成人式④
写真館に入ると、様々なポーズで写真を撮られた。ポーズと言っても、ほとんどは、両手をお腹の前に重ねてるだけ。全身、上半身、椅子に腰掛けた姿など、後ろ姿は美しい帯を取ったのであろう。かすみの言う通り、まるでお見合い写真を撮っているようだ。
一通り撮影した後、今度は集合写真を撮ることになった。俺を中心に、かすみとレイちゃんと彩先生との4人の写真だ。
『ちひろ様のご家族、なんで、みなさん美しいの?この4人、ちょっと普通ではないわ。』
亜美がポツリと話した。ときどき、亜美の発言は鋭い。感性が豊かなのであろう。
『亜美君の言うことは、当たってるなあ。俺もこの世界で生きてきたが、美女4人家族というのは初めてだ。一番小さな女の子、あの子もよく見ると、凄い美人だ。成長したら、絶対にうちと契約したい。』
『そういえば、ちひろ様の家族って、男性がいらっしゃらないのね。なんか、ミステリアスでいいわあ。』
『おれ、この4人と一緒に暮らしたい。楽しいだろうなあ。』
『部長、赤崎彩さんに聞かれたら、怒られますよ。』
『おお、そうだ、そうだ。迂闊な失言は命取りだ。彩様の機嫌を損ねたら、我が社などすぐに吹き飛んでしまう。亜美君、ご忠告ありがとう。』
『部長も大袈裟なんだからあ。』
『大袈裟ではないぞ。今度、話してやるよ。赤崎彩というお方が、どんなに凄いお方なのか。そして、どんなに恐ろしいお方なのか。』
『部長の言っている凄いは分かりませんけど、現実に目の前にいる4人の美女は凄いですよ。ひょっとして、4人は女神じゃないかしら。だって、ちひろ様、ときどき、後光が射してるし。』
『亜美君にも見えるのか?俺もちひろさんのオーラのようなものを見たことがある。目の錯覚かと思っていたが、やっぱり、あれは本当にオーラだったのかも。亜美君、我々は運がいいぞ。天が味方してくれているようだ。』
あの二人、俺たち4人がどれだけ地獄耳なのかを知らない。全部、聞こえているぞ。
『部長さん、それからお嬢さんも、こっちにいらして。せっかくですから、ちひろと記念撮影して下さいませんか。』
彩先生が呼びかけた。全員で記念撮影を撮り、写真館を後にした。
晴れ着は、予想以上に重い。それに暑い。ちひろの体だと体力の消耗が激しい。
『はい、これ食べて。』
レイちゃんがチョコレートをくれた。俺は遠慮せずに、それを口に含んだ。エネルギーが充填していくのが分かる。なんて気の利く子なんだろう。大袈裟でなく、俺はレイちゃんに守られている感じがした。
『彩姉ちゃん、まだ何か予定があるのですか?』
『もちろん、これからがメインです。神様に報告をして、お祝いをしてもらうの。』
『神社に向かうのですね。』
『そうよ。そこで、ちひろは大人の女性として、立派に生きて行くことを誓うのよ。』
『女性として生きていくのを誓うの?えーっ、そんなあ。』
『いいじゃないの。こんなに綺麗になって、何も問題ないでしょ。薄汚い、男に戻るより、美しい女として生きなさい。その方が幸せよ。しかも、今のあなたは、立場を考えてごらんなさい。アイドルよ。自分で選んだ道でしょ。ファンの期待を裏切ってはダメよ。そして、あなたのために汗水出して働いている亜美さんにも、報いてあげないとね。』
なんだか、違うような気がするけど、彩先生の言葉の洪水には敵わない。実際、こんなに素晴らしい晴れ着を着せてもらっているのも事実だし、女性の生活に不満もない。
『私、もう男に戻れないの?』
『そんなことを言ってるんじゃないの。ヒロが必要な時は、遠慮する必要はないわよ。』
なんか安心した。
『私、神様に誓います。』
俺、とんでもないこと言ったような気がする。まあ、いいや。
『みんなで行くわよ。伊勢神宮。レイちゃんは、ちひろと一緒に。かすみさんは私がサポートします。』
『伊勢神宮?しかも、サポートって、まさか彩姉ちゃん、かすみに瞬間移動させるのですか?』
『こら、ちひろちゃん、ママに向かってかすみと呼びすてにしたら、ダメでしょ。ちゃんとママと言いなさい。』
『ママ、瞬間移動できるの?』
『それがね、出来るのよ。ほら、記憶が蘇って、少しづつだけど、能力が舞い戻って来てるの。瞬間移動も練習して習得したわ。』
『みんな、用意はいいかしら。行くわよ。さあ、伊勢神宮にGO!』
俺らは一斉に飛び立った。




