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誕生日①

 今日は、5月20日。俺の誕生日だ。56歳になった。だが、今年の誕生日は、今までとは全く違う。女性として迎える誕生日だからだ。しかも、20歳の誕生日である。朝から、なんとなく、そわそわしてしまう。落ち着かない。レイちゃんが、俺の態度を見逃さなかった。

『ちひろちゃん、まだ朝だよ。もう、デートのこと考えてるの?お誕生日デート、いいなあ〜〜。そうか、誕生日だね。おめでとう。やっと1歳ね。そして、4歳、さらに20歳。ねえねえ、本当は何歳だっけ?』

『本当は56歳よ。』

『ちひろちゃん、本当は、レイより52歳も年上なのね。でも、やっぱり妹だから。これからも、お姉ちゃんって呼んでね。』

『はい、お姉ちゃん。』

かすみもやってきた。

『お誕生日、おめでとう。はい、これ。きっと似合うわよ。』

『ママ、ありがとう。』

青い箱に金色のリボンが飾られている。ティファニーだ。

『開けていい?』

『もちろんよ。』

俺は、箱を丁寧に開けた。レイちゃんも、覗きん込んできた。

『ネックレスだ。キラキラしてきれい。』

女の子は、小さくても、キラキラしているものに惹かれるみたいだ。かく言う俺はどうだ。ジュエリーなど全く興味がなかった俺が、心ときめいている。早く付けてみたい。これは、プラチナのチェーンに小さいながらダイヤが煌めいている。上品な上に、さりげなく輝く石。やはり、かすみはセンスがいい。

『ちひろちゃん、今夜、付けていきなさい。美人をより引き立ててくれるはずよ。洋介さんも、喜ぶわ。』

ダメだ。感情を抑えられない。嬉しさと、恥ずかしさが交差しているのが分かる。

『はい、お姉ちゃんからもプレゼント。お誕生日、おめでとう。』

渡されたのは、同じくティファニーの箱。中を開けると、ピアスが出てきた。ネックレスとお揃いのピアスだ。

『レイ姉ちゃん、ありがとう。でも、まさか、お姉ちゃんが買ったの?』

『うん、そうだよ。私ね、株式投資してるの。頭使うと、簡単にお金を増やせるんだよ。この前のAGUを買い取った後、資産整理をして、余ったお金を運用してるの。凄いでしょ。』

てか、凄いを通り越して、凄すぎる。

『お姉ちゃん、天才。ピアス、ありがとう。』

俺は、喜びを隠せなかったり

『ちひろちゃん、本当に分かりやすい。気持ちが顔に全部出てるわ。さあさあ、お支度して。保育園に行くわよ。』

『はーい。』


 保育園から帰ると、ちひろ宛に荷物が届いていた。送り主は、石川プロダクションだ。箱を開けると書籍らしきものが入っていた。そして、その書籍が何なのか、すぐに分かった。ヤングマガゾンである。表紙に俺の写真が載っている。ビキニ姿の写真だ。書籍以外に封書が添付されており、中身を確認したところ、書店に並ぶ前の見本らしい。今度の月曜日には、全国の書店やコンビニで販売されるそうだ。月曜日以降、間違いなく有名になるから、大衆の目に十分気をつけるよう、書かれていた。

 なるほどなあ。俺は裏世界では、かなりの有名人だが、今度は表舞台で有名になるわけだ。石川プロが注意していることを守らないといけないな。極力、20歳のちひろの姿で外を歩かないようにしよう。ああ、今夜は有名になる前だから、良かった。しかし、石川プロのスタッフのことを考えると、スキャンダルはご法度だ。ちひろはミステリアスな女性であることを貫こう。

 ヤングマガゾンの表紙には、

『美女降臨、男どもはひれ伏せろ』

と書かれている。当人なので、客観的に見ることは出来ないが、表紙を見ただけで、美しさの虜になる男は相当数だろう。ページをめくると、すぐに別の写真が掲載されている。セーラー服、OL、水着。予定通りの写真である。しかし、セーラー服の写真は、やっぱり恥ずかしい。最後のページには俺のプロフィールが書かれている。


