表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/71

モデルのちひろ②

 翌日も石川プロダクションに訪問した。この日、写真撮影は行われなかった。その代わり、オーディションのようなことをすることになった。オーディションと言っても、参加しているのは俺一人。要は質問タイムといった感じである。様々な専門家が俺の素質を見たいというのが趣旨のようである。


映画監督


『運動が得意と聞いていますが、何か見せてもらえますか。』

『はい、運動は何でも得意です。この場で見せられるものでしたら、シャドーボクシングは、いかがでしょうか。』

俺は、ボクシングの経験はない。見よう見まねでパンチをだした。いわゆるジャブである。ゆっくりと、パンチを何回か出した。見ている人たちが失笑している。これからが本番だよ。千手観音の技を見せてやろう。もちろん、抑制はするけどな。少しづつ、繰り出すバンチを速くする。失笑していた奴らの顔が変わった。そして、人間の眼で捉えることの出来るギリギリまで速くした。空気を切る音がする。こんなもんでいいだろう。

『終わりました。』

俺は頭を下げた。

『す、凄いね。君、凄いね。』

監督はメモにアクション演技Aと記入した。


ボイストレーナー


『音痴だと聞いていますが、恥ずかしがらないでいいから、歌を歌ってくださる?』

『はい、歌います。』

俺はマライヤキャリーの歌を歌った。もちろん、アカペラで。以前、劇団四季のオーディションを受けた時に、ボイストレーニングをやっている。だから、声量には自信がある。しかも、男の時は、低音しか出せなかった声が、今の体だと低音から高音まで、透き通る声が出せる。音痴であることは間違いないが、心に響く歌は歌える自信がある。

『はい、オーケーよ。アカペラなのに、バンドの音が聞こえたわ。素晴らしい。』

ボイストレーナーは、メモをした。ミュージカル、オッケー。


ダンサー


『好きなジャンルでいいから、ダンスを踊って見て。』

『はい、分かりました。』

これは、最も得意な分野だ。まずは、バレエだ。爪先立ちをして、両手を前に出し、くるくると何回転もした。その後、小さくジャンプしながら部屋の隅に移動し、ロンダートからバク転、バク転、二回転一回ねりを披露した。両足を前後に開脚し、そこから、腕の力だけで脚をくるくるとと身体の周りに回した。この時の、俺の姿はミニスカートにTシャツ。激しい動きでも、スカートがまくれることはなかった。

『はい、ご苦労様。』

ダンサーは、メモをした。私より上手い。何も教えることはない。


女優


『泣いて。』

シンプルな質問だ。泣きましょう。最近は涙腺弱いから、すぐ泣けますよ。

『怒って。』

彩先生の傍若無人なことを思い出せば、、簡単だ。

『赤ちゃんになって。』

いつもやってるよ。得意だよ。

『男になって。』

お前、バカか。俺は男だよ。

『どこかで演技の指導とか受けたことあるの?』

『いいえ、一回もないです。』

女優は目をつぶり考えた。そして、メモを書いた。天才現る。


『ちひろさん、ご苦労様。疲れたでしょう。今日こそ、どう?奢らせてよ。』

一度行かないと、面倒な人かもしれないあな。

『はい、ご一緒させて頂きます。』

『本当か。良かった。みんなも一緒にどうだ。今日は気分がいい。お金の心配はいらないぞ。乾杯しよう。』

部長は、悪い人ではなさそうだ。


 またまた、翌日も事務所に呼ばれた。今回は契約のことらしい。

『ちひろさん、契約する前に、何か希望はありますか?』

『忙しすぎるお仕事は、ご遠慮します。週2回程度 であれば、嬉しいです。』

俺の言葉に部長は、少しがっかりしたようだ。そこに、若いスタッフが走りこんできた。

『部長、大変です。あっ、ちひろさん、ごめんなさい。』

『何だ。大事な時に。』

部長の機嫌は悪い。俺が悪くしたからだ。

『とにかく、ちょっと来てください。』

部長は、若いスタッフに引っ張られるように、部屋の外に出連れて行かれた。俺は分身仏を部長の肩に送り出した。

『いったい何だ。』

『これ、見てください。念のため、ちひろさんの身辺調査をしたのですが、とにかく見てください。』

『え、何だってんだよ。』


 赤崎ちひろ、最重要人物。彼女の母親である赤崎彩は、この国、つまり日本を影で操る女性。彼女に逆らえる政治家はいない。暴力団でさえ、彼女の前では土下座する。その娘のちひろに何かあれば、赤崎彩は黙っていない。魔人を連れて、絶望的破壊を行うだろう。半年前、新宿の暴力団、佐々木組が赤崎彩によって、潰されそうになったらしい。赤崎彩を怒らせるな。すでに、この事務所の株は赤崎彩に買い占められている。ちひろさんに嫌われたら、会社は潰される。ちひろさんは、超VIP扱いが望ましい。by AGU。


 なるほどね。事務所がAGUを利用して、俺の身辺を探ったわけか。この文章を書いたのは、Mr.Tだな。佐々木組のことを知っているのは、彩先生とMr.Tだけだ。

 部長がやってきた。取って付けたような笑顔になっている。顔が笑っているが、おどおどしている。

『ちひろさんの、ご希望に添いましょう。専属のフリーモデルでどうでしょう。』

専属のフリーって何だ。矛盾したことを言っているのに気がついていない。それほど、慌ててるのか。

『部長さん。』

『は、はい。』

『母のことをお聞きになったのね。気にしなくていいのよ。母は母、私は私。こうやって、いつも私のやりたい事を邪魔するの。困った母でしょ。』

『、、、』

『私はここで働くわ。安心していいのよ。モデルとして、働かせて。』

部長は俺の目を見ている。俺も部長の目を見た。

『わかりました。俺としたことが、つまらぬ情報に惑わされたようです。俺は、ちひろさんの目を信じます。一緒にトップを目指しましょう。』

部長は、資料を破り捨てた。この男、なかなかの男だ。俺は部長の頰にキスをした。

 契約は成立だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