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これがホントのドラゴンタクシー


"落ちる!"その感覚によって体がビクッと痙攣すると同時に意識が覚醒する。そして自分が眠ってしまっていたことに気付かされる。無意識のうちに口から垂れていたよだれをみんなにバレないように拭う。授業中に限らずいつなっても恥ずかしいのは異世界に来ても変わらない。


「どうしたん。空から落ちる夢でも見てたん?」

「いや、別に夢見てたわけじゃ…ん!?」


寝る前は確かに空いていたナナセの隣に女性がいる。誰?


「はじめまして、ユーマくんね。私はマナ。ユーマくんが起きる少し前にビオス渓谷というところから乗せてもらってるの。寝てる間にナナセちゃんから聞いたわ。冷静で聡明なんですってね。」


普段俺への当たりが強いナナセが内心そんな風に思ってくれていたなんて…。嬉しい限りです。


「いやいや、マナさん、そんなこと言うてませんて。根暗で理屈っぽいって言いましたやん。」

「またまたー照れなくてもい・い・ぞ。」

「いや、確かにそう言っていたぞ。」


児嶋も起きてたのか。いらんタイミングで証人になるんじゃないよ。今の状況でお前が何も言わなければ誉められたのかけなされたのか50%-50%(フィフティーフィフティー)でしょうが。そんなどっちの可能性もある状況ならきっと誉められたのだと思うこともできたのに…。こうやって多数決で結論が出てしまったらもう一生根暗として紹介され続けるじゃないか…。


「彼はなんで急に黙りこんじゃったのかしら?」

「こうやって自分の中でなんか色々考えてるんですよ、根暗やないですか?ときどき一人でブツブツ言ってるときあるんですよ。」

「声は出してねーよ。」

「いーや、出してる出してる。キモいこと言うてる。」

「例えば何て言ってるよ。」

「そんなんあんたのキモい独り言いちいち覚えてるかい!うわっ、また何か言うとるキモッ!としか思わんわ。」

「これも事実だ、ユーマ。寝るとき結構言ってる。」

「うわああああ!!!知らない知らない知らない!そんな事実は知らない!!!いや、無かった!うん、そう!そんなの無い無い!」

「アンタ男の子がそんなんでええんか!男なら自分の行動認めんかい!!」

「フフッ。ユーマくんが起きてからいきなり賑やかになったわね。それに、私はユーマくんのこと賢そうだなって思うわ。」


そう言いながらマナという女性はニッコリと微笑んだ。深緑色に真っ直ぐ伸びた長い髪の毛から大人びた印象を受けていたがその笑顔は子供のような屈託のない笑顔であった。えっ、スゲー可愛いんですけど、もしかして俺に気があるんですか…。


いや、騙されるな。これはいわゆる女子だけが使用できるという"あざとスマイル"。よく見ると目の奥が全然笑っていない。これは駆け引き。相手に"こいつはこれぐらいで扱えるな"と思われたらその時点で上下関係が確立。つまり、魚と釣り人の関係になる。そうなったら最後、魚は釣り人が食べたいときに釣られるのみ。しかし、そうは問屋が卸さない。俺がそんなに安い魚ではないということを教えてあげましょう、Ms.マナ。


「いやあ、お世辞でもそう言って頂けて嬉しいですよ。」

「本当なんだけどなあ。残念。」

「目の奥が笑ってなかったですよ。」

「もう一回ちゃんと見て。この目を前にして同じ事を言える?」


手を握られ顔の近くまで引っ張られる。そうなったことでマナさんとかなり近い距離で目が合う。


「ユーマくんのこと、カッコいいと思うな。」


パチリッとウインクとともにそう放ったマナさんの言葉を最後まで聞き取ることなく俺は天に召された。


ここはどこだ、気付いたら見知らぬ場所にいる。いるだけで心地の良い空間だ。そこに小さなエンジェル3体が空から表れ、俺を高い場所へと連れていく、明るい場所だ。そこに誰かいる。ああ、我らが主、大天使マナエル…!そこにおらしたのですね、そうか、この場所こそが桃源郷。果てることのなく続く愉悦の世界。


「鼻の下がえらい伸びてんで、ジブン。」

「はっ!!!大天使じゃ、ない…。」

「何言うてんの…。」


ナナセに話しかけられ我に帰る。何が起きていたんだ。確実に意識が奪われていた。強い催眠魔法のようなものだろうか?分からない。しかし、マナさんが非常に恐ろしくやり手であると痛感させられた。左胸に手を当てると、心の臓も先ほどとは比べ物にならないほど速く強く鼓動している。マナさんを直視できない。これが恋…?


「はい、ナナセちゃん、これで満足かしら。」

「マナさん凄いです、いとも簡単に二人とも手玉に取っちゃって。」

「コツがあるのよね。世の中を生きるのに人身掌握が使えるに越したことはないわよ。」

「えっ!?」

「あんたそういうとこ察し悪いなあ。あんたはマナさんに釣られたんよ。」


なになに、どういうこと?もしかしてだけど、もしかしてだけど、さっきのはオイラを狙ってるってことなんじゃないの?


