これがホントの初勤務②
集められたゴミを持って焼却場へと向かう。今は授業中のようで校舎の中にこそ入れないがカーテンをしていないクラスの様子が時折見える。授業中の様子は別段変わりはなくみな揃って座学を受けている。
箒乗ったりとか魔法の実技とかやってるわけじゃないんだ。でもなんというか異様な空間だな。皆真面目に授業受けてるよ。見るクラス見るクラス全てが同じだった。一人や二人居眠りするものや頬杖をつくものがいてもよさそうなのに誰一人としていない。そして教室の側を通る自分の存在に誰も興味を示さない。見えていない訳ではないだろう、目がちらっと合うものも何人かいた。しかし、目が合ったかと思えばすぐに視線を前に戻し筆を動かす。それなのにも関わらず生徒全てが楽しそうではないのだ。見ただけなのでなんとも言えないが自分の受けた印象は異様という他無かった。
少し怖くなってきたので早足で焼却場を目指す。すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「えー。それではこの辺りでですね、校内案内を終わりにしてですね、最終書類の手続きとしましょうか?」
「は、はい…。」
「どうですかナナセさん、素晴らしい学校でしょう?あなたも本校へ入れば将来決まったようなものですからねえ。ご家族の方も喜ばれること間違いなしですよ。」
おいおいおいおい、なにやってんだあいつ。いや、ここが入りたいって言ってた学校ってことか。ナナセと教員らしき人が校内の一つの部屋へと入っていく。よくドラマとかにいる陰湿系のガリ勉眼鏡という見た目だった。絶対あれ教頭だな、それにあの髪もズラだな…。いや、ズラは校長先生の方が鉄板か…。しかし、面白そうだな、おい。完全に興味のみで二人が入った部屋に向かう。"面談室"と掲げられたその部屋のドアの側で聞き耳をたてる。狭い個室に教員と転入を希望する女子生徒…どんな面談してるんですかねえ…。
「はい、それではこれで手続き完了ですので、明日からにも本校の生徒として認められます。我々はあなたのような将来を望む若者を応援しております。頑張って下さい。」
なんだよ、普通の手続きって感じだな。部屋に入る前のナナセの表情がちょっと浮かなかったから何かあると踏んだんだが期待はずれだなこりゃ。
「あのそれで、追加の支援金の50万イェンというのはいつまでにお支払いすればいいんでしょうか?」
「そうですねえ、すぐにでもと言いたいところですが、我々も鬼ではありませんので五日程は見逃しますよ。」
「五日ですか・・・。それ以上というのは…?」
「ナナセさん?あなたねえ、この学校に入りさえすれば将来を約束されるんですよ?あなたの将来とこの期限の五日、どっちが大切かなんてのは小学生でもわかりますよ??ああ、でもあれか初等教育もまともに受けてない田舎者にはそれもわかんねえのか!」
なるほど。よくわからんがナナセはお金を払わないといけないわけだ。しかし、ナナセはこの街に来たとき、学校に支払う分の余りを俺らに分けてくれた。お金には余裕があったということだ。それなのに50万イェンという大金を払えない。これは明らかに表向きではないお金以外ないだろう。大金ではあるが一生払えない金額というわけでもない。将来を約束された名門校というブランド力を盾にこんなセコいことしてんのか。…呆れた。
「それがお前らのやり方か!!!」
勢いよく入ったものだから二人ともビクッてなってしまった。なんかすいません。
「だ、誰だね、きみは!」
「ユーマ…。どうして。」
「ナナセ、俺に一つだけ教えてくれ。お前は今50万イェン俺が用意したとしたら学校に迷わず学校に入るか?もちろん俺には一生かけて返してくれればいいし利子もつけん。負い目を感じることは今は無視して考えてもらえばいい。」
「そ、それは・・・。」
「その沈黙がもう答えなんじゃないのか!?お前の中で何か違うと感じてるんじゃないのかよ!」
ナナセ自身もこの支援金というのを聞かされた時におかしいと感じたはずなんだ。いやそれ以外にもまだあるのかもしれない。落ち着いて考えれば馬鹿らしいと思うだろう。でもそういった思考にならぬよう圧力とブランド力で麻痺させている。だから俺は一瞬でいい冷静な判断をさせる"間"を与えてやるんだ。
「うちもな、なんかおかしいと思っててん。でも、皆当たり前にやってるとか、将来が安泰になって家族を楽してあげられるとか言われるとそうなんかなって段々なってしまって…。ほらうちまともな教育受けてないからこれが当たり前なんかなって…。でも今ユーマに言われて気付けたわ。人様からお金巻き上げるのが名門や言うんなら、うちは…そんな汚い名門いらん…!」
溢れる涙を拭いながら彼女は本心を口にした。もう大丈夫だろう。
「聞いただろう?彼女はここには入らない!支援金とやらも払わない!ナナセ、帰るぞ!」
