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家族は楽しい②

 スマホを見ると、メールが届いていた。石川プロダクションの部長からだ。

『ちひろさん、初仕事が決まりました。明後日、午後4時に事務所に来て頂けますか?仕事内容は、写真撮影です。やりましたよ。大きな仕事を取って来ました。なんと、ヤングマガゾンの表紙を飾ることになりました。新人としては異例中の異例です。私は興奮しています。では、宜しく。』

 まじか。ヤングマガゾンと言ったら、グラビアアイドルの登龍門ではないか。高校生からサラリーマン迄まで、読者層は広い。無論、購入するのは男子だ。ぼぼ、表紙も巻頭グラビアも、水着の写真である。男子が見て喜ぶものだから、当然といえば当然だ。その表紙に俺が載るのか。いきなり、1番目立つ仕事ではないか。黙っていても、秘密にしていても、絶対にバレるやつではないか。早めに、かすみや彩先生に報告しないといけないな。

 しかし、なんとなく、反応が予想できる。

彩先生は、『なんで、ちひろが私を差し置いて、表紙を飾るの。』

かすみは、『まあ、ちひろちゃん、ビキニが似合うわね。すっかり女の子になったね。』

レイちゃんは、『ちひろちゃん、可愛いね。でも、おなか出しすぎよ。体が冷えると、おねしょしちゃうよ。』

まあ、こんな感じだろう。そうだ、洋介さんは喜んでくれるだろうか。ちひろさん、綺麗だねと言ってくれたら、嬉しいんだけど。ああ、俺、知らないうちに、完全に洋介さんに夢中になっている。明後日の撮影が無事に終わり、掲載される号が分かったら、教えよう。あっ、でも黙っていて、驚かせた方がいいのかなあ。ちひろ、迷っちゃう〜。

 この頃、彩先生がこっち、つまり、7階のかすみの部屋に来ることが減っている。特に夜は最上階から降りてこない。理由は明らかである。体育教師の孝が、毎晩のように来ているからだ。ほとんど同棲生活である。分身仏によると、孝は彩先生の体の虜になってるそうだ。彩先生は、彩先生で、若い男のエネルギーを楽しんでいるらしい。独身の二人なのだから、何も問題はない。

 彩先生が来ないと、静かでいいやと思っていたが、それが続くと、ちょっと寂しい。ただ、静かな時間は貴重だ。俺はその貴重な時間を使って、精神修行を行う習慣をつけた。


 部屋のドアを叩く音がした。レイちゃんだ。

『ちひろちゃん、ちょっと来て。面白いのがあるから。』

面白いものって何だろう。俺はリビングに向かった。

『もう、何見てるのよ。恥ずかしいわあ。』

かすみと、レイちゃんが運動会のビデオを見ていた。黄色のドレスを着た俺が、美女と野獣を踊っているところを見ていたのだ。

『ね、可愛いでしょ。でも、面白いのは、これじゃないの。こっちのビデオ。』

レイちゃんがビデオテープを入れ替えて、再生ボタンを押した。映し出されていたのは、体育教師の孝であった。画面に向かって、正座をしている。真剣な顔つきだ。

『彩様、私と結婚して下さい。ぼくの一生、あなた様に捧げます。』

こ、これは、プロポーズではないか。

『レイ姉ちゃん、これどうしたの?』

『ここに置いてあったの。』

片付け忘れていたとは、彩先生には珍しい。それくらい、孝に夢中になっているというわけか。それにしても、まだ会って1ヶ月も経っていないのに、もうプロポーズとは早すぎないか。それと、彩先生はどうするつもりなのだろう。OKするのだろうか。そう考えると、このビデオはなかなか面白い。

『彩姉ちゃんに見たことを伝えた方がいいね。これは、どう考えたもプライベートな画像だから。』

『ちひろちゃんのいう通りだわ。私から、きちんと伝えて謝っておくわ。でも、あの二人、本当に結婚するのかしら。』

『彩姉ちゃんしだいかなあ。身分を明かすかどうかもポイントだと思う。CIAだと言えるかなあ。あるいは、身分を隠し通すか。年齢の問題もあるし。課題は多いかも。孝さんに惚れてるみたいだから、なおさら、嘘をつき通すのはつらいかも。』

俺の話に、かすみの顔が曇ったことを、俺は見逃さなかった。

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