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どうやら俺が神聖魔法を使えるとばれるのはマズい模様

前回の登場人物

向日島レイジ:本編の主人公。初めて魔法を使ったら自爆したでゴザル。


アルリアード・セレト・レフォンテリア:通称アリィ。結構、無謀なところがあることが判明。


ミディリス・ナスナ・フィルディリア:通称ミディ。アリィに仕える騎士の一人で聖騎士。


レリオード・ナスガ・クルツェンバルク:通称レリオ。アリィに仕える騎士の一人。


ラグノート・ナスガ・ブランディオル:アリィに仕える騎士の一人で隊長格。実はこの人はお目付役かもしれない。


リーフェン・スレイウス:死霊術師ヴィルナガンの手によってアンデッド化したドラゴン。


 えぐぅ……。


 全身痛いし気持ち悪いし動けねぇ。あと巨体化を維持できなくなって縮んだ。

 ターニングアンデッドは範囲呪文だったか……ただし、俺も目標に含む……。

 いや、こう言うのって普通、俺は含まなくね!?

 自分もダメージ受けるマップ兵器ってなんだよ!

 ……マップ兵器というより、自爆兵器だわ。これ。


 しかも、アリィの魔法より痛いよ……なんで?

 もしかしてあれか、魔法が違うからか?


 アリィが俺に放ったのは《破邪魔法》といって本来は悪魔などに使う魔法らしい。

 俺は邪悪な魂ではないから利きにくいとは聞いていた。

 対して、今回使ったのは《ターニングアンデッド》という対アンデッド用の魔法である。

 …………多分。

 まあ、ゲームでも《ターニングアンデッド》はアンデッド用の魔法なので、間違ってはいないだろう。

 そして認めたくないが、今の俺はアンデッドである。

 痛いのは当たり前だった。

 痛いで済んでるだけ、マシとも言える。


 いや、待てよ?

 俺が《痛い》で済んでいるなら、ドラゴンゾンビに対しても大きな影響は出てないんじゃ……だとしたらアリィ達が危ない。

 俺は何とかして身体を起こして、ドラゴンゾンビを探す。

 そんな俺の焦りは杞憂でしかなかった。ドラゴンゾンビは俺の目の前で倒れ伏したまま、文字通り糸が切れたように動かない。

 全身からはシュウシュウと煙を上げ、さほど時間を掛けずに土に返りそうな雰囲気すらあった。

 予想以上に《ターンアンデッド》は相当な効果を発揮したようだ。


 俺はゆっくり近付いて、ドラゴンゾンビに触れようとする。

 先ほどまでドラゴンゾンビの全身に絡みついていた《魔力糸》は完全に消え去り、伸ばした俺の手は何の抵抗もなくドラゴンゾンビをすり抜けた。

 全身の《魔力糸》が消えたのなら、もう動き出すことはないだろう。

 俺はその事実に心底ほっとした。

 あの時、セレステリア様とオグリオル様の声が聞こえなかったらどうなっていたことか……あの声に後押しされなければ俺は魔法を使おうとは思わなかっただろう。

 自分も巻き込むのは想定外だったけど……。

 それでも俺の心にはアリィ達を守れたという充足感があった。


 そうだ。アリィ達はどうした?

 そう思って周囲をみると、割と近くまで来て俺を驚いた様な顔で見ていた。

 と言うか、全員驚き過ぎだろう?

 目玉飛び出るんじゃないかってくらい目を剥いている。

 ミディなんか、軽く頭を叩いただけでこぼれ落ちそうだ。

 幽霊の俺には物理的に叩けないけど。

 あ、レリオだけは糸目のままだった。


「? どうかしたか?」

「……どうかしたか? じゃないですよ!」


 いきなりアリィに怒鳴られた。

 助けたのに怒鳴られるとか心外なんですが?


「怒ることないのに……」

「怒っているんじゃ無いです! 驚いてるんです!」

「そうなの? 怒ってるんじゃ無ければいいけど……」

「確かにちょっと冷静じゃなかったですけど……それは仕方ないじゃないですか……」


 アリィの言葉に他の三人がうんうんと頷く。

 いや、理由が全く分からないんだが?


