恋心、目覚め①
洋介の妻の事件については、全く手がかりが掴めなかった。何とかしたいと思うのだが、もっと情報が必要だ。
そして、俺自身は、生理の為、お腹が痛くてたまらない。不死身の俺も、どうしようもなかった。拳銃で撃たれても、ナイフで切られても、すぐに体が勝手に再生する俺の特殊能力を持ってしても、女性の生理痛には勝てなかった。この痛みが毎月来るのかと思うと、女性は大変だ。そして偉大だと感じた。洋介とのドライブは来週の土曜日。あと10日ほどある。それまでには生理は終わるだろう。
この日の夜の食事に、御赤飯が出された。
『ねえ、何で御赤飯なの?おめでたいことあったの?どうして?』
レイちゃんがかすみに質問している。4歳の子供には理解できないことだ。
『あのね、ちひろちゃんが大人の女の子の仲間入りをしたの。だから、おめでたいのよ。』
俺は、思い切り恥ずかしかった。50年以上生きて来て、今日ほど恥ずかしい日はない。まさか、男の俺が生理を迎え、お祝いされるとは、夢にも思わなかった。
『そうなの?ちひろちゃん、おめでとう。初潮を迎えたのね〜。』
俺は、飲んでいた、お茶を吹き出した。
『レイ姉ちゃん、初潮って、分かるの?』
『うん。知ってるよ。暇な時に医学書を読んでるから、大抵のことは理解してるよ。でも、ちひろちゃんは、大人になったからって、子供は作らないでね。だって、もし子供が生まれたら、レイ、4歳なのにおばさんになっちゃうよ。』
俺は唖然とした。生理になってオロオロしていた自分が情けない。俺の反応を見て、かすみと彩先生が笑い転げている。
『そうよ、ちひろ。彼氏が出来たからって、子供は作らないようにね。ちゃんと避妊するようにね。』
『彩姉ちゃん、避妊って。私、そんなことしないもん。』
俺は顔を真っ赤にした。
『あっ、ちひろちゃん、恥ずかしがってるよ。ダメだよ、彩姉ちゃん、妹をいじめないで。妹は初潮で精神が不安定なんだから、みんなで優しくしないとダメだよ。』
『あ、あ、そうだったわね。私がいけなかったわ。』
なんだかんだ言って、みんな喜んでくれている。そして、みんな優しかった。毎日が平和が何よりだ。
ところが、ドライブ当日に事件が起こったのだ。
ドライブ当日、俺は朝からウキウキしていた。生理も終わり、体が軽く感じられる。早起きして、シャワーを浴び、新しいランジェリーを身につけ、隠しておいた花柄のワンピースに着替えた。髪をカールし、化粧をし、香水をつけ、最後にアクセサリーで着飾った。ハイヒールと、帽子も準備して、あとは出かけるのを待つだけになった。鏡で自分の姿を映し出した。完璧だ。これなら、かすみや彩先生にも負けない。
『ちひろちゃん、どうしたの?』
レイちゃんが、俺を見て不思議がっている。
『レイ姉ちゃん、何かおかしいかなあ?』
『だって、伊豆までイチゴ狩りに行くんだよ。』
えっ、そうなの。それならそう言ってくれないと、もっとカジュアルな服を選んだのに。
『いいのよ、レイちゃん。ちひろちゃんは、大好きな彼氏に会うんだから、おしゃれしたいのよ。その気持ち分かるでしょ。』
彩先生、あなたは俺よりも派手ですよ。どこかのパーティに行くのですか。胸がこぼれそう。露出度高過ぎです。
『あら、私もイチゴ狩りとは思わなかったわ。着替えようかしら。』
かすみも、ワンピース姿で、華やかだ。
『それにしても、ちひろちゃん、とっても素敵よ。女優さんみたい。絶対、モテるわ。私、負けたわ。』
そんなこと決してない。俺が100点なら、かすみは100万点だ。
『ママ、とても美しいです。その美しさ、わたしの誇りです。』
『いいの、いいの。みんな、それでいいのよ。美人女子4人のドライブなの。着飾って楽しまないとね。
じゃあ、出発するわよ。クルマに乗ってー!』
榊原洋介の家は板橋である。途中で、彼を拾う予定だ。何だか、ドキドキしてきた。俺は完全に女子化している。男と会うことを、楽しみにしている。
『ちひろ、洋介さんにラインして。もう直ぐ、着くって。ハートのマークも忘れずにね。』
『もう、からかわないでよ。』
俺はラインで言われた通り、もう直ぐ到着とメッセージを送った。ハートの絵文字もしっかり入れて。