アイドル②
亜美の言った通り、翌日、石川プロダクションの部長から電話が入った。
『ちひろさん、明日の夕方、来れないだろうか。次の仕事が決まりそうなので。ちひろさん本人の意見を聞きたいのです。』
『分かりました。明日、19時で宜しいでしょうか。』
『オッケー。7時に本社で待ってます。ちひろさん、ありがとう。』
昨日の亜美も興奮していたが、今日の部長も凄い。電話なのに熱が伝わってくる感じだ。次の仕事とは何なのだろうか。写真集でも出そうと思ってるのか。明日が楽しみになってきた。
『ちひろちゃん、もう夜だから赤ちゃんになりなさい。お風呂に入るわよ。』
『はーい。ママ。』
俺はベビーの姿に変身した。
俺の一日。普通の日の一日は、こんな感じだ。
夜8時〜翌朝8時、、、赤ちゃん
朝8時〜夕方6時、、、保育園児
夕方6時〜夜8時、、、20歳のちひろ。
一日のうち、半分は赤ちゃんで過ごしている。ただし、赤ちゃんの時は、ほぼ寝ているし、保育園ではお昼寝もある。だから、活動している時間は、かなり少ない。ヒロとしての活動はゼロだ。自分の心の中も、これに伴い変化している。最近では、女性としての考え方が大半を占めるようになってきた。
女風呂は天国だと思っていたが、慣れとは恐ろしい。今では、当たり前のように、女風呂に入るし、トイレも女性用に堂々と入っている。衣服に至っては、男物はゼロに等しい。話し方も女性らしく、振る舞いも女性らしくなっている。周りの人も、全員、女性として扱ってくれる。初めの頃、抵抗があったのが嘘のようだ。今では、女性としての人生を楽しんでいる。果たして、このままで、いいのだろうか。
翌日、石川プロダクションに出向いた。四谷の街を歩いていると、周りの人の視線を感じる。女子高生らしき集団に声をかけられた。
『あのー、ちひろさんですか?』
『はい。そうですけど、、、。』
『やっぱり、そうだ。写真より綺麗。すみません、一緒に写真を撮ってもいいですか。』
『かまいませんわ。』
女子高生たちは、キャーキャー言いながら、俺を囲み、スマホで写真を何枚か撮った。
『ありがとうございました。応援してます。』
握手をして、その場を去っていった。本当に、俺は有名人になったようだ。
石川プロダクションのビルに入ると、歓声が上がった。
『ちひろさんが来ましたよ。』
『本当、美しい。』
『なんかオーラが出てる。』
『これは奇跡か。』
『今のうちに、サイン貰っておこう。』
『今世紀最高のアイドルだ。』
『おれ、ファンクラブ入ろうかなあ。』
アイドル、ちひろの誕生だ。




