おとぎ話③
目が覚めると、そこは奈良の山奥のドーム状の遺跡の中であった。俺は夢を見ていたのか。龍宮は、夢の中の話。俺の頭の中での空想か。本来の目的であった体と心のリセットは出来た。気の充填も完了だ。新宿に戻るつもりで、立ち上がった。
カタン!
右の爪先が何かに当たった。足元を見て、身体中が熱くなっていく。足元には小さな箱が置かれている。玉手箱だ。夢ではなかった。俺は龍宮に行き、龍王に会ったのだ。俺は乙姫。龍宮のお姫様だ。
俺は決心をして、玉手箱の紐を解いた。白い煙が出て、歳をとってしまうかもしれない。期待と不安が入り乱れる。開けない方が無難かもしれない。しかし、好奇心がそれを阻む。俺は玉手箱の蓋を開けた。白い煙は立ち込めなかった。熱くなった身体から汗が落ちた。
箱の中には15cmくらいの細長い袋が入っていた。袋の中を開けると、一本の棒のようなものが出てきた。ちょうど子供用のお箸と同じくらいの長さの棒である。俺は、その棒を右手で握りしめた。そして、気を込めた。すると、その棒は一瞬で長くなり、俺の背丈と同じくらいのサイズの棒に変わった。太さも変化している。お箸の太さから、鉄棒の太さくらいになった。何だ、この棒は。龍王の贈り物。俺は、棒を両手で強く握り、ありったけの気を送った。不思議なことに、頭の中に龍王の声が響いた。
『ちひろ様、いいえ、乙姫様。それは、アロンの杖と呼ばれる物です。不思議な杖で、大きさや形を自由に操ることができます。それは、あるお方から、あなたに手渡すよう預けられていたものです。きっと、役立つことがあるでしょう。ちなみに、古代インドでは、如意金箍棒と呼ばれていたものですよ。』
アロンの杖。ユダヤの三種の神器の一つではないか。龍宮にあったとは。多くの人々が探し回っても、見つからないはずだ。アロンの杖の知識は乏しいが、如意金箍棒なら知っている。斉天大聖孫悟空が操る武器として、あまりにも有名である。いわゆる如意棒のことである。孫悟空は、如意棒を小さくし、耳の中に入れて保管していた。俺は握っていた棒に意志を込めた。すると、みるみるうちに小さくなり、マッチ棒ほどの長さになった。間違いない、これは如意棒である。俺は孫悟空よろしく、耳の中に如意棒を入れようとした。痛いし、違和感がある。無理だ。耳の上にかけることにした。
俺の記憶が正しければ、孫悟空が登場する西遊記に、如意棒のことが記されている。孫悟空が龍宮城の宝物である如意棒を龍王から、奪い取り、自分の武器にしたとされている。その如意棒が、龍王の手よりおれに受け渡された。龍王の説明だと、これには第三者の意志が働いている。
しかし、今の俺は、かなり変態かもしれない。俺は、龍宮のお姫様である乙姫。その乙姫がセーラームーンの衣装を身につけて、耳に如意棒を隠している。変態だが、最強だ。鬼に金棒。セーラームーンに如意棒だ。
『主様、奴らが動き出しました。』
分身仏から連絡が来た。俺は新宿に瞬間移動した。
俺は如意棒を得た。新たな新宿ヒロの誕生だ。敵は全てぶっ潰す。誰のために?かすみのため、レイちゃんのため、彩先生のため。そして、世界のために。
新JUKU hiro ⑦ につづく、、、。




