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進化③

 この一件から、俺とレイちゃんに対する風当たりは弱くなった。どうやら首謀者は、正樹の母親だったようだ。正樹は、俺やレイちゃんに対して嫉妬していたのだ。だか、俺に優しくしたことで、己の評判が上がり、嫉妬する必要が無くなったというのが理由であろう。実際、あの日以来、正樹は俺に対して、とても優しい。そして、セーラームーンのコスプレのおかげで、保育園での俺の人気はうなぎのぼり。前以上に、ちやほやされるようになった。


 帰宅して、しばらくすると、久しぶりに石川プロの亜美から電話が入った。

『こんばんは、ちひろ様。お元気かしら。』

『亜美、お久しぶりね。私は元気よ。それで、何かしら。』

『あのね、次の仕事が決まったの。例の竹田電機のCMのお仕事。海外ロケで決定よ。ヨーロッパだと思っていたんだけど、やっぱり、ちひろ様の水着姿を撮りたいんだって。だから、ハワイになったの。男って、エッチな人ばかり。』

『そうかあ、ハワイね。せっかくだから、一緒に楽しみましょう。水着、新調しようかしら。』

『水着は、会社が一杯用意すると思うから、必要ないと思うわ。だけど、私は買うけどね。会社で用意する水着は、ちひろ様サイズだから、私には無理だわ。ちひろ様みたく、胸がないもん。』

『何言ってるのよ、亜美。それで、いつ出発の予定なの?』

『1ヶ月後だって、それで、チケットの手配が必要なの。だから、今度、パスポートを持ってきて欲しいの。宜しくね。』

しまった!すっかりパスポートのことを忘れていた。早く用意しないといけない。

『分かったわ。連絡するね。』

仕方ない。困った時は、彩先生に頼むしかない。しかし、すんなり聞き入れてくれるだろうか。


 俺は、彩先生の部屋を訪ねた。

『ちひろ、珍しいじゃない、あなたがここに来るなんて。何か魂胆があるようね。』

『さすが、彩姉ちゃん。やっぱりお見通しなのね。お願いがあるの。』

『嫌だわ。お断り。ちひろの願いは、ロクなことがない。面倒なことをして欲しいんでしょ。』

『そんなこと言わないで。彩姉ちゃんしか頼れないの。私の力では無理なの。それに、そんなに悪いことではないから。お願い、彩姉ちゃん。』

俺は両手を合わせて、頼んだ。

『だったら、もっと誠意を見せてちょうだい。』

仕方ない。俺は、土下座をした。頭を床に擦り付けて、お願いした。

『それで、何をして欲しいの?言ってみなさい。』

『ちひろのパスポートが欲しいの。私、戸籍がないから、パスポートを取れないし、戸籍があったとしても、男だから、ちひろのパスポートを取れないの。』

『洋介さんと、ハネムーンでも行こうと思ってるの?』

『違うわよ。次のモデルのお仕事が決まったの。それがハワイロケなの。私一人なら、瞬間移動すれば問題ないんだけれど、マネージャーさんも同行するし、お仕事を断ればいいことだけど、マネージャーさんがハワイロケを楽しみにしていて、断れなくて。だから、パスポートが欲しいの。』

『ああ、あの若くて可愛らしい女性マネージャーね。私が見た感じだと、若いけれど有能な子だと思うわ。ハワイに行きたい気持ちはよくわかる。ちひろが断れないのも理解できるね。そして、何より、あなたの戸籍を抹消したのは私だから、責任の一端は私にあるわ。それで、どっちにする?本物が欲しいの?偽造でいいの?私はCIAよ。偽造なら、すぐに出来るけど、本物だと少し時間がかかるわ。』

『出来れば、本物がいいです。ついでにレイちゃんのも作ってもらえるかしら。そうすれば、みんなでハワイに行けるし。そうだ、孝さんも一緒だと楽しいかも。』

彩先生の目つきが変わった。

『うーん。孝とハワイか、それも悪くないわね。勤め先の学校も夏休みだろうし、仕方ない、ちひろの頼みじゃ断れないわね。外務省に頼んできましょう。』

やったあ、作戦成功だ。今の彩先生の弱点は孝だ。大好きな孝を引き合いに出せば、絶対に協力してくれると思った。孝さまさまだ。

『彩姉ちゃん、ありがとう。やっぱり頼りになるのは、彩姉ちゃんだ。』

『全く、調子がいいんだから。まあ、あとは任せなさい。』

とりあえず、パスポートは大丈夫だ。これで、亜美も喜ぶだろう。

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