欲しいのはあまいもの?
注意!
ジャンル恋愛だけど、本編中に恋愛要素はありません。
ついでに主人公の恋愛相手も本編中には一行しか出てきません。
尽きることなく強力な魔物が湧き出し、絶え間なく強者が弱者を襲う地獄のような場所。
過酷な生態系を構築する其処は、歴史書にも地理書にも『魔の森』の名で刻まれている。
だがしかし、過酷だからこそ独自の進化を遂げた生命が存在する。
他にはない貴重な固有種。
ありとあらゆる理由で、魔の森にしかない動植物を欲する者は存在する。
それは魔の森の効能が強い薬草を求める、病がちな子供を抱えた父親であったり。
それは強力な武器を作る為、強い魔物の牙や爪を欲する鍛冶師であったり。
様々な理由で、様々な立場の者達が森に棲息する固有種を喉から手が出る程渇望した。
しかし何の力もない一般人が立ち入っても、結果は死ぬだけだ。
戦闘能力、生存力の低い人間は、森に入って生きて戻ることはかなわない。あらゆる意味で。
だからこそ、目的を持つ者達の代行として素材を採取する仕事は需要が高い。
そして多くの場合、それらの依頼を遂行する為に動くのは『冒険者』と呼ばれる者達であった。
魔の森と関わる機会の多い冒険者たち。
彼らの間では、不思議なことに『魔の森』は別の名称で馴染んでいた。
命がけで魔の森に分け入り、広大な木々の間を駆け回って目的の依頼品を探し回る。
時には何日も時間をかけて。
時には、本当に命を落とす目に陥りながら。
彼らは決して死ぬ為に森に入る訳ではない。
だが彼らの間では、魔の森は『墓場の森』と呼ばれていた。
ウィンレイ・ウィンスロウは齢19になる女冒険者であった。
まだまだ年若く瑞々しい年代だ。
特にウィンレイは貴族の傍流という出自によってか、市井の者にはない生来の気品を備えている。
上流階級の血筋を思わせる淡い金髪に、翡翠の瞳。
涼やかな印象は剣士の出で立ちに高められ、華やかな中に凛々しさを併せ持つ雰囲気に昇華している。
要は下町ではお目にかかれないような美しい女性だった。
ともすれば、荒くれ者の冒険者に舐められそうな程に。
しかしそれで潰れずやっていける程度には、彼女の腕は立った。
冒険者ではなかったが、退役騎士である父に鍛えられて育った剣の腕前。
女性の軍属士官を認められていない国にさえ生まれなければ。
女騎士が認められている国にさえ生まれていれば。
そうだったならウィンレイはきっと、冒険者ではなく騎士になっていただろう。
冒険者よりはそちらの方が似合いであった筈だ。
ウィンレイが腕に身を託して冒険者の扉を開いてより、既に6年。
魔物や遺跡の罠を相手に、もう6年もの時間を生き延びてきた。
もう彼女は駆け出しとは呼べない。
それなりに腕と名の知れた中級冒険者だ。
つい先日、彼女が自負できる程度には冒険者のランクも上がった。
そろそろ新しい仕事に手を出しても良い頃合いかもしれない。
思い付きで行動する危険性は重々承知していたから、充分に考えた結果。
ウィンレイは「駆け出しの内は……いや、Cランクになるまでは絶対に手を出すな!」と先輩冒険者達から口を酸っぱくして言われていた仕事に……『魔の森』関連の採取依頼に手を伸ばした。
剥ぎ取った依頼書を手に冒険者ギルドの受付に向かうと、依頼書を読んだ職員に微妙な顔をされた。
「そうですか……ウィンレイさんも、もう冒険者歴6年ですからね」
「ええ。冒険者ランクも先日の昇格試験に受かったのでCです。依頼の受注条件は満たしているでしょう?」
「確かにそうなんですが……。いえ、でもこれも経験ですよね。いつかは挑んで回数を重ねなければ成長はありませんし。何事にも初めの一回はあるでしょう。わかりました、この依頼はウィンレイさんにお願いします」