「まあ、我々としましても入らないというのであれば引き留めはしませんのでどうぞ、ご自由に。」
意外に引き際がいいとも思ったがニコニコとした作り笑いには不気味さしか感じなかった。それでもこんな糞みたいな空間一秒でも早く抜けたいと思ったのだがナナセが帰ろうとしない。
「ちょっと待ってな。教頭センセ、うちの入学金返してもらいませんか?いや返してもらいます。」
と言うとナナセは教頭と呼んだ者から手提げ袋を取り返そうとするが。
「それはできませんねえ。」
と取り返そうと手を伸ばしたナナセをかわす。
「なにしてんの自分。うちは入学せんのやからそんなんただの泥棒やで。お巡りさん呼ぶで!!」
「どうぞ、ご自由に。ナナセさん、あなたがこの書類にサインしたことでね、あなたの入学は認められているしあなたもそれに了承している。つまりその時点であなたのこのお金は我々のものなんですよねえ。なので警察でも弁護士でもお呼びになってくださって結構。悪いのはどちらなんですかねえ?」
「そんな…。そんなのって…。」
「あんまりじゃねーか。あんた本当に人か?」
「ええ、その中でも飛びっきりのエリートですよ。」
「ようわかったわ、あんたらのやり方。そんならこっちもこっちのやり方でやらせてもらうで!」
ブオッという乾いた音とともに一瞬で書類が灰になる。教頭が面を食らった瞬間を見逃さずすかさずナナセは手提げ袋を奪う。
「さすが!逃げるぞ!」
二人してドアに駆け出す。これあれだからね、全部俺の指示だからね。と思ったのも束の間、ドアを開けても外に出られない。
「!?どうして!出られない!!」
「そんなパントマイムやってる場合ちゃうやろ。!?ほんまや。なんやこれ。」
明らかにおかしい。ドアは確かに開いている。でもその先の廊下に出られない!何か見えない壁がある。
「君たちねえ、ここがどういう学校か忘れたのかね?」
魔法か!!しまった。ナナセが魔法を使えるのと同じで教頭だって間違いなく魔法を使える。逆に閉じ込められ追い詰められたのは俺たちじゃないか。教頭から先ほどのニコニコ顔は消えており今にもプッツンしそうに眉間に凄いシワを寄せている。どうすればいい、考えろ。考えろ。やつの狙いを言動、表情、行間全てから読み解け。
「さあ、早くそのお金を返しなさい。時間が経って人が来れば不利なのは君たちの方だ。こちらとしても大事にはしたくない、穏便に済ませようじゃないか。」
ナナセの炎なら私の魔法で防げるだろうが対人魔法なんて数十年ぶりだからなできればこのままおとなしくしてもらえるのが一番。それになによりもう一人のガキの魔法がまるでわからない内はあまり手を見せるのは得策ではない。もうすぐ授業が終わって先生たちも外に出始める。そうなれば逃げられても捕まえられる。それまでの時間稼ぎだ。
やつの狙いは明らかに時間稼ぎ。つまり、やつの魔法では俺らを捕らえる術はない。この部屋を塞いでいる見えない壁を出す魔法なのだろうから攻撃には転じれない。それなら手は一つ。
「ナナセ、もうやるしかない!あいつを燃やせ!!」
「はぁ!?そんなんできるわけないやん!うち人殺しにはなりたくないわ!」
「いや、その。ほら、手だけちょびっと火傷させて無力化するとかよくあるじゃん?そういうのそういうの。」
「人にやったことなんてないから加減がようわからんわ!」
「それならこの部屋でいいから手当たり次第に燃やせ!」
「ええの、そんなん!?うちらもヤバいで。」
「わかってる。でも、これしかない。頼む。」
とにかく相手のペースを無理にでも乱す。そうすれば何か見えてくるはずだ。
「ほないくで。燃え始めたら煙吸わんようにな。」
ナナセは勢いよく炎を周りに吹き始める。しかし、炎はおろか煙すらどんなものにもついていない。
「いやいや、こんなところで心中なんてたまったもんじゃありませんね。炎のようなものを防ぐのは造作もないんですよねえ。」
全ての炎が見えてない壁で防がれてしまった。これでは完璧に手打ちだ。突破できない。俺の魔法なんてなんの役にもたちゃしない。
先程、あのガキはこれしかないと言ってこの部屋を手当たり次第に燃やし始めた。つまり、あのガキは自分で自分の魔法が使えないと言ったようなものだ。ならば遠慮なくナナセの炎だけに集中して壁を貼ればいい。焦って手札を明かしたな、ガキめ。
「ユーマ!!」
突然、ナナセに声をかけられる。
「あんたが考えんでどうすんねん!さっきも言うたやろうちはバカで単純やから難しいこと考えれん、でもあんたならできるやろ!!脳ミソ頭から出るぐらい考えんかい!!」
そうだ、教頭も俺らを捕まえられないんだ。授業が終わるまで睨み合いするだけなら時間目一杯まで考えろ。今の時間が12:15…バイトの先輩曰く昼休みが12:25から。逃げることも考えれば実質のタイムリミットは五分強というところだろう。待てよ、今がお昼時の真っ昼間ってことか。ある…勝算の高い可能性が…!!
