衝撃②
俺は、洋介さんにラインをした。
『こんばんは。洋介さん、ひょっとしたら、もうご存知かと思うのですが、孝さんと、うちの叔母が結婚するみたいなの。もう、ビックリ。まだ会って、1ヶ月ちょっとなのに。衝撃的だわ。では、明日の夕方、板橋駅の改札口で待ってますね。ちひろ。』
俺の心の中は、完全に四つの顔を使え分けられるようになっている。多重人格者と言っていいと思う。ただ、他の多重人格者と違うのは、姿形も変えられるということだ。分身仏が無限に増やせるように、ひょっとしたなら、人格も無限なのかと思ってしまう。
19歳のちひろになると、洋介さんのことばかり考えてしまう。乙女の気持ちになっちゃうのだ。明日のデートが待ち遠しい。優しくされて、癒されたい。着ていく服は用意してある。石川プロダクションのスタイリストが選んでくれた服だ。胸の膨らみが強調されているミニのワンピース。銀のチェーンにダイヤのヘッドのネックレス。部長が『これも持ってけ。』と言って、渡された物だ。洋介さん、喜んでくれるかなあ。
もし、誘って来たら、どうしよう。まてまて、冷静に考えよう。俺はもともと男だ。変身能力で女性の体になっている。もし、性行為になり、避妊をしなかったら、妊娠するのだろうか。もし、妊娠した場合、元の俺に戻れるのか。もし、元の俺に戻った場合、お腹の中の子供はどうなってしまうのだろう。そんな風に考えれば、やはり、きっぱり断るのが最善である。だけど、ちょっとは興味がある。女性としての性体験がどんなものなのか体験してみたい気持ちも少なからずある。だが、やはり危険だ。もしも、病みつきになったら、二度と男に戻れない気がする。こんなことを考えるのは、世界中で俺だけだろう。
洋介さんから、ラインが届いた。
『僕もびっくりしています。ただ、孝を見ていると、恋愛に対して真っ直ぐで羨ましく思います。だって、見てると彩先生さんに夢中なのがバレバレでしょ。他人の目とか気にしないのは、逆の意味で、なかなか凄いです。僕は、僕で、色々と考えています。今は、明日のことで頭が一杯です。明日、楽しみにしていて下さいね。 洋介。
追伸。智仁が昨日まで落ち込んでました。3年間研究していた問題を、レイちゃんが15分で解いてしまったそうです。レイちゃん、凄すぎます。ちなみに、智仁は、もう復活して、レイちゃんを守るんだと意気込んでいますよ。では。』
レイちゃんは、軍師としたの能力もありますよ。380億円の資産も取得してますよ。などと、聞いたら、智仁さんは衝撃で気絶するだろうな。
俺はかすみと二人で奈良を調査しようと思っていたが、どうやら大人数の旅行になりそうだ。それはそれで楽しむことにして、とりあえず、一足先に奈良に行ってみようと思った。分からないことを考えることは大切だが、素直にアドバイスをもらうのも時にはいいと思う。伐折羅大将に会いに会いにいくつもりだ。畠山事務所について、何かしら知っているのではと感じたので。ひょっとしたら、秦純平の情報を持っているかもしれない。この前、龍や麒麟と遭遇した、奈良の山奥に瞬間移動した。
やはり、この場所は霊気が漂っている。普通の人間では、近づくことは出来ないだろう。建物の中に入ったが、人の気配はない。中央の大きな空間は、特に気が充満している。俺の気配を感じたのであろう。すぐに異変が起きた。空間が煙で覆われ、中から四体の瑞獣が現れた。四体とも俺のことを覚えているようだ。敵意を露わにすることはない。むしろ、好意的な態度を取っている。俺は、四体の瑞獣にそれぞれ敬意を表した。龍、麒麟、鳳凰、亀。神聖なる動物だ。四体を見ていて、あることに気がついた。北村が防ぎたかったこと。それは、俺とこの瑞獣を会うことだったのでは。さらに、ここには、伐折羅大将もいる。俺もそこそこ強いが、瑞獣は、もっと強い。伐折羅大将は、さらにその上をいく強さだと思う。敵となり、互いに戦い合い、殺し合えば、北村には都合がいいのだが、味方となってしまった時の脅威は計り知れないと思ったのだろう。実際、こうして、アドバイスをもらおうと尋ねている。
『来たな。』
俺は呟いた。大きな気が流れてきた。空間が歪み始め、その歪んだ空間の亀裂の中から、大男が現れた。
『ヒロ殿、来ると思いましたぞ。』
『伐折羅大将、その前はかすみのために、来て頂き、ありがとうございます。その後、かすみは命に別状なく、無事に生活しております。』
『うん。まことに良かった。それで、今日は何か相談があるのだな。』
俺なんか全く及ばない能力が備わっている神だ。おそらく、すでに俺の考えは読み取っていると思う。
『大将、さすがです。相談というより、ぜひアドバイスをして欲しいのです。俺の大事な人、かすみ。3年前、そのかすみの周りで二つの事件が起きています。一つはかすみの妹が殺された事件。もう一つは、かすみの夫が殺された事件。とくに、夫は、この奈良で殺されている。さらには名前が秦純平、つまり秦氏なのです。もしかしたら、大将なら何かご存知なのではと思い、こちらに出向いたわけです。』
『秦殿の事件は、知っておるよ。わしが真相を話しても構わないが、ぜひ、ご自分で解決なされ。二つの事件の共通点を見つけるのだ。遺留品にヒントがある。遺留品の共通点を探すのだ。そして、仮説を立てたら、阿修羅大王に会わりなされ。彼が真相を語るだろう。』
『遺留品ですね。調べ直してみます。それと、畠山事務所は、大将からみて、どうですか?それほど悪い組織とも思えないのですが。』
『悪意に満ちた組織ではない。まあ、どんなところでも、時に、暴走することはあるがな。一言だけ伝えておこう。二つの事件に畠山事務所は関わっていないぞ。』
『もう一つだけ。この四体の瑞獣は、ここから出られないのですか?』
『そんなことはない。彼らは自由。必要があれば、どこにでも現れる。人は、彼らを伝説の生き物と思っているが、それは違う。わしらとは形態の違う神である。ゆえに、自由なのだ。彼らを敵にしたら、恐ろしいぞ。覚えておくがいい。では、さらば。』
ありがとう、伐折羅大将。帰ったら、早速、資料の読み直しだ。