「……あの、未だかつてなく歯切れが悪いこと言っていますが。本当に構いませんか?」
どうして依頼を受ける自分の方が念を押して確認しているんだろう。
そう思いながらも、初めて見るギルド職員の微妙な反応に若干不安を覚えたことは確かで。
微かに困惑を顕わにする彼女に、ギルド職員はちょっと苦めの半笑いを浮かべた。
「大丈夫です。ウィンレイさんが受けられて問題はありません。
問題はありませんが――地元民に気を付けて下さいね」
「地元民?」
思い掛けない言葉に、ウィンレイの顔が怪訝なものとなった。
一般人が立ち入れば命はないとされる、『魔の森』。
なのに地元民に気をつけろとは一体。
「実はあまり知られた話ではありませんが、魔の森の奥には地元民の暮らす村がありまして」
「は? 村!? 魔の森に、村!?」
「ええ。国に納税もきちんとしている、極めて模範的な村がひとつばかり」
「もはんてきなむら」
はて、模範的とは一体なんであっただろうか。
魔の森の世に知られた印象と重ならず、ウィンレイは理解に苦しんだ。
「そして、ここからは冒険者にとって少々情けない話になるのですが……」
微妙にギルド職員の声のトーンが変わった。
それを察して、ウィンレイは居住まいを正す。
言われてみれば冒険者は、一般人が森に入れないので目的を代行しているのである。
そこに森の中には地元民がいますなどと言われては、もしかしたら村人との直接的な商いが始まるかもしれない。そうなってしまえば、冒険者は大事な仕事の一分野を失ってしまうことになる。
もしや地元民の存在が公になっていないのはその為かと、ウィンレイはギルドの悪意を疑った。
だが、ウィンレイの推測は、斜めの方向に突き抜けた真実を前にして圧し折れた。
「ウィンレイさん、恐らく先輩冒険者の方々に忠告を受けているとは思いますが、魔の森に入るにあたって――『甘いモノ』は持ちましたね?」
「え、あ……はい。一応、楓の樹液を煮詰めた飴玉を一缶」
この流れで、何故そこを確認されるのか。
ウィンレイは肩透かしを食らったような気持ちで、きょとんと首を傾げる。
確認が必要かと思って、わざわざ鞄から飴の缶を取り出して見せてみる。
サトウカエデの葉をデフォルメしたロゴの、この辺りで一般的に手に入る飴缶だ。
うんうんと頷きながら、ギルド職員は何故か「保険にあと二缶程持って行った方が良いでしょう」などと勧めて来る。どういうことだ。
場所柄にもよるが、この辺りで甘いものはそこそこ貴重だ。
砂糖は値が張るし、蜂蜜も簡単には手に入らない。
幸い、サトウカエデの林が近くにあるので絶対に手に入らないという訳ではないが、『甘味』は身分や権力を持った方々が独占しがちなので、市場にはあまり出回っていない。
それでも『魔の森』に入るのに『甘いモノ』が絶対に必要だと、ベテラン冒険者ほど口を酸っぱくして忠告してくるので。
非常食的な意味合いかと、誰かの身で学んだ教訓によるものかと。
そんな風に考えて、ウィンレイもさっき飴缶を手に入れたばかりだ。
ちなみに購入先は冒険者ギルドの売店で、他の地域から輸入してまで何故かギルドの売店では甘いお菓子の数々が常備されていた。しかも、「魔の森に必須!」とかなり主張の激しいPOPまでついていた。
……ちょっとした好奇心でどのくらい売れるのか売店のおばちゃんに聞いてみたところ、魔の森に行く冒険者が必ず購入するので売り上げは常に黒字らしい。飴缶を手に取っただけでおばちゃんに「おやウィンレイちゃん、魔の森デビューかい!?」なんて声をかけられたのだから余程の事だと思われる。
