表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/71

二人のちひろ②

 それよりも、運動会当日の「ちひろ」をどうするか決めないといけない。そもそも、同じ家に3人のちひろがいること自体がおかしい。今思えば、3人の名前を変えておけばよかった。

 ヒロという本体は隠しておけばよい。ベビーのことも話してはいないから大丈夫だ。3歳のちひろと、19歳のちひろを、どうするかが問題だ。3歳のちひろは、保育園のお遊戯で主演を演じるから休むわけには行かない。そした、かすみの娘で、レイちゃんの妹であるという設定も問題ない。

 19歳のちひろのプロフィールを決めなければ。洋介に話したのは、短大を卒業したばかりの19歳で、彩先生の姪であること。趣味はバレエ。確か、こんな感じだったはず。だから、かすみと血縁関係はないことに出来る。たまたま、名前が「ちひろ」で同じになったと説明しても問題ないだろう。

 いや、ちょっと待て。それなら、この前のいちご狩り。何で、3歳のちひろが参加してないんだ。幼児を一人、留守番させることなどあり得ない。誰がに預けると言っても、年子の姉であるレイちゃんが参加しているのだから、不自然だ。何か、いい言い訳を探さなくては。

 そして、19歳のちひろ。職業はどうするか。ぷー太郎では恥ずかしい。そうだ、モデルということにするか。この前の青山のプティックで、モデルとして採用してもらおう。そして、運動会当日は撮影が入ってしまったということで逃げられる。でも、そうなると洋介さんと、話が出来なくなるが、そこは我慢。運動会の主役はレイちゃんと俺だから。


 保育園に到着すると、あゆみ先生から呼ばれた。

『あゆみ先生、おはようございます。』

『おはよう、ちひろちゃん。ちょっと、こっちに来て。』

『はい、先生。お姉ちゃんも一緒でいい?』

『もちろん、良いわよ。』

俺とレイちゃんは、あゆみ先生の後を歩き、二階の会議室に入った。

『はい、これ見てえ。』

そこにあったのは、黄色のドレスであった。

『これが、運動会でちひろちゃんが着る衣装よ。可愛いでしょ。』

このドレスを着て、ダンスしている自分を想像した。恥ずかしい。

『そうそう、レイちゃんのもあるわよ。あとで、パンダ組の先生に見せてもらってね。』

『やったあ。楽しみだなあ。ちひろちゃんの可愛いね。先生、妹に着せていいですか。』

『そのつもりで呼んだのよ。サイズが合わないと困るから。』

その言葉を聞いたとたん、レイちゃんは、俺の服を脱がし始めた。あっという間に、下着姿になり、そして、黄色のドレスを着せられた。

『はい、ちひろちゃん、ポーズ取って。』

俺は、お遊戯で披露するポーズを取った。めっちゃ恥ずかしい。

『まあ、可愛い。衣装もピッタリだわー。後は当日、晴れるように祈りましょ。てるてる坊主、作ろうか。』

『はい、あゆみ先生。』

よし、決めた。いちご狩りに行けなかったのは、お遊戯の衣装合わせがあったから、保育園のあゆみ先生に預けられたことにしよう。それにしても、黄色のドレスは、かなり目立つ。


 帰宅するなり、レイちゃんがかすみに報告した。

『あのね、運動会のお遊戯の衣装、ちひろちゃんの、凄く可愛いんだよ。黄色のドレスなの。』

『あら、そうなの。そしたら、写真、いっぱい撮らないとね。ビデオは、彩さんが撮ると思うしね。』

『ママ、恥ずかしいよ〜。』

『恥ずかしがることないのよ。当日は、いっぱい見に来る人がいるから、一生懸命、踊ればいいの。』

『そうだよ、ちひろちゃん。お姉ちゃんも、ダンスするから見てね。ママ、レイの衣装は、カッコいいんだよ。楽しみにしてね。』

 やるからには、最高の演技をしないと。

手抜きはしない。女の子として、可愛いさで勝負だ。


夕方、俺は19歳のちひろになった。そして、着替えて、メイクして、青山に瞬間移動した。

『いらっしゃいませ。あら、この前のお客様。先日は、お買い上げありがとうございました。まあ、やっぱり、そのワンピースはお似合いですよ。ほんと、綺麗。』

『ありがとう。とても、気に入ったので、また来ちゃったの。』

『まなみちゃん、店長呼んで。』

やばい、洋服を見ていたら、凄く欲しくなってきた。「これ、来たら、洋介さん、褒めてくれるかなあ」などと考えて、全く、馬鹿な俺だ。あのデートから、洋介さんのことが頭から離れない。自分でも信じられないが、恋してしまったようである。

『お客様、店長の田中でございます。この前の件、いかがでしょう。考えて頂けたでしょうか?』

『専属モデルのことかしら。詳しく、お聞きしてよろしいかしら。』

『はい、もちろんでございます。この前、見ていただいた雑誌、CacCanなどに、うちの商品を掲載しているのですが、そのモデルを探してるのです。色々なファッション雑誌に載ることになります。専属といっても、どこかの芸能事務所に所属するというわけではありません。フリーのモデルと思って下さい。ライバル社のモデルにならなければ、特に制約はありません。お客様は、とても美しいですし、過去の経験から、雑誌に載ると、間違いなく大手プロダクションから声がかかるとおもいます。そうなった場合でも、お引き止めることはしませんから、ご安心して下さい。』

店長は、いっきにまくし立てた。

『その仕事って、いつから始められるのですか。』

『もし、お時間があれば、これから撮影があるので、覗いて見ませんか?』

『場所は近いのかしら。』

『スタジオは、この近くにありますわ。』

『せっかくのお誘いなので、行ってみます。』

俺は、店長と一緒に、店を出た。

『社長、この前の美人さん、これからスタジオ見学に連れて行きますので、社長もぜひ、いらっしゃって下さい。びっくりするくらい綺麗なお方ですから。』

店長は、電話で社長を呼び出したようだ。もしも、いかがわしいモデルの仕事であれば、全員、ぶっ飛ばしてやる。万が一、薬でも盛られたらまずいので、分身仏を二体、俺の護衛に就かせた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