「ナナセ、とにかくありったけの炎を壁に吹きまくってくれ。」
「なんか、閃いたようやな。いけるんか?」
「ああ、俺のことはまだ信じられないかもしれない、けど俺は可能だと信じている!それにかけてくれ!」
「おっしゃ、乗った!!」
何を閃いた…?まだ見せてないガキ自身の魔法と炎の連携か?いや、それでもやることは変わらない!
これまでより一番勢いのある炎をナナセは吹き出す、しかし、教頭の壁の前に流されてしまう。すると、パリンッ!っという音が響き渡る。教頭がその音に釣られて窓の方に振り返る直後、
「走るぞ!!」
ナナセを引っ張って割れた窓を目指す。スピード勝負だ。さっきはドアを開ける手間があった、塞がれるなんて微塵も思っていなかった。今回は飛び込めむ!壁を貼られる前に出る!!
「だめや!!」
ナナセに引っ張られて窓を越える直前で止まる。窓から手を出そうとするとすでに見えない壁がそこにあった。
「いやいや、炎の爆風というんですか。まさか、窓を割るとは思いませんでしたし、私はドアを防ぐのにも炎を防ぐのにも壁を使ってますからそんなに多くは防げないとも思ったんでしょうけど、私はこの魔法と40年付き合ってますからねえ。防げないものはあれど貼る量、貼る速度に関しては相当の自信があるんですよねえ。さて、完全に万策尽きたということですか。今の音で多分気づいた人もいることでしょうから予定より早く人が来るでしょう。自分たち自身で首を絞める形になりましたねえ。」
「ユーマ…。」
「ハハハ。そうだよな、おとなしくしてりゃあ人が来たとしても上手く抜け出すこと可能性もあったかもしんねえのに窓割っちまったらさすがに俺ら不振人物扱いで何言っても取り繕って貰えないわな…。やっちまった…。焦ってなんとかしようとして、デカイ音だして…。
・・・僕の勝ちだ、ニア。」
「ハ?何をいきなり…ほらご覧なさい君たちの後ろに早速人が来ましたよ。あなたたちがチェックメイトなんですよ!!」
「おい、ユーマよ、これはどういう騒ぎだ。それにナナも一緒とは…。お弁当一人分しかないぞ。」
「うるせえよ、鉄仮面野郎。早くこの壁ぶっ壊してくんね?」
「トオルちゃん…!!」
「む?ああ。出たくても出れんのか。なんだこれ確かに何かあるな。フンッ!!」
バリンッ!!という衝撃的な音ともに壁が割られる。教頭が次々貼ろうとするも児島の百裂拳の前には無力だった。
「お前ホントにさすがだよ。決め台詞言ってやれ。」
「お前(壁)はすでに死んでいる。」
「そんじゃあ、教頭、そういうことだから!!」
教頭は言葉を失いうなだれているだけだった。授業を終えた生徒、先生から不振な目で見られるもイマイチ状況を飲み込めないらしく誰も追っては来なかった。坊っちゃんどもめ、一生机とにらめっこしてろ。
「トオルちゃん!ほんまありがとう!助かったわ!!凄いグッドタイミングやったで!!」
「そうなのか。いやー、お弁当をユーマに渡しに来たらユーマがどこにいるかわからなくてな、探し回っていたらガラスが割れるような音がして来てみたらといった感じだ。偶然偶然。」
「それは俺が仕組んだ偶然なんだよ。糞真面目のお前のことだから絶対12:30のかなり前に来てると思ってさ、そしたらホントに来てやがった。でも、まあ、助かったよ、ヒーロー。」
「あっ!ユーマのツンデレ出た!!」
「ツンでもデレでもねーよ!!っはあ、はぁ、てかこれどこまで走るの?もうそろそろいいんじゃない?」
「うちら結構やらかしてしもうとるからなあ。もうこのまま違う街行く感じやな。」
「なんと!もう引っ越しか!!お世話になったモーテルの人に挨拶をせねば。」
「ええけど、そんなに時間ないで手短に頼むで。」
「…っはあ、はぁ、ちょっと休もうよ…。」
「トオルちゃんが寄り道するさかい休む暇ないなあ。」
「…おいっ、てめえ、っはあ、トオルっ!!休ませろ…!!いや…休ませて下さいっ…。」
「・・・!!ユーマよ、ようやく名前で…。」
「くはっ…あん?なんだって…!?」
「いや、なんでもない。これも特訓だと言ったのだ!まだまだ走るぞ、あの太陽めがけて!!!」
「おっ、ええやん!賛成!!!」
なに、こいつらのノリ。まじで付いていけないんですけどどういう理屈で生きてるの?三人で悪い人やっつけてさ、いい雰囲気出るやつじゃないの?永遠突っ走るってなに?ねえ、知ってる?真っ昼間のときの太陽はほぼ真上にあるんだよ。ってユマメ柴が言ってるよ。太陽めがけて走れないよ。上に走るわけ?果てしなく遠い男坂なんてどこにもないよ?えっ?のぼりはじめたらこの物語が未完のまま完結するって?何言ってんだ、俺は。頭おかしくなってきた…。でもね、これだけ言いたい。
これだから体育会のノリは理解できない。