さて、話を戻そう。
ウィンレイはちょっと混乱していた。
冒険者にとって情けない話――そう前置きされて、何故か話は甘いものに繋がった。
地元民の話と合わせて意味が分からず、混乱しても仕方がないと自分に言い聞かせる。
事情を説明してもらえるはずだと、じっとギルド職員の目を見つめた。
気まずそうに逸らされた。
「……魔の森を冒険者たちが『墓場の森』などと呼ぶ理由でもあるのですが。魔の森は大変危険な場所です。ベテランの冒険者でさえ、何かあれば簡単に命を落とす危険性を孕んでいます」
「はい」
「ですがそんな森に昔から棲息する地元民達は環境によってか、それとも遺伝的な理由でもあるのか、魔の森にあって負けることもへこたれることもなく、むしろ冒険者よりずっと適応して活き活き元気に生活しています」
「職員さん、今さりげなく『棲息』って言わなかった?」
「そんな! 環境に強い、ある意味冒険者よりも屈強な地元民達ですが! 何故か冒険者に行き会うと、興味本位で後をついてきたりします。理由を聞いても本当に『興味本位』って言います」
「あの、ねえ、棲息って……」
「そして冒険者が危険な目に遭ったり、何か致命的な失敗をしたりすると手を差し伸べて助けてくれるという事例が多々。むしろ毎回。ほとんどの冒険者が必ず一度は地元民の世話になっています」
「それただの親切な地元民じゃないですか!」
「そうです! 行動は結果的に親切な地元民です! ただし助けた後で代償を迫られます!」
「代償って……」
何が理由で命を落とすかわからない危険地帯でのことだ。
助けの規模にも大小あるだろうが、小さかろうと大きかろうと恩は恩。
しかも命に直結する。
助けた後で代償を求めるのは順番的に思うところがなくもないが、危険だというなら急を要する場合の方が多いだろう。そして命を救ってもらったのなら代償を払うのはある意味で当然のことである。
むしろ助けてもらって厚かましく「礼はしないぜ!」などという方が愚かしい。
元々騎士だった父親に、ウィンレイは礼儀についても叩き込まれている。
だから代償を払うことも当然だと思ったのだが……ギルド職員の顔は、微妙だ。
……もしやとんでもないことを迫られるのだろうか?
答えはすぐに、ギルド職員が教えてくれた。
「……地元民の要求は、常に二択です。必ず、二択で、どちらかを選べと迫って来ます。そしてその二択以外は絶対に認めません」
「その物言いだと、二択の内容も一貫していそうですね。事前に代償が知れているのであれば、なおの事問題はないのでは?」
「そうですか、問題はありませんかー……。あ、その二択というのはですね?
『甘いモノ』 か 『 結 婚 』 なんですが。
地元民の皆さん、根っからの甘党らしくって甘いモノ大好きなんですよー。だから甘いモノが欲しいと。……で、それと同じテーブルに並べて、何故か甘味を持ってないなら代わりに結婚しろって要求が来るそうですよー。助けてくれた地元民か、その近親者との結婚。ほら、魔の森なんて閉鎖的で他の村と交流のうっすい場所にお住まいですからー。近親婚繰り返して血が濃くなり過ぎないよう、適度に外からの血を取り入れたいってのが理由だそうですよー。個々人の取引ですし、命の代償って扱いですからねー。ギルド側からも抗議し難いんで介入とか出来ないんですが……私的には結婚って個人で話の留まらない結構な大事だと思うんですけどねー。そうですかー、ウィンレイさんには問題ないんですねー」
「大ありですよ!?」
けっこん!? けっこん!!?
血痕? ケッコン……結婚!??
