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これがホントのチュートリアル

 目が覚めたら魔法の国にいて、いろいろあったとはいえようやく夢にまで見た異世界生活の始まり。これから俺のサクセスストーリーが幕を開ける…そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。2m34cmもの大きさの一つ目の怪物がその大きな両手で俺を握って、離す気配など微塵も感じさせることなく満面の笑みでこちらに微笑みかける。そして為す術なく俺は町の入り口まで連れ戻された。


「なんでこうなるんだよー!!!」



~1時間前~


「のどかというか、殺風景なところだな。」


 町の時代感も俺らのいた世界とはだいぶ違うらしく、石畳が埋められた町並みは中世ヨーロッパを彷彿させる。建物も平屋ばかりで高い建物は一つもない。魔法のせいで技術革新することが無かったって感じだろうか。そのせいか俺らの暮らしていた町より空気が澄んでいる気がした。


「伊丹よ、これからどうする?お前はなにやらこの世界に通ずる知識があるのだろう。」

「いや、多少免疫があるだけで、根のところはお前と一緒でなにも知らねえよ。」


 …!!それは突然だった。急に体が強ばる。なにか…くる…!刹那、ゴツっと鈍い音と共に頭に強い衝撃が走った。


「アガッ!ってえ…。」


 足元にはハンドボールぐらいの球体が転がっていた。ボールがなんでこんなところに…。


「大丈夫か?向こうの方から飛んできたみたいだ…うわっ!!」


 動いている。うねうねと、気持ち悪っ。


「なあ児島、俺の目がおかしいんじゃないよな。」

「ああ、まったく同じものを俺たちは見ている。」

「だって、ボールに…目が!しかも手足まで生えてる!きもすぎっ!すげー目合ってるし…。」


 その突然現れた得体の知れないなにかを目の前に慌てる俺たちに、おーい自分ら大丈夫?と後ろから誰かに声をかけられる。振り向くと小柄な少女がいた。俺らと同世代ぐらいでそこまで長くはない髪を後ろでまとめている。しかし、ボーイッシュな感じはなく清楚さを感じさせる。そう感じさせた最大の特徴は少女の目だ。なにか守ってあげたくなるような子リスのようなつぶらな瞳を持っていた。あれ、おかしいな…?ナナセさん…!?


「さっきの衝撃で頭がどうかしたんじゃないのか。この少女とナナセさんでは似ても似つかんぞ。」

「いや、そうだよ、背丈も年齢も全然違う。それなのにナナセさんとまったく同じ感じがするんだよね。根拠はないけど自信はある。」

「はあー…。まさか一瞬でバレてしまうとは…。それが自分の『超感覚』ってわけやな。せや…うちはナナセや。」

「いや、でもさっきと見た目が全然違う…ああっ!!これも魔法か!…戻して!!」

「なにが戻してや、もう戻ってるわ!これが魔法なんやなくさっきのが魔法や。バレてしもうたもんはどうしようもないから歩きながら説明すんで。もいちゃん、行こ。」


 先ほどの手足が伸びたカービ○ーみたいなやつがピョンとナナセの肩に飛び乗った。え、こいつナナセさんのペットみたいな感じなの?すげーこっち見てくる。それにナナセさんその関西弁はキャラですか?


「このキモいやつナナセさんのペットって感じなの?そもそもこいつはなにもの?」

「キモい呼ばわりすな、この子はもいちゃんや、かわええやろ。この足がたまらんねん。この子はナナの友達や、自分らの世界にはいいひんかったん?」

「いねえよ!まあ…犬みたいなもんってことかね。でも俺たちの見たことない生物がこっちでは当たり前のようにいてもおかしくはないか。」

「すいません、俺はまだあなたがナナセさんというところから進めていないので説明願います。」

「この町は見てのとおりなんもない。自分たちが食べるために働いてて、お世辞にも豊かとはいえん。だから定期的にくる仕事の依頼を引き受けることで生活の足しにする。それが…」

「それが俺らの案内人…。」

「せや、なかなか鋭いとこあるやん。そんでその役目は同じタイミングで旅に出る女子の役目で、ナナしかおらへんかったからナナがやったんや。案内人の制服を着ると人の考えも読めるし見た目も年齢も変わってしまうからさっきと全然ちゃうけど、これが本来のナナやで!!」

「・・・戻して。ぐはっ。」


 カービィ○を投げられた。こいつさっきも投げつけたんじゃないだろうな。


「魔法で見た目が変わっていたということか。それでナナセさん重ね重ね尋ねることになるが、俺たちはこれから何をすればよいのだろう。」

「そうそううちは自分らと年一緒やから呼び捨てでかまへんよ、ナナでもええし。」

「ナナセが下の名前なのか?」

「自分らみたいに上の名前もってんのは一部の名のある名家だけやから、自分らもあんまり上の名前で呼ばんほうがええよ。」

「そうか、じゃあナナよ、俺のことはトオル、こいつはユウマと呼んでくれ。伊丹よ、俺らもそうしよう。」

「おい、なんで俺まで…。」


 児島がトオルって今知ったわ。でもこいつ俺の名前知ってるとか、なんだよ、いいやつかよ。


「トオルちゃん、ユーマ、自分らが何をするべきか、何をしたいのかはナナにはわからへん。けど、この町にいても年を重ねて死んでいくだけ、この町は始まりの町であり旅立ちの町。だからまずはとにかく大きな街に行くのがええと思う。うちはこんなところで終われんねん。」

