恋心、目覚め④
洋介さんは、やはり紳士であった。緊張している俺のために、優しく気を使ってくれたのだ。ソファの隣にさえ座らなかった。床にあぐらをかいて、冗談を言ったり、ふざけたり、とにかく俺を笑わせてくれた。とても、いい人であった。
リビングのテレビ台の横に写真が飾ってある。亡くなった奥さんの写真だ。俺は、やはり、この部屋に入るべきではなかった。洋介さんは、俺が写真に気づいたことを知って、真面目な顔をなった。
『この写真、綺麗だろう。亡くなった妻の写真だ。僕は、ちひろさんに、このことを隠すつもりなど全くない。とても、いい妻だった。今でも僕の心の中で生きていると思っている。そして、だからこそ、前を向いて歩くことを決心しているのさ。ちひろさんには、嫌なこと感じさせてしまったね。ごめん。』
『大丈夫よ。洋介さんが優しい人だと確信したわ。今日は、いろいろ、ありがとう。楽しい一日でした。あっ、クルマが到着したみたいだわ。』
洋介さんは、優しく、俺を抱きしめた。
『それで、ちひろ、どうだったの?』
『どうって、、、。普通にデートしてきたわ。映画見て、ランチ食べて、お茶をして。そんな感じよ。』
『そうでなくて、ラブラブになったのかって、聞いてるのよ。』
俺が何と返事するのか、かすみも、レイちゃんも耳を立てている。
『何よ、みんなしてぇ。何にも無いわよ。』
『キスくらいしたでしょう?』
『やあねー、してないわ。』
『じゃあ、手ぐらい繋いだわよね?』
俺は、その質問に一瞬、答えるのが遅くなった。そういうところを、この3人が見逃すはずなかった。レイちゃんが真っ先に反応した。
『ああ、ちひろちゃん、彼氏さんと手、繋いだんだあ。』
しまったあ。バレてしまった。そして、さっき、ハグされたこと思い出した。俺は、顔が一気に熱くなるのが分かった。
『ホント、分かりやすいんだから。ちひろちゃん、素直な女の子ね。本当に手を繋いだだけかしら。』
俺はドキッとした。女の勘は鋭い。
『ちひろ、とりあえず、進展したわけね。』
おそらく、顔がさらに真っ赤になっているはずだ。
『おっしゃる通り。手は繋ぎました。正直に言います。デートは楽しかったです。洋介さん、とても紳士的でいい人でした。』
3人とも、ニコニコしている。
『そしたら、みんなはどうだったの?楽しかったの?』
俺は話題を換えた。
『私は、体育教師の孝。もう典型的な筋肉バカ。物事を頭で考えないで筋肉で考えるって感じ。だけど、とても素直なのよ。顔もいいしね。だから、そうねえ、楽しかったわ。そして、もっといい男になるように、調教するつもりよ。』
彩先生のわがままについていけるとは、なかなかのタフマンだ。
『私のお相手は、弁護士の由規さん。ああ、ちひろちゃん、私の恋愛対象はヒロ君だけだから、心配しなくて平気だからね。それと、ちひろちゃんの恋愛は応援するわ。だけど、ヒロ君のときの浮気は許さないからね。それで、由規さんは正義感溢れる真面目な人でした。頼りになるって感じかな。私が既婚者だと分かったら、ちゃんと理解した上で、楽しませてくれたわ。』
かすみも俺に気を使ってくれている。優しさに泣きそうだ。
『そしたら、最後はレイの番ね。レイは智仁君とお友達になったの。智仁君、とっても頭が良くて、物理の話で盛り上がったんだあ。ニュートンの力学の法則とか、アインシュタインの相対性理論の話も楽しかったよ。智仁君、大学で研究してるんだって。今度、大学でデートする約束したよ。』
結局、一番成果をあげたのは、レイちゃんだ。次のデートの約束って、大丈夫かあ。