単語の意味を、頭が理解を拒んで暫し。
何度も同じ音の言葉を頭の中で反芻し、ようやく意味が通じてウィンレイは目を見開いた。
「甘味と結婚って、それ価値が釣り合ってないんですが! 片方が凄まじく重すぎで!」
「ちなみに「どっちも嫌」は一切認めてもらえません。そして「後で払うから!」も認めてもらえないそうですよ。それで踏み倒そうとした馬鹿がいたそうで」
「その馬鹿のせいでそれ以外の全部の冒険者にとばっちりが!」
「まあ、元々結婚を迫って来る時点で問答無用な空気有りますけどね」
「それ……実際に結婚した人、いるんですか」
「いますよー」
「いるんですか!?」
「近いところだと……えっと3年前だったかなぁ。ヘルベルト・スォンスラーっていう冒険者知ってます? 彼、自分の実力を過信しちゃったみたいで…………甘味準備せずに魔の森に初突撃して、毒キノコの胞子にラリッて踊りながら毒沼に入水しかけたところを現地民に救助され、そのまま婿として森の奥に連行されていくのを通りがかりのBランク冒険者が見ていました。それ以来、彼の姿を見た者はいません」
「それって国内に2人しかいないAランク冒険者ですよね!? 3年前から行方不明って聞いてましたけど、そんな理由だったんですか!?」
ちなみに冒険者のSランクはギルド史上1人しか存在しない伝説の称号なので、Aランクがほぼ最高位も同然だ。大陸全土のAランク冒険者を合わせて全部で10人を超えれば冒険者の黄金期呼ばわりされる。そのくらいAランクの名前は重いのである。
「まさか結婚したが最後、森から出られない……? え、『墓場の森』の墓場って、人生の墓場的な?」
「人生の墓場、言い得て妙ですよね……。貴重なAランク冒険者を失ってギルドとしても大損失ですよ」
「え、本当に出られないんですか!?」
「いや、男性なら出稼ぎ扱いで冒険者を続けることも認められる例が確認されていますよ? ただし、嫁同伴で……引退したら、森に引きずり戻されるそうですが。絶対に逃がさないという執念を感じますよねー……」
「じょ、女性の場合は?」
聞くのが怖い。
そう思いながらも、ウィンレイは聞かずにいられなかった。
最早、これが命綱も同然と、腕の中に飴缶をぎゅっと抱え込む。
その扱いは、先ほどのぞんざいなモノとは随分と違っていた。
「あ、女性だったらまず森からの脱出は不可能だそうで」
「もう『脱出』扱いなんですね……」
「そもそも奇跡的に出稼ぎが認められて冒険者として復帰できた男性の記録によると、ですけどね。村に連行されたら即結婚式だそうで」
「その日の内に即ですか!? 心の準備ぐらいさせてくれないんですか!?」
「結婚式が終わったら丸1年、人によっては3年くらい『蜜月』が続くとか」
「『蜜月』と言いつつ『月』の期間、大きく逸脱してるじゃないですか!」
「私にそれを言われても……『蜜月』の間は、新婚さんは一切家から出ずに二人っきりで過ごすそうですよ。そうやって愛を育むとか。必要なモノはせっせと近親者が家に届けてくれるとのことなので、飢え死にの心配はありませんね。飢え死にの心配は」
「家から一歩も出ないなんて、冒険者人生終わりじゃないですか……!」
女性だったら、まず森からの脱出は不可能。
ギルド職員がそう言った理由が、何となくウィンレイには察せられた。
冒険者は、体が資本だ。
それは健康を保つというだけでなく、戦闘に必要な能力を維持するという意味でもある。
家から一歩も出ない生活を一年も続けては、男でも体がなまる。
なまった体を戦闘向きに作り直すのに、恐ろしく時間を必要とする筈だ。
それが女性ともなれば元々筋力などで男に劣る分、勘を取り戻すのに男以上の苦労が目に見えた。
体を元に戻すどころか、1年も続く『蜜月』の間に妊娠でもしようものなら……
「充分な戦闘能力を取り戻せなければ、村から出られないのは確実。何故なら村の周囲は、危険区域『魔の森』に囲まれているから……」
「理解してくださいましたか、ウィンレイさん。私達が絶対に『甘味』を持って行けと口を酸っぱくしてお願いする理由が」
「嫌でもわかりました。サトウカエデの飴缶、あと5つくらい買っておきます……」