「もしかして、レイジ……事の重大さを分かってないんとちゃう?」

「え?」

「やっぱり……」


 レリオまでそんな事を言ってくる。

 事の重大さって……そんな大袈裟な。


「え? 俺なんかヤバいことしちゃったの?」

「いえッ! そんな事はありませんッ! 寧ろ物凄い偉業だとおもいますッ!」


 気まずそうにしていた俺をそう励ましたのはミディだった。

 …………って、お前誰だよ!?

 ドラゴンゾンビが来る前と反応違いすぎるだろ?

 それとも毒を吸い込んでおかしくなってしまったのだろうか?

 だとしたら労ってやらねばなるまい。


「何か、失礼な事を考えませんでしたか?」


 おおっと。

 ミディの言葉に俺は慌てて首を横に振る。

 女の勘が怖いのはどの世界でも同じかね。


「しかし、レイジ殿……一体、いつの間にあれほどの魔法が使えるようになったのですか?」


 ラグノートが俺にそう問いかける。

 というか『レイジ殿』ね……。

 この人もなんか変わってない?

 そう言えば、皆して何か敵意というか、警戒心の様なものが急に薄れた気がする。


「魔法……ああ、魔法か。なんかさっき声が聞こえて使えるようになった?」

「「「「はあ?」」」」

「四人ともさっきから驚きすぎだろ?」

「…………声って……誰の声か分かりますか?」


 俺の声で我に返ったアリィが、おずおずと俺に質問する。


「ん? 多分あの声はセレステリア様とオグリオル様かな?」

「「「んなっ……」」」

「……………………」


 また驚いてるよ。

 アリィに至っては完全に言葉を失ってるし。


「そんなに驚く事じゃないだろ? アリィだって神託とかって受けるって……それに今はもう聞こえないし……」

「いやいやいやいや、いくら私でも、教会や特殊な聖域でもない所で神様の声を聞くことなんてできませんよ!?」

「それどころか普通の人間には不可能ですよ、レイジ殿」

「これはあれやな……レイジが祝福を受けたって話はホンマみたいやな?」

「…………………………」


 え?

 無理なの?

 これはちょっと予想外というか……失敗した?

 てっきりこっちの世界では、神の声を聞くことはそれほど特殊なことじゃないと思っていたのだが、どうやら《聖女》であっても、神の声を聞ける場所が限られるらしい……。

 道理でそれぞれの反応がおかしい訳だ。

 アリィはやや興奮気味だし、ラグノートはなんかさっきから俺の扱いがすげぇ良くなってるし、レリオも驚きっぱなしだし……ミディは…………なんかこの人、俺を見て固まってるんですけど? しかも顔が赤いんだけど……嫉妬のあまり頭に血が上り過ぎてないか?


「それに、アンデッドに分類される死霊が神聖魔法を使うなんて……過去にも例がないですよ?」

「そうなの?」

「当たり前じゃないですか!」

「いや、魔法を使うアンデッドとかっていそうだけど……」


 ヴァンパイアとか存在してるかは知らないけど、いたら使えそうだし……。


「確かに他の魔法なら使うアンデッドは存在しますよ? 魔術師で自らをアンデッドにしてまで研究を続ける不死魔術師(イーハイサー)なんてのも存在しますが、それでも神聖魔法は使えませんよ! 絶対に無理です! 神様に仕え、神様を信じる者の中でも極一部の者にしか使えないんですよ!? まして、輪廻の理から外れたアンデッドに神聖魔法が使える筈もありません!」

「ちょ……アリィ、お、落ち着いて?」

「あ、ああ……すみません。ちょっと興奮してしまいました」


 こんな美少女に『興奮した』なんて言われたらこっちが興奮しちゃうって何考えてんだ俺。

 それより、アリィが冷静でいられなくなるようなことだったのか……。


「例えばだけど、邪神とか暗黒神みたいな悪い神様とかに仕えてたら、神聖魔法を使えたりしないの?」

「いえ、その場合も使えるのは神聖魔法ではなく、暗黒魔法なので……神聖魔法は創造神様か光の六大神、またはその眷属の神様を信仰している者にしか使えません」


 ちょっと冷静になったのか、先ほどよりかなり落ち着いた様子でアリィがそう答えた。

 なるほど。

 暗黒の神が神聖ってのは確かに違和感があるわな。

 ちょっと待てよ?


