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第5話「お金あげるから」

 将棋部と生徒会のお悩み相談バトル。これは次の日の放課後で行われる事となった。

 どちらがより依頼人を満足させるかを競い合うこの勝負は、お互いの力関係を明確にする重要な戦いだ。

 それぞれのプライドのため、二つの勢力争いの火蓋が、今斬って落とされようとしていた!


「……で、なんで俺まで参加しなくちゃならないんだ」

「何を他人事のように……。秋人、君は我らが将棋部の部長でしょうが」


 ここは生徒会室。

 軽井沢、樋口、中鉢と日ノ本夏輝の将棋部員4人は、生徒会との勝負のために集まってきていた。

 そして、将棋部の中で一番将棋が強いと言う理由で一応部長を担当している樋口秋人だけが、不服な表情を浮かべていた。

 

「生徒会との勝負なんぞ、お前だけでやってこいよ」

「連れないこと言うなよ。どうせ暇のくせに」

「お前の暇つぶしに付き合うのはごめんだ」


 生徒会室は、主に生徒会メンバーが行事や校内で起きたことを相談し合う場として使われている。

 室内は、意見を書き記すホワイトボードに長机と椅子。それから学校関係の内容をまとめた資料とそれを収納する本棚。そして様々な小道具が入ったダンボールがいくつかあるだけの殺風景な空間だった。

 その長机で、境界線を作るように、両サイドにはそれぞれのグループが座っていた。

 一方は将棋部が4名。もう一方は、生徒会長の天願寺と庶務の有沢炎乃(ありさわほのおの)の2名がいた。


「やあ有沢ちゃん、ご無沙汰だね」

「お久しぶりなの、軽井沢先輩。相変わらず、先輩は小物臭が溢れかえっているの」

「はっはー褒め言葉として受け取っておこう」


 有沢炎乃。

 中鉢木葉と同じクラスの一年生。口癖は『なの』。

 彼女は高校一年生であるが、その姿は中学生に間違われるくらい幼い。いつもニコニコとしていて、誰にでも愛想が良いことで、学内でも人気がある少女だ。


「あれ? でも今日来てる生徒会メンバー、もしかして天願寺と有沢ちゃんだけ?」

「他のみんなは別の活動で忙しいみたいなの。炎乃は特にやることなかったから」

「気軽だねえ〜」

「あの〜私も生徒会の一員なので、出来れば私も向こう側に行きたいんですけど……」


 そう挙手したのは中鉢木葉だった。

 そう、中鉢木葉は元々生徒会のメンバーだったところを、軽井沢が率先して将棋部に引き抜いたのだ。

 この高校は生徒会のような委員会に所属している生徒でも、部活動に入部することができた。中鉢以外の生徒会メンバーも、他に部活動に参加しているものはいるのだ。


「えっ!? 駄目だよ駄目ダメ絶対にダメ!! だってそうなったら、僕と中鉢ちゃんが対立して戦うことになるじゃないか。嫌だよ、僕は君と争いたくないんだ!!」

「でも、私はどちらかというと生徒会の活動を優先してるので……」

「いや、待ってくれ。そうだお金をあげよう! ちょうどここに五万円あるからこれで!!」

「いりませんよそんなお金!! ちょ、無理やり握らせようとしないでください!!」

「何でさ、別に汚いお金じゃないよ!?」

「生々しいのが嫌なんです!!」


 軽井沢は自分の財布ごと中鉢に渡そうとしている。それをひたすら拒絶する中鉢。

 軽井沢は中鉢という戦力を手元に置きたいと思っている。そういう意味ではこれは自分の優勢を維持する重要な駆け引きでもあるのだが、側から見ればそのやり取りは、ただ男女が密着してイチャイチャしているようにしか見えなかった。


「おっほんっ!」

「おっと、ゴメンよ天願寺。別に中鉢ちゃんを奪おうって訳じゃないんだ。ただ戦力的な意味で手放したくないなぁってだけで」

「それについては口を出さない。生徒会と将棋部を両立したいと言ったのは、中鉢自身だからな」

「天願寺会長……」


(あんなこと言ってるけど、本当は中鉢ちゃん盗られて悔しんだぜ。ワロスワロス!!)

(いいから話を進めろ春太。俺はとっとと帰りたいんだ)


 他の皆には聞こえない声で、軽井沢と樋口は耳を寄せて話す。

 樋口秋人は本当に面倒くさがりだ。こういうイベント事も好きではないので、一刻も早く終わって欲しいという念がひしひしと伝わってくる。


「そんじゃあ中鉢ちゃんは僕らのグループで勝負するってことで異論は無いかな?」

「異論ありありです勝手に決めないでください。だいたいこれじゃあ4対2で生徒会側がすごく不利ですよ」

「そんなのは知らん。向こうが人数を合わせられなかったのが悪いんだ」

「この人は……」


 しかし確かに、軽井沢のいうことも最もだ。人数不足の原因は生徒会の責任ではあるので、中鉢も強くは言えなかった。

 だからこそ自分は生徒会側に行くと言ったのだが、軽井沢はそれを許さないだろう。

 どうしたものかと考えていたその時、意外な人物から提案の声が上がった。


「じゃあ、私が生徒会側に入るわ。それで問題ないんじゃない?」


 そう言ったのは将棋部の一員、日ノ本夏輝だった。

 予想外の彼女の発案に、軽井沢はポカーンと口を開いた。

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