前進①
自宅に戻ると、伐折羅大将と阿修羅大王が待ち構えていた。
『どうだ。わしらの演技は上手かっただろ。』
『伐折羅大将、阿修羅大王、お二人とも完璧でした。あの男、二度と悪さはしないでしょう。ありがとうございます。』
『しかし、ヒロ殿は忙しいの。赤ん坊になったり、レディーになったり。』
大王が呟いた。すると、廊下で誰かが走る音がしてきた。
バタン!ドアが開いた。
『やっぱり、おじさんたち来てたんだ。』
レイちゃんだ。
『おお、レイ殿、ご機嫌麗しく。いつ見ても、可愛いのお。』
大将が笑った。あの鬼のような顔つきの伐折羅大将が笑っている。
『おじさんたち、何しにきたの?』
『ちひろ殿と一緒に悪者の退治をしてきたのじゃ。』
阿修羅大王も笑っている。三つの顔が全て、笑顔だ。むしろ、ある意味この方が怖い。
『ちひろちゃん、もう寝る時間だよ。赤ちゃんになって。』
『えっ、今?大将と大王がみてるけど。』
『今よ。2人のおじさんにも見て欲しいの。赤ちゃんのちひろちゃんを。だって、可愛いから。』
もう、仕方ない。レイちゃんの頼みは断れない。俺はベビーに変身した。
『ちひろちゃん、お着替えしましょうね。』
オムツを着け、ベビー服を着せられた。
『ほほお、なるほど、これは可愛い。オムツを着けて、おねしょをするという噂は本当だったわけか。』
大将が手を叩いて笑っている。恥ずかしいよ〜。
『おじさんたち、もっと可愛いところを見せてあげようか。』
『何じゃ、何じゃ、拝見させて下され。』
阿修羅大王も手を叩いた。六本の腕が波を打っている。
『ちょっと待っててね。』
レイちゃんが部屋を出ていった。そして、すぐに足音がして、戻ってきた。
『これよ。これ、これ。見ててね。可愛いから。はい、ちひろちゃん、ミルクのお時間よ。』
レイちゃんが俺の口に哺乳瓶の乳首を入れてきた。俺は条件反射で、ミルクを吸い始めた。恥ずかしいが、吸うことを止められない。
『これは、これは、またもや土産話が出来たわい。最強の男、ヒロ殿は哺乳瓶で飲み物を採っている。一人では飲めない。甘えん坊じゃ。早く、誰かに伝えたい。では、さらば。』
阿修羅大王が去っていった。伐折羅大将は、微動だにせず、俺を見ている。何か語りたいようだ。ミルクを飲み終えて、俺は大将に向かって両手を伸ばし、抱っこしてのポーズをとった。大将は、その馬鹿でかい両手で、俺を抱いた。何だろう、この感覚。俺のことを見つめる瞳に愛情が感じられる。そういえば、さっきの竹田電機のバカ息子を退治した時、俺の横で仁王立ちした姿は、実に嬉しそうであった。伐折羅大将は、俺と何か深い繋がりがあるのだろうか。その答えを大将は知っている。俺が神として成長すれば、自ずと、その答えが分かるはずだ。
『あのね、おじさん、もう一つ教えてあげるね。ちひろちゃん、ママに甘えるの。哺乳瓶ではなくて、ママのおっぱいも吸ってるんだよ。ママ、ママって甘えるの。可愛いよ。』
『そうか、そうか、それは面白い。レイ殿、貴殿にちひろちゃんを任せたぞ。では、さらば。』
伐折羅大将は、どこかへと消えた。
『ちひろちゃん、おじさんに頼まれちゃった。私が育てるの。いい子に育ってね。』
俺の周りの人達は、みんな優しい。でも、伐折羅大将に、また秘密を知られてしまった。恥ずかしいが、事実だから仕方ない。




