進化②
彩先生は、喜んでいる。
『レイちゃん、日々成長してるのね。私の想像よりも、ずっと速く。だけど、危ないことだけは、やめてね。』
『うん。一人で危ないことはしないから、大丈夫。』
『それから、人の技術や能力を学び、吸収するのはいいけれど、ちひろの悪いところは真似しちゃダメだぞ。バカが移っちゃうぞ。』
『キャハハ。バカって映るの?それも大丈夫よ。ちひろちゃんの悪いところを見つけたら、私が直すから。』
俺、レイちゃんに頭上がらないや。4歳にして、すでに精神力は俺より上だ。
『さあ、レイ、ちひろちゃん。保育園に行きましょう。』
『はーい、ママ。』
俺は、本当に、セーラームーンのコスプレで、保育園に登園した。
『先生、おはようございます。』
おゆみ先生は、今日も綺麗だ。
『おはよう、まあ、セーラームーンだわ。ちひろちゃん、本物みたいね。よく似合ってるね。』
褒められると、嬉しい。
『おい、ちひろ。お前、へんな格好してるけど、だけど、、、えーと、、なんか、、、可愛いぞ。』
先生にも褒められてし、乱暴な男の子たちも、喜んでくれてる。俺は、気分がいい。園庭の真ん中に飛び出して、ポーズを取った。
『私はセーラームーンよ。正義の味方。悪い人は、月に代わって、お仕置きよ!』
あゆみ先生が、にこにこ笑いながら、拍手をしてくれた。その拍手を合図に、他の保母さんたちも一斉に拍手をしてくれた。子供たちは、何が起きたのか分からないでいる。そうか。ちびっ子達は、セーラームーンを知らない。むしろ、20歳前後の若い先生達の方が、世代的にぴったり一致しているようだ。セーラームーンを見て育った世代である。
俺とレイちゃんをよく思っていない保護者も、やはり、世代は同じ。嫌な顔はせずに、笑っている。セーラームーン作戦は成功だ。この姿は恥ずかしいが、慣れれば問題ないと思っていた。と、そのとき、突然、風が吹き、俺のスカートが、ふんわりとめくれた。
『あっ、ちひろのパンツ見えた。』
『ホントだ。いちごのパンツだ。』
『パンツ、パンツ、パンツ、、、』
短いスカートでは、隠しきれない。調子に乗った上級生が、スカートをめくってきた。
『見えた。ちひろのパンツ見放題だ。』
男の時は、パンツなど見えたって、何とも思わなかったのに、女の子になってみると、異様に恥ずかしい。
『やめて!』
俺は叫んだが、上級生は、もう一度スカートをめくってきた。この野郎、ぶっとばしてやる。だか、俺は女の子。ここでは、それは出来ない。仕方ない、これで勝負だ。
『この悪者。月に代わって、お仕置きよ!』
俺は上級生の男の子の背中に軽く、チョップした。もちろん、痛くはないはずだ。
『お前、小さいのに生意気だぞ。』
俺に喧嘩を売る気だ。買ってやってもいいと思った。だが、自体は一変した。
『正樹くん。小さい子にムキになって、ダメじゃない。』
上級生の女の子達が俺を守ろうとしてくれたのだ。
『私たちの言うことが聞けないというの?正樹くん。』
気の強い女の子だ。どうやら、正樹と呼ばれた男の子は、この女の子に気があるようだ。さっきまでの威勢が影を潜めてしまっている。
『本気のわけないじゃん。ちょっと、からかっただけだよ。ごめんね、ちひろちゃん。そうだ、もう一回、チョップしてみて。』
『月に代わって、お仕置きよ!』
俺はさっきと同じように、背中に軽くチョップをした。
『うー、やられたあ。』
『あははは〜。正樹くんが、セーラームーンに倒されたあ。』
『助けてくれー。』
『正樹くん、本当は優しいのね。優しい正樹くんは、格好いいわ。』
気の強い女の子が正樹を褒めた。正樹は、思い切り嬉しそうな顔をして俺に近づき、頭を撫でてきた。この子は悪い子ではない。ただの、お調子者。俺には、その気持ちがよく分かる。なぜなら、今現在も俺はお調子者だからだ。俺は、あゆみ先生のところに走って行った。
『あゆみ先生。抱っこして〜。』
あゆみ先生は、俺を抱きしめて、耳元で囁いた。
『ちひろちゃん、いつまでも正義の味方でいてね。』
そして、俺のおでこに、チューをした。




