おとぎ話②
『私は、この龍宮の主人。私の名は、龍王。龍神、海王とも呼ばれている。龍宮とは、龍の住処。その龍たちの王が、私なのです。』
龍たちのボスということか。龍も神の一つと言われている。つまり、神の王ということになる。
『私はちひろと申します。しかし、今の姿は仮の姿。私の正体は赤崎博通。訳あって、偽りの姿で過ごしております。龍王様。そんな偉大なる神が、私に何の用があるというのですか。』
龍王は、再び笑みを浮かべた。
『あなたは、まだ、ご自分の本当の正体に気づいていないようですね。ちひろ様も、赤崎博通様も仮のお姿なのです。』
なんだって、ちひろだけではなく、赤崎博通も仮の姿だというのか。俺はいったい何者なのだ。
『龍王様は、私の正体をご存知なのですか。』
『ああ、もちろん知っていますよ。あなたも、いずれ気がつくはずです。さきほど、今、お座りになっている椅子は、あなたの為の椅子だと話しました。一つだけ、お教えしましょう。その椅子は、龍宮の主人のもの。龍宮の主人とは、二人いるのです。龍王であるこの私と、もう一人。真の龍宮の支配者は私ではありません。もう一人の主人こそ、この龍宮を治める方なのです。そのお方とは、乙姫様。そして、あなたこそ、乙姫様なのです。』
『私が乙姫?』
『そうです。あなたは乙姫様です。あなたは、この龍宮の正統後継者なのです。ゆえに、あなたは特別なお方というわけです。』
『私の正体は乙姫なのですか?』
『はい。あなたは間違いなく乙姫様です。その美しさが何よりの証拠。ただし、それはこの世界でのお名前にすぎません。あなたは全世界の為に必要なお方。さらなる進化をせねばなりませぬ。近い将来、真の目的に目覚め、真のお姿におなりになるでしょう。』
『龍王様は、そのことを伝えるために、私をお呼びになられたのですか。』
『私が呼んだのではなく、あなたがご自分の意志で来られたのです。あなたは乙姫様。こここそが、乙姫様の故郷なのです。つまり、帰郷されたということです。あなたは、やるべきことが山ほどあるはずです。しかし、龍宮の門は、乙姫様の為に、いつでも開かれています。我々は、いつでも乙姫様を歓迎します。』
『ここが、私の故郷。私は乙姫。』
ということは、俺は女神だったのか。俺は女性。女性の姿に変身をしていたのではなく、元々が女性だったのか。それが事実なら、男の姿の方が偽りということになる。
『あなたは、あなたの世界で、ちひろ様として、さらに美しく成長するでしょう。美しいのは当然。あなたは乙姫様なのですから。それを忘れないでいて下さい。』
『ここに来たくなったときは、どうすればいいのですか。』
『念ずればいいのです。さすれば、遣いの者が現れるでしょう。』
『分かりました、龍王様。今、私はやらなければならないことがあります。全てが片付き、落ち着いたら、再び、この地に舞い戻ります。では、その時まで。』
俺は、戻ろうとした。しかし、龍王が俺の腕を掴んだ。
『ちゃっとお待ちなさい、乙姫様。これをお待ちになりなさい。』
龍王は、小さな箱を手渡してきた。こ、これは、玉手箱。おとぎ話が真実なら、この箱は超危険ではないか。さて、どうする。受け取るのか、拒否するのか。受け取るなら、箱を開けるのか。選択を誤るわけにはいかない。俺は迷ったが、龍王を信じることを選んだ。
『ありがたく頂戴いたします。お元気で、龍王様。』
俺は瞬間移動した。