「ユーマくん、ごめんなさいね。二人とも騙すつもりはなかったんだけど、ナナセちゃんが初対面の人との接し方が知りたいって言うもんだから。」

「ええええ!!??どうせそんなことだろうと思って流そうとしたんですよ!!そしたら嘘じゃないなんて言うし、すっごい目合うし…」

「嘘なの。全部。」

「キィイイエエェェェェエエエエ!!!!!顔から火が出るほど恥ずかしい!穴があったら入りたい!こんな辱しめをただ一人受けるなんて!!!…ん?あれ一人、だけ…?さっき二人って…。」

「ユーマよ、俺も同じ事をされた。」

「まじ!?いつ??お前も釣られたの!?」

「ユーマが寝てるときにな。そして俺も見た。大天使を…。」

「トオル…!!」


パシッ、パシッ、ガシッと俺とトオルは何を言うこともなくハンドシェイクをかます。この狭い空間にお前がいることがどれだけ心強いか、兄弟。この瞬間から俺たちは同じ穴のムジナ、一蓮托生の運命共同体となった。それほどに恥ずかしい体験であった。


それと同じタイミングでタクシーが急停止する。


「ジブンらのバカさ加減にドラゴンも呆れて停まったやん。」

「ドラゴンに俺らの恥ずかしさが理解されてたまるか。こっちは女性恐怖症になってもおかしくないレベルの傷を負ったんだからな、その辺ナナセ理解してる?」

「なんやそれ、ちっちゃ。相っ変わらずちっちゃいなぁ。」


刹那、体が硬直する。


「何かがくる…!」


方向は座っている自分の背後から。つまり、ドラゴンの進行方向からだ。ドアを空け、正体不明の危機を探る。


「あぁ?なんだよ、これ…。」


ドラゴンのはるか3倍はありそうな怪鳥が行く手に立ちはだかっていた。


「グルルルルルルッ…。」


目を真っ赤に充血させ、息を荒くしている紫と緑の怪鳥は明らかにこちらに敵意を示している。


「あら、こんなところにコーリン?凄く興奮してる。コーリンは体こそ大きいものの人に危害を加えることなんてない優しい怪鳥なのに。どうしたのかしら?」

「マナさん!そんな落ち着いてる場合やないです!うちらのことめっちゃ見てますよ!!」

「マナさんなんとかならないですか!?」

「う~ん。私の魔法じゃ無理ね。あなたたちこそなんとかできないの?」

「うちの全力火力しかないか。」

「いや、ナナセそれはダメだ。周りにも火がついて俺らも助からない。」


森で囲まれたここで炎は全滅が確定する。トオルが戦えるのが一番可能性がある…か?だが、勝てる保証もない上にあいつ自身の被害が想像できない。そんな一か八かをさせられない。


「おい、ホーリー!気は保ってるか!?慌てず、ゆっくり後退するんだ!刺激しないようにだ!」


一番近くでコーリンと見合い、固まっていたホーリーに声をかけ指示を出す。俺らをすぐに襲ってきてはいないところを見るとこのままゆっくり距離を取ることもできるはずだ。距離ができれば生存確率は高まる。戦うのはそれを試してからだ。


「ユーマさん…手綱が上手く、持てません…!手が、震えてしまって…。」

「くっそ!」


ドラゴンの背中にゆっくり移動し、手綱を握る。


「安心しろ。大丈夫だ、必ず逃げられる。けど、俺じゃドラゴンを操れない。ホーリーがやるしかない、頼むぞ。」

「…!」


ホーリーと目が合う。先ほどとは違う強い意思のある目だ。


「やります…!」

「よしっ!」


一歩、一歩と慎重にかつ正確に後退する。時の歩みが異常に遅く感じる。森は騒がしいはずなのに俺たちの空間だけ音が切り取られたようで、唾を飲み込む音すらはっきり耳に届く。コーリンに襲ってくる素振りはなく、徐々に距離ができる。なぜ、襲ってこないのかは分からないがこれならいける!


「グアッグアッアアア!!!!」


コーリンが怒号とともに羽を広げる。距離は十分とったはずなのに体は何かがくると訴える。と同時にコーリンの羽から大量の何かが飛んでくる。当たる!そう感じ目を背ける。


「あれ…?当たってない?」

「グアッアアア!!!」


当たってないどころか、コーリンの声が下から聞こえてきて事態を認識する。そう、森のはるか上を飛んでいる。下からコーリンも羽を羽ばたかせ迫ってくる。しかし、コーリンが追い付くことはなかった。5人と荷物を背負っていても追い付かれる心配がないほどにドラゴンは速かった。コーリンが遅いのかドラゴンのパワーが異常なのかはわからないがこの危機を脱することができた。


「ホーリー!!助かったよ!!飛べるじゃないか!!何がライセンスが無いから飛べないだよ!」


皆の安心した声が後ろから聞こえてくるもホーリーの手は相変わらず震えていた。いや、先ほどよりさらに震えていた。


「ユーマさん…うちが飛べないなんていつ言いました…?飛べないんじゃないんです…ただ、高いところが無理なんです…。」


涙目のホーリーがこちらを振り向く。"もう限界です"と伝えると同時に俺たちのドラゴンタクシーは急降下した。



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