とも……いや、全員俺が創造神様に会ったことを疑ってはいなかった。
■
無事、夜が明けると、アリィとミディは朝食の準備に掛かった。
レリオとラグノートは村の城壁の外にある焼却炉に似た施設に火を入れる。
焼却炉ににたそれは、村の外にそれなりの距離を空けて配置されていた。
「なにしてんの」
「ああ、これは狼煙の準備をしてるのさ」
俺の問いに答えたのはラグノートだった。
これまで殆ど俺と会話しようとはしなかったのに、夕べの件から少しずつ言葉を交わすようになった。
「狼煙? どこかに連絡を?」
「ああ、ここから少しばかり離れた所に住む領主にな……」
聞くところによると、周囲の村々を管理する領主に使いの兵士を出して貰う必要があるらしい。
簡単に言えば、村をこのまま無人に出来ないと言うことだった。
村人と常駐していた兵士がアンデッドにされた今、どこからか新たに農民を移住させなければならないが、それまで無防備のままには出来ないということだった。
まあ、周囲の畑を見る限り、収穫が近そうでもある。
ここは領地の外れに位置する村なので、野党や魔物の被害にも遭いやすいと丁寧に説明してくれた。
「なもんで、もう暫くこの村におらんといかんのや。レイジとしては早く王都に行きたいとこやと思うけど、ちょっとだけ我慢してえな?」
「多分明日の朝まで出発できないと思うが、そこは了承して欲しい」
「いや、二人とも、そんなに俺に気を遣わなくても良いんだけど……それに馬に無理をさせられないんだろう?」
「済まない。レイジ殿も早く転生したいだろうに」
「いや、そこまで気にしなくても良いって」
実際、俺としてはこのままの状態で転生が遅れてもそれほど困らない。
最終的に正しく転生出来れば良いので、時間に追われている訳でもない俺としては数日の遅れなど何の問題にもならない。
時間が経過したら死ぬとかじゃないし。つか死んでるし……。
やがて、三つの焼却炉モドキから赤い煙が二本、白い煙が一本上がる。
何か意味があるんだろうけど、そのことには触れなかった。
赤い煙の色が、あまり良い意味を指してるとは思えなかったから、敢えて聞くのを避けたのだ。
狼煙を上げて村に戻ると村の中央広場に朝食――スープとパンが用意されていた。
もっとも俺は食えないので、その場から少し離れる。
何かを食べる必要なんて無いはずなのに、何故か食べたいって思っちゃうんだよね。
メシテロされ続けてもちょっと辛いので、皆の代わりにドラゴンの卵を見張っていた。
と言っても、なにか起こる訳でもないんだが……。
アリィが言うにはドラゴンの卵は周囲から魔力や魔力の素たる魔素を吸収しているらしい。
やがて一定量の魔力を吸収するとドラゴンの子供が孵るそうだが、その日数は分からないとの事だった。
さらに魔力ならどんなものでも良いのではなく、ドラゴンの体質にあった魔力や魔素しか吸収できない。
だからドラゴンは自身の体質と相性の良い場所で卵を産むのだそうだ。
これは全てのドラゴンに共通していて、ドラゴンの種類によって住処が異なるとミディが説明してくれた。
勿論、始まりの竜も例外ではなく、炎竜の始祖でもある紅玉炎竜のリーフェンは活火山の近くを住処とし、そこで竜転生をするとの事だった。
その為、王都に戻った後は、王都から比較的近い火山に向かうことになった。
始まりの竜程ではないが、千年を生きると言われる炎竜にこの卵を預けるんだそうだ。
危険は無いのかと聞いたら、実はかなり危険らしい。
何でも炎竜は気位が高く、人間と接触を持ちたがらないそうだ。
「大丈夫なのかね……」
千年を生きるようなドラゴンからしたら、人間など取るに足らない生き物だろう。
そんな生き物の言葉をまともに聞いてくれるだろうか。
下手したら、始まりの竜の卵を持っていることに、下手な疑いを持たれたりしないだろうか?
「お前はどう思う?」
そう言いながら俺は卵を撫でるフリをした。
触れる事が出来ないのでフリしかできないというのもあるが、うっかりエナジードレインとかしてしまわないよう配慮しての行動でもある。
まあ、エナジードレインがそもそも俺に可能なのか不明なんだけどね。
「もしかしたら、レイジはエナジードレイン出来ないかもしれませんね……」
夕べ、アリィにそう言われたのだ。
神聖魔法が使える俺には、対極に位置するエナジードレインは使えないかもしれないと。
それでも、うっかりエナジードレインが発動しないよう、卵に触れないよう注意していたのだが……。
ギュオッ!
今まで感じた事の無い感覚が俺の手から伝わって、俺は慌てて手を引っ込めた。
なんか逆に俺がエナジードレインされているような……。
しかも卵が何か光ってるし……。
これって、まさか?
俺はもう一度、卵に手を寄せる。
ギュオギュオギュオッ!
うわっ!
やっぱり魔力を吸われてる!
俺の魔力と相性が良いのか……って、そう言えば俺の魔力は元々リーフェンのものだったんだっけ?
となると俺との魔力と相性が良いのも当たり前だった。
寧ろ、悪いはずがない。
じゃあ、このまま魔力を与え続けたら、わざわざ火山まで行かなくて済むんじゃないか?
アリィ達が危険に晒されるより、俺が魔力を与えた方がよっぽど良いよな?
魔力を吸われる感覚はちょっと不快だけど、それは我慢出来るし、そもそもリーフェンの魔力を返すんだと考えたら、このまま吸わせ続ける事が最善と思われた。
と言うことで、俺はそのままドラゴンの卵に俺の魔力を与え続けた。
つうか、卵まで朝食を取ってるのに俺ときたら……はあ、何かこの状態でも《食べる行為》が出来る方法はないもんかね?
そのまま何分が過ぎただろうか。
アリィ達も食事が終わり、片付けを始めた頃、卵に変化が訪れた。
ピキッ……。
「おっ……まさか? もう産まれるのか!?」
ピキッ……ピキピキピキッ……。
淡い光を内部から放っていた卵の殻に小さなひびが入り、それが次第に卵全体に広がっていく。
ピキピキピキピキッ……パキィンッ!
ひびから漏れる光がどんどん強くなり、凝視出来ないほど光り輝くと、最期には乾いた音を響かせて卵は完全に割れた。
「ピィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!」
卵から産まれた真っ赤なチビドラゴンは俺を見て嬉しそうに鳴き声を上げ、俺の周囲を飛び回った。
「何してるんですかッ! レイジーーーーーーーーーーーッ!」
そして俺はアリィに怒鳴られた。
アリィ:「次回『どうやら異世界転生したはずが死んでる模様』第十三話『どうやら……」
レイジ:「ちょ、ちょっと早いって、なんかそれ言う前にやることあるんじゃないの?」
アリィ:「…………次回『どうやら異世界転生し……」
レイジ:「だからッ! 怒ってないで、その前にやるべきことをやろうよ!?」
アリィ:「いつも何かやってましたっけ?」
レイジ:「ほら、あの寸劇っぽいやつ……」
アリィ:「無理にやらなくても良いんじゃないですかね? 作者も面倒くさくなってきたとか言ってましたし」
レイジ:「メタ発言するほど怒ってる!?」
アリィ:「では次回『どうやら異世界転生したはずが死んでる模様』第十三話『どうやら俺はドラゴンが成長するまで転生できない模様』……ってこれどういうことですか、レイジ!!」
レイジ:「……それは次回のお楽しみということで…………ではッ!」
アリィ:「ちょっと、こら、まちなさーーーーーいッ!」