恋心、目覚め③
映画を観て、ランチディナーを食べて、とても幸せな時間を過ごすことが出来た。午後3時過ぎ、板橋に向かい、電車に乗った。洋介がスマホを取り出して、画面を見ている。
『これ、読んで見て。』
俺はスマホの画面を見た。ラインのメッセージである。
『洋介、楽しんでるか。こっちも盛り上がってるぞ。1番意気投合したのは誰だと思う。智仁と、レイちゃんだよ。もう、あの2人の会話は難解でついていけないよ(笑)』
想像したら、可笑しくなってきた。大学の准教授と保育園児が対等に話ししている光景は、俺には予想の範囲だけれど。
『楽しそうで良かったわ。きっと、彩さんのことだから、大量のお土産を買ってるはずよ。体育の先生、荷物持ちになってるかも。』
『それ、ありえるなあ。でも、体力だけはあるから大丈夫。』
洋介さん、彩さんを見くびってるわ。分身仏の報告だと、彩先生は、体育の先生を、すでに完全に支配しているようだ。召使いのように扱ってるらしい。ただ、それを嫌がらずに、黙々と働いているということだ。かすみと弁護士も楽しそうに会話をしているが、さすがは弁護士、既婚者のかすみに対して、その辺はちゃんと弁えている。俺は、それを聞いて安心した。彩先生は、あれでいて、気配りは、ちゃんとしている。俺に、心配させないように、メンバーを選んだのだ。さらに、分身仏は、変なことを伝えてきた。
『主様、どうやら彩先生は、主様に何やらメッセージを渡してあると言っておりました。バッグの中に忍ばせたらしいです。』
俺は、バッグの中を探した。バッグのちいさなポケットの中に、小さな封筒と紙切れが入っていた。
『避妊を忘れずに! 彩。』
メッセージとは、コンドームであった。気配りし過ぎですよ。俺は慌てふためいて、バッグを閉じた。
電車は板橋駅に到着した。分身仏によると、クルマは首都高を走っているらしく、板橋に到着するのは、あと1時間くらいはかかるそうだ。洋介のラインにも友人から同じようなメッセージが入っていた。
『かすみさん、イチゴ狩りグループが戻るのに、あと1時間くらいかかるようです。もし、嫌でなかったら、僕の家で待ちませんか?』
『えっ、どうしましょう。』
こういう時、女性はどう答えるのだろう。知り合って間もない男性の自宅に平気で入ると尻軽女に思われちゃうし、逆に断ると、嫌われているのではと思われるちゃうし、困ったなあ。洋介さんを信用するか。もし、襲ってきたら、気絶させちゃえば平気だし。
『そしたら、洋介さんのお家をチェックしちゃおっかなあ。お掃除してなかったら、怒っちゃうぞ〜。』
男の一人暮らしだ。エロ本の一冊や二冊あっても構わない。ゴミ屋敷でなければ、問題ない。
『さあ、どうかなあ。整理してるつもりだけど、ちひろさんのチェックは厳しいかな?』
俺は、洋介さんの後ろを歩き、マンションの中に入って行った。
8人。4つのカップルは、それぞれ満足のデートを楽しんだようだ。
彩先生と体育教師
『こら、それくらいの荷物、男なら運べて当然でしょ。何、怠けてるのよ。サボったらお仕置きよ。』
『は、はい。彩様。』
『ご苦労様。はい、ご褒美。チュッ。』
かすみと弁護士
『かすみさん、何か困ったことがありましたら、遠慮なさらずに相談して下さいね。』
『優しいのね。でも、弁護士費用って、高いんでしょう?』
『確かに高いかもしれません。残念ながら無料にすることも出来ません。ただし、かすみさんの笑顔は、費用を上回る価値がありますので、それを相殺すると、費用はゼロ円になりますね。』
レイちゃんと准教授
『でも、それでは運動エネルギーが熱エネルギーに変換される説明出来ないと思うけど。計算上で誤差が生じちゃうよ。』
『それは、計算の勘違いだよ。三角関数を使って計算し直してごらん。』
『ホントだ。レイの計算ミスだった。』
ちひろと洋介
『おじゃましまーす。』
『狭いところだけど、自由に寛いで下さいね。』
『へー、やっぱりね。ちゃんと片付いてる。』
『綺麗な部屋の方が、気分もいいし、好きな読書も集中できるんだ。』
『読書?エッチな本じゃないわよね。』
『エッチな本は隠してあるから。なんて、嘘です。さすがに、この歳になったら読まないですよ。』
『良かったわ。ちひろのお部屋チェックは終了。合格です。』