『レイ姉ちゃん、2人っきりでデートするの?』
『デートだもん、当たり前でしょ。』
『心配になっちゃうけど、、、。』
『大丈夫。嫌になったら瞬間移動で逃げればいいし、ぼんちゃんを呼ぶことも出来るから。』
『ママ、いいの?』
『大丈夫よ。どうやら、彼はレイの才能に惚れ込んだみたいなの。大学で学ばせたいのよ。しかも、東大よ。』
まじか。4歳の子が、いきなり大学。しかも、東大の物理研究所。凄すぎる。
『そんなことより、ちひろちゃんも次のデートの約束しないと。今度は、彩さんのお膳立てなしで、自分で約束を取り付けるのよ。これ、ママの命令だから。』
かすみに言われると断れない。でも、どうやって約束するのか分からない。とりあえず、明日にでもラインでお礼を言おうと思った。
『そういえば、私、ちひろちゃんの彼氏君、ちゃんと見られなかった。ママとして、チェックしたかったのに。』
『レイも見てない。姉として、チェックしたかったのに。』
『そうよね。ちゃんと紹介してもらわないと。「この方が、私の彼氏の洋介さんです」って、ね。』
『もう、分かったから。今度、ちゃんと紹介します。』
なんだか、本当に女の子になったのかな、俺。
『それで、洋介は、ちひろさんと上手くいったのか?』
『ああ、楽しい一日だったよ。あの笑顔を一日中独り占め出来たんだからなあ。』
『当然、キスくらいは済ませたんだろう。』
『いいや。彼女、まだ19歳だそ。しかも、とても純真無垢で、なんて説明すればいいのかなあ、不思議な魅力の持ち主なんだよ。』
『おまえ、完全に彼女に酔ってるな。』
『ああ、魔法にかけられているようだよ。それで、お前らはどうだったんだ?』
『俺は彩様に一目惚れ。あんなパワフルな女性は初めてだよ。この俺よりも力がありそうなくらい。それでいて、あの顔に、スタイル。完璧な美しさ。完全にノックアウトされた。』
『彩様って呼んでるのか?』
『もう、次々に命令されて、でも不思議と嫌じゃなくて、俺、彩様の僕になってもいいと思ったくらいだ。彩様は世界一美しいと思う。』
『孝、それは違うぞ。世界一美しいのは、ちひろさんだ。あの目の輝きは、凄いよ。見つめられたら、誰でもイチコロだ。』
『ちょっと待った、お二人さん。世界一は間違いなく、かすみさんですよ。容姿だけではなく、あのお方は、心も美しい。その上、上品で気品がある。ヴィーナスとは、かすみさんの為にある言葉だ。』
『由規、確かにかすみさんは美しい。しかし、セクシーさで言ったら、断然、彩様だ。俺、鼻血出そうだったよ。』
『お前ら3人は、何にも分かっていない。レイちゃんを見たか。あれは、まさに天使だぞ。お前たちが、ダメなのは、未来が見えていないからだ。10年後、20年後を想像しろ。間違いなく、レイちゃんの美しさが花開く。世界一の花だ。おまけに、大天才。この俺が言うんだから。俺は一生をレイちゃんの開花に費やしても構わない。レイちゃんは、世界の宝だ。』
『智仁、お前、危ない道に走るなよ。犯罪は犯すな。』
『由規、馬鹿なこと言うなよ。俺はレイちゃんの才能に惚れてるんだよ。4歳児が俺と相対性理論で議論を戦わせたんだぞ。俺は感動したよ。』
『そうだよなあ。しかし、今日は楽しい一日だった。だけど、洋介、お前はとんでもないファミリーを呼んできたなあ。こんな美しい4人組など、今後一切ないぞ。そして、みんな。今日から当分、いちご三昧だ。彩様が買ってくれた、このいちご。半端ない量だ。彩様に感謝して、ありがたく頂くんだぞ。』
男、4人は、完全に美女4人の虜になっていた。