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こまんど1:そして でんせつ へ ・・・

 ――世界は喧騒に包まれた。


 辺り一面を完全に焼け野原に変えた灼熱の炎。

 被害の甚大化に伴ってさらに交錯する人々の悲鳴。

 昨日まで静かで平和だった街の見栄えが、原型を留めないほどにひどく乱れ散っている。


「うわぁ!!」


 その何処かで、苦し紛れに強大な敵と奮闘する人々の気配。

 たった一つの街のために、たった一つのパーティが、たった一つの邪悪と交戦している。

 だがその大半――いや全員が、無残にも不利な戦闘を強いられ、でたらめに地に這いつくばっていた。


「うッ……くッ……」

 

「こんなにも……大きな力の差がッ……」


 聖騎士や魔法使い――それに戦士含めその他諸々まで、あらゆる役職の冒険者たちが呼吸を荒げて地面に俯く。

 武器や防具は形を忘れ、使用できるアイテムやツールも枯渇し、動かす身体すらもひどく傷付けられた一行。

 その様子に一切の余裕はなく、むしろ悪化する戦況に焦燥とする恐怖心さえも伺えるほどに、彼女らは過去にない最大のピンチに陥っていた。


「ハーーーッハッハッハッハッ!!無様無様ァ!!この大悪魔エギル様に歯向かおうなど半世紀早い!!所詮貴様らなど下等種族は、死を待つ運命にしかないのだ!!ハーーーッハッハッハッハッ!!!」


 その反対側に、派手な高笑いを決め込みながら遥か上空で滑稽とばかりに苦しむ彼女らを高見する狂気の男が一人。

 右手には紫色の炎が纏われ、まさに巨悪とばかりの不穏なオーラを存分に体外へ放出している。

 いかにも悪の象徴と伝わる分かりやすいフォルムと気性――まさにそれこそが彼女らの相対する最大の脅威であることが、どんな人間からも目に取れるようだった。


「ダメです……私たちにはもう魔力が……!」


「武器もボロボロ、体力も限りなくゼロに近いわ……」


「これ以上……一体どう対抗すればいいんだ……」


 その圧倒的な戦力の格差に、パーティは揃ってこの上なき絶望を覚える。その瞳に既に光は映っていなかった。

 最早望みのある手段はない。まして敵も容赦というものを知らない。 

 このままでは恐らく、いや確実にこの街は――世界は、崩壊の一途を辿ることになるだろう。


「フン、しかし……まさか最後の希望とも言える貴様ら冒険者たちがこの体たらくとはな……興醒めだ!!もう貴様らに用はない!この一撃を持って跡形なしに消えてもらう!!」


「せめて散りざまだけででも、我を満足させてみることだな!ハーーーッハッハッハッハッ!!!」


 もう一度高笑いを決め込んだところで、有利を握る大悪魔は右手を天空に向けて大きく広げる。

 その掌には、(おぞ)ましい闇の色が多々混ざりあった奇怪な球体が湧き出ていた。


「なんだアレ……!」


「どんどん大きく……!」


「魔力をチャージしているのか……!?このままじゃあ……!!」


 かつてない未知なる攻撃――だが、その正体を知り得ていなくても大方その後の想像はつく。

 あの一言に加えて、あれだけの魔力の濃厚さ。さらにあの勝ち誇ったような恐ろしく憎たらしい表情。

 間違いなく、この攻撃で全てを消し去るつもりだ。


「くッ……」


 


 ――もう……終わりだ――!!


 そう誰もが予期し、理不尽な無念を察して瞼を閉じる。

 最悪の展開――救済の余地など毛程も見当たらないことだろう。

 逃れられない結末。大人しくバッドエンドへの道のりに素直を覚えようとした――


 ――その瞬間だった。




 ――――またせちまったな――――




「!」


「はっ!」


「今のは……!」


 背後の足音に反応して、彼女らはシンクロしたように一斉にそちらの方を振り向く。

 大悪魔についてもどうやらその存在を見つけたようで、溜め込んだ魔力を徐々に緩めながら目を細めて同じ方向を覗く。


 そう、それは既に予定されたように。


 そこに現れたのは、至極勇敢。まさに「勇ましさ」を背中に携えた、身の丈ほどの剣を掲げる一人の剣士。

 堂々とした足取りに、敵を見据えた逞しい顔つき。

 そして誰もがいつ何時、何処だろうと強く信頼してきた、その存在感。


「き、貴様っ!!貴様はァ!!」


 ようやく正体を認識して、大悪魔が僅かにたじろぎ、黒い額に冷や汗を浮かべる。


 そう、そこに大胆不敵に現れたのは――


 現れたのは――!




【さあ しょう たいむ と い()うか】




 ――メッセージウィンドウの付属した、ぎこちないファイティングポーズをキメる真顔の勇者だったのだ!



 ***



「最悪だ、大事なセリフで誤字った。最悪だ」


「そんなことで落ち込んでる場合じゃないですよ!」


「恥ずかしいもう。死にたいもう。死ぬわ。あなたを殺して私も死ぬわ」


「どんなヤンデレ?というかそんなことより!まずはボス戦前でセーブしておかないと!」


「あーあ。俺もセーブデータ残しておけばよかった。16ギガのSDカードに記録して保存しておけばよかった。全部リセットしてぇ。子宮からやり直してぇ」


「ちょっと成瀬さん!聞いてます!?」


「どうせならフライパンに生まれたかったな。ホットケーキやら目玉焼きやらおいしそうな具材をジュワッてさせる鉄製のフライパンに。パンはパンでも食べられないパンはピーターパンなんつってぶわははは」


「メンタル貧弱なんですか!?気をしっかりしてください!」


 ――かわいい女神様に肩を揺さぶられ、かつ軽く叱られながら、歴戦の勇者とは程遠い虚しい背中で俺は暗闇の中大きな液晶テレビに向かってコマンドを選択する。


 そう、予め言っておこう。


 俺の声を聞いているみんな、そしてチート主人公の異世界転生をお望みのみんな、とても残念なお知らせだ。


 この勇者は――コイツは本当は勇者であって勇者じゃない。


 コイツを動かすプレイヤーこそがまさに世界を救う勇者であり、唯一の希望。


 コイツを操作するコントローラーこそが勇者を手助けするエクスカリバー。


 本当のヒーローはこの俺――本来異世界に向かうイケメン転生高校生主人公になるはずだった、成瀬ナツなのだ。

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