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進化①

 収録された番組が放送されるのは、ちょうど1週間後らしい。俺は、かなり目立っていたと思うので、もしも魔界の者が見ていれば、絶対に気付く。そして、必ずアクションを起こすはずだ。

『ちひろ、あんなに嫌がっていたのに、結局、のりのりで楽しんじゃって。もう、可愛いんだから。』

『本当は、理由があるのよ。』

『言い訳しなくていいの。あなたが、セーラームーンの大ファンということだけは、分かったから。さあ、もう寝なさい。今日は疲れたでしょ。』

『はーい、彩姉ちゃん。』

『ちひろちゃん、一緒に寝よう。』

『レイ姉ちゃん、今日は守ってくれてありがとう。』

『お礼などいらないの。だって、私の可愛い妹だもん。』

確かに疲れた。俺はあっという間に、眠りについた。


 翌朝、起きると、みんながニヤニヤしている。こういう時は、何かがある。

『ちひろちゃん、おはよう。』

かすみが笑いを我慢しながら、挨拶してきた。

『おはようございます、ママ。何で、みんな、笑ってるの?』

『あらら、バレちゃった。大したことではないわ。ちひろちゃんを喜ばせようと、彩さんが昨夜、用意してくれたのよ。』

『おはよう、ちひろ。私の行為に感謝しなさい。さあ、お着替えして。』

何だかよく分からないけど、とりあえず着替えるか。で、用意されている服を見て納得できた。セーラームーンだ。昨日、着ていた服は洗濯中。つまり、新たにもう一着、彩先生が購入してきたということだ。俺にセーラームーンのコスプレをさせて、保育園に行かせるつもりなのだ。みんながにやけている理由はこれだ。

『どう?嬉しいでしょ!ちひろが、セーラームーン好きだと分かったから、3着も買ったわ。これで、毎日、着られるわよ。』

俺が困惑していると、レイちゃんが俺の頭を撫でて諭してきた。

『大丈夫よ。私がついているから。それに、とても似合ってるので、小さい子とかも喜ぶと思うなあ。一緒に、ひよこ組さんや、アヒル組さんを楽しませましょう。』

『レイ姉ちゃん、優しいね。小さな子たちが喜ぶなら、ちひろも嬉しい。頑張ろう。』

そして、ポーズをとり、彩先生に軽くパンチをした。

『月に代わって、お仕置きよ!』

『ちひろ、いい根性してるわね。この私に、パンチをするとは。』

でも、目が笑っている。調子に乗って、もう一回、パンチをした。

『えーい!私はセーラームーンよ。月に代わって、お仕置きよ!』

何と、パンチをかわされて、腕を取られてしまった。

『ちひろ。本当のお仕置きが必要ね。覚悟しなさい。』

俺は、みんなが見てる前で、スカートをめくられ、パンツを半分脱がされて、お尻を平手打ちされた。

パーン!パーン!

10回叩かれて許されたが、彩先生は手抜きはしない。子供相手に、本気で叩くから、お尻が真っ赤になり、ヒリヒリする。

『分かったか、ちひろ。私に対しては常に尊敬の念を忘れてはいけないのよ。』

そんなことで、へこたれる柔な心は俺にはない。もう一度、チャレンジだ。今度はパンチをかわされないように、超速パンチを繰り出してやる。

『この悪者め。月に代わって、お仕置きよ!』

パンチは、お腹に軽く当たった。俺は、ビシッとポーズを決めた。 彩先生が、俺を捕まえようとしたが、俺は逃げた。

『はいはい、私の降参。セーラームーンの勝ちね。もう、ちひろのしつこさに付き合ってられないわ。』

『正義は勝つのよ。私は、セーラームーン!』

我ながら、アホらしいと思うが、恥ずかしさを紛らわせるには、アホになるのが一番いい。保育園に行ったら、先生にもお仕置きポーズを見せてあげようと思った。俺の行動を見て、またクレームを言ってくる保護者がいるかもしれない。それでいいさ。俺がクレームのターゲットになれば、レイちゃんへの風当たりは弱くなるはずだ。

『ちひろちゃん、本当のセーラームーンみたい。ちひろちゃんは、いつでも正義の味方だから、セーラームーンと一緒だね。』

『でも、それを言うなら、レイ姉ちゃんも正義の味方だよ。』

『私は正義の味方ではなくて、ちひろちゃんの味方よ。彩姉ちゃんだって、厳しいけど、ちひろちゃんの味方だよ。ね、彩姉ちゃん。』

『私が、ちひろの味方?そうね、味方よ。ちひろ、こっちおいで。』

俺はのこのこと、彩先生に近づいた。

『かかったな、このお馬鹿さん。さあ〜、お仕置きよ。』

彩先生に捕まってしまった。一度捕まると、何故か逃げることが出来ない。再び、お尻を露わにされて、平手打ちの乱舞の開始。

『ごめんなさーい。』

俺は涙を流してしまった。ところが、次の瞬間、あっさりと逃げることが出来たのだ。逃げ出せた俺が驚き、そして逃げ出された彩先生も驚いている。横で、レイちゃんが微笑んでいる。どうやら、レイちゃんが何かをしたようだ。

『レイ姉ちゃん、ありがとう。でも、どうやって、私を助け出したの?』

俺も、彩先生も、レイちゃんの答えに興味津々である。

『気の流れを変えただけよ。彩姉ちゃんが出している気、つまりオーラの流れをちょっと変えたの。オーラに包まれた状態だと、ちひろちゃんはオーラから抜け出せないと思ったから。』

『レイ姉ちゃんは、オーラが見えるの?』

『うん、見えるよ。ちひろちゃんのオーラも見えるよ。普段はちひろちゃんのオーラは大きいけど、彩姉ちゃんの前では小さくなるんだよ。』

なんという子だ。すでに、俺の能力を見切っている。

『レイちゃん、流石だわ。私のオーラを歪めるとは、恐るべし素質を秘めている。でも、どうやって、気の流れを変えることを覚えたの?』

『見て覚えたんだよ。おじさんの技を。』

『レイ姉ちゃん、おじさんって、まさか、阿修羅大王のこと?』

『そう。顔が3つあるおじさん。おじさん、自分の気で、他人の気を動かせるんだよ。だから、とても強いの。将棋はレイの方が強いけどね。』

レイちゃんは、どんなことでも、『見て、覚えて、身につける。』が出来てしまう。浮遊術しかり、瞬間移動しかり、心を読むことさえ、誰に教わることなく、己の力で身につけてしまっている。魔界が恐れるのも頷ける。

 俺は、ふと思った。今、レイちゃんと戦ったら、勝てるだろうか。もちろん、俺がレイちゃんと戦うことはないが、もしも、互いに本気で戦ったならば、どうなるか。レイちゃんが、俺の気を操ることが出来るのであれば、俺に勝ち目はないかもしれない。

 今まで、俺がレイちゃんを守っていると自負していたが、それは俺の思い上がりだったかもしれない。俺がレイちゃんを守ると同時に、レイちゃんは俺を守ってくれていた。その事実に気付かされた。

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