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アリィの過去~ミズハとの出会い  ~その1~



 その日、アリィ――アルリアード・レフォンテリアは生涯経験したことがないほど緊張していた。

 なぜならその日は、アリィが聖女と認定され聖域で初めて創造神に拝謁を賜る日だった。

 アリィは幼い頃から神聖魔法への適性が高く、わずか四歳のときに一〇人以上のけが人を一度に治療してみせた。そんな少女が聖女と騒がれるようになるのに、それ程時間を要さなかった。

 実際、アリィの噂が国王のもとに届くまで、一年とかからなかった。



 その後、巨大な対魔結界を展開できることが発覚し、総司教が神託を受けたことも重なり、正式に聖女として任ぜられることになったのだが……。

 田舎の村娘である自覚が抜けないアリィにとって神に拝謁することは、栄誉よりも恐怖が先に立つ。

 冷静さを保つことはとてもできず、膝はガクガクと震え、歯はカチカチと鳴った。

 胸の奥の鼓動がやけにうるさい。

 しかも一部の司祭達はあまりアリィの事を快く思っていないことも感じ取っており、無遠慮な視線に一層の居心地の悪さも感じていた。


「はあ……帰りたい……何で神様に会わなきゃいけないんだろう?」


 アリィは誰にも聞かれないよう、ほんの小さな声でそう呟く。


 ――駄目! 会って一言文句言わなきゃ!


「え!?」

「うん? どうかしましたか? 聖女様」

「え?? いえ! 何でもありません!」


 なに? 今の声……。

 自分の中から知らない声が聞こえ、アリィは少なからず動揺した。

 近くにいた総司教――グロウブルに優しく声をかけられなければ、もっと激しく動揺していたかも知れない。


「そうですか。ではそろそろ聖域へと参りましょうか?」

「はい。よろしくお願いします」


 ――総司教様……なんて優しくて安心する声なんだろう? この人が総司教に選ばれた理由が何となく分かる……。

 アリィは心の中でグロウブル総司教をそう評した。

 

 ――でも、さっきの声は誰の声だったんだろう?

 総司教の声で平静を取り戻したアリィは先ほど聞こえた声について考察するも、答えを持ち合わせていなかった。

 その後いよいよ聖域へと踏み込む事になったため、アリィはその声について考える事を止めた。



      ■



 聖域の扉が、ゆっくりと開かれると、目映い黄金の光が扉の隙間からあふれ、アリィを包み込む。同時に、世界そのものに祝福されるような神秘的な気配を感じ取った。


 光の奔流が収まると、そこには信じられないほどの壮麗な空間が広がっていた。透き通るような白い柱――大理石の用にも見えるがわずかな光を放っており、地上で見たあらゆる材質とも異なっている――がいくつもそびえ立ち、天井からは無数の光が降り注いでいる。その場にいるだけで感じる荘厳な気配は、わずかな風の音すら賛美と祝福の歌のように聞こえた。


 アリィはその場に立ち尽くしたまま、身体の奥底からあふれ出す震えを全く抑えることができなかった。それほどまでに目の前の光景は、アリィがその場に立つことが畏れ多く感じたのだ。


「……ここが聖域……す、すごい……」


 声に出したつもりだったが、アリィ自身の耳には掠れたかのように小さく感じられた。


 もしかしたらあまりに大きすぎる胸の高鳴りが、その声を打ち消してしまったのかもしれない。


「アルリアード・レフォンテリア。」


 名前を呼ばれた瞬間、アリィの身体はビクッと大きく跳ねた。その声は、柔らかでありながら、すべてを包み込むような深い響きがあった。顔を上げると、そこには眩い光の中に立つ一人の女性の姿があった。


 金色の髪が光そのもののように揺れ、紅の瞳が全てを見通すように輝いている。その気高さと神秘的な美しさに、アリィは息を呑んだ。


 そして直感する。彼女こそが、この世界を創造した神――セレステリア。


「初めまして。ようこそ私の聖域へ」


「は、はじ、初めまして……えっと、あの……」


 アリィは何を言えば良いのか分からず、ただ口を開いては閉じた。目の前の存在の神々しさに押され、足が動かない。


「そう、緊張しないでください。ここに立っているということは貴女は聖女として認められたという証。そして聖女に認定されると言うことは、神である私に対し言葉を交わして良いという許可を得たということでもあります」


「そ、そう言わっ……言われ……まし……ても……」


 正直、周囲に求められるまま聖職者となってしまったアリィは、自分の信仰心にあまり自信がない。聖女に認定されるという話を聞いたときも「どうして私が!?」と思ったほどだ。


 つい先ほどまで、神様に会うなんて気が乗らないなんて感じていたからか、いざ実際に目の前に立つと「自分なんかがここにいること自体が不敬ではないか?」とまで考えてしまう。


「そんなことはありませんよ。貴女の魂には私が与えた祝福があります。それ故、私の存在を誰よりも身近に感じていたはずです」


 思考よまれてた!?


