絶望③
レイちゃんの居場所の見当はついている。レイちゃんが俺たち以外に頼れるところと言ったら、二つしかない。一つは保育園。だが、保育園なら、かすみのところに連絡が行くはずだ。ならば、もう一つの場所にレイちゃんはいる。東京大学だ。レイちゃん曰く、『彼氏』、物理学研究所、准教授の智仁のところだ。俺は瞬間移動した。瞬間移動はしたものの。この姿では逆の意味で怪しく見える。俺は19歳のちひろに変身した。俺は最近、ベビーに、3歳、そして19歳と、ちょこまかちょこまかと変身することが多いので、着替えを持ち歩いている。これが結構嵩張る。なので、大体は分身仏に持たせている。
レイちゃんの気を辿り、目的の教室に向かった。物理学研究所。この建物だ。無断侵入禁止の張り紙が貼ってある。俺は、受付で、准教授を呼び出した。
『先生、受付に女性が来てますよ。物凄い美人さんよ。誰?彼女さんですか?先生も、なかなかやるわね。』
『ああ、もうバレちゃったか。レイちゃん、迎えが来たよ。ママが来たみたいだよ。』
『嫌よ。私、帰らないもん。ずっと智仁君のところにいる。』
『とりあえず、挨拶してくるから、待っていてね。』
しばらくすると、准教授がやって来た。
『こんにちは。』
『ああ、こんにちは。先日はお世話になりました。美人が面談に来ていると聞いたので、てっきり、かすみさんかと思ったら、ちひろさんだったんですね。ああ、もちろん、ちひろさんも美人ですよ、はい。それで、お迎えですよね。』
『はい、お迎えに来ました。レイちゃん、来てるますよね。』
『はい、今朝、当然やって来ました。ここまで、どうやって来たのと尋ねても、よく分からないとしか、答えてくれないのです。』
なるほど、瞬間移動の技を使ったな。
『ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。レイちゃんを呼んで頂けますか?』
『はい、お待ちください。』
それから、3分ほどで、レイちゃんが准教授に連れられて、やって来た。
『あっ、ちひろちゃんだ。戻ってきたの?』
『私は、どこにも行かないよ。一緒に、ママのところに戻りましょ。』
『うん。』
研究所を出て、レイちゃんに話した。
『ちひろはね。ちょっと傷ついたけど、やっぱりママが好き。そして、レイちゃんも大好き。だから、戻って来ちゃった。』
『レイも、ママのこと、本当は大好き。でも、朝、嫌いって言っちゃった。どうしよう。』
『大丈夫よ。一緒に謝ろうか。』
『うん。ちひろちゃんのことも大好きだよ。』
『そうだ。久しぶりに、空を飛ぼうか。気持ち良さそうだから。』
『一緒に飛ぶ。だって、妹を一人に出来ないからね。』
『レイ姉ちゃん、ついて来てね。』
俺とレイちゃんは、大宮まで、空の旅をした。
かすみは笑顔で迎い入れてくれた。俺はレイちゃんと二人で、謝ることにした。
『いっせいのせ!ママ、ごめんなさい。』
『ママの方こそ、ごめんね。二人とも戻って来て良かったわ。』
かすみが、俺とレイちゃんを抱きしめた。
『何か、二人とも汗びっしょりね。みんなでお風呂に入ろうか。』
『うん、入ろう。そうだ。そしたら、ちひろちゃんは赤ちゃんになってね。レイが洗ってあげるから。』
本日、何回目の変身になるのか。だけど、それ位、どうってことない。みんなと一緒に居られるだけで、幸せだ。それに、ベビーの方がいいこともある。かすみのおっぱいを遠慮なく吸える。やっぱり、ここは天国だ。
夜、彩先生から呼び出しを受けた。
『約束通り、お仕置きよ。覚悟してね。そもそも、何で、洋介さんに私を叔母と紹介したの?私は、おばさんではないわ。さあ、お尻出して、今日は泣くまで許しませんよ。』
お仕置きって、そんな昔の話からやるのかよ。そしたら、いつになっても終わらないぞ。今夜は絶望的な夜になりそうだ。
それでも、孤独よりはずっといい。




