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絶望②

 彩は、ヒロにテレパシーで、コンタクトを取ろうとしたが、返事がない。もはや、ヒロの特殊能力のアンテナが機能していないのだろう。かすみさんの護衛と、レイちゃんの捜索に向かっている分身仏もいずれ効力を無くし、消え去るはずだわ。あの馬鹿、きっと、新宿のアジトで落ち込んでるはず。そこしか行くあてがないのは分かっているのよ。あいつの俗名は、『新宿ヒロ』だもの。


 どうでもいいと言う思いは変わらない。しかし、それでも、かすみや、レイちゃん、彩先生のことが気にかかる。洋介さんとの約束も忘れられない。だが、体が動かない。気の集中も出来ると思えない。かすみの記憶を呼び戻し、何が彼女を苦しめていたのかを見つけ出し、心の奥から救ってあげたいと思っていた。だけど、蘇った心を読み取る前に、俺は追い出されてしまった。洋介さんもしかり、昨夜のうちに、心を読む取るべきであった。二人に、何があったのか。洋介さんの妻と、かすみの夫が殺された理由は何なのだ。考えたところで、結論は出ない。俺は、もう仲間ではないのだ。仮に、謎を解明したとして、それが何になるのだ。かすみの笑顔が見られないのであれば、何の意味もない。俺は、冷蔵庫からビールを取り出し、一気に飲み干した。全く美味くない。酔って気分を紛らわそうと考えたが、それさえ出来ない。


『ヒロ、ヒロ。』

誰かが呼んでいる。ああ、彩先生か。やっぱり来たか。帰ってもらおう。

『帰って下さい。』

『あなた、ここで何してるの?だらしない。今まで何を学んで来たのよ。しっかりしなさい。』

『彩先生、俺、悲しいよ。すごく悲しいよ。そして、寂しいよ。』

『あなたの気持ちは理解出来ます。しかし、その行動は最低です。』

『もう、どうでもいいのです。俺は生きて行く意義を見出せません。まして、闘うことなどもう無理です。』

『かすみさんの気持ちは、どうなるの?』

『かすみは一人で生きていける。記憶が蘇り、強い女として生きていけるさ。美人だし、幸せの道はきっとあるはず。俺は、邪魔者だ。』

『やはり、ヒロ、あなたは馬鹿だわ。かすみさんの真意を読み取ってないでしょ。かすみさんは、記憶を取り戻したことによって、亡くした夫のことを思い出したのは事実よ。そして、夫だけではないの。妹も殺されてるのよ。普通の精神状態ではないことくらい分かるでしょ。そして、その二つの事件をかすみさん一人で解決しようと思っているのよ。つまり、記憶の中に、事件の鍵があるの。私は、かすみさんの心を読み取ったから分かるの。危険な相手だと思わない?かすみさんは傷ついている。夫と妹を亡くし、その上、ヒロまで殺されたらと思ったのよ。だから、あえて、別れを宣言したの。優しい人なのよ。』

俺は、それを聞いて、涙が出て来た。

『話は、終わりではないわ。そんな、かすみさんに対して、レイちゃんは、どんな行動に出たと思う?

レイちゃんは、ヒロを擁護したのよ。ぼんちゃんは、悪くないって。いつも見方で助けてくれたって。泣きながら、かすみさんに訴えて、そして、泣きながら家を出て行ったの。行方が分からないの。ヒロ、あなたの責任よ。レイちゃんこそ、何も悪くないでしょ。あの純粋なレイちゃんが、あなたの味方をして、かすみさんから離れたのよ。この状態を放っておけるの?俺の心は傷ついたとか言って、何、甘えてるの。あなた、どれだけレイちゃんから愛を貰っているか分からないの?結局、あなたは自分のことしか考えていないのよ。反論しなさい。さあ、言って見なさい。』

俺の中に、気が充満してきた。

『彩先生、俺を誰だと思ってるんだ。俺は、ヒロだぞ。伝説の新宿ヒロだ。無敵の暗殺者。俺の前に不可能などない。誰も俺を倒すことは出来ない。俺は、神だ。俺は使命を果たさなければならない。俺に任せろ。』

『それでなくっちゃ。』

相変わらず単細胞のヒロを見て、彩はホッとした。

『ヒロ、何、その姿。誰が男に戻っていいと許可した。』

『あれ?やっぱりダメですか。』

『当たり前よ。早くちひろに戻りなさい。3歳のちひろに。』

『帰ったら、まずはお仕置きね。それから、かすみさんと、レイちゃんに報告しないと。ちひろは、新宿で寂しいよ〜っ泣いていたってね。』

『ちょっと待って、恥ずかしいから、それは言わないで。』

『わたしに刃向かうの?お仕置きは、2倍ね。さあ、戻るわよ。まずは、レイちゃんを探して。命令よ。』

 何だか、力が湧いてきた。よし、ヒロの復活だ。

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