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おとぎ話①

 夕方のニュースでも、新宿の未確認飛行物体が取り上げられた。ちょっと派手にやり過ぎたか。いずれにせよ、もし、奴らが動くなら、日が落ちてからだ。夕方までには、まだ時間がある。


 俺は気を充填するために、奈良の山奥に飛んだ。俺は今、例の瑞獣と出会ったドーム状の古墳らしき建物にいる。霊気で包まれた空間で座禅を組んだ。体の中が浄化されていくような感覚になる。神経が研ぎ澄まされていく。

 どれくらい時間が経っただろうか。突然、気の流れに変化が起きた。誰か来る。俺は目を開けた。白い煙が立ち込め、中から大きな物体が現れた。瑞獣だ。四体ではなく、一体のみである。霊亀と呼ばれる瑞獣だ。亀のような甲羅を持っているが、象のように大きく、犬のような牙を持っている。霊亀は、俺の目を見つめていた。しばらくすると、体を180度回転させ、俺に背を向けた。俺を誘っているようだ。瑞獣は神である。人のような体つきはしていないが、紛れも無い神である。その神が俺を誘っている。何のためなのか。俺は、その誘いに乗ることにした。

 俺は、静かに霊亀の背中に乗った。すると、霊亀は、ゆっくりと歩き出したかと思うと、一気に飛び立っていく。ドームの中から外に向かってではない。白い煙の中、異空間に向かって飛んでいったのだ。いったい、どこに向かっているのか。俺には予想ができなかった。

 白い煙が徐々に晴れていく。視界が開けると、そこには、朱色の門があった。霊亀は、その門の手前に着地した。俺は、霊亀の背中から降り、霊亀にお辞儀をしてから、その大きな門をくぐった。すると、今度は瑞獣の龍が待ち構えている。龍は通路をゆっくりと進んでいく。道案内をしているようだ。10分ほど歩くと、城らしき建物が見えてきた。どうやら、あれが目的地らしい。龍は城に向かって、飛んでいく。龍の後を追うように、俺も飛んでいった。

 城の入り口で、龍は待っていた。城の扉を見て、俺は驚きを隠せなかった。そこには、二文字の漢字が書かれていた。

『龍宮』

霊亀が俺を竜宮城に連れてきたのだ。浦島太郎のおとぎ話に出て来る竜宮城は存在していたのであった。


 おとぎ話が本当ならば、俺はどうなるのだろうか。不安がよぎる。しかし、後戻りはできない。誰かが俺を呼んでいるはずだ。その誰かを信じて進む。俺は「龍宮」と書かれた扉を開けた。

 俺のイメージでは、竜宮城は賑やかなパーティ会場といった感じである。しかし、ここは全く違っていた。ひんやりとした強い霊気に包まれているが、誰もいない。奥に階段がある。霊気は階段の上から流れていることが分かった。迷わず、階段を上った。タイやヒラメが舞い踊り、美しい乙姫が向かい入れてくれるだろうか。階段を上ると、再びバカでかい扉があり、その扉の両側に二人の門番が仁王立ちしている。右手には長い槍が握られ、腰には剣が差してある。俺は用心しながら扉に近づいた。すると、門番は扉を開け、俺を通す意思を見せた。俺は一礼をして、二人の門番の間を通った。扉の中は、想像を超える空間が広がっていた。タイやヒラメは踊ってはいないが、その代わり、数匹の龍が宙に浮いていた。ここは文字通り龍宮だと確信した。その龍たちに囲まれた中央に、巨大な白い椅子が置かれ、そこに煌びやかな衣装を纏った男が座っている。霊亀を遣いに、俺を呼び寄せたのは、この男に間違いない。男は巨人と呼んでもいいくらいの大きさだ。ざっと見て、3mほどの身長だ。見るからに、威武堂々としている。この龍宮の主なのだろう。

 俺は片膝をつき、頭を下げて、敬意を表した。すると、男はその巨大な体を起こし、椅子から立ち上がった。

『あなたをお待ちしていました。』

男はそう話すと、片膝をつき、俺に頭を下げてきた。いったいこの男は何者なのか。そして、何のために俺を呼び寄せたのか。敵なのか味方なのか。分かっているのは、この男は人にあらず、神であるということだけだ。

『私を呼んだのは、あなた様ですね。あなた様は、どなたなのですか?そして、ここは何処なのですか?』

『それを説明する前に、どうぞ、こちらにお掛けください。この椅子はあなたのものです。』

男が座っていた大きな椅子の横に、もう一つ椅子が置かれていた。男の椅子に比べると小さいが、施されている彫刻は、むしろこちらの方が豪華である。俺は、言われるがままに、その椅子に座った。男も自分の椅子に座りなおした。

『先ほど、この椅子は私の椅子とおっしゃいましたが、どういうことでしょうか?』

『はい。その言葉の通りでございます。その椅子はあなたの為に用意された椅子です。』

『私の為に、、、。』

『きっと、あなたは、ここが龍宮だとお思いでしょう。それも当たっています。ここは龍宮。この建物が龍宮城です。そして、私が、この龍宮の主人であります。ここは、選ばれし者しか来られない所です。あなたは来るべきして、来られたわけであります。』

男は、その風貌とは違い、優しい言葉遣いで説明してくれる。ただし、優しい言葉とは裏腹に、体から放たれている気は激しく、そしてその量は尋常ではない。

『私は選ばれたということなのですか?』

『あなたの場合は、少し違います。』

男は、柔らかな笑みを浮かべた。どうやら、俺は特別のようだ。男の話は続き、この後、俺はとんでもない衝撃を受けることになる。

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