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成人式⑥

『なんか、私、ここに来たことがあるような気がする。』

かすみが呟くと、彩先生、レイちゃんも同じことを言い始めた。

『そういえば、私も同じことを感じていたわ。』

『レイもこの景色を覚えてる。』

普通の人の言葉なら、勘違いだろうと思うところだが、この3人の場合は、そうはいかない。3人に何かしらの共通点がそう感じさせているはずだ。かく言う俺も、同じように、この場所に来たことがあるように感じていた。伊勢神宮と我々4人を結びつけるもの。その答えは簡単だ。DNAだ。フランスで調べさせた結果が物語っている。俺たち4人のDNAは皇室と繋がりがあることを証明してくれている。ならば、伊勢神宮を懐かしむ気持ちがあっても、それは、むしろ当然である。伊勢神宮の霊気が俺たちを迎い入れてくれたのも、そんなところが理由かもしれない。

 伊勢神宮の外に出ると、夏の日差しが照りつけている。さすがに、この暑さは辛い。

『ママ、さっきのレイの話、覚えてる?』

『ん?何のことかしら。』

『アイスのこと。レイ、本当にアイス食べたくなってきた。』

『かすみさん、レイちゃんも、、ちひろも暑さにバテてるようだから、少し休憩にしましょう。』

そう言うと、道路に向かい歩き出し、右手を大きく挙げて、タクシーを停めた。

『さあ、乗って。』

俺らは、タクシーに乗り込んだ。エアコンが涼しくて、嬉しい。

『運転手さん、どこか美味しいランチを食べたいのですけど、適当なところに案内して下さる。』

彩先生は、そう言って運転手に一万円札を3枚渡した。運転手は嬉しそうな顔をした。

『今日は、お祝いですね。この近くのシティホテルまで、案内しましょう。そこに和食のお店がオススメです。伊勢湾で採れた新鮮な魚介類が食べられますよ。もちろん伊勢海老もありますよ。』

『伊勢海老、いいわね。運転手さん、そこに行ってちょうだい。』

『へい、承知致しました。』

伊勢海老以外にも、新鮮な刺身とか、ひょっとすると松阪牛も食べられるかも。お酒も飲んじゃおうかなあ。

『ちひろ、お酒はダメよ。その姿で酔っ払うなんて恥ずかしいでしょ。』

心を読まれた。そして、釘を刺されてしまった。

 タクシーは、30分ほどで駅近くのホテルに着いた。なかなか賑やかな駅前だ。俺のこの姿は、かなり目立つ。すぐに多くの視線が俺に向いている。やばい。モデルのちひろだとバレると面倒だ。俺は逃げこむようにホテルのエントランスに入った。

 タクシーの運転手が紹介した店は、建物の二階にあった。店の入り口で、彩先生が、何やら交渉している。そして、にっこり笑って、俺たちを呼んだ。

『個室を取れたわ。』

さすが、彩先生だ。俺は、一応、モデルのはしくれ。目立たないのは、本当に助かる。そうわ言っても、この姿。俺が店内を歩くだけで、完全に注目の的になってしまった。

個室は十分に広い部屋であった。

『ねえ、彩姉ちゃん、どうやって個室をお願いしたの?』

『覚えておきなさい。人を簡単に動かす方法は、二つあるの。一つはお金。でも、今回はもう一つの方法を使ったわ。モデルのちひろが来てるのよ、お部屋を空けてくださるかしら、って言ったら簡単に、この部屋を用意してくれたわ。ちひろ、有名人はこういう特権があるのよ。』

げっ、俺の名前を使ったのかい。しかし、彩先生は頭がいい。というかずる賢い。

『ちひは、お礼に後で、色紙にサインでも書いてあげなさい。』

『サイン?私、そんなの書いたことないわ。』

『そんなもん、適当に書けばいいのよ。赤崎ちひろ。そしてハートマークでも書いておけば十分よ。』

『もう、彩姉ちゃんたら。でも、色々とありがとうございます。今日はとても良い記念日になりました。』

『何、ちひろ泣いてるの?喜んでもらえて、私も嬉しいわ。でも、涙はダメよ。あなたほどの美人は泣いてはダメ。常に笑顔でいないといけないのよ。かすみさんも、レイちゃんも同じよ。みんな、美しい女性なのですから。』

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