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ミズハ……もう一人の転生者の想い ~その6~

      ■



「はれ?」


 気付くと私は真っ白な空間にいた。


「ここ、何処?」


 真っ白過ぎる世界。これが死後の世界というならあまりにもベタな風景じゃないですかね?。

 その白い世界の真ん中に、ポツンと一つだけ扉があった。何処かへ行けそうな感じがバリバリします。まあ、ドアノッカー付いてるのでピンクのアレとは違うんでしょうけど……。

 ふと、思いついて実践してみることにする。


「先輩のいるところへ!」


 そう言って私はドアノブを引いた。


「すみません。そういう扉ではないんです」

「ふうぇっひ!」


 扉を開けた先から澄んだ女性の声が聞こえて、思わず変な声が漏れてしまったじゃないですか!? いや、ムチャクチャ恥ずかしいんですが!?

 ってあれ?

 そういう扉ってのを知ってる人?

 声のした方を見ると、そこには一人の女性がいた。

 金髪の女の私ですら見惚れる程、美しい女性だった。あと、胸が私よりかなり大きい。軽く嫉妬すら憶える。この位の大きさがあれば、先輩に色々してあげられたのに……。


「あの……私の胸を見て、妙な妄想するのは止めて貰って良いでしょうか?」

「うえッ!? 思考が読まれてるんですか!?」

「ええ、まあ。有り体に言えばそうですね。一応神と――創造神と呼ばれる存在ですから」


 ――神? 何かの冗談でしょうか?


「冗談ではないのですがね」


 うーん。思考に返答されるのは心臓に悪いですね。

 あ、心臓潰れたんでしたっけ?

 視線を胸元に落とす。

 傷が――ない?


「あーーーー……質問、良いですか?」

「ええ、構いませんよ? 色々と混乱していらっしゃるようですし」

「ここは……死後の世界なんでしょうか?」

「いえ、ここは《神域》と呼ばれる領域です。貴女はこの後、輪廻に帰り転生するのですが、その前にお話ししておかなければならない事があり、ご足労願った次第です」

「神域……なるほど。やはり私は死んで、何らかの理由により神様である貴女に呼ばれたという認識でよろしいでしょうか」

「理解が早くて助かります。あと、先に行っておきますが私は貴女が生きていた世界の神ではありません。名をセレステリアと申します」

「自己紹介痛み入ります。私は倉志摩ミズハと申します」


 異世界の神というヤツですか。

 最近、暇潰しに読んでいたWEB小説にそんな展開が幾つもありましたが……まさか自分がそんな展開に巻き込まれるとは思いませんでしたね。

 というか死んで神様に呼ばれるとか……そこまでありきたりな展開でなくても良いと思うのですが……。


「ありきたりですみませんね」

「あまりヒョイヒョイ思考を読まれるのは良い気分ではありませんね」

「それは失礼しました。以降は思考に返答するのは控えましょう」

「思考を読むことは止めないんですね?」

「例え私が『読むのを止めた』と言ったところで、貴女に確認する方法がありませんし」


 まあ、確かにそれはそうだ。

 読まれたという感覚が無いならば、疑っても仕方ない。恐らく相手からすると当たり前のように『読めて』しまうのだろう。ならば、これ以上は警戒しても仕方ない。

 無関係な思考を繰り返す等の対応は取れるが、それをすることに意味はなさそうです。


「取り敢えず、そちらにお座りになってはどうでしょうか?」



      ■



「なるほど。つまり私の魂に絡みついた因果を解くために、別の世界――フォーディアナに転生する必要がある……ということですか」

「はい。その認識で間違いありません」


 娘だからという理由で養子に出され、弟のための警護人として育てられた。さらに血の繋がった兄――先輩と恋愛して結ばれて……先輩を傷付けた挙げ句、永遠に失った。最期は先輩の仇である実母を殺そうとして義母に殺された。

 魂に特殊な因果が絡んでる事が原因だったなんて説明されたらあっさり信じてしまいたくなる。

 うん?

 あれ?

 もしかして?