ちひろ、20歳。

出身地 神奈川県。

スリーサイズ 92-55-82。

特技 バレエ、空手。

好きなタイプ 誠実で心のきれい な人

男性経験 なし。処女。


何だ、これ。処女なんて、誰にも言ってないんだけど、彩先生が吹き込んだに違いない。

『ちひろ、見たわよ。ヤングマガゾン。きれいに撮れてるわ。カメラマンの腕がいいのね。何、その目は。私のところにも、見本を届けるように言っておいたのよ。』

『彩姉ちゃん、余計なことを石川プロダクションに伝えたでしょ。』

『ああ、処女ってこと。その方が、男は喜ぶわ。本当のことだしね。』

『もう、何万人の人が見ると思ってるの。恥ずかしいじゃない。』

『いいじゃないの。気にしない、気にしない。ちなみに、孝にも伝えたわ。ちひろは、バージンだから、洋介さんに優しくするよう伝えてねって。』

『彩姉ちゃんのバカ。なんで、そんなこと言うのよ。』

『予防線よ。私たちの大事なちひろを、いい加減な気持ちで抱いて欲しくないの。ただ、それだけよ。』

『彩姉ちゃん、意地悪なのか、優しいのか、分からないよ。』

『私が、いつ意地悪なことした?私は、いつだって優しいわ。』

頭を叩いたり、お尻を叩いたりは、意地悪ではないのかい。意地悪は男の時だけにしてほしい。女の姿の時は、俺、弱っちいから。

『それと、これを受け取って。』

そう言って、紙袋を俺に渡した。中には、立方体に近い箱が入っている。

『ちひろ、誕生日おめでとう。』

『ありがとうございます。開けていいですか。』

『もちろんよ。気に入ったなら、今夜、着けていきなさい。』

箱の包装を丁寧に開くと、赤の箱が出てきた。見覚えのあるデザインの箱である。カルティエだ。箱の中にはる、時計が入っていた。レディースの腕時計だ。あきらかに高価だと分かる。俺は、早速、左腕に着けてみた。

『素敵。彩姉ちゃん、ありがとう。私、この時計が似合うような女性に成長します。』

言った後に気がついた。俺、とんでもないことを発言してしまった。女性として成長する、、、女性として生きていくということではないか。恥ずかしくて、顔が赤くなる。

『ちひろ、男とか女とか、迷わなくていいのよ。あなたは、それ以上の存在になるよう成長したなさい。今日は20歳のちひろとして、輝きなさい。』

彩先生は、やっぱり優しい。

『そうだわ。かすみさん、かさみさーん。』

な、何だ。何か考えついたようだぞ。

『はい、はい。彩さん、何かしら。』

かすみがやってきた。やばい、テーブルの上に雑誌を広げたままだ。

『ああ、これ、ちひろちゃんが載ってるじゃない。モデルやるって言ってたけど、いきなりヤングマガゾンの表紙。凄いわあ。これは、間違いなく、ちひろちゃん、アイドルになるよ。』

『ママ、私、照れ臭いわ。』

『やるからにはトップを目指さないとね。』

『かすみさん、ちひろは20歳になったのよ。本当は56だけど。とりあえず、ヒロ君のことは無視して、ちひろは20歳。だったら成人式やりましょう。なかなかの美人だから、晴れ着も似合うはずよ。次の大安の日に家族で、成人式をやりましょ。』

『賛成だわ。私、着物の着付けできるから、任せてね。』

『そしたら、晴れ着や小物は私が揃えるわね。なんか、ウキウキしてきたわ。』

『私も、とっても楽しみ。』

また、俺抜きで、俺のことを決めている。みんなが喜んでくれるのなら、それでいいか。

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