これがホントのハローワーク
「おおおっ!!ここが流通の街ボリビア!すごい!本当に箒にまたがって飛んでる!!おっ、俺は今猛烈に感動している…!」
この国に来て一晩を過ごしようやく魔法の国らしい街に着いた。モッグの集団からからくも逃れた俺たちだったがこの街に着いた時にはすでに日も暮れており安いモーテルで寝場所だけ確保したというわけだ。
「おー、ユーマよ、起きたか。それにどうした豪速球でも誰か取ってくれたか?」
「豪速球?なんだそりゃ、朝っぱらからわけわかんねーこと言われてもツッコめねーよ…てかお前なにしてんの?」
モーテルの2階から魔法の国の街並みを見回していると下で児島が頭にタオルを巻いて、薪割りをしていた。なんで、薪割り?しかしこいつ薪割り姿似合うな…。
「なにって、薪割りだ。それと今はもう正午を回っている。」
「みりゃわかるわ、なんで薪割りしてんのかってこと。」
「俺らには今日食う金も無いからな、仕事を貰ったというわけだ。」
そうだった。俺たちはこの国のお金なんて持ってないから今日の飯代すら持ってない。ナナセが昨日寝る分だけは出してくれたがあいつも自分のことに色々金がかかるみたいでそれ以上は面倒見きれないから仕事を探せと言われたんだった。
「ユーマよ、俺がここで働けば寝る分は稼げるからお前は役場に行って仕事を貰ってきてくれないか?食う分を稼いでくれればいい。」
「おっ、おう…。役場に行きゃいいんだな…でも役場ってどこ?」
「お前の真正面にドームみたいな建物見えないか?ちょうど俺らがこの世界でナナに初めて会ったみたいな建物だ。」
あれか…。言われるとあの建物はナナセに初めて会ったところと似ている。どの街でも役場はあの形なのかもしれない。てか児島さらっと説明してくれたけどかなりこの街に馴染んでないか?堅物のイメージしかないが意外に柔軟なやつなのかも。
モーテルを出ると視界に広がるのは本や映画で見た世界が広がっていた。当たり前のように空を飛ぶ人々、見たことのない生き物…非現実を目の当たりにして呆気にとられている己の肉体に反して心は高ぶり弾んでいた。
街並みそのものは始まりの町と大差ないが明らかな違いは人の数だ。昨日は夜も更けていたため人気のなかった街だか、今は人で溢れ返っており、それとともになにやら見たことのない生き物に大きな荷物を積んでいる光景が目に映る。モッグもいる…もうあいつ見たくない…と周りの景色に目を奪われていると気付かないうちに目的の建物の前に来ていた。
扉を開けるとナナセが着ていたような制服を着た役場の人っぽい人が一人いたが、仕事中のようでこちらには気付いていないらしい。人に聞いてみる前にとりあえず見て探してみようと思い、役場の中心で円状になっている掲示板のようなものを覗いてみる。
えー、魔法士試験概要、魔法税納税に関する注意…ちょっと違うな…。荷物輸送はユニコーン宅配便…ユニコーンいんのかよ!探し物探します 魔法興信所…てか数が多いな…。
「へいへい、なにかお困りかい?掲示板案内人のオイラが何でも教えるぜ。」
どこからともなく声がしたが声の方には誰もいない。掲示板の周りには俺しかいない…そう思いながら周りを見回すと…ここだ!ここ!と突然目の前に紙切れが現れ、 紙切れが喋りかけてきた。うわっ…紙切れに顔が付いてる…気持ちわるっ。もう本当になんでもありだな…。
「えーと、一応仕事を探しているんですけど…。」
正直半信半疑だ、目の前の光景に耐性はできつつもそれを全て信じられるほど俺の脳はファンタジーじゃない。しかし、紙切れは俺の呼び掛けに答え、この辺りにあるぜ、と何枚か同じような紙切れを持ってきた。この新しい紙切れは喋らないみたいだが、俺の必要とする情報がドンピシャで載っていた。
「すっご、しかも色々あんじゃん!」
「最近の人気な仕事を何件か持ってきただけだから欲しけりゃまだまだあるぜ。」
案内人有能ニキ、サンキューやで。えー、なになに…“仕事探しは商いの街ミクロスへ”どこだよ、知らねえ。そういうのじゃないんだよ。おっ、時給1700イェン。イェンって…円の英語表記の"yen"だろ。日本人に優しいかよ、それに価値も円と同じぐらいらしいからもはや円でよかったのでは…?でも、時給1700円相当ってかなり高時給じゃん。東京のパチンコ屋とか頭いいところ向けの家庭教師レベルでももうちょい低いぜ。と紙切れは言う。こいつなんでそんな東京のアルバイト事情に詳しいんだよ、バイトの神様かよ。松本○志かよ。でもまあ、こういうのだよ、こういうの。えーっと、なになに"魔法学校生の家庭教師"(主に実技試験向け)…はい、無理。次は時給1100イェン、悪くない。えー、"モッグの世話"…あんなやつの世話なんていくら積まれたってやるかよ!はい、次。店番、時給700イェン…やっす…次。宅配、時給1500イェン、条件第2級魔法運転免許必須…無理。荷物整理、時給950イェン…おっこれいいじゃん!時給悪くないし専門的な知識、資格いらないっぽいし…あーでも夜間限定か…深夜帯は時給が上がるとはいえ夜勤はなー…やめとこ…。
「…ちょっとさ、家でゆっくり考えたいから時給900イェン以上で資格いらない求人欲しいんだけど…。」
「お安いご用でい!これで全部でい!やりたい仕事が決まったらまたオイラに声をかけてくれればソッコー求人先に繋げるからすぐに働けるぜ。」
「助かる、じゃあまた来るよ。」
結局その場で決められず結構な量の求人広告を持って俺はモーテルに引き返した。腹も減ってきたしいい時間だな。
「ほう、それでなにもせずに帰ってきたと。」
「いやだからね、広告たくさん貰ってきたじゃん…これ見て決めるからさ…。」
なんで正座させられてんの、俺…。
「俺が寝る分を稼ぐから飯代はお前が稼げと言ったではないか!」
「あー、言ったな。でも俺にイマイチ合うのが無かっただけさ。」
「いいか、ユーマ、そんな選り好みしてられる状況じゃないんだ。今はなにがなんでもすぐ働くことが大事なんだ。」
「言われなくてもわかってるよ、ただ本当に働かなきゃ死ぬってなったら便所掃除だってなんだってやるよ。」
「じゃあ、明日必ず仕事を見つけてこい。そうじゃなきゃ明日の夜寝る場所は無いと思え。」
「わかったよ…。明日から頑張るよ。」
俺への説教を終えると児島は部屋を出て行った。だが、その時の児島のはなっから期待していなかったといった態度が心底気に入らなかった。お前ら体育会系のそういうところが嫌いなんだ。俺らを常に下に見て何事にも優劣をつけたがる。なんだそんなにすぐに働き始めたお前は偉いのか。俺だって自分の能力をしっかり活かしてくれてそれに見合った報酬があれば喜んで働くさ、別に働きたくないわけじゃないんだ。まあなんだ、とどのつまり…
俺はまだ本気出してないだけ。明日から本気出す。




