絶望①
翌朝、何事もなかったように、かすみは起きて来た。だが、元気がないのは、すぐに分かった。レイちゃんが声をかけた。
『ママ、大丈夫?』
『大丈夫よ、と言いたいけど、やっぱりダメかも。少し、横になるね。』
かすみはソファーの上に寝転んだ。
心配そうなレイちゃん。俺は、かすみに話しかけた。
『ママ、元気になって。』
かすみが起き上がった。
『ちひろちゃん、いいえ、ヒロ君。私、昔のことを全部思い出したの。私が愛した人のことも。だから、だから、ごめんなさい。ここから、出て行って。もう、来ないで。』
『ママのことが心配だよ。』
『いいから、放っておいて、もう、貴方の助けは必要ありません。私は、私の道を進みます。早く出て行って。』
かすみはソファーにうずくまり泣き出した。
俺は、ヒロに戻り。部屋を出た。向かった先は新宿だ。俺はどうすればいいのか。もう、かすみの心の中に俺はいないのか。楽しかった大宮の生活に、もう戻れない。かすみの記憶を蘇らせたことを後悔した。そして、俺は生きる意味を失った。もうどうでもいい。世界平和も、ルシファとの戦いも、どうでもいい。死にたい気分だ。だが、悲しいことに、俺は不老不死。死ぬことが出来ない。未来永劫、この悲しみを背負っていかなければならないのだ。歌舞伎町をふらふらと歩いていると、ガラの悪い若造どもに喧嘩を売られた。戦う気にはなれない。俺はボコボコに殴られた。殴られても、殴られても、体の痛みは感じない。心が痛い。心が痛い。心が痛いのだ。俺は叫んだ。
『うおおおあ、ああああ、、、』
『こいつ気味悪い。もう行こうぜ。』
若造らは走り去った。もう、ダメだ。俺は新宿の部屋に入り、生きる屍と化した。
『ママ、おかしいよ。さっきのママは、変よ。何で、あんなこと言ったの。』
『レイ、パパのこと覚えてる?』
『レイは、パパのこと知らない。会ったことないから。』
『レイが1才の時に、パパは亡くなったの。そのことを昨日、思い出したのよ。』
『ママ、それとぼんちゃんと、どういう関係があるというの?納得できるように説明して。』
『ママは、パパを愛していたの。だから、レイが生まれたのよ。ママは、そのことを忘れて、ヒロ君と仲良くなったの。でも、パパを思い出した今、もう、今までのように、ヒロ君と仲良くは、出来ないの。レイには、まだ分からないよね。』
『うん。レイには分からない。ママの気持ちは分からない。さっきの行動も理解出来ない。
ママが誘拐された時、助けてくれたのは誰?
ヤクザに絡まれた時、助けてくれたのは誰?
レイが交通事故で死にかけた時、助けてくれたのは誰?
悪魔から私たちを守ってくれているのは誰?
昨日、ママが死にそうだったのを、助けてくれたのは誰?
そんなことも分からないママの気持ちなんて、分かりたくない。ママは、結局、自分のことしか考えていないよ。でも、ぼんちゃんは、いつも、私たちのことを第一に考えてくれていたよ。ママは、ぼんちゃんのこと好きだと思っていた。だから、いつか結婚してもいいと思っていたよ。よく考えて、ぼんちゃん、何も悪いことしてないよ。ママの記憶を呼び戻したのは、ぼんちゃんだよ。苦しそうに戦っているのを見て、ぼんちゃんが助けてくれたんだよ。私、ずった見てたもん。涙流しながら、かすみ頑張れって励ましてたよ。ママなんて、大嫌い。えーん、、、、。』
レイちゃんは、泣きながら、家を出て行った。レイちゃん初の家出、4歳の家出であった。
『レイのバカ。』
かすみの涙も止まらなかった。




