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テレビ収録④

 スタジオに入ると、歌のお姉さん、お兄さんが待ち構えていた。大喜びで駆け寄る子ばかりと思ったら、恥ずかしくて母親から離れない子や、雰囲気に圧倒されて泣き出す子もいた。スタジオは想像よりも広かった。天井は高く、ライトなど色々な機材が置かれている。俺はスタジオの中をスキップしながら、その広さを確かめた。

『はーい、みんなあ、こっちに集まって〜。』

歌のお姉さんが、大きな声で呼びかけた。子供達は、憧れのお姉さんの声に素直に反応し、あっという間に集まった。俺も、人だかりの後ろの方に立っていた。ところが、例の暴れん坊の男の子だけが、集まらずに周囲に置いてあったテレビカメラを触って遊んでいる。団体行動が出来ないタイプのようだ。女性のADが優しく声をかけた。

『ぼく、みんな集まってるよ。こっちにおいで。』

『うるさいババア。』

そう言うと、ADを強く押した。ADは、尻餅をつくように倒れた。母親は、ケラケラと笑っている。さすがに、これはマズイだろう。それでも、ADは優しく対応した。よく教育されている。

『ぼく、人を押したりしちゃダメよ。危ないからね。さあ、みんなのところに行きましょう。』

『やーだよー。』

男の子は、優しいADさんの手を振り払い、スタジオを走り回った。乱暴ぶりはエスカレートし、さっきまで遊び道具にしていたテレビカメラに衝突し、そしてカメラを転倒させてしまった。カメラが壊れてしまったことが、誰の目でも分かった。

『どういうこと。こんなところにカメラを置いて、子供が怪我をしたらどう責任取るの!』

馬鹿な母親がADに、くってかかった。可哀想なADさん。どう見ても、あの親子が悪い。しかし、柄の悪い母親に誰も何も言わなかった。仕方ない、俺が何とかしよう。

俺は親子とADの間に入った。

『月に代わって、お仕置きよ。』

俺は、母親と男の子に軽くパンチをした。

『何この子。生意気な子供だわ。』

母親が俺の体を押した。俺は、さっきのADと同じように、尻餅をついた。ディレクターが青い顔をして飛んで来た。

『お母様、それからお坊ちゃん、乱暴なことは、やめましょう。さあ、楽しく歌やダンスをやりましょう。』

『冗談じゃないわ。馬鹿にしないでちょうだい。そんなこと言われる筋合いはないわ。ああ、ちょうど良かった。』

さらに、登場人物が増えた。

『あなた、遅いじゃないの。でも、良かったわ。今、私たち、このディレクターとAD、そして、この生意気なガキに侮辱されたのよ。』

『何だと。おい、どう落とさまいつけてくれるんだ。』

どうやら、暴れん坊の父親のようだ。頭から足の先まで、私はヤクザですといういでたちをしている。俺は、面白そうだから、この父親にも軽くパンチをした。

『月に代わって、お仕置きよ!』

周りで見ている人たちが、息を飲んでいる。小さな女の子がヤクザに喧嘩を売ったのだ。父親の顔が赤くなっていく。火に油を注いでしまったようだ。

『このガキ、許さねー。』

俺の胸ぐらを掴もうと、近寄ってくる。すると、俺の後ろで動きがあったようだ。誰かが近づいてくる。

『危ないから、やめなさい。』

制止する大人の手を振り払い、近づいてきたのは、レイちゃんだ。ロンダート、バク転、バク転、そして、最後に二回転半ひねりで、俺と男の間に着地した。

『ちひろちゃんをいじめないで。』

レイちゃんは、男の顔を睨んだ。

『何だ、この娘は。ふざけやがって。もう一回、言ってみろ。』

『何度でも言うわ。ちひろちゃんをいじめないで!』

レイちゃんは、俺を守ろうとしている。しかし、危ない行為だ。俺に任せていれば、安心なのに。俺がこんな男に負けるわけがない。そして、そのことを理解しているはずだ。ただ、、人一倍責任感と正義感が強いのだ。

『ちひろだとー。』

男が俺の顔を見ている。そして、何かを悟ったようだ。

『お前、まさか新宿のちひろ様ではないよな。』

『おじちゃん、佐々木のおじちゃんの仲間?』

男の戦意は完全になくなっている。

『俺たち、どうなる?』

俺は、男の耳元で囁いた。そして、再びパンチをして、ポーズをとった。

『月に代わって、お仕置きよ!』

『ああ、やられたあ。』

男は倒れる演技をしてくれた。

『あなた、何やってるの?』

『いいから、帰るぞ。お前たちも謝れ。』

『いったい、どうしたって言うの?』

『とにかく謝れ。』

母親と男の子は、俺とディレクター、そしてADに謝り、そして帰って行った。

父親は新宿の佐々木組のヤクザだ。俺が新宿で暴れたところを思い出したようだ。。今度、佐々木組に遊びに行ったときにでも、奴に本当のお仕置きをしてやろうと思った。

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