テレビ放映②
ひたすら、検索を続けて行くと、この前と同じと思われる投稿者を見つけた。
『ちひろを抹殺せよ。この子を育ててはならぬ。育てば災いが起こる。時は来たり。ちひろは新宿に潜んでいる。我が僕達よ、立ち上がれ、そして、使命をまっとうせよ。我は全能の神なり。』
罠に引っかかった。俺は新宿の分身仏に援軍を送った。そして、動きがあれば、すぐに連絡を入れるよう伝達した。俺自身は、目立つように新宿の街を歩き、佐々木組で待機することにした。もちろん、セーラームーンのコスプレで。
新宿は俺の庭だ。隅から隅まで熟知している。人通りの多い靖国通りから、歌舞伎町に入って行く。4歳の女の子が一人で歩くべきところでは無い。ただでさえ、場にそぐわないのに、さらにセーラームーンの衣装だ。すれ違う人は確実に俺のことを確認している。SNSが当たり前の時代。すぐに、投稿されるであろう。セーラームーンのちひろが新宿を歩いていると。それでいい。奴らが動きやすくしてやるのだ。
佐々木組の事務所に入ると、若い衆が一瞬、睨んで来たが、すぐにちひろと分かり、態度が変わった。
『お久しぶりですね、ちひろ様。今日はセーラームーンになってるのですね。とても、お似合いで、可愛いです。』
心にも無いことを言って、俺をおだてている。
『それで、今日の御用はなんでしょう?』
『あのね、この前、渋谷で会ったおじさんを探しに来たの。』
『渋谷のおじさん?』
後ろの方でこちらをチラチラ見ていた男の体がビクッと動いた。見つけた!
『そう、渋谷のおじさん。でも、もう大丈夫よ。見つけたから。あの人よ。』
俺は、その男を指差した。
『井上の兄貴のことかい?』
『てめえ、兄貴に向かって指を指すとは、いい根性してやがるな。あまり、舐めたことすると痛い目に会うぞ。』
『こらっ、淳二。大人しくしてろ。ちひろ様は、特別なお方。お前ごときが、敵う相手では無い。ちひろ様、先日は大変失礼致しました。我が愚息に妻ともどもお詫びいたします。』
『何してるんですか。兄貴。』
『淳二、お前を除くここにいる全員が、ちひろ様の凄さを目の当たりにしている。信じてもらえないかもしれないが、この子は神と言ってもいい。俺は何度も奇跡を見たのだ。』
『淳二ちゃん、兄貴さんや、このお兄ちゃんの言っていることは本当よ。佐々木のおじちゃんも知ってるから。』
『組長をおじちゃん呼ばわりして。俺は我慢できねえぞ。』
『仕方ないわね〜。みなさん、ちょっと辛抱してね。』
俺は気を集中させ、体を少しずつ大きくした。久しぶりの魔人バブーの登場だ。
『バブバブバブ、、、バアー』
安全な場所を確認して、口から炎を放った。そして、淳二を捕まえた。地獄の高い高い攻撃。淳二は、逃げようと暴れるが、それは無駄な抵抗だ。さらに、俺は窓を壊し、淳二を捕まえたまま、空に飛んだ。新宿の街を一周して、空の旅を楽しんでもらった。そして、再び、窓を壊しながら、佐々木組の事務所に戻った。
『淳二ちゃん、分かったかしら。』
淳二は、青ざめた顔で、ガタガタ震えながら答えた。
『わ、わ、分かりやした。』
奥から、組長が出てきた。
『何の騒ぎだ。ああ、やっちまったかあ。誰だ。ちひろ様の機嫌を損ねたのは。』
淳二が弱々しく手を挙げた。
『淳二かあ。新入りだから仕方ねえかあ。ちひろ様、許してやって下さい。』
『佐々木のおじちゃん。ごめんね、窓を壊しちゃった。後で、お金持ってくるから、許してね。』
『滅相も無い。お金はけっこうです。先日も、ありえないくらいのものを頂いてます。それより、何か御用ですか。』
『あの人に用事があったけど、もう大丈夫よ。いい人だと分かったから。悪い人だったら、どうなってたか分からないけどね。』
兄貴と呼ばれていた男の顔も青ざめている。 兄貴は俺に質問した。
『どうして、ちひろ様は、空を飛んだり、口から火を吹いたり、体が大きくなったり、どうしてなのですか?』
『さっき自分で言ってたでしょ。神みたいだって。それ、当たりよ。私は神なの。この世で私に勝てる人はいないわ。だって、私は神なんだもん。私は悪い人が嫌いなの。ただ、それだけ。ここに来るのは、佐々木のおじちゃんがいい人だと思ってるから。淳二ちゃん、悪い人にならないでね。悪い人になったら、お仕置きしちゃうよ。月に代わってお仕置きよ。そうだ、悪いことしたら、月に連れて言って置き去りにしちゃうね。』
淳二は、気を失った。