「ナ、ナナセには何かやりたいことがあるのか?あとその関西弁はなに?」

「“カンサイベン”はようわからんけど、ナナは学校に行きたいんや。そのために町を出る。着いたで、ここや。」


 目の前にはこの町に入ってきたときに通った門とは比べ物にならないほど頑丈そうな鉄の門がそびえ立っていた。これは外になにがいるんですかねえ。


「もう一度聞く。ナナはこの門をくぐって町を出る。自分らはどうする…?」


 正直この門の先になにがあるかわからない、不安、恐怖はある。けど、それ以上に今、俺はこの世界を知りたいと思ってしまっている。前の世界には無かった未知との遭遇に刺激えお感じている。答えるのに今度は迷いは無かった。


「俺は行くよ。」

「無論、俺もだ。」

「ええ答えや。ほな行こか。」


 門の先にはこの世界に来たときと変わらない草原地帯が広がっていた。唯一違う点として見たことも無い怪物を視界が捉えた。その数5体。怪物は巨人という表現が似合うぐらい人の形に似ていた。しかし、目は一つだけ。俺らのことをじっと見つめてくる。


「…なんだよ、あいつら!あんなのといきなり戦うの!?スライムじゃないの!?無理だよ、あんなの。」

「あいつらはモッグ。人に友好的な性格で決して人を傷つけたりせえへん。せやけど、一つの使命だけは何よりも優先して全うする。その使命は門の番人。」

「なあんだ、それなら戦わなくても素通りできるじゃん、町の人々のために門番のお勤めご苦労様です!…ってえっ!ええっ!!!ちょっ!!待って!!!ハナシチガウ!!!!」


 通ろうとしたら捕まえられた、けど優しく捕まえられている。痛くないけど抜けない。なにこれ喰われるの?はやいはやい、無理助けて!神様ごめんなさい、もう町から出たいなんて言いません。帰らせてください。

 喚きながら人生を悔いているとそのままナナセと児島の下まで連れて行かれてそっと手を離された。助かったけども!話ちげえ!!


「誰も外敵の門番だと言ってへんで。モッグの使命は実力が無い者を外に出さへんこと。まああの見た目の割りにたいしてつよないしモッグに認められれば素通りさせてもらえるから余裕や。」

「あーそうですか…。浪速のレッドスターと呼ばれた俺の俊足を見せるときが来たようだなっ!!」


 全速力でモッグの横を駆け抜ける。すぐにモッグは追いかけてくるが目測どおり足は速くない。いける!しかし、すぐ後ろから聞こえる足音…。うそ、なんで…。


「おい、ユーマ、やっぱり俺たちはレッドスター世代だよな。あの俊足は当時小学生ながら憧れたものだ。」

「はあっはあっ、って児島か、脅かすな。っはあ、お前せめて別に走ってあいつら分断するとかしてくれよ。」


 くっそ、こういうとき使えねえし、俺より全然速いし…待って、速い!置いて行かないで!!

児島が前方からなにか言いながらこちらに指差してくるがなにを言っているかイマイチ聞き取れない。耳に意識を集中させたとき、すぐ後ろから大きな足音が聞こえてきた。無理無理、息が、もう…。完全に失速した俺をモッグはこれ以上ない笑顔で迎えてくれた。


「やはり日々の鍛錬の成果がこういうところで表れると身に染みただろう。だからこれからは毎日筋トレに励もうぞ、友よ。」

「ってなんでお前も捕まってるんだよ。」

「すまん…。」

「…。」

「……。」

「なんか喋れよ。野郎二人がニッコニコの巨人に運ばれてるって地獄でしかねーぞ。」


 そして、またもや初めの位置に戻された。ナナセは相変わらず動いていなかった。こいつはほんとに町を出たいのか。


「くっそ、駆逐してやる…この世から…巨人を一匹残らず!!」

「2回も連れ戻されといてなに言うてん自分。」

「そういうナナセさんはなんでなんにも動いてないわけ?震えて動けなくなってるんじゃないの?」

「なかなかタフなやつらだぞ。」

「自分らほんまアホちゃう?ここはなんの国やねん、怪物に対抗する方法は一つしかないやろ。ナナは無駄なエネルギー使いたないねん、ついてきいや。」


 そういってナナセはモッグの前まで行くといきなり火を吹いた。


「「…!!」」


  俺たちはいきなりの光景に唖然とした。モッグはひるみナナセから距離をとる。強い。

 次ぃ、と言って2体目にも火を吹いた。しかし、その直後3体目4体目がナナセを挟み込むように襲い掛かる。まずい、火は一方向にしか吹けない…!そう思うと同時に火炎放射が3体目を襲い、肝心の4体目は…上空にぶっ飛んでいた。


「ふむ、こんな感じか…。」

「トオルちゃんナイス!このまま押し切るで!!」


 児島のやついつの間に。でもこの二人いたら俺いらねえな。なんにもできないけど…。あと1体もさくっとやっちゃってくれ…。あれ、最後の1体は…?辺りを見回そうとした瞬間、突然体が強ばった。この感覚…。この感覚には見覚えがある…あーやっぱり。また会ったねと言わんばかりの笑みを向けるモッグが後ろにいた。



~そして今に至る~



「なんでこうなるんだよー!!!」


 母さん父さん、僕はなんでもやれると思ってました。でも違いました。実際はチュートリアルすらクリアできないカスでした。



 あー帰りたい…。



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