飴缶5つは、ちょっと財布に痛い。
そう思いながらも、それを持って行くかどうかが人生の分け目になる可能性があるから。
自分の人生には代えられないと、ウィンレイは笑顔でお会計する購買のおばちゃんから飴缶を受け取った。
ウィンレイだって、若い女だ。
結婚くらいは妥協でも場の流れでもなく、自分の好きになった人としたい。
こんな無骨な、冒険者なんてやってる女には不似合いだと言われるかもしれないが。
できれば愛し愛され、求めあっての結婚が良い。
恋愛結婚を貫いた駆け落ち夫婦の両親に憧れていたから、なお強くそう思う。
乙女ちっくだと言われようと、なんだろうと。
まだまだ結婚には夢を見ていたいお年頃なのである。
そんな彼女が『魔の森』に踏み入り、『未来の夫』に出会うまで後3時間。
うっかり助けられて運命の二択を迫られるまで、後3時間半。
ウィンレイは、思いもしない。
二択の内容が冒険者たちに知れ渡っている事を、現地民たちが知っていることを。
知っていて、甘味を持っていなかったら儲けもの、くらいの感覚で同じ内容の二択を続けているのだが……絶対に逃がしたくない、これぞという相手を見つけてしまった時。
ここぞという時には、二択の内容を変える場合があるのだということを。
出会って30分で超好みのタイプの銀髪美青年に「助けたお礼は『辛い物』か『結婚』で」と甘く囁かれ、ウィンレイは立ち往生することになる。
鞄の中に虫除け代わりの『ハバネロ』入ってるんだけど、どうしよう――と。
主人公
ウィンレイ・ウィンスロウ(19)
元貴族の駆け落ち夫婦の間に生まれた娘。父親は元騎士。
両親から受けた教育のお陰で、市井育ちながら洗礼された所作が滲み出ている(無自覚)。
外見と雰囲気から高嶺の花扱いを受けており、まともな男には遠巻きにされ、近寄って来るのは乱暴者の勘違い男ばかり。当然ながら恋愛経験は0。
勘違い男を叩きのめすことばかりが上手くなり、真っ当な男性には慣れていない。
魔の森で出会った現地民を「いいな」と思いつつ、気恥ずかしくてどう接していいかわからなくなる。
現地民A
ディヴェアティル・フーア
とある森の奥深くにある、竜の隠れ里の青年。
鋼のような銀髪に、濃い青色の目。
ウィンレイに一目惚れし、興味本位と称してくっついてくる。
何か失敗して助けが必要にならないかな、と内心そわそわしていた。
案の定、失敗したウィンレイを助けてここぞとばかりに二択を迫る。
だが『辛い物』との要求に申し訳なさそうな顔で『ハバネロ』を差し出され、膝から崩れ落ちた。
この上は地道な努力をすべしと森を出て、冒険者登録。
何か依頼を受けるでもなく、ウィンレイが魔の森に行く度にくっついてくるようになる。
ギルド職員
ハワード・ランボルギーニ(39/既婚)
魔の森最寄りの街でギルド職員をもう25年も続けているベテランの受付担当さん。
当然、冒険者に顔なじみも多い。
外見はうだつの上がらないサラリーマンに近しいモノがある。
外見は冴えないが、冒険者と直接やり取りする窓口業務を20年以上続けているだけあり、近隣の冒険者さん達の弱みと黒歴史を沢山握っている。
この世で一番嫌いなモノ:残業
とあるAランク冒険者
風の噂ではどこぞの森の奥の村で、ある意味幸せに暮らしているらしい……。
半年前に誕生した長女に骨抜きで、今では育児にもきちんと参加する良いパパさんである。
魔の森の現地民と隠れ里
元々は生粋の竜達が隠れ住む村だった。
だが世界的な個体数の減少により近親婚が増え、血が濃くなり過ぎて滅びかけた。
そこで血を薄める為、他種族(特に人間)との結婚が推進される。
最初は問答無用で強そうな人間を攫っては無理やり嫁や婿にしていた。
混血が進んで今ではほとんど人間よりの生物となり、姿も人間っぽいのがデフォルト。
国への納税義務もちゃんと果たすようになった。
ほとんど人間と変わらなくなったので無理やり攫うのは止めることにして、命を救った代償として結婚を迫るようになったらしい。
だけど竜の性質がちょっと残っているので、伴侶への執着度合いが半端ない。
一族総じて、何故か極度の甘党。
しかし体質的に太らないし糖尿病にもならない。