「信仰心が高くないと普通は使えない?」

「そうなりますね……」


 元日本人なので、信仰心ってものには縁遠いんだが……。

 盛大にクリスマスを騒いだ一週間後には神社にお参りに行ってるけど、どっちの神も信じてないのが日本人だからなぁ……。

 誰かと盛大にクリスマスを騒いだ記憶が近年無いけど……。

 あ、でも……。


「創造神の二柱ふたりに会ったのか大きいのかな?」

「恐らくはそうでしょうね。レイジはそのお陰で自然と神様の存在を認めているんだと思います」


 それなら納得だ。

 元の世界では神を身近に感じることは無かったけど、この世界では直接会って話をしてるからな……俺の中の神に対する認識が前の世界とは違うんだろう。


「それでも、こういう言い方は失礼かもしれませんが、アンデッドが神聖魔法を使うのは前代未聞ですが……」

「やっぱりそういうものなの?」

「アンデッドは輪廻の理から……遠慮の無い言い方をするなら神様の理から外れた存在ですから……」

「神の教えを否定する存在……神の敵なのか……」

「そうですね……ですから、神聖魔法を使えるアンデッドは今まで存在した事はありません」


 まあ、そういうことなのだろう。

 神の理に反した敵でありながら神の業が使えるなど、司祭などから見たら己の信仰や、己の存在すら否定しかねない。

 ……あれ?


「もしかして俺、神聖魔法が使えることを知られるとマズい?」

「そうでしょうね……教会も一枚岩ではありませんから、派閥によっては何が何でもレイジの存在を抹消しようとする一派もあるかもしれません」


 なにそれ…………幽霊の俺より人間が怖いッ!

 せっかく魔法を使えるようになったと思ったのに、大っぴらに使えないとは……。

 もっとも、王都に行って転生するまでそれほど時間も掛からないみたいだし、今この状態で魔法が使えなくても良いんだけどね。

 …………………………良いんだけどね……。

 未練たらたらじゃねぇかって?

 仕方ないだろッ!


「ですから、皆もレイジの事は秘密でお願い致します。トラブルの原因になりますので」

「「「はいッ!」」」


 アリィがそう促すと、三人の騎士は背筋を伸ばし、一斉に返事をした。

 まあ、俺の事を思ってというより、アリィがトラブルに巻き込まれるのを避けたいんだろうけど……。


「……………………レイジ様……」


 おう……なんか背筋がゾクっとした。

 なんか、ミディの視線が怖いんだけど……さっきまでとは別の意味で……。

 本当にあの人、どうしちゃったの?

ミディ:「はあ…………レイジ様……」

アリィ:「………………………………」

ミディ:「レイジ様……レイジ様…………レイジ様ッ!」

ラグノート:「………………………………」

ミディ:「レイジ様レイジ様レイジ様レイジ様レイジ様レイジ様レイジ様レイジ様レイジ様レイジ様レイジ様レイジ様レイジ様レイジ様」

レリオ:「ちょっとミディちゃん!? それは流石にチョロいを通り越して怖いわッ!」

ミディ:「わ……わわわわわ私はチョロくなど無いぞッ!」

レリオ:「そっちの単語に反応するんかいッ! つうか、レイジは死霊なんだから踏み込み過ぎちゃ駄目やで?」

アリィ:「そうですよ、レイジを愛でるにしても、アレはすぐ死ぬペットくらいに思っていないとッ!」

レイジ:「表現がヒドいッ!」

ミディ:「ああ、レイジ様ッ! 次回『どうやら異世界転生したはずが死んでる模様』第十一話『どうやら俺はドラゴンを転生させる模様』。そんな事までしてしまうなんて流石はレイジ様ッ!」

レイジ:「あの……これ止められないの?」

アリィ、レリオ、ラグノート:「「「無理!」」」

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