hiro 復活②
俺は鎌倉に飛んだ。向こうは当然、俺が来ることを予想しているはずだ。北村の邸宅は広い。警備も万全で、要塞のような建物である。俺は、いつものように、昆虫サイズで、侵入した。やはり、Mr.Tは北村会長に拉致されていた。顔に青あざが残っている。拷問に近いことをされたに違いない。部屋には、北村会長、Mr.Tの他に2人の男がいる。おそらく、AGUの猛者だろう。俺は一旦、部屋の外に出て、ちひろの姿になった。3歳のちひろだ。そして、扉を叩いた。ゆっくりと、扉を開けて、部屋に入った。すぐに猛者2人が飛びかかって来た。当然ながら、瞬時に始末した。
『Tおじちゃん、迎えにきたよ。』
『ちひろさん、何で来たのですか?罠ですよ。すぐに戻って下さい。』
『罠ってなあに?ちひろ、分かんない。』
『お前が、ちひろか。あの伝説の男、ヒロの娘か。』
『そんな人、知らない。おじさん、誰?怖い顔して、どうしたの?』
『こんな小娘に、我々は翻弄されていたのか。Mr.Tよ、何故、お前はこの娘に加担する。何故だ?』
『会長、あなたを見損ないました。世界平和という大義は何だったのですか。』
『そんなものは、どうでもいい。わしは、この国が安全ならそれでいい。この小娘によって、この国が脅かされそうになった。だから、わしは、暗殺命令を出した。まあ、一度はMr.T君の要望を聞き入れ、撤回はしたがな。しかし、あろうことか、触れてはならぬことを調べ始めやがって、この小娘の差し金だということは分かっておるわ。』
『おじちゃん、おしゃべりだね。おしゃべりおじさんは、放っておいて、Tおじちゃん、帰ろう!』
『おい、小娘、のこのこと現れて、生きて帰れると思うか。Mr.Tが言ったように、これは罠だ。お前が強いことは分かっている。情報も入っている。いい加減、猿芝居は終わりにしたらどうだ。姿を現したらどうだ。ヒロよ。』
Mr.Tが口を割るとは思えん。スマホの履歴から、俺が生きていることを悟ったのだろう。
俺は本体のヒロに戻った。
『さすがは会長だ。よくぞ見抜いた。それで、どうするつもりだ。貴様に俺は倒せんぞ。』
『わしは、ヒロ、お前の弱点を知っている。お前をここにおびき寄せた理由、それは弱点を叩き潰すためだ。宋彩聖、かすみ、レイ、この3人を抹殺する。お前がいなければ、容易いことだ。さあ、どうする?負けを認めて服従するか?それとも3人の命を見捨てるか?』
『そんなにこの国が大切か。人を裏切り、見捨ててまで、この国を守りたいのか。いいや、違う。お前に愛国心などかけらもない。金だ。金に目を絡ませただけだ。』
『偉そうなことを言うな。お前は仲間を作りすぎた。その仲間のために、絶望の道を歩くことになるのだ。そうさ、金だよ。金のためだよ。金があれば、人も動く。今頃、3人のところに、金で雇った最強の暗殺者が到着しているはずだ。』
『なるほど。お前の仲間は金で動く奴らか。AGUも落ちぶれたものだ。』
『ヒロよ、お前は、わしの力を見くびっているな。CIAもM5も、さらにはDGSEも、わしと組むことを約束してくれた。世界はわしのものだ。』
『そいつは凄いな。金の力は大したものだ。だが、会長よ、金がなくなったら、どうなる?お前の権力など、砂の古城だ。すぐに崩れ去る。いや、もう崩れてるはずだ。確かめるが良い。すでに、お前の仲間はゼロだ。』
『ヒロよ。嘘で俺を誑かせようとしても無駄だ。お前の泣きべそが観れると思うと、嬉しくて涙がでるわ。』
『さっき、会長は自分の力を見くびるなと話したが、その言葉、そっくり返してやるよ。俺の力を見くびるな。俺の仲間は、金などでは動かん。お前と俺とでは格が違う。地獄で後悔しろ。』
『馬鹿なことを、ぬけぬけと。』
北村は携帯を取り出した。
『任務、遂行だ。』
勝ち誇った顔をしている。
『馬鹿はどちらかな。これで決まりだ。AGUも解散だな。外の連中、入って来い。』
黒ずくめの男が、どかどかと入ってきた。
『おお、ちょうど良かった。この男を捉えろ。』
『それは出来ません。北村さん、あなたは会長を解任されました。AGUは、あのお方に買収されました。』
『何?誰だそいつは?』
『宋彩聖です。』
『ヒロ、お前、やりおったな。』
『お前の負けだ。CIAやM5も、俺が手を回した。お前と手を組むことはない。俺の作戦勝ちだ。』
そう、俺には作戦の参謀がいたのだ。それは、鎌倉に飛ぶ1時間前のことだ。