「あの……以前『向日島レイジ』って男の人がここに来ませんでしたか?」


 私の言葉に、セレステリア様は少しだけ驚いた表情を見せた。


「どうして、そう思ったのですか?」

「私の魂が特殊な因果に絡められて人生が歪んだなら、同じような因果に絡められた人がここに来ててもおかしくないと考えました」

「なるほど」


 セレステリア様の反応を伺うが、これと言って不自然な反応を見せることもない。うーん、これでは先輩が来たかどうかの確証は得られそうにないですね。


「確かに来ましたよ。少し前の事になりますが」

「え?」

「どうかされました?」

「い、いえ……答えて貰えるとは思わなかったもので……」

「お答えしても問題ない話ですので」


 そうか……やっぱり先輩も……。


「そ、その人はここに来て……その後どうしましたか?」

「貴女と同じように……いや、それ以上に悪しき因果が絡みついていましたからね。神の祝福を与えて転生させました」

「あの……その人とまた会えるようなことは……」

「そうですね。同じ集落に産まれるとか、そういった『運命』を整える事は可能ですが……それを望みますか?」


 その質問に対して、私の答えは一つしか無い。


「心の底から望みます」


 私の言葉に、セレステリア様の目が少しだけ険しくなる。

 きっと今、心を読まれてる。少しばかりの恐怖を覚えるが、それでも私が抱えている思いは嘘偽りない私の本心だ。だったら堂々と振る舞おう。


「貴女もその人も前世の記憶は無くなります。例え出会えたとしても、またお互い好きになるとは……恋人になれるとは限りませんよ?」

「それでも……例え先輩だと分からなくても……少しでもその魂に寄り添えるなら、私はそれを選びたい……」


 そう。

 もし再び生を受けるなら、もう一度先輩と出会いたい。例え記憶が無くても……。


「分かりました。向日島レイジと同じ地に産まれるように、貴女の魂を祝福しましょう」

「え?」


 私は己の耳を疑い、少し間の抜けた声を発して顔を上げた。

 そこには、まさしく女神の微笑みでもって私を見るセレステリア様がいた。

 そして私は、女神の祝福を受けて転生した。

 その時をもって、私は倉志摩ミズハとしての人生を終えたのだ。

 私自身は新たに生まれ変わり、アルリアード・レフォンテリアとして生きることになった。



      ■



「今回は立ち会わなかったのですね。レイジ以外には興味なし……ですか?」

「いや、そういう訳じゃないんだが……」


 少しばかりむくれているセレステリアを前に、オグリオルは困った顔をして縮こまる。

 セレステリアは。長いこと人の魂と触れ合う事を避けてきたオグリオルが、ようやっと己の過去を見直すようになったかと思ったのだが、それは自分の思い違いであったのかと落胆していたのだ。

 ただ、オグリオルの言い訳を聞く限り、何か別のことが気になっていたようだった。


「で、一体何が気になっていたのですか?」

「いや、そのレイジの事なんだが……」


 やっぱりレイジ以外に興味はないんじゃないですか……とセレステリアは思う。

 どうもオグリオルとレイジは魂の波長が合うらしい。セレステリアの眼から見ても、オグリオルはかなりレイジを贔屓目に見ているようだ。


「レイジの魂が消えた」

「は? 一体何を……」

「だから、レイジの魂がこの時空から消えたんだ」


 オグリオルの言葉に、セレステリアは女神とは思えない程に眼を見開いて驚愕する。

 そもそも祝福を受けた――しかもセレステリアとオグリオルの二柱の祝福だ――魂が何かのトラブルによって時空から消失するなどあり得ない。

 それはこの二柱に匹敵する存在による影響が無ければ、それこそ不可能だ。そしてそんな存在に憶えがある筈もない。

 あるいは……。


「運命に翻弄されるほどの不幸な因果がレイジの魂に絡みついていたとか……」

「ナニソレコワイ……」

「怖がっている場合ですか。それより急ぎレイジの魂を捜索しないと……」

「恐らくは……いや、確実に未来……十数年から二十数年後くらいの未来に飛ばされたのだと思う。ただ君も知っての通り俺は未来視が得意ではないから……」


 実のところオグリオルの力はセレステリアに比べ偏っていた。

 神としての力そのものはセレステリアよりオグリオルの方が強いのだが、応用力という意味ではセレステリアに大きく劣る。いわゆる万能タイプではないのだ。

 それでも大昔に比べれば大分マシになってきているのだが、こういう時はいささか頼りない。


「分かりました。私が確認します」


 セレステリアは大きくため息をつくと、手近な水場に寄り未来視を行った。

 水面にフォーディアナのあらゆる地、あらゆる未来が次々と映し出される。勿論この未来全てが実現するとは限らない。未来とは不確定なものなのだから。

 ただ、セレステリアは無数の未来の中から、確定した未来を探し出すことに長けていた。

 レイジの魂がこの時空から消え、オグリオルが未来に飛んだと明言したのだ。ならばレイジの魂が未来に現出する事象だけは確定している。セレステリアはそれを探した。


 向日島レイジは魂の状態のまま、二〇年近い未来にて召還されていたのが発覚するのは、それからすぐのことだった。


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