 それより祝福って……?


 と、そこまで考えたところで、アリィの胸の奥でピクリと何かが小さな反応をする。それは聖域に入るほんの少し前にも感じていたものと同じだ。


 だがアリィは自身の内に発生した違和感を振り払うようにして一旦他所へと放り投げた。


 今はそんなこと気にしている場合じゃ無い。何か言わなければ……でもどんな言葉を発して良いか……。


 一体、何を言えば……。


(――文句の一つも言わなきゃ気が済まないわッ!!)


 突如として己の内に沸いた強い感情と、己が発するつもりが全くなかった言葉にアリィはひどく動揺した。動揺を抑えようと、思わず胸に手を当てる。


「おや? まさかこんなことになろうとは思いませんでしたね」


 セレステリアの目が、驚愕のためほんの少しだけ普段より大きく見開かれる。


 その目はアリィではなく、アリィを通して誰かを見ているように感じた。


「あの、セレステリア様……もしかしてこの声になにか覚えがありますでしょうか?」


 やっとの思いでアリィはその言葉を口にした。


 セレステリアはその問いに優しい笑顔と静かな頷きにて答える。


 それを見たアリィは大きな安堵を得るが、同時に自身の中の「何か」はますます大きく膨れ上がる。それがアリィを再度不安にさせた。


 そんなアリィを見て、セレステリアはその紅い瞳にわずかな憂いの色を見せた。そしてその直後、セレステリアはアリィを引き寄せその豊満な胸でアリィの身体を包み込むようにして抱き寄せた。


「え? え? えええええええええええええええええええッ!!」

 突然の女神の抱擁に、アリィは驚愕と困惑の濁流に飲まれた。


(え? どういうこと? 何が起きてるの? てか、でかッ! あと柔らかッ! ってそうじゃなくて! これ人として許されるの!?)


 創造神に抱きしめられるというあまりに唐突な事態にアリィの思考は混乱の極地に至る。

 身体が硬直したというか、どこを動かしてもマズい事態に陥りそうで下手に動けない。


「落ち着いてください。あなたの中のもう一人のあなたが再び目覚めようとしています。少しだけ、そのものに私の力を注ぎます」


 ――いや、そんなことを言われましても、一体何のことだか全く分からないのですが……というかもう一人の私?

 そう思った矢先――。


「ちょっと! 離してよ!」


 そう言ってセレステリアを突き放してしまった!

 それと同時に全身から生命の源となる力――オドがはっきり認識できるほどの強さで放出された。あまりの強さに空間が軋みをあげる。

 そんな勢いでセレステリア様を突き放すなんて! なんてことを! 不敬! 不敬! 不敬! なのに未だにその豊満な肉体に身を委ねているなんてなんて破廉恥な!

 と思ったところで何かがおかしいことに気がつく。


 アリィ自身はいまだにセレステリアに抱きしめられたままだというのに、確かに突き飛ばした感覚だけは手に残っている。さらに聖域にはアリィとセレステリアの二人しかいないはずなのに、背後から人の気配が――。

 そう思った瞬間、聖域の空気がビリビリと震えた。先ほどまでの神聖な光が揺らぎ、次第に違和感が広がっていく。そして――。


「何時になったら先輩に再会できるのよ! 嘘つき!」


 文字通り吐き捨てるような声が――先ほどアリィの頭に直接聞こえたのと同じ声が聞こえたのだ。そしてその声は先ほどアリィの頭の中に聞こえた声と同じだった


 ようやくセレステリアから解放されたアリィは声の方を振り向いた。

 そこには長い黒髪を左右に分けて束ねた見知らぬ少女が立っていた。

 明らかにセレステリアに対し敵意をむき出している少女を見て、アリィは驚きのあまり息を飲んだ。まして罵声など考えられない。


「……誰? この子は……?」


 アリィは呆然とその少女を見つめることしかできなかった。



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